マンハッタン・ヘンジ

離脱

 行動全てのテンポが現代の速いジョシュ達のノリについていけずに置いて行かれて右往左往する断罪隊の中で慌ててマッキンタイアが尋ねる。


「あ、あの我々は?」


「あ! 志教達は付いて来てー! もう教授はだまぁっててッ!」


 俺をぶっこませろー! と叫んで暴れるゲオルグに手を焼きながらジョシュが必死に答えて駐車場の外に誘導すると手前でトラビス達とアニーが待っていた。


「おお! 旦那に班長!」


「ジョシュ! ステ! よくやった!」


「うんうん、2人とも精悍な顔になって……」


 ゲオルグに手を焼いて居るのを敢えてみないでジョシュ達の本来の任務を労うながらトラビス達は頷く。


「それは後で! 旦那たち! とりあえずこっち来て! Zが来るよ!」


 そんなものお構いなしでシュテフィンは感動の再会をスルーして3人を急かす。


 そして高架下を抜けて船着き場の輸送船まで来るとアンナとホセが言い合いをしていた。


「待て! ここまで来て任務を放り出して男に入れ込むとはどうかしてるぞ!?」


「これも任務でしょう! 全員で帰還しなきゃ意味ないじゃない!」


 ホセのセクハラを軽く一蹴するアンナは見ていたが、めったに見れない構図対戦カードゆえにジョシュ達は面食らって隣のJPに尋ねる。


「どったの?」


マルティネス彼氏と助手のトッドが来ていないそうだ。アンナは捜索を主張、ホセは撤収を主張だ」


 そこに断罪隊をバックにしたジョシュ達に気が付き、アンナは議論を一方的に打ち切る。


「うへー……連れて来すぎだし、しかも因縁深いけど……乗れるんかい」


 輸送船元幽閉場所を見ながら対象を切り替えたホセが頭を掻いて困惑する。


「我々は一向にかまわん! 数百年も地獄を見て来たのだ。数時間の忌まわしき記憶など思い出話に過ぎんよ」


 リーダーのマッキンタイアが一笑に伏すが顔を出したエディはそうも言って居られなかった。


「すんません! 現状で多分9割収容出来ます! 但し戦闘担当甲板でおなしゃす! 残りは……」


「おう! 俺らの船に乗れや! 米軍が誇る海軍特殊部隊ネイビーシールズ最新鋭の船だ。このやんちゃさを堪能してくれ」


 この戦闘艇の性能にご満悦のトラビスが発進作業に入りながらそう叫ぶとマッキンタイアが頭を下げる。


「ありがとう……今日で人生が終わっても私にとって最良の日だ! 断罪隊諸君! ご厚意に甘えて搭乗開始!」


「何でもいいけどさっさと搭乗してくれ! 別の部隊が接近してくる!」


 いつの間にかついて来たマーカス達の中からエリックが叫ぶ!


「マーカス、重要任務ご苦労さん! こっからは俺らの仕事だ。乗ってくれ」


 ホセがマーカス達に搭乗するように勧め、自身もアンナを急かして乗り込もうとする。


「満載です!」


「こちらも満員だ!」


 エディとトラビスが同時に叫ぶとその場にはまだ数名残っていた。ジョシュとシュテフィン、ホセとアンナにマッキンタイアの5人だ。


「ちぃ、しゃーねぇな、アンナ、付き合ってやんよ」


 頭を掻きながらホセが言いにくそうに呟くと単独でも残るつもりだったアンナはその心を察した。


「ホセ、アンタ……ありがと」


 それを聞いてホセはかっこつけて葉巻に火を着け吹かして呟く


「ふ、俺に惚れんなよ」


「ごめん、ドミニク先約居るから永久にないわ」


 その言葉にむせながらズッコケたが、その横ではジョシュはアニーを泣かせていた。


「なにぼさっとしてんの! 何時ものように乗ってなきゃダメじゃない!」


 泣きながら叫ぶアニーにジョシュは笑いながら答える。


「いつもズルしてるみたいに言うなよ。……まぁ、お前がそこに乗ってりゃ俺の主任務ポートランドの仕事は終わったんだよ。後は俺が生き残るだけだ」


「このバカァァ! ダサいのにカッコつけなくていいの! 帰ろ! ポートランドに!」


「ああ、先に帰っててくれ。俺的にちょいと追加の仕事がある」


「だけどだけど」


「あー、もう旦那! 班長! 後よろしく! キャッスルさん! 給弾と給油して後で迎えに来てね!」


 それでもドアに縋り付くアニーをシュテフィンは強制的にトラビス達に託すとジョシュ達は駆け出して行った。


 後ろでアニーの叫び声が聞こえるが船は出航して行った。高架下を走るジョシュ達の背後にマッキンタイアが追いかけて来た。


「部下達も安全圏に去った。もう憂いも未練もない。私も君らに付き合おう」


 そしてその後ろからホセ達が走っていた。


「ジョーシュ! お前らどうすんだ?」


「とりあえずピットブルを探して乗り込む。あれならZの集団程度なら数日は時間が稼げるし、何より移動手段は確保したい」


「OK、俺らはドミニク探すから付き合え! 吸血鬼が4人居たらまずお前は安全だ」


「そりゃ嬉しいねぇ……」


 どちらにしても行く先はこの先のメドウズコロナ公園だ。火力と人手は多い方が良い……しかし、ジョシュの予想は此の展開を読んでいた。


「はい、お約束の団体さん到着ってね」


 ジョシュ達が駐車場に入ると横合いから近衛兵団のZが迫って来た。そしてライカーズ島の囚人の服を着たZや普段着姿など様々なZが大挙して駐車場の柵を押し倒して入って来た。


