前哨

 バリケードの後ろに止めてあるトラックの通信機を使い散々、暴露話でトーレスを弄ったジョシュは首筋にチリチリとした灼熱感の様な殺気を感じてマイクを放り出してその場に伏せた


「どした?」


 隣で周囲を窺って居たシュテフィンが続いてしゃがむ


「感じただけだが……わかりやすく言うと殺気を感じた……」


「見つかったか?」


「分からん……」


 ジョシュが必死に気配を探る……その隣でシュテフィンがインカムでマローンに呼びかける


「おおん? 若、どうされた?」


「マローンさん、そこから俺らの周辺で狙撃体制取ってる奴居ない?」


 狙撃チームの観測手をやっているマローンが屋上でその周囲を確認する


「そんな奴がいたら……って……おー、いたわ、即其処から匍匐して逃げて」


 その途端、二人は前に向かって飛ぶと同時にトラックが狙撃されエンジンが火を噴く


「うぉ! 激怒パイセン・トレ公襲来かッ!」


 起き上がるとM107CQを右脇に差し入れ、トリガーは右手で左手でレバーを持ち振り向き様に狙撃方向にぶっ放す


 その瞬間に木の陰に隠れる姿があった


「パーイセーン、ご出世おめっとうさーん、負け戦だったのにどんな手口使ったのン?」


「うるせぇ、クソジョシュア、今日こそてめぇのド頭弾いてくれる!」


 やはり隠れた影はトーレスだった、次弾を装填しタイミングを計り動こうとしたとき轟音と共に目の前の木が裂ける


「とっとと降服しろ、お前は完全に包囲されている」


 借りものだがマクミランは的確に的を射抜き、破壊する、しかしトーレスは次弾装填の間に別の巨木に移る


「はぁ? てめぇはバカか! 包囲されてんのはてめぇらだ! それとジョシュアの次はお前だ! パブロの仇取らせてもらう!」


 シュテフィンの天然ボケに突っ込み入れながらも次の目標に予告する


「おーやだやだ、パイセン、変な所で律儀だから~」


 ジョシュが茶化すもこれ以上の会話はするだけ無駄だった


 シュテフィンを置いて二人が同時に同じ方向へ駆け出すと先制攻撃したのはジョシュの方だった


 M107を片手で乱射しながら正確性はともかく、連射できるのは例のドーピングのおかげらしく肩を挫くこともなくジョシュはトーレスと互角以上に交戦する


 今までHK417だったのがバレットの亜種M107になり、その物凄い反動を片手で制御し連射してくるジュシュに少し驚く


(あいつ、こんなに強かったか?……こんなもんに当たったらスレイヤー用のアーマーでもぶち抜かれるぜ)


 まともに撃ち合う愚を避けて木の裏に隠れスモーク弾を出して視界を遮ると場所を変えて狙撃に移行する


 それを見てジョシュ達も土塁に隠れて移動するとシュテフィンが苦笑しながら話しかける


「なぁ、ジュシュ」


「なんだよ?」


「狙撃戦ってテーブルゲームの海戦ゲームに似てないか?」


「ああ、まぁな」


 確かに運や勘だけではなく、相手の動きや痕跡で論理的に位置を割り出したり、作戦と意図を読む事が勝利につながる点は似ている……


 だが、ゲームと違い失うのは駒ではなく己が命……


 そして……


「おーおー、折角出て来たのにまた潜らせちゃってぇ」


 屋上で見ていたマローンがペリスコープを見ながらインカム越しに弄りだす


「わりぃね、やっぱ片手で連射は威嚇にもならんかったわ」


「仮にもバレットシリーズの反動を片手で凌ごうと思うこと自体がダメダメだぁな」


 そう駄目だししつつマローンは腕の関節が良く壊れんかったなと驚愕していた


「そんじゃ、観測手マシマシでよろしく~」


 シュテフィンが緩くお願いをする


 ゲームになくて今、此処に有るもの……仲間たちの目やアドバイス、援護がある


 先の狙撃が効いたのかスレイヤー達の動きが無かったゆえに狙撃チーム総動員でトーレスを探す


「居たら狙撃、良そうな場所も狙撃、ただし撃ったら即移動な、成功しても失敗してもな」


 雑だがマローンからの指示が飛ぶ、狙撃手としてはこの面子は急造の感があり過ぎる


 狙撃戦の肝は  である


 これをこのメンツにやらせたら戦死者が出る、ゆえに複数の目線と攻撃回数で揺さぶる


 相手はまだ若い、複数の相手が相手で入れ代わり立ち代わりなら通常なら撤退か合流を考えるだろう


 ” 相手にそんな考える時間さえ与えん! ”


