衝撃
出て行く客船の送迎デッキに飛び出してくる護衛の保安部員より威嚇の銃撃を加えられるとリック達はコンテナに隠れ、即座に通信をトーレスに入れる
「志祭! 敵は客船で脱出するようです! 今この建物から出航します!」
「はぁ?!……
銃撃で足止めされて身動きが取れず、しかも徐々に保安部員も増えて来たが、リックはトーレスに告げる
「やれと言われれば……但し成功率は総がかりで30%程です」
既に船体は半分以上港に出ており、仮に潜入命令が出ても難易度は極めて困難と予想出来たが、リックはS1の犠牲があれば辛うじて可能と踏んだ
「そうか……ならば、そのまま保安部員を始末しながら此方に来い!」
「了解です」
事も無げに返事をするとFN P90を構え、入り口に向かいS1達を展開させる
真ん中にはハンマータイプをその後方に自分とマチェット隊を配置して進んで行く……
六人ほどの保安部員がM16を撃ちながらこちらに向かってくるが、銃弾は盾に阻まれ、その横からリックの三連バーストで怯んだ所をマチェット隊が二人一組で襲い掛かる……
一人撃たれてももう一人が致命傷を与える、顔以外ならば何処を撃たれても大概は防弾可能だからだ……腹を裂かれ、顔に容赦なくマチェットを突き刺して瞬く間に六人が瀕死で横たわる
速やかに制圧していくリックたちの前に二人組の男達が立ちはだかる……
二人は戦闘服にバンダナ2枚で覆面をした、痩せ型と小太りな男達だった
同時に二つの円筒の缶らしきものをリックの上に放り投げて二人は両サイドに走りこむ
リックは缶を催涙ガス弾と判断してFN P90で二つとも弾き飛ばす……
その途端、缶は四方に爆発する様に弾けて炎を周囲にばら撒く……
「ぎゃっ!」
もろに被ったマチェット型2名が炎に包まれのた打ち回る……中身は圧縮充填されたガソリンだった
周囲のS1達が自らのボディアーマーを脱いではたいて消火に当る最中にハンマー型とリックに物陰からほぼ同時に苦無が2本づつ投付けられる
ハンマーは盾で、リックは腰からマチェットを引き抜いて叩き落して警戒する
次は違う位置から投擲されるが今度も盾とマチェットで叩き落とされるが……今度は苦無でなく正真正銘のガス弾だった
周囲がガスに包まれ……他のS1達が刺激臭に耐え切れずのたうちまわる
その視界が閉ざされる中でも苦無がリックに向かい無数に飛んでくるがリックは余裕で全て叩き落とす……
潮風がガスを一掃するとリックのみが立っており、他のS1達も徐々に回復していく様だった
余裕の笑みで男達を捜すと正面にあるバリケードを構成するバスの上に例の二人がマチェットと大型バールを各々構えながら待っていた
(他愛もない)
リックはこの哀れな男達を射殺するべくFN P90を構える
その瞬間、いきなり後方から無数の銃弾が銃撃されて面食らう!
「なにぃ!」
二人の男達は自分達に注意を集めさせ、衛生兵を回りこませガス弾の煙幕の張られた直後に瀕死や危篤状態の保安部員に
白兵戦仕様で通常タイプより防御の硬いS1用ボディーアーマーでも消火の為に脱いでしまっては話にならない……地面に這いつくばり、防御態勢に入るも、無防備の部分で直撃を貰えば堪ったものでなく四肢に銃弾による擦過傷や撃たれてのたうち回り、ダメージを負い混乱しだす
「に、逃げるなぁ! 戦えッ!」
リックが慌てて指示するがそこにトドメが入る
覆面組が上に居たバスがバックで動き出しリックに向かって後退してくる
「チィ!」
それを再びFN P90で撃ち方向を変えようと試みる
バスの後部座席には集められた各種燃料が積載されており、着弾と共に引火し爆発を起こす!
