告発

 船から降り立った男に数秒で位置を特定された感のトーレスはその迫力に気圧されつつもマクミランを握りしめて怯む心を奮い立たせる。


(ンだぁ? あのオヤジ……速攻で見切られて余裕の対応された。……ムカつくぜ)


 そしてキャッスルを追うように位置を変えて駐車場の方を見る。


 騒乱状態の駐車場では銃撃戦や格闘戦が至る所で行われており、出口付近ではゲオルグを介抱するレイの近くで2つの対決が行われていた。


 顔面に迫るマッキンタイアの剛腕ストレートを辛うじて避けたジョシュは大腿部にローキックを蹴り込み、次に来ると思われる得意技の前蹴りを潰す。断罪隊が乱入して来るとマッキンタイアがジョシュを見つけると絡んできてしまいリックは他の断罪隊との戦闘に移行してしまった。


「小僧! 貴様、教会の手の者ではないのか?!」


 バックハンドブローで後ろにナイフを持って迫る近衛兵達ごとなぎ倒しながらマッキンタイアが怒鳴るとジョシュも援護に来た断罪隊の兵士を肘打ちで動きを止めて蹴り飛ばし、マッキンタイアの裏拳で同士討ちにする。


「うるせぇ、後で説明してやっから順番を守って後ろに並びやがれ!」


 そう返すのが実は一杯一杯であった。隣のシュテフィンの苦戦ぷりが気になったからだ。


 ヴォイスラヴと対峙したシュテフィンの防弾シートは既に無数の穴が開いており、撃つ弾や攻撃は悉く躱される。戦況を維持できるのはギリギリの所で牽制や援護がマーカス達から来るのでヴォイスラヴもイライラしながらトドメがさせない状況になっていた。


(こんな新兵に不愉快にされるのは以来だ!……ええいのらりくらりと)


 最初は一蹴出来ると踏んでいたヴォイスラヴは苛立ちながらかつて自分が射殺したドワイトの顔を思い出していた。


 だが、苛立ちながらもシュテフィンの大腿部のアーマーの穴へ弾丸を打ち込むことに成功し、転倒させる。


「ステェェェ! 今行く!」


 マッキンタイアと互角以上にやりあいながら危機に気が付いたジョシュが叫ぶとマッキンタイアを蹴り飛ばした反動でシュテフィンへと向かう。


 そのシュテフィンは足の損傷回復と形勢逆転の為の切り札処女の血を使うことを決めた。しかし、あまり覚醒状態になるのは好きではなかった。後で滅茶苦茶に疲れるからだ。しかし、そんなことを言っている場合ではなかった。ポケットからゲオルグに託された処女の血のアンプルを指で割り飲み干す。


 倒れたシュテフィンにヴォイスラヴは拳銃を向けて引き金を引く。あの時と同じようにこのムカつきを焼失させるために……だが、相手は丸腰のドワイトではなく覚醒したシュテフィンだった。


 身体を高速回転させ弾をやり過ごすとその勢いで立ち上がる。その真紫の怒りに燃える瞳を見たヴォイスラヴは一瞬強直させる。


(こいつの眼は何だ!? 普通の吸血鬼どもと違う!)


 ヴォイスラヴは拳銃を向けた右手を掴まれ上に強制的に引かれるとその鼻っ柱に思いっきり反られた身体でのシュテフィンの頭突きを喰らい、鈍い音と共に眼から火花が飛ぶ。


「うごっ……きっさまぁ!」


 その痛みでヴォイスラヴは激高すると左手のナイフの柄でシュテフィンの顎を殴りつけ怯ませると胴回し蹴りで追撃をして距離を取る。


 そこにジョシュが背後にマッキンタイアに迫られつつも乱入し、ヴォイスラヴに肉薄する。


「貴様ぁ! 逃げるとは何事かぁ!」


「強皇さまーッ! 元志祭のマッキンちゃんのお話を聞いてあげてくださいよぉ? アンタが一番偉いんだろ?!」


 ジョシュは後ろで怒鳴られながらもヴォイスラヴにそう告げるとパッと後ろを向く。うまくいけばマッキンタイアの矛先を変える事が出来ると企んだのだった。


 迫るマッキンタイアのストレートに合わせて懐に入り胸を合わせて衝撃をガシィっと受ける。そして両腕を返しつつマッキンタイアの背後で両手をクラッチさせる。


「ドヤサッ!」


 掛け声と共に左足をマッキンタイアの背後に踏み込むと身体を右に振り、反るよう倒れ込みながら後方の放置車両に投げ飛ばす。


 ――ゴキャッ!


 頭部を地面に叩きつけられつつ身体ごと車にぶつけられたマッキンタイアは動きを止めるが、そこで倒れたジョシュも動きを止める。その真上でヴォイスラヴが拳銃を突きつけてるからだ。


「貴様、所属を言え」


「え?」


「俺を強皇と知って居るお前は何者だ、それも吸血鬼風情とつるんで断罪隊やスレイヤーと戦うお前は?」


 今すぐにも引き金を引きそうなヴォイスラヴの詰問に正直に答えようか一瞬迷うが口を開く前に銃声が響き、ヴォイスラヴの拳銃の撃鉄を砕く!


