葬列

 研究所周辺に集まって来たZを再度音響兵器を使ってとりあえず排除し、ゴミ処理場の裏にある偽の墓場で戦死者の処理と葬儀を行う事になった


 保安部員に頼んで運ばれて来たケーニッヒの遺体を見ながらマローンは最後までまともに手に負えなかった終生の強敵に敬意を表していた。


 三角巾で負傷した肩を釣り、荼毘に伏す為に片手で薪をくべて行く……


(結局、最後までお前さんには勝てなかったよ……)


 最後、催涙ガスと火災による熱風で照準が狂うのを願い、自分を囮にして身をさらし、アニーの狙撃に賭けた……お陰で命はあったが狙撃手としての生命は完全に断たれた。


 右腕の上腕骨骨頭の粉砕骨折と上腕二頭筋が完全に断たれていた


 血液の応急処置で辛うじてくっ付いてはいるが、繊細で力強い動きには耐え切れない……特に銃の発砲の衝撃には……


 あらから組み終わると重油と灯油をセットし、葉巻を咥えながら周囲の風景を見る


 となりの丘には保安部員により教会の兵士達の遺体が並べられ、周囲に重油と薪がくべられていた。


 そのほとんどがZに成ったらしく、頭部が無いものが多かった。


 そのためドッグタグと切り離された遺体が多く、身元が分からない為、少し乱暴だがまとめて荼毘に付し、全員の名前が入ったモニュメントを建て墓標代わりにする予定だと聞いていた。


 しばらくして横にゆっくりと棒とブランケットで作られた簡易担架で前にマーカス、後ろにJP、横に顔色が極めて悪いエリックやホセ達に付き添われ、モーリーが運ばれて来た。


「隣、空いてるか?」


「ああ、だが、埋葬するのはゼラルゼスのメンバーだが良いかい?」


「構わんよ、死んだら敵も味方もないからな……」


 マローンに問われたマーカスが答えると少し離れた所にモーリーが降ろされるとJP隊全員で薪を無言でくべだした。


 よほど体調が悪いのかエリックがエディに支えられながら細い薪を一本一本組んでいく……


 程なくして組み終わると向こうから神父の服装で聖書を片手のベケットとバーニィが歩いてくる


「なんだ? きょうびの傭兵は葬儀までやってくれるのか? 手回し良すぎだぜ?」


 ホセが苦笑がてらに弄るとベケットも苦笑して言い返して来た


「昔、駆け出しの頃に世話になった隊長にさ……戦場で死んだ時に迷い出てこない様に祈りの言葉を覚えて送ってくれと頼まれて……カトリックの教会で任務の間にボランティアで手伝ってるうちに一通りの事がやれるようになっちまったのさ……俺、プロテスタントなのにな……」


 二人が顔を突き合わせて嫌味の様に一瞬ニヤリとする


「エメからの願いでもある。せめてでも祈りの言葉で送ってやって欲しいとのことだ」


バーニィの説明で納得したマーカスは頷き、エリックも頷くと気を付けをしてアメリカ国旗を掛ける


「お心遣い感謝する……全員整列! …………我らが戦友、我らの友、モーリーに敬礼」


 そして簡易的だがベケットの祈りの結びの言葉が紡がれる


「慈しみ深い神である父よ、貴方が使わされた一人子ジーザスを信じ、永遠の命の希望のうちに人生の旅路を終えたモーリーを、貴方の御手に委ねます。


 私達から離れてゆくこの兄弟の重荷を全て取り去り、天に備えられた住家に導き、聖人の集いに加えてください。


 別離の悲しみのうちにある私達も、主、キリストが約束された復活の希望に支えられ、貴方のもとに召された兄弟とともに、永遠の喜びを分かち合うことが出来ますように。


 私達の主ジーザス・クライストによって。」


 そこで終わるとぼそりと一同呟く


「「エイメン」」


 そしてマーカスにより火が着けられてモーリーが一瞬で炎に包まれる


(吸血鬼にエイメンカトリックかよ……まぁ、下手くそな賛美歌歌わされるよりマシだが……)


 敬礼で立ち上る炎を見ながらホセは内心毒吐いた


「代理、こっちもやってくんねぇか? 勝てなかったライバルなんだが敬意をもって送りたい」


 マローンの依頼にベケットとバーニィが苦笑しつつ向かう


 そして所々で炎が上がり、各々祈りの言葉で送って行く


 完全に灰になるまでには時間がかかる。手持無沙汰なホセはふと思いつく


「なぁ、吸血鬼な俺らって、死んだらどこに行くんかねぇ? やっぱ地獄?」


 隣にいたメンバーの中で唯一、詳しそうなトーマスにホセが尋ねる


「さてなぁ……例えば俺の出身、ネイティヴアメリカンは死とはこの世での生が終わり、行いが良ければグレートスピリッツと一つになり、出来なければ人として再スタートすると言われてる」


