構築

 カーゴルームからアンソニー達が出るとその前でビビりながら待っていたルブラン達に早速マッキンタイア達の即時解放を指示して更に驚かれる


「えっ?! カイン総司令には……」


「総司令には私から話す。 秘書官、彼らにちゃんとした駐屯所と装備を用意してくれ。ドラガンはキャロルと共に教育係を頼む」


「「畏まりました」」


 秘書とキリチェックに指示を与えると2人は任務遂行の為に駆け出す。


 おっかなびっくりしながらルブラン達は手前の端末で断罪隊の牢を一斉に解除すると鍵の解除のアラームが鳴り響く中、即座にカーゴルームを出て甲板に向かい必死に駆け出していく。


 そこなら反乱が起きても数で抑え込めるし、それに原因となったアンソニーを置いて最初に逃げ出せるからだ。


 しかし、マッキンタイア達は追って来ず、少ない私物を持って堂々とカーゴルームから出てきた


「改めてマッキンタイア志教率いる断罪隊の皆さん、今後ともよろしく」


 その前で一人待っていたアンソニーは握手を求めた


 先頭のマッキンタイアがガシッと握手すると次々に隊員達が希望に満ちた表情で握手すると先頭のマッキンタイアは振り向いて尋ねる。


「それで、敵はどこに?」


「まず、司令部に行こう、今の戦況や状況を把握してほしいからね。その後、駐屯所を今用意しているからそこで仮住まいにしてくれ。道中、隊員が必要とする装備、品物を教えてくれたまえ」


「さしあたっては人数分の服かな……基本、全員着たきりなんでな……」


 マッキンタイアは苦笑しながら告げる。彼は下は軍用ブーツと迷彩ズボンで上半身裸だったのだ


「畏まりました。志教、同一ですが上下の戦闘服をご用意いたします。服と靴のサイズ教えていただきたい」


 いつの間にか戻ってきていた秘書がタブレットを片手に問いかける


「3Lで9ハーフだ」


「了解、では次」


 秘書が次々に奥から出てくる隊員のサイズを聞きまくり、タブレットに入力していく


 そして全員聞き終わると甲板から歓声が起こる


 甲板に出てくると昼間の日差しを目を細めながら浴びてNYの高層ビル群を見る断罪隊の隊員たちとマッキンタイアが居た


 そしてそこに観光バスに分乗したキリチェックとキャロルたちが迎えに来た


「若、申し訳ございません。輸送車両が出払っており観光バスしか用意できませんでした」


「いや、ドラガンそれで正解だ。志教、直ちに分乗して司令部まで行こう」


 謝罪し始めるキリチェックに苦笑しつつ、断罪隊を司令部まで誘導するようにアンソニーは手配する


 ルブラン達を無視して各々バスに乗り込み始めるのを見てアンソニーがSUVに乗り込むと秘書が諫言を始める


「若、いきなり断罪隊を司令中枢に連れて行って大丈夫でしょうか? そこを占拠されたら教会との戦闘どころでは無くなります」


「それは大丈夫、今の彼らに反乱の意思はないよ。交渉も意外ともろかったなというのが実感かな」


 そう嘯くアンソニーに秘書は一種の尊敬に似た凄みを感じた。


 何故なら同行している自分が知ってる、及び感じた範囲では断罪隊とルブラン達の関係や、あの場での決定的なニーズ引き出しが行われた痕跡が見当たらない……


 およその推理と勘で状況を把握して絶妙のタイミングとポイントを突く……恐ろしい腕前だと思った


 そこにスマホから呼び出し音が鳴り響くとアンソニーは失礼、と断りを入れ応対する


「やぁ、兄様、こちらから連絡入れようと思ってたんだけど……ああ、分かってる。けど教会はかなりの戦力を投入しているからあのしょぼい装備では役に立たないと思ったのだよ。それで一旦は私の机下にして置いた。ルブラン君では埒が明かないからね」


 相手はカインらしくルブラン達から直接報告を受け、詰問しに連絡を寄越したらしかった。


「相手は迫撃砲程度でなく榴弾砲も配備……いや、兄様の軍団は要らないと思う、下手に派兵すると西海岸や中西部、南部の執政官から突き上げが来るからね。 うん、それでは危なくなったら連絡入れるよ」


 スマホを通話を切ると溜息を吐いて、すぐにシャーロットにメッセージを打ちながら話す


「カイン総司令からだったよ。我の命令になぜ背いたってね。理詰めの言い訳をして置いたが……まさか断罪隊頂きましたって言ったら流石に怒るだろうしね……先にシャーロットに根回ししておくよ」


 苦笑しながら打ち終わるとメッセージを送るとカインからメッセージが届いた


 ”配備状況は見させて貰った。それでは武器・装備等のデータと担当エリア、その戦果を詳細なレポートにして送ってくれたまえ”


