籠城

 ジョシュ達が乗ったミニバンは道中さして何も問題もなく、最初の目的地であるロシアンマフィアの武器庫である倉庫に到着した


「へぇ……って……ここ銃砲店ぢゃん!」


 建物を見たアニーが少し呆れたように突っ込むのも無理はない


【イェイツ銃砲店】と冠された看板が屋根に掲げられたその店はド派手なライトブルーの塗装されたゴツイブロックの外壁で構成された射撃場とシャッターの降りた店舗部分が一緒になった大型店舗だった


 隣に室内射撃場を完備した大型銃砲店が武器庫と言われてもそのままではまるで意味がない


「そこがミソなのよね……ご禁制のフルオートの銃とか向こうの国でも限定配備された武器なんかは下手な所には置いておけない、ところが銃砲店ならそんな武器が箱で倉庫の奥に置いてあっても不思議じゃない……よく見てみれば~おやっ? てね」


「木を隠すなら森の中ってところか……」


 エメの解説にジョシュが納得して呟く


「そういうこと、此処なら整備施設や防音も完備してるから試射や練習もできる……マフィアは鼻高々で当局を小ばかにしてたけど私達には余裕でバレてた……おかげでこうして漁れるんだけどね」


 そう言いながらエメは肩に掛けてた工具の入った作業ベルトをガンベルトの様にその形の良いヒップに斜めに引っ掛ける様に締めると何かの端末らしきものを持ち出した


「さて副所長、よろしくお願いします」


 ライフルを構えたバーニィが周囲を警戒しながら頼む


「はいはい、ちょろっと待っててねぇ」


 店の裏手に向かうバーニィの後を端末を片手にエメが歩く、その姿はまるで工事の作業員が鼻歌混じりで楽な作業に向かう長閑さだ


 バーニィが周囲を確認した後、エメが巧みに偽装された操作盤をドライバーで開くと配線の中のコードをその繊細な指先で引き抜くと持ってきた端末に差し込み、起動させる


 表で車の中で待っていたジョシュ達がいきなり店のシャッターが上がりだしたのを見て声を出す


「手早いなぁ……とにかく俺らも行くぜ、装備忘れんなよ」


 その手際の良さにホセが感心しながらジョシュ達に指示を出す、油断は禁物といわんばかりに……


 車から降りると裏から入ったバーニィとエメが店のドアを開けて招き入れる


「みんな来てるわね? バーニィ! さっきのスイッチ入れて!」


 確認を取ったエメがバーニィに指示を出すとシャッターが今度は下りてくる


「さて、さっさと漁るか……っとその前に、エディ君、ここで座って周囲をこのモニターで監視してて、バーニィとホセは隠し扉に入るよ……ジョシュも」


 その後の間でホセとバーニィがガバメントを構える……それに習うようにジョシュ達もM945を構える


 エメが店のカウンターに入るとレジの下の操作盤のスイッチを入れると射撃場へのドアが開く


「あの奥に入口があるんだけど……多分Zが居ると思う……」


 スンスンと鼻を鳴らすしぐさをしてエメが指摘する……射撃場にうっすらと腐臭が漂うのにジョシュが気が付く


「了解、ジョシュ達はそこで待機しててくれ、では副所長、開けてください」


 バーニィは警戒しながら射撃場の奥から2番目のシュートレンジに歩いて行き足を止めると、エメが台の横のヘッドフォンタイプイヤーマフを掛ける金具を遮蔽版に押し込むと奥のレンジが手前に移動し、ぽっかりと壁に隠し通路の真っ暗闇の空間を作り出すと同時に猛烈な腐臭が溢れ出す


「ホセさんや参ろうか?」


「あいよ、バニさん」


 長年の相棒のごとく即席コンビの二人はガバメントを構えて中に素早く入る


 部屋に充満する腐臭の元を探す為、ライトのスイッチを入れる


 無数の銃器が立てかけてある棚の最奥の工作椅子に仰け反る様に寄りかかった死体を発見する


 足元にはコルト・コブラが転がっておりどうやら口に咥えて引き金を引いたらしかった


「あーあー、苦しかったろうなぁ……食いもんも無かったろうしなぁ」


 ホセは周辺を見渡すと店内や死体の周辺には食べ物を求めて必死に荒らしまわった痕跡が見受けられた


「安らかに……」


 エメが遺体に毛布を掛けて冥福を祈る


 そこに銃声が鳴らないのを不審に思ったジョシュ達が銃を構えながら入ってくる


「これは?」


「多分、元ここのスタッフさん、籠城したのは良いけれど食料が底をついたみたい……」


 遺体の足を見たジョシュやアニーはぞっとした、一つ間違っていればポートランドで自分達がこうなって居たかもしれないのだから……


「よし、ともかく武器を入手しよう! 彼の荼毘はこの後だ」


 しんみりした空気を吹っ切る様にバーニィが皆を叱咤しながら銃器の品定めに入る


 流石は犯罪組織の武器庫である、取引や抗争用の銃器の箱が乱雑に置かれていた


「うひぃ、ご禁制どころか最新鋭のロケットランチャーやアサルトライフルまで……」


 ジョシュがカタログやネットの画像でしか見たことのない実銃、兵器をみて目を白黒させる」


 最新鋭であるAK-12の派生形であるロシア製アサルトライフルAK‐400とAK-12の対抗だったAEK-971や対戦車ロケットランチャーRPG-32、手榴弾RGD-5が入った箱……


「こんなもん国内に持ち込んで……大統領でも暗殺すんのか?」


 ホセでさえ呆れた物言いで箱を漁るとエメが苦笑しつつ


「流石の彼らもそこまで考えてなかったわ、だけど敵対組織のボスが乗る車は大統領専用車ビースト1の兄弟みたいなのが相手だしね」


 エメはゲオルグと保安部がボスに幻覚をしかけて洗脳し、潜在的配下なったおかげで聞き出せた情報を提示する……


「まぁ、硬い守りには高火力って俺らも似たようなことしてるし……って、ビンゴだ! おい! あんちゃん!」


 箱を漁ると顔を挙げたホセに呼ばれたジョシュが振り向く


「オッちゃん、なんかあった?」


 その箱の中にはShAk-12が3丁、ケースに入って置かれていた


「おー! これこれ!」


 それを見たジョシュが歓声を上げるが、その直後に失望に変わる


「だがなぁ……残念なことに此処に弾丸がない」


「はぁ? マジで?」


 ホセに箱に張り付けられたメモを渡されて書かれている内容を読む


(弾はヒンガムに搬入済み)


「なんだよそりゃ!」


「仕方がないのさ、こんなもんセットで置いといた日にはFBIが民衆の敵パブリックエネミー認定して大挙して襲ってくるぞ」


「でも、ヒンガムって海から……」


 そこまで言う前にバーニィに急かされる


「ジョシュやぃ、後で其処も回るからとりあえずとっとと荷物持って行ってくれ、ロケランも手榴弾も持っていくぞ」


「あ、いけね、はぁい」


 Shakの入った箱を持ち上げるとジョシュもその後に続いて店に戻ってくる


 するとアニーが店の棚からバレットとマクミランを5丁づつ出してくる


「アンチマテリアルライフルが扱える人って何人いる?」


「ウチだとJPとマーカスか……バニさんとこは?」


「ベケット含めて5人だ、うち一人は私物のマクミラン持ってるから」


 荷物を降ろしながらバーニィが答える


「何にしてももう一台、車が要るわね」


 両手で高性能火薬の缶を運びながらエメが入ってくる


「それじゃ、エディ! 車、かっぱらいに出かけるぞ!」


「了解!」


 モニターでの監視に飽きたのか嬉々として裏の事務所から出てくる


「それと、ちょろっとお使い頼まれてくれる?」


 エメはエディに耳打ちをして注文を頼む


「畏まりました、それでは行って参ります」


 内容を聞きエディはそうエメに挨拶をすると裏口からホセに連れられ出て行った


 数十分後、外にエンジン音が聞こえてドアを開ける様にクラクションが鳴る


「はいはい、只今……」


 バーニィがレジ下のスイッチを入れるとシャッターが上がりだす


 ドアに向けてミニバンが後退して着けられ、後部ドアが開かれる


「早いとこ搬入してくれや」


 運転席のホセが大声で頼みながら降りてきたその横からエディが箱を抱えて走ってくる


「副所長! お使い行ってきましたよ」


 段ボールの箱の中にはチョコバーやお菓子とオイルライターの燃料燃料缶が六本ほど入っていた


「ありがと、エディ君、それじゃこっちに来てくれる?」


 エメはエディを連れて隠し工房に入ると遺体にエディが持ってきたお菓子……開けたチョコバーとチップスの袋を置き


「後で送ってあげるから、ゆっくり堪能してお腹一杯にしなさいな」


 優しい声で遺体に声を掛けると、搬入作業に戻っていった


「ほぼ搬入終わりましたよ」


「あとここの商品でレアなモノ高額なモノは持ってって良いよ?」


「マジ!? そこに飾ってあるルガーP08やキャボット社製のダマスカス鋼仕上げのM1911とかも良いの?」


 アニーが目を輝かせながらエメに尋ねる


「ええ、なるべくお高くて、歴史的にも価値の高いものをチョイスしてね」


「はい! ジョシュ! 手伝って!」


「はいはい」


 ものすごい勢いで棚の商品を吟味してはカウンターに置いていく、その目利きはホセ達も唸る選択だった



 前述の戦場帰りの風格があるルガーP08やキャボット社の木目調が特徴のダマスカス鋼仕立てのコルトM1911が並べられそれをジョシュが車に積み込む


 全部で8丁が選ばれ積み込まれる


「これで全部です」


「ありがと、流石良いセンスしてるわ、もったいなくて飾るしかない銃だからね」


「そんな銃で良いんですか?」


「良いんですッ! ……まぁ、文化や技術が破壊されても現物さえ有れば技術保全の代わりにはなるもんよ」


 アニーが困惑気味に尋ねるもエメは技術の保全のために残すとのたまった


「ダマスカス鋼って製造技術を失ったと聞いてたけど復活したんだ……」


 キャボット社の箱を見ながらジョシュが感慨深げにつぶやく


「完全な再現は無理だったはずだ。現存するダマスカス鋼を分析して再現したのが今のそれだ、偽物か本物かは後世の技術者が解き明かしてくれるさ」


 ホセが苦笑交じりで指摘する、多分はるかな昔に現地の技術者の仕事を見てきたのだろう……


「なんにせよ、次行きましょう、もうお客さんも来てますし」


 バーニィがそう提案し、ライフルとマチェットを構えながら顎で指す先には、無数のZが店の防弾強化ガラスに張り付いていた


「俺らが排除しだしたらジョシュ、アニー、エメは車に乗ってドアを閉めろ」


 ライフルを構えるホセに従いジョシュ達が準備に入る


 既に車の両端から無数の手が店内に伸びてきている


 その間を縫ってエメが遺体に走り燃料缶を振りかけ


「さよなら、またね」


 そう見送ると遺体にマッチで火をつけその火が開封済みの缶に引火して火だるまになる


 引火を合図にホセ達が一斉にZに向かいライフルをぶっ放す


「行けっ!」


 合図とともにジョシュ達が車に飛び乗るとバーニィが助手席に滑り込み、ホセもまたEVの方に乗り込む


「出すよ! 捕まって!」


 集まりだしたZを弾き飛ばしながらジョシュが車を発進させるとホセ達が後を付いてくる


 店から煙が立ち上り、暫くして火が上がれば周りの火薬や弾薬に火が回ればここらにZが寄ってくるほどの爆音や銃声が上がるだろう……


「このままヒンガムに向かって、多分銃弾メインだろうけど其処さえ回ればもう補充は十分なはずよ」


「了解だけどさ……食糧とか資材、部品関係大丈夫?」


 先程、送った人物を見た後だけにジョシュが心配になり尋ねる


「食料はほぼ自給自足出来てる、資材とかもまぁなんとか……部品は超精密機材でもない限りは大丈夫、それと特殊な薬品、化学物質、鉱石以外はね」


 エメが研究所の能力を総合的に分析をしながらそう答える


「了解だ、とりあえずヒンガムまでのナビをお願いします」


 そういうとジョシュは緩やかにアクセルを踏み、店の爆発音を背に受けながら一路、ヒンガムに向かった



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る