出撃

 スタン達はグレゴリー達から連絡を受け、宿舎として用意されたホテルに向かわずに先程のヘリポートのあるバートリーNY本社に向かう


 道に群れているZを景気よく弾き飛ばすと地下の駐車場に車を止めシャッターを下ろす


 そしてエレベーターでヘリポートに到着するとヘリの周囲で作業員と点検作業中のグレゴリーが居た


「おいグレッグ、どうした? 宿舎で待てと言ったろう?」


「すぐに出撃だろうと思ってな、それなら整備点検がしたいから戻ったんだよ……って車体を武器にすんなと言ったろうがッ! Zの追突音でバレバレだぞッ!」


 その職人気質というか我儘で融通の利かない性格に苦笑しつつ、スタンはグレゴリーに一旦はヘリに戻る様に指示をする


 スタン達が機体の中に入ると、全員、自分の席でくつろいでいた


「全員居るな? グレッグ! 操縦席に行くな、今からブリーフィングだ」


 ブリーフィングの声を聴き、全員の座席をこちらに向かす


 スタンは窓を閉めさせ、各自にお茶を淹れさせる


 その間にコンソールで前方に取り付けられたプロジェクターを展開させるとPCを繋ぎ、データを展開させ内容を事前入手した情報と手足合わせて整理して戦略を練る


 途中、敵戦力のデータ、特にJP隊の面々のデータを見ては驚いたように沈黙をするが全部数分で見終わるとメンバーに向き直り咳払いをする


「よし、依頼について話すぞ、目標はボストン・ランバート研究所……」


 スタンが教えられた情報とデータを照らし合わせながら戦場の解説と戦力分析し、練り上げた作戦説明に入る、全員食い入るように画面と情報を頭に入力していく


 ヘリで侵入し、主戦戦場の隣で全員降下、2班と1人に分かれて行動し、研究所の破壊と要人暗殺か拉致の任務とブースの反乱の秘密を探る事を説明し、皆無言で聞いている


 粗方の説明が終わると質問タイムになる


 まず、グレゴリーが手をあげるとスタンが発言を許可する


「このままヘリで攻め込むわけだが、研究所に対空兵器の類は?」


 するとスタンは苦笑しつつも指摘する


「研究所に対空兵器の類は装備されていないそうだ……つーか、普通そんなもんないだろが! 何が襲ってくるんだ? 機械獣かモビルスーツでも来るのか!? 冗談は置いといて……あるとしてもアンチマテリアルライフルが数丁あるぐらいという話……」


「それじゃ、安心だな」


 グレゴリーが笑顔になるがスタンは指を左右に振っておちょくる様に駄目出しをする


「グレッグ~、ところがもうちょい話に付き合ってくれ、スパイからそう報告されていたが、例の避難用客船とその改造ドックの存在が中央や本社バートリー本部に判らなかった……つまりお粗末な調査能力だ ゆえに研究所防衛用のハリアーⅡ短距離離陸垂直着陸機ぐらい出てくるかもしれん、そん時は全力で誤魔化すぞ」


 後ろの席でミンホが”ダセェ”と苦笑いして呟くが、任務遂行するのにそんなカッコよさは要らないのだ……スタンは気にせず話を続ける


「他には?」


 寡黙なケーニッヒが手をあげる……無表情な真顔のドイツ人が無機質な視線を向ける


「例の弾頭は私が使う分だけか? それなら充填作業に入りたいのだが」


「ケーニッヒ、それはもう少し待ってくれ、出動は1時間ほど後だからな」


 意外とせっかちなドイツ人をなだめると次は陽気な南米人が声をあげる


「Yo! スタンさん、例の暗殺と拉致との変更判断はどういうタイミング? それと相手の女性の方の情報は無いの?」


 その質問についてスタンは少し間を置いた後、南米の青年と中東の小太りな中年に声を掛ける


「質問にはおいおい答えるが……リカルド南米青年、それにアリ中東人も聞いてくれ、アリには重要施設5か所に爆薬をセットしてもらう、優先順位は電子顕微鏡、中央電算室のメインサーバー、生体研究室、発令所、所長の書斎の順だ」


