参戦

 ベケット率いる保安部は居住エリア外縁の土塁に整列し、罠を仕掛けに行った仲間達を準備しがてら待っていた


「おい、ベケット! ここ抜かれたらお頭ジュリアがお出ましなんだって?」


 土塁に凭れながら、不愛想なしかめっ面で予備のグレネードランチャーに榴弾を装填するベケットに、頭部に止血用のバンダナを巻いた北欧系が尋ねてくる


「あぁ、止めても無駄だろうし、戦場に来さしたらバーニィ義理の親父がガチ切れすっから何としてもぶっ潰すぞ」


「あぁ、そうだな、黒マッチョにも言っとくよ……」


 ベケットのしけた面の理由が分かり、おなじく渋い表情で北欧系がライフルを肩に掛けて持ち場に戻りかけるとそこに斥候が戻って来る


「報告! 対人地雷五ヶ所設置しました! 敵先鋒は残り百メーター程まで接近中」


 報告が言い終わると工兵チームが戻って来た


「依頼通りのクレイモアを五十メートル地点にⅤの字に仕掛けて来たぜ……ボタン一つで一斉連動する」


 工兵の一人がリモコンのスイッチをベケットに投げて渡す


「あんがとよ」


「しかし、何で先頭だけ見つけやすい所にやるかねぇ」


 無愛想に感謝をするベケットに工兵が疑問をぶつける


「ウチで爆弾処理や地雷除去するのは誰だ?」


「そりゃ、ウチらだが……」


「そいつらを先に潰す、万が一の脱出用地下通路の入り口が探せない様にな」


 そう言いながらベケットは愛銃である狙撃ライフルM110 SASSを構えスコープで相手の様子をうかがう


 本来はバーニィが戦闘隊長でベケットこそ副長で参謀でもあった……


 こういった作戦を考えるのはベケット、実行はバーニィ達の役割だった


 だが、頼れるリーダーは今頃イライラしながらベットの上だろう


(自分がチームを引っ張るしかない)


 いつもの陽気で世話焼きの代理ではなく、まだここに来る前の傭兵時代に戻っていた


「おい、ベケット」


「んだよ」


 北欧系が再び声を掛けるとウザったそうにベケットが振り向き答える


「そう背負い込むな、切れられる時は俺らも一緒だ」


 そう言ってベケットに黒革のフィンガーレスグローブの拳を突き出す


「あぁ、きっちりこなしてバーニィにビール奢らせようぜ」


 ベケットは苦笑しつつ、そのゴツイ拳ダコのある拳に自分の拳を当てる


「ああ、一人ワンピッチャーで打ち上げだな」


 そう言い残して北欧系は持ち場に帰っていった


(戦闘直前に優雅に油売ってんじゃないよ! まったく……)


 苦笑しつつ突っ込みいれるとベケットは正面を見つめて無線のボタンを握ると無造作に押す


 ――――――ズガァァァァァァン――――――――


 クレイモアを見つけ排除しようとした敵もそれを見てライフルを握りしめる味方も同時に爆発で驚く


「なっ? 副長代理! いきなり……」


「全員発砲! 相手を生きて返すな!」


 隣にいた部員の咎める様な問いかけも途中でへし折り、ベケットが号令をかける


 完全に足が止まり爆発に備える前にクレイモアが起動し、展開中の敵先鋒に大ダメージを与え、後続にもきっちりと手傷を負わせる


 そしてベケットの両翼に展開する北欧と黒マッチョが部下の手綱を引く、相手の中堅が突貫してからが出番だからだ


 長年の仲間だから言わなくても判るバーニィお得意の作戦である引き込みの応用だ、少人数バーニィとベケットが囮になり中央で頑張ると敵が必死こいて迫ってくる……それを両翼、もしくは脇に伏せているたちが仲間達が十分に引き込んだ上で攻撃する


 まず地雷で敵の注意を戦意を煽り、敵の本隊か主力を引き寄せて両翼と潰す……一見、簡単に見えるが敵は銃弾の中、地雷を探しつつ接近せねばならず、時間と労力を使う


 そして本隊が力押しに来るまでに誰ぞ援軍が来るだろうし、本隊が来るなら自分達でそのまま潰す


 そこまで考えて策を練る……そして、地雷除去の為投げてくる手榴弾を悉く空中で爆破させる


 ここ一番に使う愛銃は良くベケットの信頼に応えてくれる


 M110 SASSは元々中距離用で屈指の精度を誇るSR-25でも傑作と言われるSEALs仕様Mk.11を強化発展させたもので母体になったSR-25の利点、M16主力銃器とのパーツの60%の互換性に7.62x51mm NATO弾はそのままで、連射性能を上げ、射撃精度は0.75MOA(100ヤードの距離で0.75インチの円内に集弾)という、半自動式小銃としては極めて優秀な精度を持つ


 ベケットの愛銃はさらにパーツ精度と信頼性を高め、銃身は冷間鍛造でされたサプレッサーまで考慮された精密仕様でストックが樫の木で作られる等、ベケットや仲間ボーイズの命を何度も救った手塩カスタムに金を掛けた銃でもある