「所属は俺の弟子だよ。ヴォイスラヴ」


「貴様、生きていたのか……」


 銃口から煙を出すM1911A1の初期モデルを片手に構える笑顔のキャッスルを見据えたヴォイスラヴが苦々しく呟く。


 撃鉄の壊れた銃を捨てるとヴォイスラヴがキャッスルに対して詰問に入る。


「貴様、引退したはずでは?」


「ああ、けど復帰せざるを得ないのさ、まぁ、俺らの流儀風にいえば再装填リロードしたんだよ。やる気って奴をな」


「ふん、俺の配下なら使ってやらんでもないぞ」


 鼻で笑うと挑発するようにヴォイスラヴが値踏みをするとキャッスルは笑いながら


「そんじゃ、俺の条件は週休4日で給料は月2000万ドル、諸経費は全部お前持ち、当然権限はお前強皇より上ならやってやらんでもないな。……大漁帝王とでも呼んでくれたまえ」


「お前、馬鹿にしてるのか?」


 一瞬にしてヴォイスラヴの顔に殺意が滲むが、当のキャッスルは全く気にせずに傍らで起き上がろうとするマッキンタイアに話しかける。


「貴殿は元英国本部所属マッキンタイア志教ですね? 私はアメリカ本部の巡回説強者サーキットライダーのジョニー・カスティーヨと申します。今しばらくお話させて戴いてもよろしいか?」


「う……そうだが……手短に頼む。終わり次第死合って貰うがな」


 キャッスルに礼儀正しく挨拶されてたじろぎながらも交戦意志をマッキンタイアは告げる。


「先日、私の弟子のジョシュ・グランダンに冤罪を晴らす事が出来たら自決する用意があると表明されましたね?」


 今にも飛び掛からんとするマッキンタイアにキャッスルは涼し気に問答を進めていく。まるで淡々と業務を進める事務員のように……


「如何にも」


「それで記録室で編纂の仕事に就く我が盟友に動いて貰い、貴殿らの記録について歴代の強皇や枢騎卿の秘匿されたものまでを調査して貰いました」


「何と!」


その言葉にマッキンタイアの動きが止まり、それに呼応するように周囲の断罪隊が注目を始める。


「それで、ある人物への過去に握りつぶされた告発文と共に封印された貴殿らの陥れた背教者たちの存在と書簡のやり取りを確認した。そこで……コホン、一旦この戦闘を止めさせていただく」


 そう言うが早いか轟雷のような一喝が周囲の争乱の刻を止める。



「「注目せよ! 我々は古よりの教会の教義、しきたりに則り浄化評議会を発足をここに宣言する!  直ちに戦闘を止め、沙汰を待てぃ!」」


 その一喝の衝撃はキャッスルを中心に波紋を広げるように広がり元教会員断罪隊近衛兵団現役教会員共々動きを止め注目を始める。しかし直ぐにヴォイスラヴからクレームが付く。


「待て、誰が浄化評議会の認可を下ろした?! 俺は……」


「認可? お前じゃねぇな。お前が裁かれる方だから、根回し大変だったぜ~? 清廉潔白な役職付き探すのがどれだけレアか……断罪隊もそりゃ生まれるわ」


 苦笑しながらキャッスルは愚痴を零す。ラヴェルを始めとする閑職や最前線に送られたかつての仲間達と連絡を取り、厳密な身元調査と極秘交渉を行い強皇と中枢役職の粛清の為の評議会発足にこぎつけたのだった。


「俺は認めん!」


「被告のお前にゃ聞いてねぇよ!……コホン、皆、注目ありがとう、ではマッキンタイア志教率いる全ての断罪隊の隊員諸君! 評議会は貴殿らの冤罪を認定し、今までの反乱行為に対しその全ての免責と全教会の歴史の名の元に謝罪を宣言する」


「……我々は……許されたのか?」


「いえ、許しを請うのは我らの方です。今までの苦難の日々……誠に申し訳ない。ただ、自決されるのはお待ちください。証拠の提示に貴殿らが望まれる形や故郷への帰還を我々が全責任を持って償わせていただく」


 マッキンタイアが絞り出すように呟くとキャッスルが改めて謝罪と今後の方針を伝えると断罪隊の全ての兵士の動きが止まり、その場ですすり泣くものや、その場で立ち竦むものが続出した。


「貴様、勝手なことを……」


 憎悪の眼でキャッスルをヴォイスラヴが睨みつける。しかし今度は受け流すことをせずに真っ正面から受けて立つように対峙する。挟まれる形になったジョシュは居たたまれなくなりキャッスルの横にシュテフィンと共にそそくさと移動する。


「さて、お前さんの罪状だが地味なやつから徐々に言ってくぞ、まず予算の使い込み50億ドル。議会や政権、財界にばら撒くには使い過ぎだな。世界各国の高級リゾート地の別荘や高級車……現役時代にボロアパートに住んで豆しか食えねぇとボヤいてた男はどこ行った?」


「五月蠅い! それでも赤字運営を黒字にしたんだ! 報酬としては正当だ!」


 どこぞの逃げ出した経営者のように正当性を抗弁するヴォイスラヴに第2弾が撃ち込まれる。


「それからこれは近衛兵団の皆も聞いてくれ。全ての教会員を使った人体実験、俺らの現役時代から内密に許可した当時の強皇共々万死に値する裏切り行為だ。今、皆が飲んでる戦闘薬は30年以上前から何も知らない仲間や戦友、兄弟達の命と引き換えに作られたものだ。許せるか? 致死的な副作用で苦しんで死んでいった兄弟やかつての戦友に会って同じことが言えるか?……俺は言えんよ」


「当時からの方針だから無罪だ。それに正規版使用してからの作戦損亡率は大幅に減ったぞ!」


 必死に抗弁するヴォイスラヴに近衛兵団もざわつき出し、高架で興味なさげに見ていたトーレスもこれには食いつきだした。そして驚愕の第3弾が披露される。

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