No.7とNo.12と銀行強盗

ここ最近の不可思議な現象…

時折記憶が前後不覚になるこの現象は一体何が起こってるというのだろうか…

可奈美は何か知ってるようだが、その件についてはかたくなに口を開かない。

この手は使いたくなかったが、これ以上この状況を放っておくわけには行かない。私は意を決してその服に袖を通す。


その純白のワンピースに


それだけでは飽き足らず、いつの間にか買っていたファッション雑誌にも目を通し髪も綺麗にセットし簡単なメイクも施す。

そうやっていつもの私らしさを消して行く。

全ての準備を終えて玄関のノブに手をかけ深呼吸をする。

これは仕事、今日の私は私じゃない。

そうやって恥ずかしさを押さえてゆく。そして扉を開けて外に出る。いざ、可奈美の待つ待ち合わせ場所に…!




こういう日に限って可奈美は遅れるっていう連絡をくれた。おかげで私は待ち合わせ場所で長く待たされる羽目になる。

周りからは、何か視線を感じる。時々聞こえて来る声は…


「あの子可愛くない?」


「声かける?」


「まだ子供じゃないの?」


etc etc


私は気づかぬふりでニコニコしながら立っていると、一人の男性が声をかけて来て

「ねぇ?誰かと待ち合わせしてるの?」

「ええ」

できるだけおしとやかな感じで返答をすると

「それって彼氏?」

「いいえ、お友達です」

「ならさ、そのお友達が来るまで一緒にお茶しない?」

「いえ、もうすぐ来ると思うので…」

この男しつこい…!

「なら、そのお友達も一緒に…」

そこまで言われて私は思わず男の胸倉をつかみ顔を引き寄せると

「…こっちはあんまり機嫌がよくないんだ、これ以上しつこく迫るならお前の玉潰してカマ野郎にしてあげようか?」

そう言って力強く突き放すと男は尻餅をついてそのあとおずおずと私から離れていった。

まったく、あんなナンパ今時流行らないんじゃないの?

少々取り乱したが再びにこやかな雰囲気を作り可奈美を待つ。

それからしばらくして可奈美がやって来て、

「ゴメン待っ…た?」

私の姿を見るなり可奈美は少し戸惑う

「今日は、トゥエルブちゃんなんだ」

私はその言葉を聞いて目を見開く。

「可奈美どうしてその名前知ってるの!?」

「え?え!?ナナちゃん!?どうして!?」

可奈美はますます戸惑う。

「え、えーっと…それは…」

何やら歯切れが悪い

「そ、それよりナナちゃんがそんな恰好するなんて珍しいね」

「ごまかさないで」

「…はい」

そうやって可奈美はようやく経緯を離してくれた。


「私の中に…No.12が…?」

正直理解に範疇外の答えに少し眩暈がする。

なんて事だ…つまり記憶が前後深くになってるときは私はNo.12として活動していたのか…

つまり、私は二重人格になってしまったのか?正直信じられない。

しかし、これであの奇妙な手紙の理由は合点が行った。結局あれは自分で書いていたという事なのか…

うーむ、百歩譲ってそれは良いとしても私がそのNo.12の行動を把握できないのは考え物ではある。私の中の12は私の行動を把握しているのだろうか?

わからない

知る由がない

どうすればいいのだろうか?

