復讐
粗方の避難民の搭乗を終えて、静まり返った駐車場が気になり様子を見に来たアニー達は呆然とする。
地面に平伏したまま泣きじゃくる者、自分に降りかかった現実が理解できずに考え込む者や隣の兵士と議論を始める者達など様々だった。
「何これって……きょ、教授!?」
その片隅でベソをかいたレイに抱きかかえられたまま、眼を閉じてぐったりしているゲオルグが居た。
驚いたアニー達は駆け寄るとレイが泣きながら状況を説明し出す。そこに狙撃のキーワードを聞いて一斉に周囲を警戒する。
「えぐっ、敵が来たらジョ、ジョシュさん達が助けてくれて、そ、その後に所長のライバルの人が手当ての指示してくれて……」
「ライバル?」
「あそこに居ます」
指を差すそこには怒り心頭のヴォイスラヴと対峙する冷静なキャッスルとその隣で困惑するジョシュとシュテフィンが居た。
「まだ本命があるんだろう? 面白い、今度はどんな戯言並べてくるのか言ってみろ! 必ず論破してその後、直々に処してやろう」
自信満々に断言するヴォイスラヴにキャッスルはヤレヤレと首を振ると重々しく口を開く
「では教会の五聖文があるだろう? 言ってみろ」
「ふん、何を言い出すかと思えば……1,力なき人々に
「それから?」
「2,教会に奉仕しその為に精力的に働くべし、3、常に自身を鍛え上げ、常在戦場の精神であれ、4、門徒や兄弟はお互いに慈しみ、相互扶助を持って事に当たるべし、5、同じ門徒や兄弟達を陥れ、殺めてはいけない。但し、害悪をもたらす者やなり果てた者は即刻、誅するべし……それがどうした?」
小馬鹿にする様にヴォイスラヴが諳んじて見せた。ジョシュも養成所に入所した時から教え込まれた5つの教えだ。但し、最後の5つ目に至ってはこの状況下ではほとんど守られていない。しかし発覚すればジョシュやトーレスは即時逮捕されるだろう。
「では聞く、お前、同じ教会兵をいかなる理由があろうとも始末してないよな?」
「していない」
「ほう? では聞くがお前、自分の行為を非難した新兵を射殺してないな?」
「……していない」
一瞬、口籠りながらキャッスルの詰問を否定するが、その仕草を見逃さなかった。
「そうか、ならば当時のお前の副官その同僚が告発した新兵・
その被害者の名前を聞いたジョシュが目を剥いて驚き、その眼でヴォイスラヴを見る。
(ドワイトをやったのはトーレスだと思っていたが……まさかの此奴か!)
腰のM945に手を伸ばすが、それに気が付いたキャッスルにその肩を何気なく叩かれる。
「さて、2名の告発者の内、片方はこの戦闘に参戦してるがこの場にはいない……ソイツを呼び出して証言してもらうか……」
ヤレヤレと言った顔でキャッスルがボヤくがそこに一人の男が現れる。
「その必要は無い。俺がドワイト殺しを見ていたからな……」
人込みを掻き分けて高架から降りて来たトーレスが現れる。
「てめ……なんだと!?」
ジョシュがその言葉に激しく反応をするが、トーレスは笑いながらも証言を始める。
「俺らの初陣で未承認薬のスレイヤーメーカーを
「ソレで俺はこういったはずだ。これが答えだ新兵君」
そう言いざまに肩に隠し仕込んだグロックを抜いてトーレスに向ける。だが、向ける前にトーレスのマクミランが轟音と共に火を噴き、右手首から上を消失させる。
「な、なにっ……」
ヴォイスラヴは自分より早く反応されて悔しそうに消えて血を垂れ流し始める右手を見る。現役の頃なら先に射殺されていたのはトーレスだったが衰えは隠せなかった。……
「ジョシュアぁ、後始末は任せた。お前に託した
「ああ、あんがとよ。
その言葉と共にジョシュはドワイトの銃、M945を片手で抜くとヴォイスラヴの眉間に銃弾を1発叩き込んだ。
何時もなら綺麗に外に弾けるように飛ぶから薬莢がその時だけは上に飛び、銃身に当たりチーンッと澄んだ音を立てる。まるで鎮魂の鈴が鳴るように……
そのままヴォイスラブは仰向きに倒れて地面に脳漿と血液を撒き散らす。
「これで一件落着って……つーか新兵殺しにお前が関わってるなんて俺は聞いてねぇぞ」
キャッスルが締めに入ったが、ジョシュには苦言を呈す。
「俺はドワイト殺しの告発があったなんて聞いてないし、そこのトーレスが殺害犯と思ってたからね。……」
そう答えながらジョシュはShAKを構え、シュテフィンはレイジングブルを握りしめると既にマクミランを構えるトーレスと殺気を放ちながら向かい合うが、そこに潮風に混じった死臭と腐臭が辺りに漂い始める。
「志教! Zがこちらに向かって来ております!無茶苦茶な数です!」
雰囲気を読まずにリックがライフルを構えながら報告に来た。
「チィ! この場の近衛兵団に告ぐ! 強皇が戦死されたので全軍引くぞ! ジョシュア、勝負は預けた! 次こそ殺すぞ!」
構周囲の近衛兵に撤退指示を飛ばした後にトーレスはライフルを下ろし本懐を遂げて幾分すっきりした顔でジョシュにそう宣言するとジョシュも応戦する。
「ああ、パイセン疑って悪かったが、次は先に狙撃してやんよ」
速やかに引いていくトーレスの背中にそう暴言をぶつけるとその背中を見送った。
「え? 決着を着けないの?」
残念そうに呟く紫の眼のシュテフィンが決戦を主張するがキャッスルが呆れて突っ込む。
「お前な……この少人数で錬度も戦力も段違いに高い3つの部隊を相手に数十分間、戦況を互角に維持するのも奇跡なのに決着って……頭おかしいだろ?!」
「あれ? キャッスルさん、前からおかしいって知らなかったの?」
「おめーら、うっせ! 」
ジョシュのツッコミもむくれたシュテフィンは一蹴する。と銃声が響き全員その場に伏せる。
駐車場の所々でZ化した近衛兵が始末されながら近衛兵団が撤退を始めだして気が付いた。その駐車場の外縁部には既にZが来ていた。
そしてやっと回復したゲオルグがクレイモアを持ち、ふらついた身体をレイに支えて貰いながら現れた。
「俺を、狙撃した、バカヤロウは、何処に、行った?」
まだ損傷から回復しきっておらず、言葉を探しながら一つ一つ区切って話す。
「いま、撤退して来ましたよ。……それから断罪隊も解散になります……って所長? どちらへ?」
ジョシュ達を置いて前に向かって歩き出すゲオルグにシュテフィンが尋ねる。
「俺のどたまに、
「おい、ランバート!
徐々に本調子になるにつれ激怒し始めるゲオルグにキャッスルが怒鳴って制止する。それがまた闘争本能とプライドに火をつける。
「なんだと? 猪口才な
「ああ、調子に乗って悪かったな、
そう言ってレイとジョシュ達に目で合図し、ガシッと肩や両足を拘束するように持つと一斉に輸送船に向かって走り出す。
「放せー! バカ野郎ども! 後で覚えてろよ!」
ジョシュは両手で足を抑えながら此の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます