魔団跳梁

騒然

 戦勝気分に沸く夕食の食堂・カフェテリアにて列に並ぶジョシュとアニーは思わずトレーを落しそうになる衝撃を受けた


 照れくさそうなシュテフィンとあのジュリアが笑顔でを組んで食堂に入ってくる


 それを見たフレッドは口に運ぶスプーンを持ったまま凝視して硬直し、百地や亮輔は目を剥いてコーヒーを霧状に吹く……異常事態と聞いて厨房から慌てて飛び出してきた調理服姿のゲオルグに至っては一瞬、硬直した後に二人に向かい悠然と親指を立てサムズアップして祝福した


 ジュシュはミネストローネと半身のフライドチキン、アニーはラザニアとサラダを選択してテーブルにトレーを置いて……二人は顔を見合わせた後、不自然に澄ました顔でシュテフィンの到着を待つ


「やぁ、ごきげんよう」


「こんにちはぁ」


 爽やかにでシュテフィンとジュリアが挨拶してくる



「よぉ……」


「こんばんは」


 どう対応して良いのか判らずに挨拶だけは交わすジョシュとアニーのお尻を勢いよく蹴り飛ばす台詞が飛び出してくる


「あ、紹介するね、のジュリア、、こちらの二人がジョシュとアニー」


「こんにちは、よろしくお願いしますね」


 一瞬、この前の禍々しい鬼女は誰だったの? と聞きたくなるぐらい華やかで優しい美女が居た


「こちらこそ」


 握手をしながらジョシュとアニーが答える


「それじゃ、私、料理とって来るから~」


 そういってテーブルから列へ向かうジュリアを3人が見送る


「ああ、僕も後から行くよ」


 そういって手を振るシュテフィンにジョシュとアニーが即座に顔を寄せ質問責めにする


「お、お前、いつの間に落したの?」


「ん? ついさっき」


 キョトンとした顔でさらりと言ってのける


「ええッ!? あそこまで絶対駆逐してやる! 状態でどうやって逆転したの?」


「昔話のしたのさ……出会った頃のね……そこからトントン拍子でね」


「マジか……」


「それじゃ、飯取って来るわ……ジョシュ、くれぐれも下ネタぶっこむなよ? 再度、敵認定されるぞ?」


 最後は真顔で警告されてジョシュは生唾を飲み込む……


が復活したらえらい事になるのは間違いない……)


 さしものジョシュも黙るほかなかった……だが、黙ってられない人々もいた


 そのテーブルにトレーがドカッと置かれ、戦闘服の厳つい中年オヤジ二人が腰掛けてきた


「空いてるよな? 邪魔するぜ」


 その威圧感には有無を言わせない意思とある種の複雑な思いが存在していた


 一人はハゲ頭で気さくそうな顔をしているがその目は細く鋭かった、もう一人は精悍だがタレ目で右目の目尻に縦にざっくりとした斬り傷の痕があり、右腕にはポーカーの役、A-K-Q-J-10のロイヤルフラッシュが掘り込まれ、左腕にはジョンラカムの海賊旗の様な頭蓋骨の下にカットラスでなくリボルバーが交差したタトゥーを入れていた


 シュテフィンにべったり寄り添い、トレーを持ちながら歩いてくるジュリアがその二人を見て立ち止まる


「ベケットにバーニィ……あんた達何しに来たの?」


 一瞬にして鬼女モードになり、瞬時に緊張するジョシュとアニーを尻目に二人に対峙するが二人のオヤジは何処拭く風か飄々と応対する


「やぁ、姐さん、それが理想の彼氏かい?」


 ベケットが無造作にコールスローを口に運びながらジュリアに尋ねる


「何よ……それが文句有るの?」


 真顔のジュリアが威嚇に入るとフライドチキンと格闘していたバーニィが手を止め、ジュリアに向かい合う


「なーに、大したことじゃない……ウチのボスに変な虫付いてねぇか? って俺達が勝手に心配してるだけさぁ……なぁ、ベケット?」


「なーんで、軟らかく言えないでスットレートに言っちゃうかねぇ……この人バーニィは……いやね、副長バーニィ姐さん部長の親代わりみたいなもんだから心配で気が気でねぇんですよ……ならきっちり締めてやらンとね……ちなみにそれがうち等ボーイズの総意だよ」