 その文面を見て笑うしかアンソニーには反撃のすべは残されていなかった


 しばらくしてジョン・F・ケネディ国際空港が見えてきた。現在はバートリーの仮設司令部である


 ZDayから数日は米軍が接収しここを拠点にして抵抗していたが圧倒的ともいえるZの集団進入により壊滅したが、バートリーの手により整備されてその施設ごと頂いたのだった


 航空機ハンガーに誘導されるとそこには真新しい戦闘服にブーツが用意されていた


「全員着替えてくれ、志祭は数名の部下を選んで来てくれたまえ、キャロル! 他の隊員達に休憩室で待機してもらってくれ」



 そう指示するとアンソニー達はマッキンタイアと3名の部下を連れて司令部に上がってきた


 司令部には主席防衛官のライバックが苦虫数十匹噛み潰した顔でモニターを見ていたが、アンソニーの来訪を知るとスチャッと振り返り敬礼をする


「アンソニー様、お見えになるのでしたら出迎えましたのに」


「いや、仕事中だろ? 気にしなくていい。こちらは断罪隊のマッキンタイア志祭だ、状況説明を総司令にしたように簡単に頼む」


「ご存じでしたか……恐れ入ります。……それでは説明させていただきます」


 ライバックはバツが悪そうだったが気にせずに説明を始めた。


 もともとライバックはカインの腹心と言える部下で有り、アンソニーのフォロー守護をするために赴任してきた男だったからだ


「現在、スタッテン島を取り巻くように教会が布陣しております。まずスタッテンを落とし安全な橋頭堡を作り、そのうえでロングアイランドに侵攻してくるようです」


「ライバック防衛官、マンハッタンの方はどうなっている?」


 いきなり手を上げたマッキンタイアが尋ねる。夜間戦闘服に着替えより精悍さと吸血鬼らしさを漂わせていた


「現時点で住人や労働者には避難指示を出してあるのとZが大量に居て駆除出来ないが、これにより教会が布陣できないので放置してある」


「むぅ、まずいな マンハッタンの後方の橋を落とせばロングアイランド側にも攻撃部隊が展開できる」


 そこに連続した爆発音とともに轟音が響き渡る……その瞬間にマッキンタイアは言わんこっちゃないと言わんばかりの表情を作る


「何事か!?」


「詳細は分かりかねますがハーレムリバー周辺で複数の黒煙が上がっております」


 ライバックの問いかけに窓側に居た通信要員が指をさす


 管制塔からハーレムリバーに複数の煙が見えたと同時にライバックが怒号する


「至急、手前のワーズ島に中隊を送れ! そこが最前線になる! あと、直ちにロングアイランドのホワイトストーン橋とスロッグネック橋を爆破して封鎖しろ! 急げ!」


「迅速で的確な判断だ」


 先手を打たれたものの完全なリカバーをしたライバックの手腕にマッキンタイアは感服すると当の本人は地図を見ながら問い掛ける


「では志祭、追加の指示を出すならどうするね?」


 それを受けたマッキンタイアは腕組みをして地図を見る……そして答え始める


「まずラガーディア空港を整備して北部域の集積場兼砦としての機能を持たす。ここJFK空港もZを始末して滑走路を使えるようにした方がいい。それと湾内に浮かぶ島に迫撃砲部隊や陸戦部隊で砦を構築しておく。この戦場では海戦が重要なポイントとなるから高速艇や船を扱える兵士を選抜し、ラリタン・ローワー湾や各水路、ロングアイランド湾に配備して水際での殲滅方針にする」


「それでは防衛線が長く広くなる……ミサイル巡洋艦でトマホーク巡航ミサイルで主要な港を爆撃せねばなるまい」


「それはいけない。これ以上本拠の軍を割くわけには行かないさ」


 援軍になぜか難色を示すアンソニーにライバックはスルーすると他に意見はと急かした。


「最後はライカーズ刑務所に人員を割き緊急の場合は中の囚人を出す。連中に暴れて貰ってる間に撤退する」


「ほとんどZになってるそうだが?」


「なら好都合だ」


 そこまで言うとライバックは笑顔で頷きアンソニーが拍手をして褒める


「さすが、志祭、ライバック君、至急そうしてくれ。人員が足りなければ私に言ってくれ」


「了解です。ただ、巡航ミサイルの件は再度お考え下さい。ロングアイランド側だけでもいいので」


「分かった考えておこう……では下に戻って武装を手配しよう、そして駐屯所に行った後は皆で飯でも食おう」


 マッキンタイアを持ち上げつつアンソニーはジワリと手ごたえを感じていた……


 その後ろではカイン総司令に巡航ミサイルを配備した巡洋艦を1隻、こちらに送ってもらう事をライバックは独断で依頼した

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