シュテフィンが出る間際にジュリアに頼んで置いた切り札の一つだった
爆発とともにリックやS1達も吹っ飛ばされ気絶する
「おーし、保安部のみんなー!そいつら武装解除してボートで海に流しちゃえ!」
燃え盛るバスを見ながら覆面達が保安部員に声を掛け、その一人が覆面をとるとそれは百地だった
「全員数珠繋ぎで拘束して置いて≪ナメプ大好き過ぎてトーシロ2人に負けた無能兵士(Fuckin'moron)≫とメモに残しといてな」
もう一人は亮輔だった
『了解だ、助かったぜ! ありがとなニンジャーズ!』
保安部員が笑顔でそう返すと亮輔が苦笑しながら振り向いて
「君らの命が救えたのは良いけど、君らのネーミングセンスは俺らでも救えないよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バスが動いたあとのド派手な爆発の轟音が聞こえた時、シュテフィン達は最上階で下から執拗に撃ってくる狙撃手の対応に苦慮していた
「気をつけて! 壁越しでも貫通してくるよ! それにアイツはジョシュが討ち取ったはずなのに!」
鉄柱に隠れた状態のアニーが叫ぶ……スコープ越しにマクミランTAC-50で此方を狙うトーレスの姿を見て愕然として引っ込んだ
「なんだよ!? アレ! 壁まで貫通なんて反則だ!」
向こう側の柱に隠れたシュテフィンはアニーが持つバレットも同じ性能の対物ライフルな事も失念していた
トーレスは前回、存在を知らずにやりたい放題にされたアニーを先に射殺してからジョシュをやる事にしていた
完全にS2は侵入してくる保安部員達を完封していたが、こちらも決め手はない為に決定力を持つのはトーレスとアニーの狙撃銃ぐらいだったが、そのアニーは狙撃を警戒して出てこない……
しかし……トーレスに通信が入ると状況は一変した
「なんだリック!? どうして来ない?」
「えー、素人に負けて身ぐるみ剥がされた挙句に簀巻きにされた自称最強無能兵士達のアホ上司ですかぁ?」
「何ィ? もういっぺん言ってみろ!」
「やだ、それでは水葬に処すから助けてあげてねぇ……もうじきZの仲間入りだよう~」
「おい!?」
それきり通信は途絶えた……
「S2! 全員現状維持しろ! そこのお前は付いて来い」
手近にいたS2を連れて煙が立つ現場まで警戒しつつ歩く
バスは派手に燃えていて車内には外から投げ込まれた戦闘服やボディアーマーらしきものまで燃えていた
「……これは? ……!」
何かに気がついたトーレスは海に向かって走る!……
そこには全裸にされ、傷だらけで身動きの取れない状態でボートに乗せられたS1とリックが居た……
それならば戦闘が終われば回収作業に入れるだろう……
だが、そのボートの行く手の対岸に騒音を聞きつけたZの大群が大挙して押し寄せて居たのを見ればさしものトーレスも無視は出来なかった
「おい、全員撤退だ、俺はアホどもを助けるからお前は後ろを見張れ
「了解!」
S2は後ろに立ち警戒しだすとトーレスは通信機の撤退信号を出した後、立てかけてある防水テープで継接ぎだらけで補修されたゴムボートに乗り、リック達に向かい漕ぎ出した……
一方、撤退していくS2を見てマーカス達は追撃に移ろうと判断するが、まだホセが扉の前でハンマーS1と交戦中だった……ジョシュとマーカスはライフルを肩に掛け様子を見ていたが、マーカスは飽きてきていた
「ホセー、まだ遊んでるのか?」
「アホゥ! コイツと殺り合ってみろ! タフでクソめんどくせぇ!」
頭とこめかみから血を流しながらホセが話しかけてきたマーカスに怒鳴り返す
ハンマーS1も片目はすでに無く、通信機や鼻は潰されて居るがまだ闘志は朽ちては居なかった
振り下ろされるハンマーと横殴りの盾のコンビネーションをギリギリでかいくぐり膝・肘・肩などを破壊する……既に両膝の靭帯は膝蓋靭帯以外はすべて絶ち切られ筋力だけで支えられて踏ん張りも効かない状態でも攻撃の手は少しも緩まない……最後には盾を奪い取られその盾で顔面をフルスイングで張られて倒れる
