調査

 あれから出航準備を終えたゲオルグ達は3つに部隊を再編した。


 ゲオルグとレイ、ジョシュ、アニー、シュテフィンはパンサーで先行してジョナ達の元へ急行する。


 ニューロンドンのフェリー乗り場ではエメとフレディ達にマーティ達救助した避難民を守りつつ、この後に救護されてくる民間人や避難民の受け入れとして残らせ、JP隊とゼラルゼスは輸送船でラガーディア空港横を強行突破して接岸し救出に入る。


 今、先行組がフェリー乗り場の隣のボート搬入口で見送りを受けていた。とある人物のご機嫌を整えるためだ。


「では行って来る」


「はい、お気をつけて」


 助手席で腕を組んで踏ん反り返るゲオルグその本人をエメ達が見送る。


「レイ、我侭言ったら張り倒して良いよ。私が許す!」


 本来2人しか載れない後部座席でアニーとシュテフィンに挟まれて狭苦しそうな大荷物を背負ったレイにエメが注文を出す。


「所長にそんな事出来るのはエメアンタだけですから!」


 そう突っ込むと全く夫婦揃って無理難題を吹っ掛けてくるんだから……とブツブツ文句を言いながら幌用のフレームに両手で捕まる。


「ほーんじゃま、行くぜ」


 このままではいつまでも出発できないと思い始めていたジョシュはタイミングを見計らい声をかけてアクセルを踏んだ。


 パンサーはボートの揚陸用スロープを使い着水するとギアを切り替えてスクリューが回り出す。


「中々乙なもんだな……まぁ、俺はボートに乗る趣味はないが……」


 着水の後、勢いよく進むパンサーを気に入ったようで、悦に入った顔でゲオルグは呟く。後ろのレイは帰って来たらエメにもっと凄いの造れとネダるのだろうなぁと思っていた。


 パンサーはスピードを上げて車体が潮風にあおられながらも一路、ロングアイランドの北端で先程経由してまで偵察したオリエント岬に向かう。そこで上陸する為だ。


 ロングアイランド全島の長さは100キロ以上と長く、ボートで南端行くには途中で燃料補給しなければならない。陸上ならガススタンドは点在しているし、市内での戦闘状況も確認できる。


「しかし教授、ロングアイランド北部に救出船出すって言ってましたけどオリエント岬とモントーク地区どちらに送るんですか?」


 波を掻き分けながらパンサーを進ませるジョシュは疑問をぶつけてみた。ロングアイランドは2股に分かれており、オリエント岬とモントーク地区に分かれていた。


「うむ、内通者が先導してくれてるらしいから一応、2隻ずつシェルターと両端に送る予定だ。あのボケジジィがキリキリ働きゃ6隻は揃うだろ」


 キャッスルへの遺恨を思い出して眉間の皺が深くなるゲオルグに対し、ジョシュはあのホテル断罪隊宿舎の家族を思い出した。


(無事に救出されると良いが……)


 行先が戦闘中だけに寄り道は極力避けろと注文を受けて居る為、様子を見には行けないが無事に避難できることを願った。


 そして静かにオリエント岬フェリー乗り場に着くと放置車両でガソリンを少量補給すると州道25号でジャンクションまで行くとそこで国道495号線を使いロングアイランド中央部まで方向に行くはずだった。


