叱責
東海岸教区の長、エドワード・ヘイデン志教が仮設本部の発令室で顔を真っ赤にしながら、とりあえず報告に来たと言わんばかりのトーレスに対し怒鳴り散らす
「志祭・ニールセン! 一体どういう事か説明していただこう!」
周囲には直属の部下の志祭四人がモニター席に腰掛け、笑いを我慢しつつも、そ知らぬ顔で前面のモニターを見ていた
司令席に腰掛て叱責するヘイデンに向かい合わせで立ちながらトーレスは余裕のある表情でおちょくり交じりで説明を始めた
「で-すーかーら~、相手が
暖簾に腕押し状態でやり過ごすトーレス……だが、その
「ならば、何故、目標の研究所を先に攻略しない!? 避難民などそこに居るのだから何時でもやれるだろぅ?」
「あのですねぇ……ソシャゲかTVゲームじゃ有るまいし、この程度の練度でいきなり敵の本拠地攻めたら全滅しますよ? それに避難民の逃げた先、例の拠点は大型客船でして、我々の目の前で優雅に出航して行きましたよ…… 奴等の大きな拠点に船のドック及び最大級の客船がある報告など噂にさえ私は聞いておりません!……此処の教区の責任者は
そのトーレスの問い掛けにヘイデンは逆に激高を始める
「「なんだね? 君は≪私達が仕事をしてない≫とでも訴えたいのかね?」」
「ええ、強皇閣下もそう言っておられましたよ……一度、能力の確認をしようかと……」
「何を言ってるんだ? このクソバカは! あの強皇閣下が一介の志祭の言葉なぞ……」
激高し言葉が汚くなってきたヘイデンの話を途中で圧し折り、トーレスは先程タブレットに届いたメッセージを読み上げる
「その結果、たった今、強皇閣下の御採決が降りた、
「な、なんだと」
――パチン――
トーレスが指を鳴らすとモニター横のスピーカーからノイズが鳴り出し、トーレスに対し怒りと憎しみを込めた表情で見つめていた志祭達も驚いた顔で一斉に振り向くと、周囲を警戒しているカメラ映像を写していたモニターが一斉にヴォイスラヴの顔に替わる
モニターの向こうで渋い顔でヴォイスラヴが宣告する
「そういうわけだヘイデン君、今までの君達の一連の行動を監査部が丹念に審査した結果、教区運営や戦闘能力に適切な能力があるとは思えないと判断した……だが、我々も間違いは有る。したがって君らに能力証明の場を与える」
「能力証明の場?」
「抜き打ちテストと思ってもらえれば良い、ニールセンの配下に入り、スレイヤーを援護する試験だ……簡単だろう?」
誠実そうな笑みを浮かべながら力強く訴えるヴォイスラヴにヘイデンは渋々肯く
「はぁ……それならば……」
「よし! それならば後続の車両に予備の装備がある、頑張ってくれたまえ!」
そう、激励するとトーレスに向き直ると初陣の報告を聞く、そのトーレスはヴォイスラヴ自慢のスレイヤー達に対し、辛辣に評価を下す
「やはり単体での戦闘能力は極めて高いですが、とっさの判断や対応が甘いです。簡単な罠を力押しで突破を試み手傷を負う、S3に至っては相手を見下して舐めた処を突かれ、小隊が一時捕虜になりました……よもやと思いましたが、吸血鬼に通常装備で挑む暴挙、しかもトドメは刺さない愚挙……私が責任者なら養成機関の教官共々全員クビです」
「そうか……現場で修正は可能か?」
教官共々クビの宣告を聞き苦笑するヴォイスラヴは現地での教育に期待したが、返答は極めてドライだった
「奴らの集団戦のセンス次第でしょうね……今回の戦闘でスレイヤーシリーズの傾向として
「なるほど、貴様に任せて大正解だったようだ……して、勝負はどうだ?」
「旧スレイヤー型がタイマン勝負なら向こうの特務と互角、S3で辛勝って所ですね……集団戦ではまず負けます。戦力が違いすぎる」
はっきり言うその言い方ににイラッとしながらもヴォイスラヴは目を閉じて耳を傾ける
「
「有難う御座います」
「それでは諸君、そこをさっさと終わらせてくれ、
そう言い残してヴォイスラヴは映像ごと消えた
「さて、仮設本部と追加の宿営地を構築しておかんとなぁ……ヘイデン君、それ頼むよ」
呆然と立ち尽くすヘイデン達にニッコリと笑いながらそういうとトーレスは外に出た……リック達にしっかりと
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なにぃ?! ウチの若頭返上って……どゆこと? ねぇ?……ハンパな訳じゃ許さんぜ?」
