ナナと反サイボーグ団体

新聞の見出しに書いてあるサイボーグに人権をと言う言葉。

それは最近世界初の全身義体となった男性が現れてからよく見る様になってきた。

世界初の全身義体の人間はそれは不幸な事故によって全身不随になった男性が解決策の一つとして提案したもので、数多の反対を押し切り実現したものだった。

だがそれは医療行為だったのか否かや…

アメリカ政府はそれを認めない姿勢を崩さないはずだったが一転、全身義体化は医療行為の一環とし州によっては体にタトゥーを入れるかの様に全身義体化をするものが現れる様になった。

当然そこには軋轢が生まれる。

全身義体化は神から与えられた肉体を捨てる行為とし、サイボーグ化反対を進める団体が現れた。

社会的に身体能力の優れたサイボーグは優遇されるかと思われたが、反対を進める団体が幅を利かせ始めそれに伴いサイボーグは冷遇を強いられ始めていた。

まるで機械の様に扱われるサイボーグは当然それに反発真っ当な人間として扱えと猛抗議をする。

現在も続くこの戦いは毎日の様にデモを繰り返し、そしてその運動はアメリカを飛び出し全世界へと飛び火し始めていた。


そして、ここ日本でも…


「ねぇ聞いてるの可奈美?」

そう言われてハッとする。

ここは大学のラウンジで友人二人を昼食していた事を思い出すが、会話の内容が思い出せない。

何か難しい話をされていた気がするがまったく思い出せない。

「もーまた寝てたでしょー」

そう言って隣の席に座る友達---茶色に染められた長い髪に日本人らしい黒い瞳、そして耳に金のピアスをつけてラフな格好だがその見えるボディラインはモデル顔負けとも言える。---のかすみちゃんが怒ったような表情で私を見つめていた。

「えーっと…寝てないよ?」

かすみちゃんは疑うような顔をしてじゃあ何の話をしていたでしょうか?と問いかけてくる。

「確か…サイボーグがー…あーで…こーで…」

「なんか中途半端に聞いてたのねぇ」

ハァとため息をこぼしかすみちゃんは改めて説明を始める。

「だから、サイボーグ化反対運動に私たちも参加しようって話よ」

「えー…でも、日本ではもともと全身義体化はまだ法的に不可能なんでしょ?」

「それはそうだけど…でも実際いつ日本でも義体化できるようになってもおかしくないって言うんだよ!?そうなってからじゃ遅いって!」

次第に熱くなるかすみに少し気圧される

「全身義体化した人は機械と同じで人間から職を奪っていって将来はみんなサイボーグ化しないと仕事にもつけない未来がくるって!」

「まぁまぁ、熱くなりなさんなって、可奈美ちゃん完全に引いてるじゃん」

そう言って会話に割って入ってきたのは反対側の隣に座っていたもう一人の友達---黒い髪のツインテールで度がキツメの眼鏡を着用してる小柄な女性はアニメ柄のシャツにチノパン姿---のすみれちゃんはあきれたような顔でかすみちゃんをなだめる。

「そんな話誰から聞いたのさぁ」

「それは…この間あったサークルの飲み会で…先輩が」

「そう言うの鵜呑みにしちゃうのはどうかと思うよぉ」

「でもぉ…」

しかし、本当にそんな未来が来るのだろうか?