 そこで向こう中央部から来た旧式のシボレーサパーバンに乗った一団に声を掛けられる。運転席の愛想が良さ気な中年黒人男性が顔を出して警告していた。


「おい、アンタ等クイーンズ方面に行くのかい? 気を付けた方が良いぜ? さっきまでウェストヒルズ公園で大規模な戦闘やってたから!」


「ほぅ? 教会と防衛隊かい?」


 そう言われたゲオルグは少し驚いて尋ねた。戦闘はクイーンズ方面で大規模にやっているとの予想だった。中年男性は肩を竦めると


「さぁな? 片方は防衛隊にしては戦闘服は真っ黒で拳銃だけで立ち回ってたし、もう一つの部隊は結構な大所帯だったしな……悪いこた言わねぇから、迂回しな」


「ああ、ありがとな、俺らは迂回するよ。この分だと市内もヤバそうだね」


 片方の相手が誰か分かったジョシュは即座に頷き、情報を獲りにかかる。


「おう、発電施設や空港に兵隊が攻め込んでるってよって兄さんクイーンズに行くのかい?」


「ああ、スタッテン島避難民キャンプに家族が居るんだ」


 咄嗟に嘘で誤魔化すと中年男性は心配そうに呟く。


「そりゃぁ早く行って皆で逃げ出した方が良い。俺らもシェルター島に逃げ込むつもりだ」


「ああ、ありがとう俺らもそうするよ。それよりも島とフェリー乗り場とモントークに救助船が来るらしい。それに乗りなよ」


 ゲオルグは感謝をするとそう情報を伝える。


「おおぅ、そうか! こちらこそありがとう! あんた等に神の御加護を!」


 中年男性は破顔して手を上げて感謝を伝え、ジョシュ達も手を上げてその場から立ち去るが、迂回せずに真っすぐに現場に向かった。


「片方の装備から言えば断罪隊、もう片方が分からない……断罪隊と真っ向からぶつかれる相手は早々居ないはず……」


 そして州道110号に入ってゆっくりと周囲を観察する。破壊痕や死体は1体もなかったがジョシュには確かな確証があった。


「ここでもなさげだけど空気に硝煙の臭いがある……近いね」


 そこでゲオルグが前方にあるガススタンドを指差し、


「おい、ジョシュ、此処で降りて徒歩で偵察しよう。レイとシュテフィンはガススタンドで待機してくれ」


「はい」


「ついでにガソリンも入れといてくれ」


「はいはい」


 ジョシュはShAkを携えるとアニーとゲオルグを伴い周囲を偵察に出かける。そしてメルビルのインターチェンジが近づくにつれ強くなる硝煙の匂いに血の匂いが混ざり始める。


「ここで誰か一戦交えた……ん?」


 家電量販店に転がる死体を見つけると周囲を警戒しながら死体に近寄る。


「コイツ……スレイヤーだ」


 独特の装備に同じ風貌、ボストンで見た連中と同じ顔だった。


「ジョシュ、アニー、気を付けろ。伏せながら屋上に行くぞ」


 何かに気が付いたゲオルグが指示しながら量販店の裏にまわり非常階段を使い上っていく……


 屋上に出ると2~3人の首のない死体があり、それを避けて隠れながらゲオルグが周囲を見渡し、プッと噴き出す。


「おいおいおいおい、あそこでえっらそうに兵隊を顎で使ってんのヴォイスラヴの糞野郎じゃねぇか!」


 その指差す方向をジョシュとアニーが覗くが、ジョシュは辛うじて分かり、アニーに至ってはバレットのスコープを外して見えるレベルだった。


「ああ成程、確かに強皇だ……しかもあのトーレスがその前線指揮官とは……」


 スレイヤーを率いて断罪隊とやりあった実力を認めたジョシュは冷や汗が噴き出るのを覚える、


「まぁ、ヴォイスラヴは任せとけ、お前さんの師匠と違って野郎とはトドメ差そうとすると逃げられてるから今度こそ決着はつけないとな」


 ゲオルグに肩を叩かれ撤退するように指示されると3人はその場から立ち去り、見つからないようにガススタンドまで戻って来た。


「どうでした?」


 給油が終わったらしく、店の冷蔵庫のソーダ水を飲んでいた2人が聞いて来た。


「ヤバいのがいた。静かに逃げるよ」


 そのジョシュの言葉で全員無言でシートに座ると車を発進させる。


 速やかに住宅街を抜けて国道495に入る。


「何がどうヤバかったの?」


 後部座席のシュテフィンが尋ねるとジョシュが答える。


「黒い部隊はやっぱり断罪隊、もう一つの大きいのが強皇直属、多分近衛兵団だろう。教会の最強戦力だ」


「そいつらがあそこで?」


「ああ但し、断罪隊と先遣部隊……あのトーレスの部隊とぶつかってて、途中で近衛兵団が来たから逃げ出したってところだろう」


 両者と対戦経験があるジョシュが大まかな戦況推測を口にするとゲオルグが尋ねる。


「ところでマーカス達暗殺チームはどこに居るんだ? 彼らが担当だろう?」


「ホセ曰く、マンハッタン撤退で下手こいてクイーンズの発電所で攻防戦やってるって」


 アニーがホセから聞いた情報を口にするとゲオルグがため息を吐いて


「良かったのか悪かったのか……情報なしで突っ込んでりゃ犬死確定だったし、かといってこのままでは役立たずだしなぁ」


 余裕ないけど、戦力増強の為にいっそ発電所の攻防戦に介入するか? とジョシュも考えるしかなかった。

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