修行

 前に監禁されてた隔離室で目が覚めたジョシュはモニター越しに関係者を呼ぶ


「おーい、此処からとっとと出せー!」


「おはよう、ジョシュア君」


「おはよう……ってその声はホセのおっちゃんか?」


「正解、ところで今日の君の任務だが……」


 ホセが調子に乗ったところでジョシュが苦笑する


「フレディさんにも同じネタで仕掛けて滑ったよ……ほんで状況は?」


 ミッションインポッシブルのギャグを挟んだことで冷静になったジョシュが尋ねるとドアからホセが出て来る


「流石、拳銃バカの弟子、一瞬で頭切り替えやがる。とりあえず状況と方針だがな……」


 ホセは研究所全員は此処を一旦放棄し、ドックと船に移動し体勢と戦力整備に邁進する事、アニー達は無事保護されたが、負傷した為NYに潜伏し治療を開始した事を説明し、それと……


「お前ら二人は俺らの預かりとなった」


「はぁ? 何でだよ?」


 意にそぐわない扱いに抗議の声を上げる


「これはあの爺さんオーウェン、俺ら、バニさん処が一致した意見を出してる。力や能力は良いもん持ってるがお前らだとね」


「ぐっ……」


 内心気が付いていた欠点を指摘されてはぐうの音も出ない


「だが、俺らは先行してNYに潜り込む事になる。そこでアニーの病状と回復次第と例の弟の所在を掴むまでお前ら俺らがシゴく!」


「ああ、よろしく頼むぜ……」


 激しい抵抗を予想したのにもかかわらず素直に聞くジョシュにホセが警戒する


「な、なんか企んでるだろ?」


「考えてることは強化計画ぐらいだよ? この前の爺さん戦で戦術の選択肢が無さ過ぎたしね……今後単独の相手は無いとは思うけどね。しかも、あれだけの化け物は」


「ああ、ただ、あのクラスの化け物はそこらにウロチョロしてる。シュテのオトンがそれだしな」


「あ……そか」


 他にも俺やゲオルグも居るけどな……と内心嘯きながらホセは休息を勧める


「修行は特濃で短期間になるから、とりあえず今日は飯食って休め」


「うぃーす、とりあえず此処を出して貰っていい? バー行ってビール飲みたい」


「バーか……あいてんのかね……俺も行こう、モーリーの弔い酒だ」


 ドアを開けながらホセはジョシュを連れ添うとバーに向けていそいそと歩き出した。


 途中、格納庫を通ると居残った装備課の皆さんがエメの陣頭指揮の下、各自グループに分かれ何かを作っていた


「おや? 出て来て大丈夫なの?」


 ジョシュを見つけるとエメがパソコンから目を離して声を掛ける


「強化訓練承諾したんで飲みに行って寝て来ます」


「うむ、頑張る様に……ウチらもアンタたちに装備提供するからね」


「ほ? 何を?」


「出来てからのお楽しみ、完成品はロバート・ダウニー・Jrも恐れ入っちゃうわよ?」


「期待してまーす!」


 そう告げるとバレバレな事を突っ込まずにジョシュ達は購買部のある建物に向かう


 その横で真剣な表情で構えるベケットのパンチングミットに小気味いい規則性のある炸裂音を響かせる必死なシュテフィンとその後ろで名伯楽の様な佇まいのオーウェンが居た。


「絶えず相手の攻撃を予想して動く! 顎のガードを意識して! それと着弾インパクトする瞬間に拳を握れ! 威力が増す!」


「はい!」


 返事をするとシュテフィンは基本のワンツーをベケットがランダムに急所の位置や攻撃に繰り出すミットに的確にストレートとフックを当てて押して壁まで到達すると体勢を入れ替えて、最初の場所に戻る。


 ミットを外し、衝撃で痛む手を振りながらベケットが後ろにミットを持って控えるバーニィに交代する


「よし、相棒が来たので休憩、どうだね若いの? 算段は決まったか?」


 ジョシュを見つけたオーウェンが休憩を告げると全員、息を吐きながらも一斉にバーに向かい走り出す


「うぉい! かなりみっちりしごいてるな……どうだい? 若様の強化は?」


「流石、御神祖の御嫡男、武術や武道の呑み込みが早い!」


 嬉々として答えるオーウェンにホセは笑いながら


「このままだと主人公の座も危ういなぁ?」


 ニヤニヤしながらジョシュを弄る


「うるせっ! 訳の分かんない事言ってないで俺らも動き出そう」


「焦るのも無理はないな……我々もパブに行って改善点を上げながら一杯やろう」


 オーウェンはジョシュ達を連れてバーに着く


 此処は凄かったらしいがカウンターとキッチンの方は無傷だった為、限定で営業を始めていた。


 ジョッキにギネスらしき黒ビールをなみなみと注がれた大ジョッキを持ち、3人は喉を鳴らして潤す


「ぷはぁ! 一仕事やった後はこれだぜ!」


「アンちゃん、カラ元気出さなくていいよ。嫁の事が心配なのは分かってるからな……」


 無理やりテンション上げて誤魔化そうとするジョシュにホセは笑って慰める


「お嬢さん方については私が保証する。NY内にある取引先のコネを使い、病院にチーム共々休息中だ」


 オーウェンはにこやかに笑うと再確認の連絡の際のメッセージが気になった


「キリチェックの裏切りを確認した。」


 一読してオーウェンが思った事は


「中身が入れ替わってないか?」


 といった認識なほどキリチェックの誠実さは彼の最大級の美徳とも言えるものだったし、オーウェンが太鼓判押す、義理堅さだった。


 それが事実なら正直言って詰んでるかも知れなかった。 


 仮に洗脳されてるスタッフが居るのであれば、今、本部に居る敏腕エージェントのジル・トレーシーを始めとした営業スタッフや整備等の裏方が蜂起する可能性があったからだ。


 彼女らにはアンソニーと仕事していた期間がある……いつもなら自分が本部に常駐しているので即座に沈黙させてやれるが今は此処だ


(予備役のエド・マッコイは今週は本部付きだから蜂起した時、一番最初に狙われる……だが、彼に運が有れば蜂起を鎮圧してくれるだろう……心配するだけ無駄だ! 今は目の前にある事案を仕上げよう)