「とにかく!私は活動に参加するって決めたの!あなた達はどうするって聞いてるの!」

「わたしゃそう言うことには参加しないって決め込んでるんでパスー」

「すみれ!それでいいの!?後から後悔しても知らないよ!」

「世の中なる様にしかならんさ」

「ったく、すみれったら…可奈美はどうするの?」

「私!?」

親戚に義体技師を持ち、親友に四肢を義体化してる人がいる身としてはその人たちが肩身の狭くなるような活動をするわけにはいかない。

「わ、私もパス…かな」

「…ッ!もういい!二人に聞いた私が馬鹿だった!」

そう言って席を乱暴に立ち上がりかすみはその場を立ち去ってしまった。

「可奈美ちゃん気にする事は無いよ、あの子流されやすいから…まぁ、そのうち目が覚めるでしょ」

「うん…そうだと良いな」




「って事があってね」

彰の工房に定期メンテに来ていた私はそこで可奈美の話を聞く。

「確かに、結構問題になって来てるよなぁ…特に部分的義体化してる人間は特に日本は多いからその人たちの扱いとかどうなるかとかな」

工房から彰が顔をだすなりそんなことをいきなり言ってくる。

あまり興味のない話ではある。誰がどんな主義主張を掲げようとも私は私。それだけは変わる事の無い事実だから…

「で、可奈美自身の意見はどうなの?」

そう聞くと少し困ったような顔をして

「私は…私は、みんなが仲良くできないかそう言った方法がないかなぁと思ってる」

可奈美らしい答えだ。万人がハッピーエンドになる方法などないというのに…

だからその答えを尊重したくなる。彼女は常にみんなの心配をしてるのだ。

「まぁ、その考え方は立派だがな難しいぞぉーそれは」

「わかってるもん!」

しかし、日本でもデモか…思った以上に大事になってるみたいね。

全身義体の人間が現れた噂は聞いていたけど、なかなかどうして…

私もほとんど全身義体みたいなものだし…実際四肢の他に脊椎に肩甲骨から頸椎までも機械になってるからほとんど全身よね私…

それにみんなが危惧する理由もなんとなくわかるわ。私自身が化け物だし。超能力とか使えちゃうし。

そりゃ皆が皆そんな能力使えるわけないけど実際主任の義手義足をつけた私は誰にも負ける気はしない。なんだってできる気はするし、実際できるだろう。

「それで?その友達とは喧嘩別れしちゃったんだ」

「…うん、本当は素直で良い子なんだけど信じたらこうだって曲げない部分もあるから…トラブルに巻き込まれてなければ良いけど…」

「そうね」



可奈美と共に駅へ向かってる最中、一際目立った集団に遭遇する。

それは、可奈美が先ほど言っていた集団で反サイボーグ化団体の広報活動だった。

その中の一人が可奈美を見つけてハッとした表情を浮かべる。

「あ、かすみちゃん」

「可奈美!やっぱり来てくれたのね!」

「い、いや…たまたま通りかかっただけで…」

「うんうん!それで隣の人は?」

「あーこの人はねぇ…」

「あなた達の敵よ」

先ほどまで賑やかだった場所が急に静まりかえる。

「…敵?」

どうやら理解できてないらしい。

「つまり、私はあなた達が反対してるサイボーグって訳」

私の発言にどよめきが生まれる。

「サイボーグって…日本じゃまだ…」

「医療行為とは認められてない、けど入国を禁止されてるわけじゃないでしょ」

「だけど、でも…」

彼女はとても困惑した表情を浮かべる。

「ナナちゃん!そんな言い方は…」

「可奈美、良いのよ」

「でも!ナナちゃんは全身義体じゃないじゃない!」

「…!なんだ私はてっきり…」

「てっきり、何?こう見えても私の体は7割ほど機械になってるのよ?半分以上が機械の体なの。全身義体は駄目で部分義体は良い訳?」

まくし立てる私に彼女は困惑した表情を浮かべる。

「確かにあなた達の危惧してる事だってわかるけど、実際に被害にあった人は居るの?職を奪われた人がいるの?」

その発言に広報活動をしていた一同は互いに顔を見合わせる。

当然だ、現在日本で全身義体が働いたという例は聞いたことが無いからな…もっとも、私が知ってる限りではだが…

すると団体の中から突然声が上がる。

「奪われてからじゃ遅い!自分たちの権利は自分たちで守らなければならない!」

誰とも知れない声が響き渡るとそれに続いてそうだそうだと野次が上がる。

「それじゃあ、全身義体の権利は誰が守るの?…当然真っ向からぶつかる事になるわよ」

「そんなもん人間を捨てた者に人権なんて…」

「なんだって?」

私は思わず食いついてしまった。どうしてもそれを言わせる訳にわいかなかった。

「皆が皆好き好んで人間を捨ててるとでも思ってるの?」

ついつい言葉に怒気を込めてしまう。

「確かに私は誰から見ても化け物よ、機械の手足は簡単に人間以上の力を出せる。でも、それだけなのよ!人は怪我をしたら時間と共に治るけど、機械の手足は違う!治らない!定期的にメンテナンスだってしなければいけない!私たちは、人に見限られたら簡単に死んでしまうんだ!」