解決策の見えない現状に軽い眩暈を覚える。

「ナナちゃん大丈夫?」

「…うん、正直現実を受け止めきれないけど何とか」

あまり大丈夫ではない

「可奈美、一回帰って良い?」

「う、うん良いよ。私もついていくよ…あ、でもその前に」



帰り道可奈美がちょっと銀行に寄りたいという事だったので寄ることにしたのだが…

そこに広がっていた光景は、今まさに銀行強盗の真っ最中の光景だった。

私は咄嗟に可奈美を背後に隠し覆面を被った複数の男たちを睨みつける。

カウンター前に4人カウンターの奥に3人とさらに奥から声が聞こえてくる。

男たちの風体は黒尽くめの特徴のない恰好に顔はタラクラバ、所謂目出し帽をかぶっており顔は窺えず、手には拳銃が握られている。

突然の来客に男たちも少々戸惑いが現れるがすぐにこちらに向けて銃を向けてくる。

「動くな。そのままゆっくり壁伝いに隅の方に移動しろ」

男達の中の一人が私たちを睨みつけながらそう言って来た。

「…本当にその引き金を引く勇気はあるの?」

「ナナちゃん!」

私の問いに一瞬で回りの緊張感が高まる。

そんな時だった。

「お嬢ちゃん、威勢がいいのは褒めるが、相手を考えたほうが良い。俺たちはやると言ったらやるんだ」

そう言いながら一人の男が奥から現れる、他と同じ様に顔を隠し黒尽くめではあるが、手に握られているのは拳銃ではなく自動小銃が握られていた。

その光景に思わず舌打ちをする。こいつらそんな装備をどこから…

私ひとりだったら迷わず叩き潰すのだが、背後には可奈美、カウンターの方には抵抗できないようにされた銀行員の姿が見える。下手に踏み込んで銃を乱射などされた日には、その全員を危険にさらす。

見える範囲で敵の数は8人、さらに奥に二人から三人程の気配が感じられる。

仕方がないので様子を窺う事もかねて私は彼らの言う事に従う事にした。

「これ以上誰かが入ってこれないようにちゃんとシャッターを下ろしとけ」

そう言って後から出て来た男は再び奥の方に戻って行く。

「ナナちゃん…」

私の方を見て心配そうな表情を浮かべる可奈美

「大丈夫よ私に任せて」

そう言った時だった。不意に視界がゆがむ。そして急激に意識が遠のいて行く感じがした。これは…まさか…

頭を振って意識を保とうとするがそれもむなしく私の意識は暗闇の中へと落ちて行った。



--------



浅い眠りから覚めたような感覚。

いつものこのように私は急に覚醒する。

私が眠ってる間彼女は何をしているのだろうか?

私が起きてる間彼女は何を感じてるのだろうか?

それは知る由もない。

「今度から文通でも始めようかしら…」

まだ完全に覚醒してない頭を動かしながら私はゆっくりと目を開ける。

そうすると次第に感覚がはっきりとしてきて私のそばで誰かが声をかけてることに気が付く。

「ナナちゃん!」

そう呼びかけられてそちらを見ると、ひどく心配した様子の可奈美ちゃんの顔があった。

「あら、可奈美ちゃん…」

いつもと違ってなんだか頭がはっきりしない。まだ少し寝ぼけてるような感じがする。

ぼーっとする頭で回りを見渡してみると、複数の覆面をつけた男たちが何やらせわしなく動いている。

そんな事よりも私が目を疑ったのは、鏡に映った自分の姿だった。

「まぁ!セブンが可愛らしい恰好をしてる!」

今まで眠り頭だったのが嘘のように意識がハッキリして行く。

「可奈美ちゃん見て見て!セブンがこんなかわいい恰好自ら進んで着てるよ!」

つい嬉しくなって周りの環境も考えずはしゃいでしまう。

「もしかして、トゥエルブちゃん?」

「そうよ!ねぇ!どんな魔法を使ったの?」

私はついついはしゃいでしまって、大声を上げると

「うるさいぞ!静かにしろ!」

覆面男子の一人に怒られてしまった。だが、私は…

「ねぇねぇ、そこのお兄さん、これ可愛いと思わない?」

そう言って立ち上がり男性の周りで一回転して姿を見せて見る。

「お前…状況がわかってないのか?静かにしてろ!!」

大声で怒鳴りつけられ、その店内全員の視線が私に集中した。

「…なんだ?さっきと雰囲気が違うな」

そう言って一人の男が遠くから私を見つめてくる。

「良いから、おとなしくしてろ!」

目の前の男が銃を突きつけながら言い放つと、私はついつい…


相手の銃に手をかけ捻り奪い取り突き付け返す。


「セブンの体って結構動きやすいのね。体が軽くて軽くてついつい…」

「ついついじゃねぇ!返しやがれ!」

「よせ!」

奥の男の制止も聞かず私に襲い掛かってくる。その男を軽くいなし、地面に叩きつけると、店内全部の銃口が一斉に私の方を向いた。

「言ったよな。やるときはやるって…」

全ての銃の引き金に指がかかる。

私はそれをながめる。銃弾ごときで私は死なない。しかし、No.7がせっかく来てくれたこの白いワンピースを汚したりはしたくない。

引き金が引かれ銃弾が一斉に私目掛けて飛んでくる。

「トゥエルブちゃん!」

しかし、弾丸は一向に私に到達しない。その光景に誰もが目を見開く。

「これは…」

私の目の前ですべての弾丸が停止している。

「なんだ…?何が起こってる?」

男たちのうち一人がそういった事を口にする。

私は考える。これは…そうか!『サイコキネシス』か

これはNo.3の『サイコキネシス』だ。

そう言えば、No.7は私たち被検体の能力を全部奪ったんだっけ?だったら…

そう思い、私は強く念じながら能力を試して見る。

すると周りの気温がどんどん下がっていくのを感じる。これは『熱量吸収』確か、No.4の能力だったっけ?

