ショートショート ナナと可奈美と散髪
「髪伸びたね」
確かに可奈美の言う通りで気が付いたら前髪が目にかかるほどの長さになり後ろの髪の毛も肩甲骨あたりまで伸びてしまっていた。
「そうね、切らないといけないわね」
「なら私に任せて!」
え?
「お金もかからないし良いでしょ?」
「確かにそうだけど…他人の髪切ったことあるの?」
「無い!」
言い切った。この子言い切ったよ。胸を張って堂々と…
「なんで無いのにそんな事しようと思ったの?」
「なんとなく行ける気がして!」
そのよくわからない自信は一体どこから来るのだろうか?
…まぁ、良いか
邪魔にならないほどの長さまで適当に切ってくれたらそれだけで良いし、お金がかからないって点も良い。
「それじゃあ、お願いしようかしら」
「良し任せて!」
そう言うと可奈美はテキパキと私の部屋の床に新聞紙を敷き詰めて準備を始める。
「はい、どうぞ座って!」
私は促されるままに椅子に座る。
「首周りに巻くあれは無いよね…じゃあ、これで代わりになるかな?」
可奈美はそう言って手ごろなバスタオルを私の首に巻く。
「よし!これで準備オッケー!」
なんだかちょっとばかり不安になる。
「さぁ、お客さん今日はどんな髪型にしますか?」
「適当に短くお願い」
「はいよー!」
可奈美は元気よく返事をすると櫛とハサミを手に持ちいよいよ始まる。
初めてという割には可奈美は何の迷いもなく私の髪にハサミを入れる。思ったよりかは慣れた手つきで私の髪を切り、どんどん短くして行く。
ハサミの音がこんなに心地よく感じるなんて…そう言えば、施設に居る時は主任が切ってくれたんだった。あの時もこんな感じで心地良かったなぁ。
ただ主任はあまり慣れてなかったのだろう、いつも髪型は真横にぱっつん切りっぱなしの髪型になってたっけ。
切られた髪を眺めるそれはすっかり金色になってしまった私の髪。その前は真っ白だった。はじめは真っ黒だったらしいのだけど私はそのころを覚えていない。
結局私の髪の毛はなんでこんな色になってしまったのだろうか…
それに、この髪の毛の色を見てると思い出すのはNo.12の事だ。彼女の髪の毛と色合いもそっくりなんだ。
これは私が彼女の能力を取り込んだ事が原因なのか?
それに今私の中にNo.12がいる。これも一体どういうことなのかわかってない。正直自分の体なのにまったく把握ができていない。これも今更ながら気になるとは…
しかし、私の体を見てくれる人なんて今は居ない。
これも今後の課題になりそうだ…
「はい、できた!」
可奈美はそう言って鏡を持ってくる。これは…
「どう?結構うまくできた気はするんだけど」
確かに、初めてと言うには上出来なくらい見栄えは良い。前髪は適度に長さのばらつきを持たせて単純にならないように気を使われていたり、後ろ髪の方も肩の長さまでで切り揃えられ動くのに邪魔にならない程度まで短くしてもらったが…
「後ろ髪もっと短くてもよかったかも」
「駄目だよ!女の子なんだから女の子らしくしなきゃ!これが女の子の最低の長さだよ!」
…力説されてしまった。
だが、本当に初めてとは思えないくらい手際よくて…
「本当に初めてなの?そうとは思えないのだけれど」
「うん、雑誌とか見てたらそう言うの書いてあってね、それ読んでたら試して見たくなっちゃったんだ!」
つまり彼女は私を知識の実験台にしたのか…
私は鏡を眺めながら感心するのだった…
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