「了解だ、ボス」


 中東人、アリの返答を聞くとリカルドに向き直り


「アリを含むアタッカーがその順で回って教授が居なければ、リカルド達フォローはエメ・トゥーレ副所長を探してくれ、情報は……すまん、現地調達してくれ」


「マジかよ……」


 呆れた表情で天を仰ぐリカルドにミンホがおちょくる


「どうせ好みの女だけ手あたり次第連れてくるんだろ? このエロ猿が!」


 仕事に対する意思の低さ、他者に対する配慮と思慮の皆無さがリカルドの逆鱗に触れた


「誰に向かってモノ言ってんだ? このキムチ野郎! 貴様なんぞ日本人にボロ負けしやがれ!」


「あ? 俺がイケてるモテるからやっかんでんだろ? それにチXッパリ風情に俺達が負けるわけねぇ!」


 コテコテの民族主義者であるミンホにNGワードの日本人を絡ませると即座にガチギレするのはチーム内の暗黙の禁忌だったが、あまりの傲慢さにリカルドやキャロルはまれに引き合いに出しては怒らせて憂さ晴らししていた


 怒り狂ってリカルドに向かい上段回し蹴りのフォームにはいる直前、気配を殺し背後に回ったキリチェックに首根っこを掴まれ体勢を崩し、座席に引きずり降ろされる


「狭い部屋で蹴るんじゃない、ブリーフィング中だ、外へ出てろ」


「あ? 陰キャは邪魔すんな、お前はそこの骸骨に慰めて貰え!」


 調子に乗って暴言を吐き続けるミンホに向かい、骸骨呼ばわりされた中華系が無表情で立ち上がると、それを見て顔色が変わったスタンが声をあげる


「ヒューズ! 大花ダーホアを止めろ! ヤル気だ! ミンホは表に出てろ! 全員一旦落ち着け!」


「私は骸骨じゃない私は骸骨じゃない私は骸骨じゃない私は骸骨じゃない」


「ああ、君は女性で僕らの仲間だ! 何度でも言ってやる! 君は女性で僕らの仲間だ!」


 呪文のようにブツブツと呟きながら血走った目で暴れながら外に出されるミンホを見つめる中華系、フォンダーホア大花の手にはその細い手に不釣り合いな大型ナイフがいつの間にか握られていた


 だが、隣のヒューズが何とか羽交い絞めにして落ち着かせるように話しかけてやっと落ち着いてきた


(やれやれ、枝打ち予定の2人が衝突してくれるのは良いが、此処でやってもらうのは困るんだけどな……)


 などと考えつつスタンはペットボトルの水を飲むとため息をつく


 強烈な自己愛的な性格をもつミンホと精神の均衡が不安定で薬物依存も疑わしいダーホアは他のメンバーと連携が取れなくてチームが危機に陥るケースが数多く見受けられ、上層部の判断は解雇交渉指示だった


 だが、暗殺案件を扱うことが多い人物は退役か現役を選択させ、退役なら守秘義務契約書にサインの上、サポートメンバー・インストラクター・講師として迎えられるが、現役を選択した場合……管理人が行動を精査しに現れることになっていた


 交渉の際、ミンホは解雇したら訴えてやる! と激高し、ダーホアの方は特殊な事例として治療を勧めたが、私は正常だ!と一喝され現役を選択した……


(作戦遂行に支障がないように庭師管理人の爺様には目利きもやって貰わんとな)


