火急

 武器庫の店から1時間ほどでヒンガムの港沿いにある巨大な倉庫にエメが誘導する


「ここ……ですか?」


 コンテナを運ぶ巨大クレーンが天井で止まったままで鎮座しており、そのコンテナも一部を除いてもぬけの殻になっていた


「うん、コンテナも……今、見るけど……とりあえずは2階の事務所ね。多分、お目当てのものは其処にあるから」


 エメは車から降り立つと南京錠のかかったコンテナの扉をスパナ2本で軽々と壊して次々と開け放つ


「それじゃ、バニさんはエメに付いててくれ、兄ちゃん達は俺について2階へ」


「あいよ」


 ジョシュ達がM945を構えてホセの後ろに付く、ホセは速やかに階段を上り、通路に出て管理事務所のドアの前に立つ


 ドアをけり破ると振り向いて襲い掛かってくる元管理人だろうと思われる一体のZを始末する


「さて……お目当てのブツは……」


 手慣れた感が出て来た三人が一斉に室内を荒らし始めるとエディを連れたエメが入ってくる


「おやおや、ちょろっと待ってて、エディ君、ドア閉めて」


 もはやエメのアシスタント化してきたエディに指示して、エメは事務机の上にある赤いボタンを押し、引き出しの中に手を突っ込み隠しスイッチを入れると記録簿が入れてある棚がスライドし隠し部屋が現れる


「ここもかよ! ワンパターンだなぁ」


 現れた隠し倉庫をみてジョシュが突っ込む


「ところがねぇ、向こうもそうだけど、一度、密室状態にしないと幾らスイッチ入れても動かない仕組みなのよ」


「え? 何でですか?」


 その仕組みに疑問を抱いたアニーが理由を尋ねる


「当局に踏み込まれた時、どんだけ調べられても簡単には出てこない様にするためよ。大概あの人達警察はドアは開けっ放しで家探しするからね」


「へぇ、考えたなぁ……」


 感心するジョシュはガバメントを構えるホセの後ろについて隠し倉庫に入ると密封された箱に銃弾が口径や専用に分けて置かれていた


「とりあえず、数万発はあるな……よし、運び出そう」


 Shakの弾丸を見つけホセは皆と一緒に運び出そうとする


「さっきコンテナにバレットのM107CQがあったから、その口径の徹甲弾も見つけてね」


「M107CQってブルバップの?」


 バレット使いのアニーがその名を聞いて目を剥いて驚く


 バレットM82A1アニーが使う銃のアメリカ陸軍仕様に改良したA3をさらに室内や社内に持ち込んで使用するためにブルバップ方式に改良したもので、末尾のCQとは「Close Quarters(Battle)」、つまり近接戦闘を略した社内型式モデルである、物がモノだけに陸軍演習でも行かないとお目にかかれない代物だった


「それなら、Shakを装備すれば近場から長距離までオールマイティだねぇ」


「うん、2丁有ったからバーニィに車に積んでもらったよ……めっちゃ重いけど戦闘は大丈夫?」


 エメは過剰装備になるのを懸念するが、当の本人はどうとでもなると思っていた


「おう、12.7×55ミリ弾Shak-12のバリエーションどうする? お目当ての徹甲弾のPS-12Bアーマーバスターは入れとくが……」


 ホセがジョシュに向かい弾の種類を聞いてくる、Shakは弾のバリエーションまで豊富なのも特徴なのだった


「予備は音速仕様だけでいいや練習に使うだけだし、空薬莢で徹甲弾に作り替えするしね」


「オプションのリボルビングランチャーはどうする?」


「勿論、フルオプションで適合を色々試してみる」


 どうすれば戦況にアジャストして相手部隊に対して有利に攻撃して目的を達成できるか? ジョシュは色々と考えていた


 そこにバーニィが急ぎ足で入って来た


「副所長! 至急、研究所に戻りますよ! 教会が攻めて来たそうです」


「マジで?! みんな! 物資の搬入急ぐよ! 全部で私達の切り札の一つなんだから!」


 顔色を変えつつもエメは皆を急かすと自分も弾丸の箱を持って通路に出る


 総がかりで行った結果、20分で積み込みが終わるとエメは研究所に連絡を取る


「ゲオ、状況は?」


 スマホをスピーカーにしてエメが詳細を求める


「ごみ焼却場からの長距離狙撃で作業中の整備士に死傷者が出た、相手はまだ未確認だがジョシュが言ってたマイケルとレイアの仇トーレスという奴だと思う、隙をついては散発的に仕掛けてくる」