「ホセー、やっぱ4人じゃ足んねぇよ! 」


「我侭言うな! 自分の身ぐらい自分で守れ!」


 つい数分前のセリフを簡単に覆したホセに苦笑しながらジョシュは前を塞ぐZを勢いよく蹴り倒して進む。


 そして陸橋を超え、焼け焦げたアスファルトを飛び越えて公園に入る。


 そこには近衛兵に広場に引き出されて銃殺待った無しのマルティネスとトッドがいた。


「頼む! この子だけは見逃してやってくれ! 俺ならなんぼ撃って貰っても構わん! だから!」


「ククッ、それは出来んなぁ……薄汚れた鬼どもそこに並んで両方とも死ねや」


 散々殴られたらしく割と整っていたマルティネスの顔は見るも無残に腫れ、右目じりは切れて出血していたが、それでも必死の哀願をして頼み込むが近衛兵達はせせら笑うと並ぶように指示する。


「クソったれ……済まん! トッド……助けてやれなくて……」


「マルティネスさん……僕、今、怖いものを見てしまいました」


 広場の中央にゆっくりと向かいながらマルティネスは謝るがトッドは顔色を真っ青しながら呟く。


「なんだいそれは? 大方、人の心の闇ってかい?」


生存を諦めて力なく、だが、せめて死の恐怖を和らげようとマルティネスは軽口を叩く


「いえ、愛する人に害を及ぼす者に対する殺意と憤怒を纏った女性です」


 その答えにエッと振り向くと視界にはせせら笑う近衛兵の後ろに羅刹のような顔で音も無く突っ込んでくるアンナが見える。


 その隣では獲物を見つけた野獣のような顔で屠らんとするホセとマッキンタイア、そしてその殺伐としたテンションを感じて調子に乗ったシュテフィンにその4人にドン引きするジョシュが襲い掛かる。


「敵しゅ……ウゴッ」


 気配に気が付いて振り向いた近衛兵のどてっぱらにアンナの長く美しい脚が繰り出す怒りの籠った飛び蹴りがズガッと渾身の力で炸裂し、鳩尾に喰らった兵士がピクピクと痙攣をしながら目を剥いて身体をくの字に曲げる。


 笑顔のマッキンタイアがライフルの銃口を瞬間に握り明後日も方向にむけ、引き金を引く兵士の喉元にピタリとナイフを当てて景気よくシュガッと音を立てて引き裂き血を噴出させると、ホセは向けられた拳銃を引かれる前にクルっと回転させ一瞬で奪うと足に向かってパンッと一発だけ発砲し貫通させる。


「アタシの男、此処までボコボコにして……これ以上ブサイクになったらどうしてくれんの? ア゛ン?」


 アンナは怒りが収まらずにブーツの踵で兵士の顔を報復と言わんばかりにドゴッドゴッと連続して蹴り始める。そのセリフにジョシュはプッっと吹き出しかけて後ろを向く。


「い、や、す、いません、ごめ、許して」


「うちの人が命乞いした時、お前らなんつった? あ? もう一遍、言ってみろ!」


 最後に2連撃を鳩尾と金的にぶちかますと流石に泡を吹いて兵士は失神した。


 その姿に


(ブサイク……けどコレで抗弁したり、もしも後日、捕食本能でも浮気したらマジで高く吊るされそうだ……俺)


 そのインド神話のカーリーのような姿に恐怖を覚えてトッドとも抱き合いながら震え上がる。


「おい、マルティネス! 折角俺が助けに来てやったのになんだその体たらくは!」


 ビビって震えあがるその姿にホセは苦言を呈すも、そのマルティネスはブツブツ文句を言う。


「しゃーねぇだろ、今、ガチで怖いもの見たんだから……」


 それが何かとは言わずにマルティネスはホセ友達の登場に安堵に息を漏らす。その横でジョシュとシュテフィンが近衛兵達の銃を壊していた。そして失神した兵士の頭をサッカーボールのようガンと蹴り飛ばして起こす。


「ホレ、部隊に戻りな……」


 そして喉を掻き切られた兵の頭を破壊すると公園の外を指差し逃げるように急かした。


「ジョシュ! アンタ……」


「まぁまぁ」


 怒り心頭のアンナが食って掛かるがホセがそれを止める。その顔には苦笑が浮かんでいた。この後に起こる事が予想できたからだ。


「ほんじゃ、車に急ごう。数秒でも足止め出来るだろ……」


 ジョシュは皆を急かすとピットブルに向かう。移動されていなければ公園の駐車場にあるはずだからだ。


 その数分後に逃がした男達の叫び声が聞こえて来た。……


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