 良く見れば二人とも肩のワッペンがここの保安部隊のそれになっていた……つまり二人は保安部隊所属ジュリアの部下だったのだ


「それってスケコマシ野郎の品定めに来たって事だよね? ……自慢じゃないけど銃や格闘の腕前はそちらの方が圧倒的に上だよ? それは判ってるよね?」


 シュテフィンがジュリアの前に立ち二人に対峙してそう苦笑しながら聴いた


「ああ、アンタの根性試しと行きたい所だがね……こんな優男だとは……どうしたもんか」


 明らかにベケットは馬鹿にしていたが、バーニィは真顔でシュテフィンをしっかり見据えていた


「では保安部員の力自慢上位三人にあんた等二人の腕相撲で勝ち越せたらジュリーの相手として認めてくんないか?」


そのシュテフィンから挑発的な挑戦根性試しが提案されるとバーニィとベケットに剣呑な空気が流れる


「ほう?……俺ら二人が救済ハンデだと?」


 ベケットの眉間に皺が寄り、即座に戦闘モードに入る


「ハンデ? 喧嘩の言い出しっぺをボコらないと絞まらんだろう? ジョシュ! 俺に賭けろ! 儲けさせてやんよッ!」


 少しオラついたようなシュテフィンが油断なくミネストローネのカップから上目使いで騒動を観察するジョシュに声を掛け、威勢よく立ち上がると、保安部員の猛者の力自慢3名とバーニィ達が場を作り腕相撲大会が始まる


