大破

 大通りにピットブルを視認した護衛部隊は一斉に銃を構え、迫撃砲の着弾位置を修正する。


「まだ撃つなよ。8ブロック400メートル超えたら思う存分撃て!」


 バリケード前で防衛線の指揮官は部下達にニヤニヤしながら指示をする。


 相手は単なる警察の輸送トラックと高をくくっていたのだ。


「ホセ、志教、一発あの田舎者どもにぶちかましてやって」


「あいよ」


「了解した」


 ピットブルを加速させながらジョシュは後ろの2人に攻撃を頼む。


 ハッチを開け、嬉々として2人は残弾1となったロケットランチャーを構える。


「おい、ジョシュ、残り3ブロック超えたら教えてくれ。そこで仕掛ける」


「へーい」


 ホセにタイミング頼まれるとジョシュは返事をするが、8ブロック超えた辺りで早くも銃撃が開始された。


 フロントグリルやバンパー、フロントガラスを覆うチタン製網目ガードに無数の弾丸が弾かれる。


「なんだ? 猪口才な! 迫撃砲も撃て! 撃て!」


 ピットブルの防弾性能に驚く指揮官はイラつきながらも迫撃砲の発射指示を出す。


「うぉ?! マジかよ! こんな狭い路地で迫撃砲はねぇぞ! 当たったらどーすんだ!」


 トップスピードで走るピットブルの後方20メートルに着弾し、その滅茶苦茶さにジョシュが目を剥く!


 しかも、徐々に弾着が近づき始める。


「マジかよ……でぇぃ!」


 危険を察知し回避運動を取って直撃弾を躱すが、次は危うい……まだ4ブロックも距離があった。


「ほいじゃまー、ちっと早えが、マッキン行こうぜ」


「おう、ホセ」


 のんびりと声掛けしたホセとマッキンタイアが弾丸と着弾の火花が飛ぶ上部ハッチにバッと勢い良く身を乗り出すとロケットランチャーを構える。


はいセイアーンアーしろやッマザーファッカー!」


 バリケードの後ろで集中砲火をする兵士達に向けてランチャーを放つと投げ捨てる!


 ロケットが着弾し周囲にいた兵士達を巻き込みながら火炎を撒き散らし爆発するが、一発の迫撃弾が同時に放たれピットブルの真横に着弾し横転させた。


「「うわぁぁぁぁぁぁ」」


 高速で疾走していたピットブルは横倒しになるとそのまま火花を散らしながら数百メートルを滑って行く。


 滑る車内では撃った後に引っ込んでいたホセ達やジョシュがその衝撃と摩擦熱で横に叩きつけられ、苦鳴を上げる。


 路肩に乗り上げ、道路に設置された消火栓を弾き飛ばし水を勢い良く噴き上げさせてピットブルがやっと止まった。


「ちっくしょう……みんな無事か?」


 横になった運転席で頭を振りながらジョシュは横のシュテフィンを見る。


「ああ、軽くやけどしたけどな……たくよぅ……俺らの愛車アジトに……倍返しにしてくれる」


 怒り心頭でシートベルトを外してシュテフィンがよたよたと後ろに向かう。後方では装備や弾薬でひっちゃかめっちゃかになりながらもホセとマッキンタイアがその場で直ぐに周囲の気配を読む。


「起きろ! 爆発する前に打って出るぞ!」


 起き上がると銃と装備を取り、ホセは後方ハッチを開け、先行したマッキンタイアがMP7を四方に向けて牽制しながら出ていく。


 噴き上げた水を摩擦熱で加熱された車体がシュウシュウ言わせながら水蒸気に変え、生存を確認しに来た兵士をMP7でなぎ倒しながらマッキンタイアが先頭で先を急ぐ!