しかし哀れな戦士は何のために戦うのかも知らずに関節を壊されても両足をぶるぶる震わせながら立ち上がって行くのだった
その後ろに百地がすっと立ち、後頭部にスタンガンを静かに押し当てスイッチを入れる
ピンッ!と全身が引き伸ばされた後、ハンマーS1は意識を失い地面に倒れこんだ
「もう辞めましょう、撤退時期です」
悲しみを湛えた目でS1を見ながら百地が告げる
「向こうも仲間の救出に入ってる! 僕らも帰還しないとこちらに向かってくるZに飲み込まれる!」
トーレス達と対岸のZの動向を確認してきた亮輔が駆け込んでくる
「おし、船は湾外に向かったな?」
「はい、順調に航行してます。停泊予定地の沖合いのグレイプス島に後、数時間で着くと思われます」
ホセは消毒液付きのペーパータオルで頭の血を拭いながら保安部員に行き先を尋ね答えて撤収の合図をしようとした所にランドローバーウルフが3台突っ込んできた
「なんじゃー?!」
「ホー! 真打
慌てて避けるホセの前に銀色に鈍く光る金属の盾に腰のホルスターにソードオフショットガンを収めたゲオルグがランドローバーから降り立って叫ぶ……だが、その周囲と後ろのJPの視線は冷ややか過ぎて痛い……
「あの
「う……うるせっ」
ホセの弄りに小さく呟くとゲオルグは消え入りたい気持ちを素直に出してスゴスゴと車に戻る
「おい! 教授が迎えに着たぞ! 皆! 家に帰るぞ!」
JPが大声でフォローに入ると保安部員達から歓声が上がる!
『『しょ! ちょ! お! しょ! ちょ! お!』』
亮輔達の音頭で保安部員達がチャントを上げると、凹んでいた筈のゲオルグが段々調子に乗る
「「皆ーッ! ケガねぇか! 出遅れちゃったけど家に帰って打ち上げすっぞーッ!」
『『おう!』』
この気難しいと言われるゲオルグだが、所員達に慕われるカリスマ性はこの妙に抜けた所と気遣い、調子の良さから来るとジョシュは思うのだった
そこに上からアニーとシュテフィンが降りてきてジョシュの袖を引っ張り後ろに連れ出す
「ジョシュ! ちょっと!」
「おう、おつかれ……ってどうした?!」
そのアニー達の雰囲気と顔色の悪さを見てジョシュは異変を悟った
「今回居た狙撃手、アンタが倒した筈のトーレスだったよ! 徹底的に狙われて本当にヤバかったよッ!」
「なに!?」
「確かに俺もあの時、サイドミラーで撃たれて倒れる奴を見た……けど、奴は生きてた……ドックの外装の防火隔壁までぶち抜くゴツイ銃ぶっ放して来た」
その瞬間ジョシュの額に青筋が浮かび、目の色に殺意が宿る
「あのクサレ外道……今度こそ確実に仕留めてパブロの隣に送ってやる……」
そういってHK417を掴み、走り出そうとする所をシュテフィンに肩を掴まれ、止められた
「ほい、ストップー、あのスレイヤー部隊と単独で戦うほどお前さま、強かったっけ?」
「ああぁ? てめぇ! 喧嘩売ってンのか?!」
その挑発的な物言いに即座に噛み付くが逆に噛み付き返される
「売ってるよ! このドアホ! 奴はマイケルさんとレイアの仇だぞ! 俺ら三人ででキッチリ仕留めてやんないと浮かばれねぇだろが!」
「だーかーら、俺が始末を……」
「あのなぁ! お前が死んだら俺らは大幅な戦力ダウンなの! 野郎どもは三人で考えて対応しないと勝てるものも勝てねぇだろ! このバカチンがぁ!」
シュテフィンが怒って説得する……イラつきながらもジョシュが渋々納得する
「むぅ……わかったよ」
「とにかく、皆で考えて対策立てないと……」
その後ろでアニーは
(何も出来なかった……私、ジョシュのお荷物でしかない……)
内心、凹みながら俯きバレットを握りしめた
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