 どっからともなくゲオルグと百地と亮輔がホワイトボードとメモとペン片手に現れて賭けを始める


「さて、皆さん! ジュリアのの座を賭けて、一人の男が力自慢の勇者達に挑みます! 全敗するか!? 勝ち越すか! 予想をどうぞッ!」


 ノリッノリのゲオルグに皆、各々の予想に賭ける


 その中にジョシュとアニーは20ドル札数枚を握り締め


『ステの全勝に全部』


 そう言って驚く百地からメモを貰う


「オッズ200倍だぜ……ステの結婚資金出来ちゃうな?」


「負けたら明日以降は3人で路上強盗しないと……がんばれーステー!!」


 アニーの現実味のある呟きにジョシュが苦笑するも一緒に応援する


 厳ついバーニィ達が細身に見えるほどのゴツイ体格の大男達が三人、後方の人だかりから出てくる


 一人目は北欧系の大男でヨーロッパ選手権での空手の優勝者だったそうだ……独特の呼吸法と気合を入れると腕を出す


 対するシュテフィンはゆっくり腕を握るとテーブルの端を掴む……それを心配そうに見るジュリア……


 渋々審判役に連れてこられたフレディが握り合った両者の拳を握り、一瞬、間を置く


 周囲の人間さえも固唾を呑んで注視する


「レディ……ゴォ!」


 合図と共にシュテフィン達が力を入れる……あっけないほど瞬時に決着が付いた


「シュテフィン! 一勝目!」


 フレディの宣言と共に愕然と驚く北欧系を尻目にシュテフィンが吼える


「ウッシャー! 次こいやーぁ!」


 スゴスゴと引っ込む北欧系の次は正に筋骨隆々で黒光りする黒人男性が腕を出して待っていた


「来いよ坊や……圧し折ってやンよ……」


 ニヤニヤしながらも既に気合と殺意は十二分に腕の筋肉と浮き上がる血管に溢れていた


 手を軽く振りながらもシュテフィンが手を握り、対決姿勢になる


 再びフレディが握り合った両者の拳を握り、間を置く


「レディ……ゴゥ!」


 瞬間ピクッと握り合った手が一時停止する


 ニッコリ笑っていた黒人保安員が瞬く間に歯を食いしばりだす


 拳は震えながらゆっくりと押し倒される……シュテフィンの勝利に……



『『うぉぉぉ! 兄ちゃん中々やるな!?』』


『『アンダーソンの男は伊達じゃねぇな』』


 食堂にいた連中が口々に騒ぎ出す


 そこに赤く日に焼けた緑のタンクトップにマッチ棒を楊枝代わりに咥えたボサボサの長髪の中年が現れる


 タンクトップからあらわになる素肌には隙間がない程に様々なタトゥーに埋め尽くされ、その下の筋肉には余分な肉は殆ど残されてはいなかった



「お頭には悪いが……ここで潰させて貰おうかぁ」


 場に着くとタトゥーは腕を出しシュテフィンを見据える


「お手柔らかに……」


 その剣呑な雰囲気を察したシュテフィンがそう呟き、後ろにジョシュが見守る



 流石に緊張してきたのか、近くにあったグラスの水を飲むとフレディが握り合った両者の拳を握り、間を置く


「レディ……ゴゥ!」


 その瞬間、タトゥーはマッチを吹き、シュテフィンの顔に当て、集中が途切れて怯んだ所を一気に押し込む……


 ほぼ勝負あったかに思われた時


『まだ残してる! ステ! ひっくり返せ!』


 ジョシュがテーブルを見て叫びながら応援する、事実、5ミリの隙間でギリギリ息していた感じで残してた……


「無茶を……言って……くれるぅッ!」


 タトゥーの腕を一言一言加えながら持ち上げて止めを刺す


「ふゅ~……とりあえず勝ち越せた~」


「あんちゃん、いや、旦那! あんたつェェわ!」


 タトゥーが頭を下げて負けを認め、握手を求める


 握手しながら、草臥れた腕を軽くほぐしシュテフィンは残りの二人に向かい合う


「お次は?」


「急かさんでも……ベケット! 突貫します!」


 ニヤリと笑うと場に着くとそれを見てシュテフィンは呟く


「もう勝負は……判った! その想い承った!」


 何か意を決した様にシュテフィンが呟く


 それを持ってフレディが切なそうに合図を掛ける


「レディ……ゴォ!」


『どっりゃぁぁぁぁ』


 勝ち抜いてきた男の立ち塞がる男の意地がぶつかり合う!


 だが、勝敗は非情に降る


『勝者! シュテフィン!』


 うな垂れるベケットの肩に手をおくバーニィの顔には顔と刻まれた皺と共に笑みが浮かんでいた


「さて、ラスボス登場だが……こんなにしょぼくていいかね?」


「誰がショボイって言ってんですか? に相対して言える奴ってそうは居ないですよ? 御待たせしました、!」


 腕は疲れて痺れて居るが、今までの漢達の想いが突き動かす……惚れた女を護って来た漢達を乗り越えるべく……


「良い覚悟だ小僧! 漢達の想い、そっくり呑んで貰うぜ!」


 バーニィは笑うと何時の間にか持っていたバーボンをあおるとベケットに投げ渡す


「あぶねッ! オッチャンさー、無理して腕折らんで下さいねー、もう歳なんだからぁ」


 そう言いつつバーボンをあおりながらベケットがバーニィを弄る


「うっせ! まだピチピチの50だ!」


「サバ読んでも、刻まれたほうれい線60以上は隠せませんよ!」


 ボケても突っ込むその妙間みょうま


(この二人、お笑い芸人で天下取れる……)


 ジョシュは黙りつつその間に自然に笑っていた


「さて小僧、待たせたな……まだコントはご所望かい?」


「面白過ぎてオールナイトで皆で見たいところだが……として張り倒しておかないとね……挑ませて貰う!」


「出来の良い義息子はにするから嫌なんだよ……ほい、来いよ」


 苦笑しながらバーニィが腕を出す……


『ハイ、宜しく義父さん!』


「ちょっと待て、ジュリア! 横にどいとけ!」


 腕を掴むシュテフィンの肩を持ちながら叫ぶジュリアにすかさずに突っ込む


「準備は良いかい?」


 フレディは半分切なそうに二人に尋ねる


『OK!』


 声を揃えて宣誓する……それを周囲は固唾を呑んで見守る


「レディ……ゴゥ!」


 合図と同時に二人は死力を尽くす


 遊びのような余興でも彼等は心を込めた……



「勝者、シュテフィン!」



 その途端 シュテフィン中心に歓喜の渦が起こり、ジュリアが抱きつく


 だが、シュテフィンはジュリアの腰に手を回さず、バーニィに差し伸べる


『はぁ?!』


 戸惑うバーニィにシュテフィンは笑う


「言ったろう? ……俺の度胸試しはコレからだぜ? 来いよ! みなだ!」


「仕方ねぇな……! 野郎共ボーイズ! 異論がなければ新しい頭補佐若頭をかつげぇ!」


『了解! 行くぜ野郎共!』


 周囲に屯してた保安部の猛者達がバーニィの号令の元にジュリアとシュテフィンをテーブルに載せるとベケット達が神輿の様に担ぎ上げた……


『『ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!』』


 それを面白がって装備開発部、整備部、研究部のスタッフが一緒に担いだり、煽ったりする


 それを見た亮輔と百地が懐かしそうに目を細める……


「マスターズ、どしたの? 遠い目しちゃって?」


「ジュシュさん、マスターとかニンジャとかから離れて頂ければ嬉しいのですが……ま、日本の祭で神輿ってのが有りまして……似てるなぁって」


 大穴当ててホクホク顔で掛け金取りに来たジョシュ達の質問に百地が神輿の説明を始める


「へぇ……面白そうだね……ゲオルグ教授を担いで練り歩いたら?」


「ちなみにたとえ話みたいなのが有りまして……担ぐ神輿は軽くてパーが良い……ってね」


「なにそれ?」


 亮輔の話を今度はアニーが提案するも解説を聞いて納得する……


「なるほどねぇ……教授だとそこら中で暴走しちゃうか……」


 四人が笑いあうその後ろに、満面の笑みで夏祭りに神輿を使う気満々のゲオルグが立っていた……








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