 壊滅の腹も括ったオーウェンはジョシュの強化案を考えることにした


 やきもきしながらも連絡や移動手段を待つより、精神衛生上良い、


 オーウェンはホセと共にジョシュの強化策を練って行く


「アンちゃんは経験不足っつーか、訓練所から上がって来た頭でっかちなんだよな……訓練所でかなり実戦的な事をやってもリアルな戦闘には程遠い……」


「そうだろうな……今まで生き残って来れたけど全部辛勝だったからなぁ」


 しみじみと今までの戦いを振り返り、ジョシュは肝を冷やした……


「では、初戦からどうしたらより良くなるか? とかの反省はやって居るか?」


「お師匠には駄目だしスーパーバイジング貰ってるよ。2戦目のパブロ戦の評価なんかボロクソだった」


「お師匠とは?」


「聞いた事があるかもしれんが、数十年前の教会の最強戦力の一人だ。単独でバートリーの真祖の居城にブッ込んだり、先々代の強皇と対立ケンカしたり、勇猛と無謀を異次元ほどはき違えた拳銃バカがアンちゃんのお師匠様なんだよ」


 オーウェンの質問にホセが弄り気味に答える


「ほぅ? ならば賞金首になってないのかね? バートリーの居城に手を掛ければ大概そうなるが?」


「どうだろ?……ちっと待ってろ……うは、まだ有るわ!」


 スマホを弄りサイトで確認したホセはゲラゲラと笑いながら指を差す


 そこには


 ジョニー・カスティーヨ、【デッドオアアライブ生死を問わず】 $1billion 男性 拳銃使い、北米エリアに潜伏中


 その文面と若かりし頃のオールバックでライフルを構えるジョニーことキャッスルが不満そうな顔で周囲を威圧する写真が掲載されていた


「ほぅ? 彼か? 一度、メキシコで会って居るな……中々の好漢だったよ」


「「マジで?!」」


 オーウェンの呟きに思わずビールを吹き出す


「新興宗教の教祖が儀式に必要とかで、ミャンマー産のピジョンブラッド級のスタールビーを秘蔵するアフリカの独裁者から奪取の依頼を受けて成功したのだが、” 報酬はお布施として預かる ”と幹部の僧侶がふざけた事を抜かすから、私が直々に集金しに行ったら襲撃中に鉢合わせしたのだよ」


「へぇ……世間って狭いね……」


 しみじみとジョシュがつぶやく


「ルビーと違約金お宝根こそぎを分捕り、生贄の子供達や食料人間を救出中に遭遇して……これは死合うか? と思ったら…… ” アンタ部外者だろう? 子供達を連れて逃げてくんない? 後は俺が始末しとくからよ ”そう言って笑顔で迎撃に来た兵隊に立ち向かって行く……いや、実に粋な男だったよ」


「ちっ、一戦交えて負ければスッキリすんのによー……あの野郎は……」


 ホセが憎まれ口を叩くがその顔には微笑みが浮かんでいたが、オーウェンは苦笑して何かに気が付いた


「いかん、ジョシュの強化計画だった……兎も角、実戦で引き出しを少しでも増やすのと例の戦闘薬の解析と装備の充実に掛っている。ならば、私やJP隊の皆でジョシュと殺し合うのが手っ取り早い」


「はい? そんなん俺、死亡確定だろがぁ!」


 オーウェンの容赦のない提案にジョシュが慌てる


「何、戦闘薬入ってるからギリ死ねないってばよー」


「ギリ死ねないって文法間違ってるから! それと、ばよーってどこぞの忍者か!」


 ホセのボケに突っ込みながらも流される感覚がするジョシュにオーウェンが助け舟を出す


「まぁ、本気で殺す気でも私ら原種はそう簡単に倒せん、遠慮せずに来い。JP隊の相手の時は私が味方でいる。派手に暴れてもいいぞ」


「分かったよ……ひでぇ話だが、やるしかねぇか」


 諦めながらもジョシュが前を向くとその姿勢が気に障ったのかホセが絡みだす


「お? アンちゃん、俺らとの死闘をヤル気満々じゃんよ。どうした? 俺らが手を抜くと思ってる?」


「いや、逆に死ぬ気でやらせて貰うよ……そうでなければ意味がない」


「流石、ジョニーの弟子……その無謀な挑戦を受けて立つぜ」


「宜しくお願い致します。ウチの兄貴分に言われてた言葉があるんだ。” 一番自分が欲しいもの、必要なものはその時の一番厳しい条件の選択肢に必ず有る ”とね。ならばこの死闘訓練に俺にとっての大事なモノ、必要な事があるんだろうと思う。」


「ほほう、これは勇猛な挑戦となったぞ、ホセ! こんなに人を教えて育てるのが楽しいとは思わなんだ……」


「意外と楽しいぜ、教師志望のバカな奴が後を絶たない理由が良く分かる。その後、薄給や問題児抱えて鬱になるのもな」


 オーウェンの驚きに皮肉を交えたジョークでホセが返す


「あ、そうなるか……いやはや、タメになる」


 その返しにミンホを始めとした歴代の裏切り者、不適格者が脳裏に浮かんだ


「まぁ、明日からは地獄だな……」


 ジョシュはホセとオーウェンのやり取りを聞きながらビールをあおった。

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