地下

 中央コントロール室に入り稼働調整に入った工作部隊は次々に発生する制御エラー報告に慌ただしく対応に追われていた。


「先程見て回った時には線路も電力供給室も無事だったのに……」


 まさかマーカス達が片っ端から壊して回っていることも知らずに画面上に点灯する表示と格闘していた。


 そこにライバックからの叱責の通信が入って来る。


「貴様ら何をやっている!?」


「申し訳ございません! 此処に来る前の巡回点検時には異常が無かったのですが、ここに来て次々と制御エラーが……」


 報告が終わる直前、画面に別件のエラー報告が表示されると工作部隊の技術主任が途方に暮れる。


「そんな訳があるか! ここに来たらエラー続出などと……兎に角、修復を急げ! 今、本社ビルに敵のチームが取り付いたと報告が……」


 そこまで言いかけてライバックはエラーを次々に起こしたのは破壊工作をしたマーカス達のチームが居る事に気が付いた。


「工作部隊!  路線の上に敵工作部隊が居る! 作業を護衛する部隊を回すまで現状にて守りを固めろ!」


「ハッ!」


 緊張の面持ちで返事をするが、自分のミスでないことに安堵する主任にライバックはまだ終わらんとばかりに質問をする。


「最後に点灯したエラーはどこの路線だ?」


「ハッ! レキシントン・アベニュー線のボウリング・グリーン駅からです」


「よし! 護衛部隊が到着後、レキシントン・アベニュー線の乗り換え駅や交差を確認しろ! 奴らはレキシントン・アベニュー線に沿って移動して破壊している。その中で一番被害の少ない路線を修復しろ!」


「了解です!」


 指示を与えるとライバックは子飼いの攻撃部隊に地下鉄に巣食ったを命じた。


 一方、そのネズミであるマーカス達は地下鉄の線路を通りJP達が待つアイスクリーム屋に向かう、道中、敵に遭遇しなかったのは僥倖と言えた。


 本社ビルにほど近い指定されたアイスクリーム屋に到着するとJP達が店のカウンターの裏側で息を殺していた。


「よぉ、ご褒美にチョコミントくれよ」


「俺、ストロベリーチーズケーキで」


 マーカスとエリックが軽口で挨拶すると警戒を緩めたJPは一笑に伏し、


「ああ、幾らでも食え、冷蔵庫の電源が落ちて腐ってるけどな」


「チッ、相変わらず意地の悪い奴だぜ……ところでホセ達は?」


 詰まらなそうに悪態を吐くとマーカスは先行のホセ達の状況を尋ねる。


「先程3階の護衛部隊を駆逐したそうだ……なるだけスピードを上げると言って居たが……」


「まず、各駅停車になるだろねぇ……策はあるんだろ?」


 さもありなんと言った顔でエリックが血液を飲みながら口を挟む。


「ああ、ホセのトラップで非常階段が潰れたらしいから、エレベーターを使う」


「えっ! マジ?」


 真剣な表情で淡々と非常識な立案をしてダーホアを驚かせる。


「ああ、爆薬を扉を開いたら起爆する様にして送り込み、その間に機材搬入用エレベーターで上に登る」


「なるへそ……そういう事ね」


 スタンでも表玄関から襲撃する計画は早々立てないのにと思い、冷や汗をかいたダーホアは少し安堵した。


「但し、一気に敵の中枢に突撃掛けるわけだ。かなりきついぞ」


「まぁ、何とかなるでしょ」


 JPの警告にサブの銃を手元に置いて、ライフルを点検し出したマーカスをダーホアが、無言で目を剥いて驚く。


ここ敵の勢力圏で点検をし出すのは最前線の戦士にとってやるべきことではない……それを無視する程に不安であり、気を引き締めようとする行動であり、それを見て釣られるように全員点検を始めた。


(ある意味、うち等ゼラルゼスより図太いかも……)