「クソがぁ……俺らを誘ってやがるなトーレスの野郎……」


 ゲオルグの情報にジョシュはそう判断するが、ホセは全く違う事を尋ねる


「所長! 周辺に異変は?」


「ホセか? いや今のところは……」


「至急、周りを固めろ! そいつは陽動だ!」


 ゲオルグの報告に空かさずにアドバイスをするが、すでに動いた人間達がいた


「お待ちを! フィリップ隊長の指示で特務3名が反対側ゲートに今、到着しました! 隊長は森に入ってドラグノフで応戦中です! 保安部の皆さんも動いて……あ‼ ベケットとシュテフィン君が残りのフォローに回るべく待機してます!」


 その後ろでフレディが保安部の報告を読み上げるとゲオルグがエメ達に指示を出す


「とりあえず、みな至急戻って来てくれ、使った通用口に保安部と装備課を警護と運搬に向かわせる」


「エメはそこで降ろす、俺らは外で迎撃するぞ、壁を抜けられると一気にヤバくなる」


 ゲオルグにそう告げると即座にゲオルグは了承した


「判断は任せる、戦力が必要な時は言ってくれ、足りなきゃ俺が出る」


「ああ、伝説顕現昔取った杵柄をさせちゃってくれ」


 やる気満々のゲオルグを冷やかすとホセは隣のエディにフルスロットルで走ることを命じた


 全員が車に飛び乗るとホセがジョシュに向かって叫ぶ


「兄ちゃん!」


「分かってる! ShakとCQの準備しとくよ」


 後部座席でアニーがShakの組み立てを始めだした、CQはバレットの発展型でもあるため、ものの10分程度で戦闘可能な銃が完成する為、後回しにしたがホセの注文が入った


「よくお分かりで……但し、最初に使うのはCQだけでいい、Shakは用意だけしてスレイヤー用と本番に取っておけ、今回使って対策立てられても美味しくない」


 スレイヤーを次で完全に叩き潰しておきたいのと、ただでさえ少ない弾薬を節約するというホセの意図をジョシュは理解した


「それならCQをちょい貸して! フォアグリップ装着、銃床をホールドするベルトにスコープ横出しにして連続射撃の安定性を出すわ」


 後部座席のエメが工具を出すと組み立て前のCQのピカティニー・レールの調節を始めだした


 相手本隊が本格的に進攻する背後を叩ければ上出来……ホセやジョシュはそう予測して道を急いだ……



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 焼却場の屋上で遮蔽物の間を匍匐で移動しながら、トーレスは相手の位置と狙撃のタイミングと計る、相手はあのビッチアニーじゃない、気配を殺して速やかに場所移動しながらこちらを探し、狙撃の瞬間を狙う、専門の訓練を受けたプロだ


(やれやれ、本来ならクソバカスレイヤー共に教育訓練したかったのに……)


 当初のトーレスが立てた計画では、ヘイデン隊役立たずスレイヤー能無しの教育と増援の中隊を待って研究所に攻撃を仕掛ける手はずだったが、昼前ので研究所の連中が補給か何かを企んでいることを察した……


 ならば、戦力が分散して少なくなっている今、ちょっかいと厄介払いついでにヘイデン達を特攻させる好機だった


 先ず、自分が狙撃で陽動し、ヘイデン達が侵入口を作るべく攻撃を開始して、戦闘が始まったらヘイデン達に敵守備隊の相手をしてもらい


 手薄になった場所にS2達を侵入させ、敵守備を排除させてS3達を突入、後から来る中隊を後詰めとして攻撃する策を即興で思いついた


 陽動狙撃ついでにジョシュとビッチアニーパブロの仇シュテフィンを始末してやろうとポジションについて作戦を開始してみたら、作業員の3名ほど射殺したところでこちらを視認され、反撃の狙撃をされて今に至ったのだった