気が付けば私に気圧される形で周りは黙り込んでしまった。

「ねぇ、人間って何?体が機械だと人間じゃ無いの?脳みそだけだと人とは呼べないの?私は人間じゃないの?」

「ナナちゃん…」

私は可奈美を一瞥する。

「…でも、こんな私でも人間扱いしてくれる人がいる。それが嬉しいだけに、この現状は悲しいよ…」

次第に周りの視線が足元を向いたり私から逸れていく。

「もっとよく考えて欲しい。ただ一方的に弾圧するんじゃなくて、共に手を取り合う方法を…」

そう言って、私はその場から立ち去った。それを追っかける様にして可奈美もその場を後にした。




翌日


「可奈美、すみれ、昨日はゴメン!」

朝大学で顔をあわすなりかすみちゃんが謝ってきた。

「ど、どうしたの突然?」

「私が間違ってたんだ。昨日可奈美の友達に言われて目が覚めたよ!これからは共生できる未来を探そう!」

わたしはハハハと笑いながら昨日のナナちゃんとの別れ際の事を思い出す…



「珍しいね、ナナちゃんがあんなに感情的になるなんて」

私はそう尋ねた。そしたら彼女は、

「少し熱くなってしまったけど、ああいう連中にはこういった情に訴えるような方法が効率的なのではと思ってね」

「え?」

「ようは、いつものように淡々と語るより感情的になった方がいい場面もある…って本で読んだ気がする」

「つまりは?」

「計算尽くめ」

「えー…珍しい一面が見られたって思ったのにぃ…」

「でもね、そうそう人の心なんて変えられないわよ…特に私なんかの言葉なんかじゃね」


そう言ってたナナちゃんの顔は少し寂しそうだったけど…

ナナちゃん、ちゃんとナナちゃんの言葉は響いてたよ。




本当に柄じゃない事をしたと思ってる。

多少熱くなってしまったが、こうもうまくいくとは…

経過を見る感じだとこの間までの反サイボーグ団体はほぼ解散状態らしい。我ながらビックリするがうまくいったならそれで良いかと思うことにした。

私が引っかかっていたのは誰かが扇動者となって煽り立ててたのでは無いかと思っていたのだが、それはすぐに見つかった。

現役政治家の内の一人にサイボーグ排斥を訴えて活動している人物がいた。それを調べてみると面白いくらい簡単に関係が露になった。

そう、団体の中にその政治家の身近な人物がいたのだ。それが扇動者として、周りを掻き立てひいては自分の支持率を上げようとしていたらしい。

蓋を開けてみればなんともつまらない。それも今回の一件でおじゃんになってしまったようだけど…

完全に取り除けた訳では無いが、多少はマシになるだろう…たぶん

…日本では

と、最後に付け加えてレポートを完結させる。

これも仕事の内だ。

今回の依頼はCIAからの物で日本国内でのこの反サイボーグ団体の動向調査を頼まれたのだが…なんで私がCIAの顎で使われなければならないのだろうか?理解に苦しむ。そして、何故日本でのこの活動にCIAが興味を持ったのかもわからない。まぁ、知りたくもないけれど…

アメリカ本土の方もなかなか反サイボーグ団体に手を焼いてるらしいがそっちはそっちこっちはこっちと…

だが、実際サイボーグはいつかは犯罪に利用されるだろうし、犯罪を起こすだろう。

そのあたりを完全に制御するのは難しいだろうな。何故ならサイボーグもその周りに居るのも『人間』なんだからいつかは必ず間違いを起こす。事故だろうと故意だろうとね…

私は冷え切ったコーヒーを飲み干すとラップトップをしまい席を立ちいつものオープンカフェを後にした。

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