「輪廻転生ってやつか?」


「近いものだろうな……仏教は六道に輪廻転生しながら解脱して極楽に行けると説いている。グレートスピリッツが極楽に相当するものなら分からんでもない」


 地面に腰かけて燃え盛る炎を見つめながらトーマスは説明する


「ならモーリーの野郎も偉大な魂になってると良いな……」


 天に向かって囂々と燃え盛る炎に送られながら戦士達が天に帰って行った……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 NY、バートリー本社ビルに到着したゼラルゼスの三人は出迎えたキリチェックを見て驚く……


 数分前に着陸許可と救急車の要請をしたが、それを読んだかのように数人の兵士を連れて出迎えていた。


「このシチュエーション……不味くないかい?」


 外を見た副操縦席に座るリカルドが操縦席のグレゴリーに振る。幾度も裏切りや待ち伏せの修羅場を潜って来た男達の嗅覚が危険を察知する


「うーん……いくら何でもドラガンが裏切るとは……」


 首を振りながらグレゴリーが否定をするが、即座にインカムを切り替え、後方で人質を見張っていたスタンに声を掛ける


「何かヤバ気な雰囲気なんだが……」


「オーケー! オーケー! 何でも良いぜ! リカルド交替してくれ、くれぐれも御婦人方ニ粗相のないように見張ってくれ」


 もう自棄になり何でも来いと開き直ったスタンの要請を受けたリカルドが見張りになると、椅子にシートベルトと手錠で拘束された少し呼吸の早いアニーとジュリアにキッと睨まれるが、どこ吹く風で対面に座るとニコニコとしながらコーラの缶を開ける。女性に敵意をもって睨まれるなんて昔から貧民窟ファベーラではよくある事だからだ。


 スタンは副操縦席に座ると正面のヘリポートにいるキリチェックに呼びかける


「よぉ、ドラガン、派手にボコられちまったぜ……」


「そうらしいね、若も嘆いておられたよ……」


「出迎えにしてえらく速いな……武装兵士も居る」


 その周囲を確認し、伏せてある兵士達を視認して直球で尋ねる。仮に攻撃に出られてもグレゴリーの腕なら辛うじてかわせると踏んだからだ


「ああ、護衛が必要と思ってね……どうした? 降りてこないのかい?」


 和やかな会話だがお互いにひりひりとした警戒感を感じていた


 だが、それが決定打になりスタンが動く


 グレゴリーに合図し、急に進路を南に取り移動する


「おい、スタン、何処に行くんだ?」


「腹へったから、フィラデルフィア名物のチーズステーキ食ってくる……お前さんも要るかい?」


 その人を食った態度にキリチェックは苦笑しつつ


「若が弁明をお待ちかねなんだが……」


「そか、ならば報酬は至急返金する。ウチの完敗だと伝えてくれい。敗者にそれ弁明を求めたら全部、しょーもない言い訳にしかならん……分かるだろ? 


「……了解」


 間を置いた返事を聞き、後方からの銃撃やミサイルに警戒しながらその場を急速に離れるとグレゴリーは溜息を吐く


「マジでフィラデルフィアまで行くって言わんだろうな? ガス欠まっしぐらだぜ?」


「勿論、行き先はガスが補給できる空港か軍施設で良い。任せるよ」


「しかし、ドラガンは何をしたかったのだろう……あの律儀な優しい男が……」


「俺らの始末だろうな……ま、とりあえず着地しよう……」


 横のケース入れに差してあるタブレットを開くと本拠地から経由でオーウェンからのメッセージが届いていたのを見つける


 一読して納得する……向こうでの相手の動きと今のキリチェックの行動も……とりあえず人質の身柄は確保出来たのは良かった


「お? 海軍の武器集積所がある。そこに行こう。 それと少し話しておこう……」


 状況と経緯を説明しタブレットで位置を示し、グレゴリーが針路を変えるとスタンは後ろに行き、リカルドと二人に説明を始めた


「とりあえずは納得したけど、今すぐアニーを医者に診せて手当しないと!」


 撃たれ、弾丸は防弾アーマーで食い止められたが運動エネルギーまでは相殺できず、内臓や骨格に何らかのダメージを受けたのは明らかがった


「了解だ、ヘリを置いて陸路でNYに入って病院に診せる」


「はぁ? バカなの? 早々あのコロニーに入れると思ってんの?」


「ウチは銃器等の裏の仕入れの関係上、そこらじゅうで商談もやっててね。ニューヨーク程の大都市なら複数のルートを持ってるのさ」


 腕を組み柳眉を逆立てるジュリアを宥めながらスタンは余裕綽々で調達担当のジル・トレーシーに連絡し、集積所に到着する頃にはキリチェックも把握できない秘密裏に侵入出来るルートで病院とアジトを手配してもらった


が直ぐに兵員輸送車は見つかった


「さて……お嬢さん、もう少し頑張ってくれよ。もう一人のお嬢さんもご協力お願いしますヨ~」


 ボディアーマーに防弾材を重ねて入れて副木代わりに固定すると応急キットの痛み止めモルヒネを打ち小康状態のアニーと鬼女化しているジュリアに優しく声を掛けスタン達は一路NYに向かって車を飛ばしていった


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