 落ち着くメンバー達を見ながらスタンは自身の師匠であり後見人である庭師オーウェン翁に丸投げすることに決めた 枝打ちにスカウティングの後は正座説教を覚悟して……


「それじゃ、研究所の方はこれで良いな?」


 一同に尋ねると潜入ミッションの方の説明に移った、内容は至って簡単だった


「こちらの方はキャロルが好きに動いて貰っていい……但し、ドラガンがフォローに入るので連携を密で頼む」


 地味な女性キャロルはこの特異的な集団の中では普通過ぎて逆に目立つ、だが、彼女の専門は潜入工作で通常なら本隊とは別に動いている筈の人物で研究所で必要かと思い連れて来ていた


「了解、ドラガンのフォローなら安心して潜り込めるわ」


 にっこり笑うキャロルを戒める様にキリチェックがアドバイスを送る


「若は全く信用してないが、あそこのスタッフは中央機関のスタッフだけにかなり優秀な人材が多い、気を付けて潜り込んでくれ」


「了解、万が一の時は助けに来てねぃ」


 東欧系のイケメン・キリチェックと仕事が出来る事にテンションが上昇するキャロルを当のキリチェックは無視してスタンと向き合う


「それでは2人は降りて宿舎に向かえ、くれぐれもアンソニー卿の処に厄介になるなよ!」


「スタン、それは何故だ?」


 早速、むっとした顔で異議を唱えるキリチェックにスタンは困った顔で指摘する


「ドラガン、ボディーガードの君は卿のおそばに居なきゃ仕事にならんが、潜入担当のキャロルが卿の邸宅から出てきたら依頼元がばれるだろう? それにだ、君やジル、それにキャロルまで引抜かれるわけにはいかないんでね」


 最後の冗談にまで、なるほどと納得するキリチェックにスタンは一抹の不安を覚える……


 あの聡明な元暗殺工作員だったドラガンが、アンソニーを信奉し過ぎてここまで盲目的な思考に成り下がるとは……あのジルも心配だ……アンソニー卿……なんて人だろう……


 持ち前の天然さで無邪気にアンソニーと接したが、相手への得体のしれぬ実力と意図に恐怖感に今頃襲われながらスタンも活動を開始する


「よし、皆動いてくれよ、グレッグにケーニッヒ、お待たせしたね、早速、点検と充填作業に掛かってくれ、ヒューズとアリは外にいるをキッチリと〆ておいてくれ、キャロルとドラガンは頑張ってくれ、なんかあったら連絡くれ! ダーホアはお茶でも飲んでゆっくりしてくれ、後で働いて貰うよ」


 全員に指示を出すと自身はそのまま給湯室に入り、お茶を淹れてダーホアに渡す


「ありがと」


 短く礼を言うとそのまま黙りこくってしまった


「それじゃ、ゆっくりしててな」


 そう言いながら外に出て、ヘリポートの端まで来るとスマホで連絡を取る


「もしもし、坊、なんか用かね?」


 ティーカップを置く音と矍鑠とした老紳士の声がスタンの耳に飛び込んでくる


「オーウェン翁、今どこだい?」


「ジルに貨物船を手配して貰ってそっちに向かってる、あと一時間でボストン沖に到着する」


「そのジルなんだけど……」


 一連のアンソニーがらみの件を伝え、ジルについての様子を見てもらう


「なるほど、ジルもそう言ってる……全て先手取られるからお手上げだそうだ」


「それでジルは?」


「大丈夫だ、あまりにカウンターを取られるので詰まらなくなってさっさと仕事して帰って来たそうだ、ついでに言えばもう仕事したくないだそうだ」


 オーウェンから太鼓判押されてホッとすると、もう一つの案件を話し出した


「卿からヘッドハントされるかもよ、とジルに伝えて置いてね、それとオーウェン、スカウトについてだけど……」


 タブレットに移したデータを見ながらスタンは話し出すとオーウェンは笑いながら


「今度はワシが楽だな……それで死ぬようなら必要ない、とりあえずワシは研究所に向かうからデータは寄越してくれ……」


「ああ、よろしく頼むよ、俺達は今から1時間後に出撃する」


「遅れないように」


「わかった」


 連絡を切るとスタンは気合いを入れて武器の点検に取り掛かっていった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る