 ヘイデンにはタイミングの打ち合わせだけをして、後は仕掛けや装備は連中の自主性に任せた


 この手のプライドの高い人間が幾ら降格されたとは言え素直に格下トーレスの言う事を聞くわけがない


 ならば、”閣下の手前、ああ言うしかないので内緒で応援してますから手柄を~” と煽てて自由にやらせてしまえばいい……成功してもがあるし、失敗したらそれまでだ……ただ、逃げられるのが一番困る……


「さて、ヘイデン君、ここでイモ引いたら貴様らは正真正銘の役立たずだ」


 遮蔽物に隠れ、独り言を口にしながらヘイデン達の攻撃を待つ


 そしてそのヘイデン達が現れた


 東に居るトーレスからみて右側……北門のあるエリア、Zが群れで取り囲む塀に向かい5台の建設重機が轟音を立て走ってくる


 Zを弾き、また潰しながら進むブルドーザーを先頭に、クレーン車を取り囲むようにショベルカーが2台とロードローラーが疾走する……クレーン車に乗り込むのはヘイデンその人だ


「なんだあれは? 変形してロボットにでもなるのか?」


 トーレスが物陰から双眼鏡で重機チームを見て失笑する……


 研究所の塀の厚さはベルリンの壁ほどではないがかなり厚く、重機が衝突する程度ではゲートぐらいしか壊せない……ましてやそのゲート付近は研究所の保安部員がロケットランチャーでお出迎えしてくれる


 米陸軍が誇るM1エイブラムス戦車ならいざ知らず、重機風情ではまず無理だった


 しかし、伊達に教区の長まで上り詰めた男ではなかった


 ブルドーザーとショベルカーで近寄るZを踏みつぶし、駆逐しながらクレーン車と後続のローラーの道を作る


 そして塀に近付くとブルドーザーに仕掛けた無線爆薬に待機スイッチを入れ、アームを上下運動させ近寄るZを弾き、潰す、そして両脇のショベルカーのショベルが勢いよく回旋を始める……その円内に入ったZがなぎ倒され、ゲートの保安部員達の銃弾も弾く


 そしてヘイデンの部下達がテープとベルトで操縦桿を固定し、ライフルを持って反復運動して防御運動をする各重機から降りてヘイデンのクレーン車に飛び乗る


するとクレーン車の固定用の足が設置されクレーンが伸びる……塀の上に足場を作る様に……


 それを見たトーレスが苦笑する


「そこからどうやって中に入るんかなぁ? 大した援護もないのに……」


 ほかの部下が必死に塀の保安部員に向かい援護射撃をする中、ライフルを持ち飛び出して来たヘイデンの合図で部下が2人ほどクレーンを伝い塀の上に出る


 そして後ろに合図をし、振り返ったところで下からライフルで銃撃を受けてZの待つ道路側に転落し、助けを求める声を出すこともなくZの群衆に飲み込まれていく……


「てめぇ!」


 もう一人の部下がその撃った人物に向けてライフルを構えようとするが、その眉間に銃弾がめり込み、塀の下に落ちる


 しばらくの沈黙のあと、撃った戦士が塀の上に昇って来た……浅黒い無口な戦士トーマスだった


 ヘイデン達を見つけると片手に持ったH&K HK416の下に取り付けられた擲弾発射器AG36の引き金を躊躇なく引く


 擲弾がさく裂し、援護していた部下達がヘイデンの目の前に四散する……


 四散する部下の四肢を見て一気に恐慌状態になったヘイデンはクレーン車から飛び降りて走って逃げ去っていく



 トーマスはそれを見て、首を振ると塀の向うに帰っていった……




 そのトーマスが見切ったヘイデンがZに捕まるのは3分も要らなかった


 トーマスが塀の内側に降り立った瞬間、銃を乱射するヘイデンの断末魔の叫びが当たりに響き渡った


「お疲れさん、後始末は保安員の皆さんがやってくれるってよ?」


 向こうから、絶叫を聞いてげんなりした顔のマーカスがライフル片手に歩きながら労ったが、トーマスはまた首を振る


「いやまだだ、此奴も陽動だ……弱すぎる」


 真顔のトーマスの報告を聞いたマーカスが顔色を変えて ”早く言えよ! ” と突っ込みながら直ちに発令所に連絡をし、ベケットとシュテフィンがその穴を埋めるべくジープで出動していった


























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