拮抗

 断罪隊の斥候がその一団を発見したのは黄昏時の市道110号とノーザンステートパークウェイが交差するメルビルのインターチェンジだった。


 立体交差になったインターは少しだけ丘の様に隆起して見渡せるようになり、その周辺には雑木林に隔てられて荒らされたスーパーや家電量販店、中古車販売のショールームが並んでいた。


 トラックから降り立った男達は銃を構えながら実にそつなく静かに周囲に展開する。だが、自分達の敵ではないと高をくくった斥候はその場で堂々とアンソニーからあてがわれた携帯電話でマッキンタイアに報告する。


「志教! 敵の一団がメルビルの交差点に……」


 そこで斥候の報告はそこで途絶えた。トーレスの狙撃で頸から上が見事に無くなったからだ。


「馬鹿かこいつ? 堂々と隠れもせずに連絡してんじゃねぇよ……たく、全員隠れろ、すぐに本隊が来るぞ。リック! 判断は任せる! 十分に引き付けろ」


 その指示と共に展開していたリック達スレイヤーが素早く周囲の雑木林に隠れるとトーレスは後ろにある家電チェーンの建物に向かい走る。


 周辺はちょっとし商店街と高級住宅があるエリアで広い森のような庭に囲まれた伝統的なアメリカの家屋が十分すぎる間隔で立っていた。


 その森から影が染み出るように現れ、こちらを伺っていた。


(なんだ? こいつ等? 今までの奴らと違う)


 今までの敵にいずれも該当しない雰囲気に不気味さと底知れなさを感じたリックは一瞬、トーレスに指示を仰ぐ事を脳裏によぎるがやめておいた。


(たぶんスコープ越しに見ておられる。ならば教えられたように遂行するまで! )


 展開した他のスレイヤーに周囲警戒の合図の後、両サイドのS3に目配せする。


 その直後に起き上がり森の影に向けて3人同時に威嚇発砲し、おびき寄せる……だが、そこからは出てこなかった。代わりに車のドアとマンホール蓋を盾にした男達2人が右横あいの茂みからスピードを付けて飛び出してきた。


 即席の盾に弾丸が弾かれると同時に警戒していた他のS2級6人が反応して応射する。


 そこに後方から銃撃が加わり、そのS2達が驚いて振り向くその額や喉に銃弾や刃が煌めく……恐ろしい程の速さで大きく回り込んだ数名が跳躍して襲って来たのだ。


(不味い! 取り囲まれる!)


 リックは盾で突っ込んできた2人の足を打ち抜き機動力を奪うと全員に合図し、後方の家電量販店の駐車場まで下がる。そこならば視界が広がる為、後方からの襲撃も対応しやすいと判断したからだ。


 その無駄が一切無い見事な動きに森から出て来たマッキンタイアは感心する。


「ほぅ、良い判断だ。動きも良い。今のうちに負傷者を引き上げさせろ」


 付近に献血や血液の加工や保管を行う血液センターがあり、そこを自陣としていたので応急処置には困らなかった。


 しかし、配下に搬送を指示し、傍らの首のない兵士に目をやると直ぐに警告を発する。


「待てっ! 狙撃手が居る! 全員、姿勢を下げろ! 周辺施設の屋上、屋根を確認して最優先で始末しろ!」


 その途端、遠間での殺気を感じたマッキンタイアは身を瞬間的に伏せると頭部があった空間に弾丸が突き刺さる。それで相手が指揮官自分が出てくるのを待っていたのだと気が付く。


(中々の手練れ……お互い無傷には済むまいなぁ……)


 マッキンタイアの背筋に走る恐怖が相手の強さを感じ取ると勝利への渇望へと代わる。それと同時に覇気を漲らせ、配下に指示を飛ばす!