呆れるより感心してしまったダーホアが警戒に立ち、しばらくして


「それでは行くぞ、エリック誘導を頼む」


 全員、銃器の簡易的な点検を終わらせて爆薬を背負い店を出る。


「ホント、アンタ等……ゼラルゼスウチよりイカレてるわ……元捕虜に見張りに立たせて点検し出すチームなんて聞いたことない」


 出来の悪い生徒を見るように呆れたダーホアが愚痴をこぼす。


「それが超一流と一流の差だって事でよろしく」


 いち早くトーマスがダーホアの口を遮るように声を掛けて外に出る。


「まぁ、俺ら泥臭いんでね。これやらんと落ち着かねぇんだわ」


 ポンと肩を叩くとマーカスが笑顔で後に続き、呆れた顔のダーホアに最後に真顔で爆薬を背負うJPがボヤき始める。


「ジョシュ達なら率先して背負うのにコイツらと来たら……」


「ボヤかないの、コレでもリーダーとしてリスペクトしてるから」


 ダーホアをエスコートしたエリックが慰めつつ外に出るがJPは一言


「嘘つけ」


 悪態を吐いて外に出たと同時に、エリックを先頭に行軍を始める。


 行軍はエリックの聴覚を頼りに進む、完全に敵の動きを把握してその動きに合わせてやり過ごしたり隠れたりしながら本社ビルに近づく。


 そしてあるビルの地下駐車場に来ると止まるようにJPが指示する。


「ここに何かあるの?」


 エリックが尋ねるとJPは入り口に進み、スロープを降りて行く。


「エリクソンに聞いた上層部専用の駐車場入り口だ。最下層まで潜るぞ」


 詰まらなそうに返しながらJPは最下層である地下3階を目指す。


「へぇ……そんなものあるんだ……よっと!」


 後に続くエリックが感心しながら、起き上がって目の前に出て来るZの胸部を前蹴りで景気よく蹴り飛ばした。


「ああ、上層部や組織のスキャンダル、吸血鬼によって運営している企業とバレた際に出入りできる場所を用意していたらしい」


 JPは地下1階に降りるとゲート横の事務所に入り、すぐに出てくる。


「警報装置は切っておいた。整備室から入るぞ」


「ン? なんでだい?」


 マーカスがその言い方に何かあると気が付く、


「実はメインシャッターを開けると本社ビルの保安室に出迎えの信号が出る。しかしシャッターや通路照明用の整備室にはそれが無い、エリクソンに前もって聞いて置いた安全な潜入方法だ」


「成程ねぇ……」


 そのままカーブを描き最下層に向かうスロープを歩きながらJP達が進んでいき、そして最下層、契約者専用エリアと書かれた駐車場に到着した。


 JPはエリックとアイコンタクトして追跡や待ち伏せ等が無い事を確認し、一番奥に向かって歩き出す。


 奥の右横に敢えて目立たないように壁と同色の灰色で塗装されたシャッターと掃除用具入れのような扉が目の前に現れた。


 JPは胸ポケットから事務所で入手した鍵を使い扉を開ける。


 そこには簡易的な事務机と交換用部品が置いてある棚や洗面台、そして向こう側へ行くためのドアがあった。


 再度、エリックと確認し、ドアを開けて通路に出る。


 街灯や車道を照らすライトは消えており、常人なら精神的におかしくなりそうな全く先の見えない真っ黒な暗闇をJP達は確かな足取りで前に進む。


 彼等には見えていた……通路も照らすはずだった街灯が無くても、そこにははっきりと道とその先が見えていた。


 そしてしばらく行くと広いロータリー状の空間が現れ、正面には電源の入ったエレベーターとその上の30と言う表示が煌々と灯っている。


 JPはエレベーターのスイッチを入れて呼び寄せるとマーカスを先頭にエリックをバックアップさせながら階段を登り、地上一階に出ると目に前には機材搬入用エレベーターと通路に面した両開きのドアがあった。


 マーカスは扉を少し開いて周囲を確認する。


 付近に護衛の兵士は見当たら無いことを確認、背後のJPに合図してスルリと扉を抜け出し、エレベーターの前に行き上昇のスイッチを押す。


 扉はすぐに開き、中に入ると指向性爆薬とセンサーをセットして30階に向けて次々に送り出す。


 そして速やかに搬入用エレベーターの所に戻ると上で爆発音が響く!


 音を確認すると同時に搬入用エレベーターに入り27階を押す。


「一気に行かねぇのか?」


「エリック、地下で爆発音は?」


 マーカスの疑問にJPはエリックに何故か地下の爆発音を尋ねる。


「ああ、爆発音は無かったけれどM2の連射音は響いてたよ……」


 仕掛けられた罠を看破していたJPは相手の次の手を読んでいた。


「此のまま上に直通で行くと待ち伏せで全滅する、手前で降りてフェイクを入れるのさ」


 JPは使える道を模索するのと同時に相手の警戒能力を確認した。……予想通りの厳重な警護と認識したその時、スマホに呼び出し音が掛かり通話に出るとホセのクレームが始まった。


「あのなぁJP、花火するなら連絡入れてくれ、危うく巻き添え喰らう所だぞ」


 ホセの呑気なクレームのBGMには絶え間ない銃声とジョシュ達の怒号が聞こえるが、気にせずにJPは便宜上謝罪をして爆発の階を探る。


「ああ、済まんな、今どの階に居る?」


「20階だ、あと3回ほど別の階層で聞こえた」


「ああ、それでは先に行く、援護を頼む」


 そう一方的に言って通話を切るとJP達は一気に27階に向かった。


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