 その高い精度の死神が今,その鎌をくるくるゆっくりと回しながら振りかざしていた


 迫りくる手榴弾や迫撃砲の榴弾を悉く爆破させる技術はバーニィでさえ ” 隣でボヤいててよかった ” とボケさせるほど名人芸な技術だった


 その技術にカペロが地団太を踏む


「何をやっておる! 全然進まんではないか!」


 部下を叱責すると自分も前線に出る、相手は寡兵で防衛線を守っていた……


「よし、本隊で押しつぶせ! 物量で攻め落とすぞ!」


 号令をかけ部下に進軍を指示し、カペロ自身も手榴弾を持ち、複数の部下と共に援護として投げつける


 流石に処理できずに中央に穴が開く


「よし、前面に空間ができたぞ! 全員突貫だ!」


 防護用盾を翳しながらカペロの本隊がベケット達に肉薄する


 そして左右から北欧と黒マッチョの班が飛び出してくる


「うぉ、ちょい多くねぇか? とりあえずお前ら撃て撃て!」


 黒マッチョが少し想定外と思いながら銃撃を浴びせるが、多少怯むものの反撃はしっかり倍返しだった


「保安部全員でお相手するクラスだったかなーっとぉ」


 ライフルを撃ち返しながら北欧系がぼやく


 ベケットが階級を意識しながら狙撃を開始するが物量に押されて意味をなさない


(ちぃ!)


 舌打ちするが必死に狙い引き金を引き続ける


 一瞬、土塁に食い込む銃弾が少なくなる


「よう、副長代理、ちょいとストレス発散に来たぜ」


 その声の主に驚愕しつつ上を見る


 そこにはほぼ身長と同じ長さの両刃の長剣を盾代わりにして立つゲオルグが居た


 白衣に黒のベストに白いカッターシャツと黒のスラックス……それに両手剣……場違い感が満載である


「え、その、あの所長、そこ危ないっすよ?」


 さすがに唖然としてベケットが止める


「なーに、気にすんな、代理ベケットよ、援護たのむわ、ウチの部下達を滅ぼしてくれたボケどもを大量に地獄へ送らんと割が合わん」


 銃弾がゲオルグに雨あられの様に襲い掛かるが剣を左右に振ってはじき返していた


「何だ! あの白衣の男は……我々を舐めているのか?!」


 カペロが激高して白衣のゲオルグに対して圧力を掛けろと指示するが、まだ気が付いていなかった自分達が悪夢の中に入っていたことを……


「保安部、俺を撃つなよ! 撃ったらエメの手料理食わすからな!」


 そう叫ぶと両手剣を振り被りながら一直線に敵陣に向かっていく


「気でも触れたか……一斉射撃! …発射ファイア!」


 カペロの号令の下、一瞬、 間を置いて引き金が引かれる


 撃鉄が落ちた瞬間、ゲオルグは瞬間移動したかの様なサイドステップで進む勢いをそのままで回避する


「な!?」


「な!? じゃねぇ! 逝き腐れぇ! この糞ボケどもがぁ!」


 最前線のライフルを連射する兵士が確かに至近距離で2~3発は手応えがあったのに倒れないゲオルグに驚く


 そのゲオルグに至近距離まで踏み込まれて剣を振り下ろされ、右肩口から袈裟斬りで切り裂さかれる


 鮮血が噴き出し、周りを赤く染める


「「撃て撃て撃て!」」


「るせぇ!」


 隣にいた兵士がその斬撃をみて恐慌状態に陥り、周りにいた仲間に必死に叫ぶが、その喉元に切っ先を突き刺し永遠に黙らせる


 周囲から銃撃を与えられみるみるゲオルグの衣服が穴と鮮血に染まっていくが一向に倒れる気配がない……銃創が出血し、穴が穿たれた次の瞬間には何事もなかったの様に治っていく


 そして両手剣を旋風を巻き上げながら振るうその姿にベケットが以前、バーニィから聞かされた所長ゲオルグの異名を思い出した


「深紅の竜巻」


 血煙と血飛沫を纏った刀身が理不尽なほど縦横無尽に動き、旋回して、兵士達を襲い色彩を染め上げていく


 ……より鮮やかな深紅に……


「ベケット!」


 インカムから聞こえる黒マッチョのダミ声で現実に引き戻される


「何だ? なんかあったか?」


「なんだじゃねぇよ! 何で所長が暴れてんだよ!」


 いきなり出現して兵士達を血祭りに挙げているゲオルグに困惑していた


「知らねぇよ! とりあえず所長に当てんなよ、エメのフルコースが待ってるらしい」


「マジか! 御真祖でも悶絶する程ゲロまずいって噂のアレか!」


 慌てて黒マッチョが部下に当てない様に指示を出す……


 すると北欧系が落ち込んだ声で告白してくる


「早く言えよ……さっき尻に当てて、所長と目線がしっかりあっちまったじゃねぇか……」


 そして無数の銃声が響き、血風と硝煙が充満する戦場なのに3人の間に微妙な空気が漂い出した









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