「ロバート、ハインツ! 貴様ら部下を連れてあの建物屋上へ2方向の横合いから取り付け! そこに居る狙撃手を倒せ!」


 弾丸が飛んできた方向の建物を指差し横に居た部下2名に指示すると周辺に隠れる配下を連れて音もなく動き出す。


 そして腰のベルトのホルダーから小型ナイフとガバメントを抜き、建物の影から部下を攻撃するリック達に向かい家電量販店の駐車場へと走り出す。


 それを見つけたS2達が自身の前に有った駐車車両を盾に狙いを定め引き金を引く……それと同時にマッキンタイアが右に避けて走り込んできた。


 弾丸はマッキンタイアがいた空間を連続で射貫きながらその姿を追って流れる。が、反対に銃弾がS2達の喉元に吸い込まれる。


「ぐぐっ」


 苦鳴とともに前のめりで倒れるS2達を見てリックが叫ぶ


「全員、あの男を撃て!」


 その危険性を察知して早急に排除するべくリック達は火力を集中させるが、敵もそれをさせまいと援護が激しくなる。


 そこに轟音と共に断罪隊隊員が一人、また一人と上から落ちて来る!


「志祭!」


 屋上のトーレスに向けてリックが叫ぶ、断罪隊に回り込まれて屋上に踏み込まれたと悟り焦ったが、そこに消火ホースを腰に巻き付けたトーレスが降って来て地上2メートルぐらいで宙ぶらりんになる。


「ぐっ……ダ〇・ハードみたいにはイカンな……」


 ぶら下がったままマクミランをホースに向けて撃って切ると身体を捻って着地する。


「志祭! お怪我は?」


「ねぇよ、1回で見つけられて襲撃されたのは腹立ったが始末したった」


 そう言うなり走り込んでくる断罪隊隊員をその方向を見ずに気配だけで射殺して次弾を装填すると先程の標的マッキンタイアを探す。


 此方に向って全力で攻めて来る断罪隊に対しスレイヤー隊もほぼ互角の戦力でぶつかり合う。しかし、重症者でも血液センターを経由すれば30分程で大抵は復活する断罪隊の方が有利であった。


「志祭! 敵の増援が数人単位ですがひっきりなしに来てます!」


 別のS3が銃撃をしながら報告し、屋上でみた周辺の状況を思い出してトーレスは舌打ちをして答える。


「チッ、やっぱあの建物は血液センターだったか……めんどくせぇな……全員頭部を狙え! 頭部損壊なら復活には手間取る!」


 かつて吸血鬼の復活時間について相棒だったパブロと一度、捕まえた捕虜を拷問がてら実験したことがあり、頭部の破壊が最も時間と血液が掛かった事をレポートとして上に提出したことがあった。それを踏まえての指示で有った。


 射撃特化のS2達が牽制を掛けつつ断罪隊の頭部を狙いだすと少しづつ断罪隊の数が減り出した。


「奴ら、我々の頭部を狙ってきております! それと後方の斥候より此方に向かって来る中隊規模の集団を発見したとの事です」


 マッキンタイアに部下が敵の動きと増援の報告をすると苦々しくも透かさず撤退の指示を出した。


「くっ、全員撤退し血液センターに一旦戻った後、郡立公園を抜けて空港JFKに早急に向かえ!」


 そう言うが早いか全員、煙幕弾を発火させ投げつけると撤退を始める。


「全員全力掃射!! 逃がすな!」


 煙幕に視界を塞がれたトーレスは乱射して相手に手傷を負わせることを選択した。


 そこに車が止まる音と共に複数の兵士達が降り立ち発砲を始める。


「ニールセン! 奴らは?!」


 スマホからヴォイスラヴの怒号が聞こえるとスマホを持ち返答をする。


「はっ! 陛下の部隊が来るのを察知して煙幕焚いて引きましたよ! 向かって左の商業施設辺りに移動しました!」


「バカモン! さっさと追わんか! ついて来い!」


 自身も煙幕で視界が塞がれているのにも関わらず、ヴォイスラヴは移動を開始する。しかし、血液センター辺りまで来て煙幕が切れた頃にはマッキンタイア達は全員消え失せていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る