「ジョシュ!」


「お待たせ!」


 ハッチの前で警戒していたホセの呼び声に装備を持ったジョシュが声を掛けて飛び出し、そしてビルに向かって駆け出すとその頭上をロケット弾が通り抜けピットブルを貫く……


『とべぇ!』


 ホセの叫びと共に全員が前に飛んで伏せる。


 此処までジョシュ達を守り、運んで来た闘犬ピットブルは爆発と共にその使命を此処で全うした。……


「こぬやろぅ!」


 本社ビルの2階から対戦車ランチャーを構えて次弾装填中の兵士愛犬の仇に向かいマクミランを構えたシュテフィンが引き金を引く!


 轟雷音と共に首から上を綺麗に吹っ飛ばすとビルに向かって突進を始める。


「マッキン! フォロー頼む! ジョシュ! 左をやれ!」


 右の建物から出てくる兵士を射殺しながらホセが指示を出す。怒り狂ったシュテフィンはガラスの自動ドアを粉砕して1階ロビーに出る。


 危険な雰囲気が背筋を走ると同時に理性を取り戻す。…‥その途端、真横に飛んで避けると居た場所に無数の弾丸が通り抜ける。


 中2階の通路には護衛部隊隠れていてシュテフィンに襲い掛かる。……だが、出てくるのが少し早かった。巨大なガラスの壁を隔てた外側からフォローに回っていたマッキンタイアが乱射して護衛部隊を攻撃し始める。


 それに気を取られると遅ればせながらジョシュとホセがビルに進入し、隠れていた敵を潰しにかかる。次々に攻撃対象が現れ混乱に乗じて一気に護衛部隊を殲滅するとジョシュがシュテフィンに裏拳で突っ込む。


「おい、シュテ、突撃はぇぇよ。志教のケツ持ちが無かったら今頃ハチの巣だぜ?」


 頭を掻いてシュテフィンが柄にもなく詫びる。


「ゴメン、ピットブルアジト潰されて頭に来た……」


「ああ、そだな、俺らの命綱で家だったもんな……ありがとさん。安らかに眠れ」


 注意したジョシュも少ししんみりしながらここまで連れて来てくれたに心からの感謝をした。


 それを見ながらしんみりするホセを訝し気にみるマッキンタイアが急かす。


「諸君、もうそろそろ行こうか、愛車の犠牲が無駄にならないように……」


「「うす」」


 吹っ切るように前を向くとジョシュ達は非常階段の扉に向かう。


「さて、ホセ先生のテロリスト講座、映画だとそこら中に罠があるのに非常口になぜーかトラップ爆弾仕掛けてないのは明らかにおかしい。ゆえに想像性の高い兵士は必ずチェックをするのが現場のお約束」


 そうネタを振りつつドアノブをゆっくりと回しドアをほんの数ミリ開けた。


「センサー式の罠ならこの場でアウトだが、ワイヤー式だとワンチャン無事だ。アシスタントのジョシュ君、罠は?」


「無いです、先生!」


 ノリノリで答えるジョシュにホセがシュテフィンに指示をする。


「おい、シュテアシスタントその2、そこのエレベーターのスイッチ全部押してすぐ戻れ。みんな! 階段駆け上がるぞ!」


「へぇぇぃ」


 半分やる気なさげにシュテフィンはボタンを押して戻って来る。ホセはすかさず後方に回り、その扉の裏と階段の踊り場に次々と爆薬をセットする。


「それじゃ、猛ダッシュで3階の部隊始末するぜ」


 そう言ってホセとマッキンタイアは階段を猛烈な勢いで駆け上がり始めた。


「誰だよ戦争大好き中年ども呼んできたの……」


「ほんとだよ……平和が一番」


 その後ろをジョシュとシュテフィンがボヤキながら動力を切った重い装備で階段をドタドタと駆け上がった。


 数分後、到着したエレベーターで降りて来た護衛部隊と1階ロビーを潜入したジョシュ達を挟み撃ちにするべく駆け付けて来た部隊が鉢合わせする。


「非常階段に向え! 3階のチームと挟撃で殲滅するぞ!」


 合流した部隊が一丸となり非常階段を駆け上がる。2階に先頭の兵士が到達した途端、扉や踊り場で爆発が起こり追撃部隊が閃光と衝撃の中で瓦礫の崩落の中へ消えて行った。

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