私周囲のエネルギーを吸収することのできる能力。それは熱量は当然のごとく運動エネルギーも吸収できるはず。

さらに、集中して左手を男一人目掛けてかざしてみると、その男が急に火だるまになり悲鳴を上げながら地面を転がり出した。『パイロキネシス』No.6の能力だ。

それであたりは一斉に混乱状態に陥るが、私は淡々と自分の能力を試そうとした。次は、『発電能力』を試そうとしたが何も反応が無い。どうやら使えないらしい。

そうしてるうちに火だるまになっていた男の消火が終わった連中が全員で私を警戒していた。

なので、右手をかざして人差し指をくいっと私の方むけて動かすと、男たちの持っていた銃器が一斉に私の足元に飛んできた。

「これ便利ね」

「何が起こってるんだ…?」

男たちは冗談みたいな現実を受け止めきれずにただただ動揺してるだけだった。

なので私は足元に転がってた自動小銃を手に取り…

「ほーるどあーっぷ!全員手を挙げて壁を向き一列に並べ!」

何人かはちゃんと言う事を聞いて壁を向いたが、言う事を聞かない連中もおり…

「こんな小娘一人になめられっぱなしでたまるか!」

などと叫びながら飛び掛かってくる男が一人いたので、能力で右腕をぞうきん絞りのように捻じってやると、悲鳴を上げて地面を転がり始める。

「抵抗は無意味だからやめてね」

私はできる限り優しく語りかける。

その時店外からパトカーのサイレンが聞こえて来た。どうやら銀行員が隙を見て通報ボタンを押したらしい。



その後警察から簡単な聞き取り調査があったが、ありのままの事を話しても信じてもらえなかったのでしょうがなく嘘をついた。

それで私たちは解放されて今はいつものカフェでいつもの席に座っていた。

「じゃあ、No.7には私の事バレちゃったんだ」

「うん、ごめんね」

「ううん、気にしなくていいよ。いつかはバレると思ってたし」

可奈美ちゃんとは久々に会うので積もる話もあるのだけれど…

「……うん、また今度ね。一緒におしゃべりしましょう」

ゆっくりと襲い掛かってくる睡魔に私は身を任せる事にした。



--------



急激に意識が覚醒して行くのを感じる。

ハッと目を覚ましあたりを見回すとそこは、通いなれたカフェのいつもの席だった。

「大丈夫?」

そう言って可奈美が心配そうに私の顔を覗き込む。私はそれに大丈夫と答えて、状況を確認する。

「銀行に居たと思ったんだけど、私は夢でも見ていた?」

そんなはずは無いのだが、可奈美に尋ねてみる。

「うん、銀行に居たよ」

「それであいつらはどうなったの?」

「全員警察に捕まったよ。ほら」

可奈美はそう言ってスマホの画面を見せて来た。そこには銀行強盗の件がニュースになっており、犯人二名が負傷していたこと以外は全員無事との事が書かれていた。

「二名負傷?」

「うん、トゥエルブちゃんがね…」

事の経緯をすべて聞き終えると

「…私の使えない能力が、No.12には使えるのか」

思わぬ発見だ、正直使えなかったから奪い取れなかったとまで思っていたのだが…

しかし、No.12はそんなに好戦的な性格だっただろうか?私の知る限りでは、可奈美と一緒に震えてそうなイメージだったのだが…

いや、なんだかんだ言っても彼女も被検体だ。同じ戦闘訓練を受けて来た仲間だったのだ。別に不思議なことなどないか…

私は店員が運んできたカップに口をつけると、思わず吹き出してしまう。

「甘ッ!!」

「あぁ、さっきカフェオレに砂糖沢山入れてたから…」

「なんで止めないの!?」

「てっきりトゥエルブちゃんが飲むのかと…」


………こういうしょうもない事するのは間違いなくNo.12よね


私は昔を懐かしむように再びカップに口をつけるのだった。




「…甘い」

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