 マローンの作戦は数秒後に瓦解せざるを得なかった


「「ゲオッ! 至急戻って来てッ! 問題が起きたのッ!」」


 スピーカーからエメの声がゲオルグを呼ぶ


 その声を聴き、隙が出来たとほくそ笑むとトーレスは森の方に一時撤退した……



 その頃、ゲオルグはいまだに敵陣の最中に居た


 白衣は銃創と返り血で真っ赤な穴だらけで両手剣も脂と血がべっとりと凹みにこびりつき刃毀れは鋸の様になっていた


 兵士の遺体は50人は超えていたが、未だ殺意は消えていなかった


「所長ッ!」


 そこにベケット達が突貫してくる


「おせぇぞ、ベケット、北欧系はどうした?」


「所長に誤射して凹んでますよ」


 剣を回旋させ銃弾を弾き返し、ほとんどを全身に食らいながらゲオルグが笑う


「彼奴、ああ見えて繊細だからなぁ……エメの新作デザートで勘弁してやっか」


「所長、そのエメから問題が起きたから戻って来てほしいそうです」


 血祭りでストレスを発散させたゲオルグにベケットが言伝を伝える


「わかった、所でベケット、ここの受け持ちに区域に人間は何人いる?」


 言伝を聞いてゲオルグの眉間に皺がよると気が付いたようにベケットに尋ねる


「自分、一人ですが?」


「よし、逆転チャンスで北欧系に指揮を取らせて守備が成功したら罰回避だ、そんでベケット、発令室まで護衛を頼む、帰るぞ」


「え? あ?! 了解です」


 スタスタ歩くゲオルグの後ろにつきながら、部下と共に愛銃を構えて殿しんがりを務める


 時より銃弾がかすめるが、ツーハンデットソードをに突貫してくると怖いので攻撃が散発的になる……指令であるカペロでさえ帰って行くなら止めるなと言わんばかりだった


 そしてゲオルグが土塁に穴だらけのを威嚇代わりに広げて置いておく


「では所長……」


「いや、ベケットは来てくれ理由はすぐわかる」


 左右から北欧と黒マッチョの班が合流してくる


「え……じゃ、後は頼む」


 そう言ってベケットがゲオルグに付いて行く


「ハイッ! 頑張らせてもらいます!」


 北欧系が気合を入れて送り出すとその鼻先に銃弾がかすめ、熱と共に血の珠を浮かす


 カペロが指示し、仲間の屍を踏み越えて再侵攻を開始したのだった


 全員が配置に付き銃を構えると様子がおかしい


「「ぎゃあぁぁぁぁ」」


 最前列の兵士が突然叫び声を上げる……その脹脛ふくらはぎには先程ゲオルグに斬られた兵士が噛み付いていた


 別の兵士の背後から喉を刺された兵士が飛び掛かり首筋に齧り付く


 ゲオルグに斬られ絶命し、彼らはZになっていた……


 その光景に北欧系や黒マッチョ達保安部員は引き金を引けずに呆然と見ていた


 そしてそのままカペロ達に向かいながら徐々に数を増やしていった


 ゲオルグはこれを察知してベケット人間を連れて行ったのだ


「しょ、所長……あれ……知ってたんですか?」


 その風景を研究所に入るドアで見ながらベケットは冷や汗を流す、あのまま交戦してたら自分も食われた板と……


「ああ、検証ついでに頭をなるだけ残して斬殺した……北欧系に相手が処理できる人数か全滅するまで放置して良いよ、後で全部処理して火葬して埋めて差し上げて」


 ため息ついでにゲオルグはベケットに指令を出すと先に発令室に行ってと頼む


 走って来た研究員からドリンク代わりの血液パックを渡され、一気に飲み干すとシャワー室に入っていった




 一方、研究所の裏口にたどりついJP達は研究員と保安部員にZの頭部と捕獲したスレイヤーを引き渡す


「所長、最前線に出てんだって?」


 先程の放送を聴き、ホセが興味深そうに尋ねる


「はい、検証ついでに暴れてくるとおっしゃられてツーハンデットソード持って保安部の援護に行かれましたよ」


「そっかぁ……で、問題とは?」


「現在、発令室で協議中です、フィリップ隊長もお連れしろと仰せつかっておりますのでご案内します」


 Zをぶら下げた研究員がJPを案内しだすとその背中にホセが声を掛ける


「そんじゃ、俺とマーカス、エリックは補給後にバリケードの方回るわ、トーマスは医務室行け」


 そう指示するとホセは保安部員を先頭にS2の両腕を抱えたホセ達が保安部エリアに案内されていく


 研究員に中央発令室に案内されるとモニター要員達が必死にキーボードで作業しながら報告を上げる


「ローガン国際空港レーダー、送電……来ました!」


「ハッキング開始します!」


「急いで! 海上レーダーは?!」


 エメの叱咤と問い掛けが空気をピリピリしたものに変えていく


「只今……侵入しました、データ、12番モニターに来ます!」


 防災用と偽って設置してある軍の防衛用海上レーダーにハッキングして海上の様子をモニターし、データを画面に上げる


「レンジ広げて、避難船から沖合にセットして」


 ジュリアの指示に従い最大距離で広げるが何もない


「空港のレーダーシステムに侵入、航空データーもモニター出来ます」


 モニター要員の報告にエメが追加の指示を出す


「この前のポーツマス海軍基地でパスコードとシステムキー入手してあったでしょ? 何とか入れない?」


「……やってみます……」


 モニター要員が首と肩を回し、手首と指を解しながら難関に挑む


「NYからポーツマス経由して入っておいてね……」


 エメの悪戯な笑みですべてを理解してモニター要員はサムズアップして答える


 そこにJPが入って来てジュリアに質問をする


「問題とは?」


「避難船にスパイが来たらしい、そのスパイは此処ボストンに向かったらしいんだけど、そのスパイが情報を残していったのよ……アンソニーのフリゲート艦が試運転がてらウチの船を襲うってね」


「……スパイの情報か……信頼性がないな……」


 JPがバッサリと切り捨てるが、ジュリアは苦笑しながらこう答える


「けど、私達には十分脅しになるのよ、あの船は私達の最大の弱点だから……それでお願いがあるの……」


「なんだ?」


「モーリーとエディを貸してほしい……あの2人が必要なの……」


 一人は医務室に毛布被って震えていて、もう一人は保安部室でホセ達に弄られながらまったり待機していた

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る