ショートショート ナナとジェンガ


 朝


目が覚めたら机の上に何か長方形の箱と手紙が一通置いてあった。


No.7へ 

これジェンガって言うんだけど、一人ジェンガやってみて!ルールは簡単!


ルール1

 崩したら駄目


ルール2

 ブロックに一度手を付けたらそのブロックを引き抜かなきゃダメ


ルール3

 引き抜いたブロックは一番上の段に90度方向を変えて置く


ルール4

 上部三段は他に引き抜く物がなくなるまでは抜いてはいけない


以上だから

絶対面白いからやってみてね!


                        No.12より


と手紙には書いてあった

私は今度はその長方形の箱を開けて中身を出すとそこには木でできた細かい長方形の積み木が大量に入っていた。

一緒に入ってた紙を見てそこに乗っていた写真通りに積み上げて見る。


「これでいいのかしら?」


しかし、これは本来二人以上でやるものじゃないのかしら?

それを一人でやるのは…

…まぁNo.12に勧められたからやるけど


手始めに一つ引き抜き上に置いてみる。

なんてことはない、難しくもなく簡単に置ける。これの何処が面白いのだろうか?

そんな事を考えながら次に触れたものは、簡単…には抜けなかった。


これは


そうか、これは少しずつバランスが変わって行くんだ。迂闊に抜くと崩れてしまう。

しかし、これには既に触れてしまった。ルール上もう他の物に変更することはできない。

ならば慎重に引き抜くしかない。呼吸を整え寸分のズレも許さぬよう集中してブロックを引き抜いて行く。そうして引き抜いたものを再び最上段において一息つく。

これはなかなか…

二本引き抜きいびつな形になりつつあるジェンガを睨め付ける。全身全霊をかけて現在の負荷のかかり方を見極め安全に抜けそうなものを選別する。

そこからしばらくは、何事もなく引き抜けた。


問題はここからだった。


抜けるブロックが非常に少なくなってきた。

集中している私の横にはいつの間にか飼い犬のダリルが机に顔を乗せこちらを見つめていた。

慎重にブロックを選びそれに触れようとした瞬間

ダリルが動き机が微かに揺れる。私は思わずダリルを睨め付けると、しゅんとした表情を見せて机から離れていく。

それを見届けると再びジェンガに向かい直し先ほど触ろうとしたブロックに手を付ける。

これなら安全に取れるはず…


そのはずだった


そのブロックは妙に手ごたえがあった。

ハッとしてジェンガ全体を見直すと、一見何の変化もなかったように見えたがよく見るとわずかに中心軸がずれていた。よって圧がかかる場所が変わり、安全だったはずのこの場所が危険地帯になっていたのだった。


アイツ…やってくれたわね


内心憤るがひとまず心を落ち着かせる。

触れてしまった以上もう変更は出来ない。これを引き抜くしかないのだが。駄目だ、無理をすると崩れてしまう。

どうしたものかと頭を捻る。


そうだ、この際だからこのまま何とか中心軸のずれを治せないかしら?


そう思い今度は引き抜こうとするのではなく微妙に押し込んだりしてブロック全体を動かす。

…これで何とかなる筈。そう思い慎重にそのブロックを再び引き抜きにかかる。すると少し抵抗はあったものの何とか引き抜くことに成功した。

思わず一息ついてしまう。

今度はこれを一番上に置くだけ…しかし、これもここまでくれば乱雑にはできない。わずかな力のかけ方で崩壊しかねない状況なのだ。

私は極めて慎重にブロックを一番上に置こうとした時だった。


隣に誰か居る


ずっとこれに集中していたせいでまったく気づかなかったが、私の横に誰か居る。だが、今振り返ればこれは崩れてしまう。幸い敵意は感じない同じ様に息を殺して私を見守っている。

私は逡巡の末…


ジェンガに集中することにした。


これを置くだけ、置くだけなんだ。そして隣に居る人物を確認しよう。恐らく彼女だが、確認しよう。

しかし、何時どうやって?私の隣に?彼女はそんなに気配を殺すのが上手だったか?

そんな心の迷いが噴出した結果


「あっ」


ジェンガは大きな音を立てて崩れ去ってしまった。


「あー、崩れちゃった」

そんな声を横で出すのはやはり可奈美だった。

私は手に持っていたブロックを崩れたジェンガの中に放り込むと

「何時から居たの?」

と尋ねずには居られなかった。

「ちょっと前かな?でもインターホンも鳴らしたんだよ?」

全然気が付かなかった…

「ナナちゃんって集中すると周りが見えなくなるタイプ?」

そんな自覚は無かったが、気づかなかった現状を見るとそう言う事なんだろう。

「でも、なんでジェンガ?」

「…朝起きたら机の上に置いてあったの。挑戦状と一緒にね」

「挑戦状?」

そう言って首を傾げる可奈美に手紙を見せた。

「あー、うん、なるほど」

可奈美も納得したようだ。

「でも、ジェンガって皆で遊ぶものだよ?せっかくだから今度あの二人も誘って四人でやろうよ!」


楽しそうにそう言う可奈美を見て、それも悪くないなと思った。


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