装備

 ボロボロの研究所に戦闘ヘリ・ヴァイパーで到着したエメはあまりの破壊っぷりに嘆息しっぱなしだった


「ナニコレ……酷過ぎる……」


 研究所施設を完全にぶち壊すつもりの作戦が半壊どころか中途半端過ぎて復旧に手間暇掛かる状態で戻って来ては新築にする計画も見直しになることは必至だった。


「帰りなさい、エメ……被害を出来るだけ無くそうと努力はしてみましたが……」


 ヘリポートに出迎えたフレディ達が申し訳なさげに謝罪をするも、エメは最後まで言わせなかった


「尽力に感謝します。ボガード主任、貴方やジュリア達、全職員の命懸けの奮戦がなければ私達は全滅していたわ。避難船でバートリー本部と折衝中のゲオ……ランバート所長に成り代わり感謝と伝えます……よく頑張ったわね」


 フレディの腕を取り握手すると後ろで保安部や研究員達から抜け出したベケットが顔を出す


「お帰んなさい。 俺らが付いてて申し訳ねぇっす。所長は例の査察官の話ですかぃ?」


 淡々と喋るベケットにエメは苦笑しながら頷き


「あのCEO、ここの買収仕掛けた張本人なのよ。ちなみにそのチームに抜擢され実績を上げたのが新米事務官のエリクソン・ブース元筆頭秘書官……ゆえに二人とも天敵なの……ゲオの」


「そんな相手が居るんですかぃ?! あの無計画で自由奔放の化身に!」


「ゲオ、ええかっこしいだからねぇ……ヨイショが達人級の人たらしに掛かると弱いのよ」


 エメは敢えてCEOに下出に出たと言っていたゲオルグのその憔悴っぷりに苦笑せざるを終えなかった


「そのお陰で臨時査察官拝命ですよね?」


 ベケットがうずうずしながら尋ねる。


 さんざんやられて来たが今度はこちらのターンと言わんばかりに腕を撫すとエメが渋い顔で告げる


「その事なんだけど……JP隊長達呼んでくれる? それと会議室は使える?」


 フレディとベケットは顔を見合わせるとエメを応接室に案内した。


 数分後呼び出された、JP達と保安部は被害状況とオーウェンからの情報を上げる


「へぇ、アタシってそんなに謎の重要人物だったんだ……もちっと顔を売っとけばよかったな……」


 軽口を叩きながら後半は後悔がにじむエメにベケットが最終の報告をする


「お頭とアニーはオーウェン翁に手を回して頂けました……ご安心を」


「そのオーウェンさんはどこに? 会ってお礼と今後をお話しないと」


 心持、安堵したような顔のエメにホセが苦笑しながら告げる


「爺さんとはシュテを猛烈にシゴキ上げてるよ。訓練を受けたジョシュは兎も角、あの馬力と耐久性にセンスを生かさないのはナンセンスだし、本人もヤル気だ。後で案内するよ」


「じーさん、ばーさんって日本の桃太郎童話の話じゃないんだけど……まぁいいわ、ジョシュは? 即座に飛び出して行きそうだけど?」


「ジョシュは地下の観察室で治療の為に拘束中……まぁ、それでも3~4日で出れそうな状況だそうで……例の薬ってそんなにすごいのか? そんなん出回ったら商売あがったりだぜ」


 今度はマーカスが私情を挟みながら報告する。


「そう、後で専用装備見繕うから出しちゃ駄目と言っておいて、あの薬、もう一度副作用や人体に障害について精査しておいてね」


 フレディの後ろに居た研究員がそれを受けて立ち上がり部屋を出ていく


「それでエメ、我々を読んだ理由をお聞かせ願いたい」


 JPが頃合いを見計らいエメに理由を尋ねるとエメはにこりとした後


「隊長、この後はどうする? 私達と共にバートリーに組み込まれるか、単独で動くか?」


 直球で尋ねて来た。戦力が乏しい状況でJP隊は今後の活動に必須だった。


「単独でそちらと情報共有と連動が希望だが?」


「あ、やっぱそう来ちゃう? なら2つの案件を共同作戦にして欲しいの、それ以外は同じ条件で良いよ」


「2つ?」


 引き止められると思っていたホセやJPは意外な展開で調子が狂う


「ええ、まず、現在確保中のエリクソン・ブースが持つアンソニーの不正の案件データの引き渡し、これが無いと私達に錦の御旗査察官の勅令は渡せないって話なの」


「なるほど、噂のジェルマンCEOは超絶なやり手だが、直参の家来や直接の親族がひしめく眷族の中では外様……逆にアンソニーは若手と言えども真祖の内孫……処罰するにしてもそれなりの理由が必要か……」


「それも不正蓄財程度では駄目、親族級の暗殺加担、財閥の存亡にかかわる裏切り行為級の重篤な犯罪行為のみ」


 涼し気にパイロットスーツのチャックを降ろし、白いTシャツでアイスティーを飲みながらエメは厳しい条件を上げていく


「ならば早速NYに潜入しないと……それと武器も補給したいしな」


 マーカスが窓から見える車両をみる。乗って来たトラックに積んだ兵器は殆どは消費し、潜入に向けた武装が必要になってくるはずだった


「そこで案件2、その際にジョシュ達を連れて潜入してほしいの」


「いきなり難易度が急上昇して厳しいのだが?」


 エメの依頼にJPがクレームを上げる。潜入程度なら自分達で余裕で出来るが、そこに素人が参加すると不慮の事態が起こる


「いきなり野放しで暴れられるとが警備が厳しくなるけど?」


「むぅ……」


 指摘を受け渋い顔のホセが腕を組み唸る


「それに、私達の陣営で顔や経歴がバレていないのはあの2人と強盗団だけなのよ。パシリや偽装にも使えるわよ?」


「強盗団とあいつ等ならあいつらの方が機転が利く分だけマシか……そういやウチのドライバーは? 墜落したと報告があったが?」


 マーカスが思い出したように呟くとフレディに尋ねる


「エディ君は肩の骨折で復帰に1週間程度、それとモーリーは……残念だが先程息を引き取ったよ……心臓にローターの破片を貰って応急処置が間に合わなかったそうだ」


 それを聞いたマーカスの表情が凍った……


「なんだって?……嘘だろおい!」


「マジな話だ、エディ君が爆発炎上するヘリから救出して自分の分の血液まで出して手当てしたが……うちに備蓄がもう少しあればな……」


 フレディが残念そうに告げるとマーカスはうっすらと笑みを浮かべ


「エリックと会いに行ってくる……ここで眠らせてやって良いかい?」


「ええ、受け入れさせてもらうわ」


 エメも残念そうに答えるとエリックがJPに向かい


「それじゃ、顔を見に行ってくる」


「待てよ、俺達も行く、戦友を見送るのに遠慮はない。エメ、今欠員が出来たのでパシリとして2名面倒見る。命令は絶対厳守、数日間は強化訓練だ。それが飲めねば承認しない」


 JPは厳しい表情でエメに応えるとエメも


「了解したわ、本人たちに伝えてOKなら連れてったげて」


 JPは背中越しにサムズアップして答えるとホセ達を連れてモーリーの処に向かった……




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