その頃、騒ぎの収まった食堂の片隅でシュテフィンが役職の返上すると聞いて眉間に皺寄せて当惑するベネットとバーニィが今後の事に付いて話し合っていた
「いや、今はアニーの弟をNYから取り戻す事、そして一度は
『むむぅ』
三人が腕を組みしかめっ面で一斉に唸るが、シュテフィンが提案を言い出す
「その後なら……」
「それで戻ってくるんだろ? それなら俺達が
バーニィが少しホッとした顔で提案をするが、シュテフィンは次の問題に気が付いた
「あ、それと此処に戻るならゲオルグ教授に就職面談受けないとね……ただ
「ねぇシュテ、貴方どこの大学院で何の専攻だったの?」
シュテフィンの憂患を知り、ジュリアは専攻を尋ねる
「ピッツバーグ大で聴覚研究者に成りたかったんだ……博士課程で半分過ぎた頃、こんな状況にになっちゃったしね……」
「へぇ、医学系の名門じゃない! 改めて病理学課程を始めるならうちでも研究できるから良いけど……」
「姐さん! 後ろ!」
ぼそっとベネットがジュリアに囁くと後ろに
「シュテフィン君、修士課程済んでる? 学校と専攻なんだっけ?」
先程の情報を伝えると少し考えると
「なら大きく分ければ脳神経医学専攻だろう? ウチの分野じゃないか……OK、君を青田買いしよう、但し、条件がある」
シュテフィン達は緊張の面持ちでゲオルグを見る
「なんですか? それは……?」
「条件は3つ、まず、
そこでゲオルグが間を置き、皆が息を呑む
「君の父君が怒鳴り込んで来たらしっかり取り成して欲しいのだぁ~」
シュテフィンの事情を知らないジュリアとベネット、バーニィは
≪何いっとるんだ? このアホは?≫
そんな表情を露わにして呆れる
「ええ、僕で止めれるならいつでも行きますよ」
「教授、幾らシュテのお父さんが恐い雰囲気の人でもそこまでビビる事は無いんじゃないですか?」
シュテフィンが快諾するも、かろうじて父親を知るジュリアが苦笑して過剰な反応と指摘するが、幾度かあったゲオルグは至って真面目に呟く
「いいか、
いつもは気難しくもおちゃらけたゲオルグが冷や汗垂らしながら怯える事にバーニィはある事を思い出した
「こんなに教授がビビるってぇのはエメ・トゥーレに浮気がバレた時と
最初はブルブルと怯えるゲオルグをケラケラ笑ってからかうつもりだったバーニィはじっと見つめるゲオルグの眼差しにふっと過去を思い出す
自身の若い頃に殴りこんできた
「そのまさか……だよ」
見つめながらゲオルグが苦笑しつつその正体を教えると怯え過ぎて冷や汗と共にヘラヘラと笑い出すバーニィと対照的な二人が驚く
「え! あの怖そうなお父様が御神祖様!」
「マジ! 若ってガチ王子なの?!」
シュテフィンを両サイドから見るも本人は苦笑して呟く
「うちの父さんがそんな超大物だとは此処に来て知ったよ……ちなみに王子のわりには馬に乗れんけどね」
「姐さん! 玉の輿リーチですがなッ!」
ベネットが興奮して叫ぶもジュリアは苦笑して首を振り
「私は別にシュテが王子でなくても良いの……このまま二人が楽しく行ける所まで二人で行けたらそれで良いの……」
「姐さん……」
ベネットは
「まぁ、二人の行く末は二人で決めるとして……シュテフィン君、くれぐれも父君を頼むぞ!」
そう言うとゲオルグはすっと席を立ちその場を離れようとしていた
「教授! 後でお話……」
「ああ、部屋に来てくれ!」
シュテフィンが慌てて約束を取り付ける前にそう言い置いて立ち去っていった
それを見ながら一人、バーニィが覚悟を決めた
「頭ぁ……いや、ジュリア、俺は伊達に
一瞬、ジュリアの瞳がウルッと来るが、ベネットが柄にもなくしんみりしたバーニィに悪態を吐きながら弄る
「
「あ? 年寄りに対する思いやりって言うものがお前には……」
「そう言うけど年寄り扱いすると怒るくせに……」
「全く、あーいえば……」
「アンタの部下になったらこうなったんだよ!」
そこに一寸でもウルッと来た自分を恥じるジュリアが突っ込みながらいなす
「ハイ、二人とも漫才は此処までにしてね……それでは野郎共に
『へーい』
二人は立ち上がりスゴスゴと外へ向かい歩いていく
「さて、僕らも……」
「うん」
シュテフィンとジュリアは新婚夫婦のように仲睦まじく腕を組み歩いて行く……
まるで外の世界や明日も平穏で明るい暮らしが待つかのように……
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