初陣

 最終攻撃地点である研究所を素通りし、国道90号線をトーレス達、スレイヤー部隊を載せた兵員輸送車がひた走りながら偵察報告のあった港へ向かう


 するとトーレス達の眼前にボストンの高層ビル街が見えてくる……それと同時にトーレスはスレイヤー達に訓示次いでの気合いを入れる


「全員良く聴け、もう既に敵勢力圏内であり、ケツに一台狙撃不可能な距離を保って監視をしてる。周囲にも2~3グループは居ると見ていい……全員覚悟して事に当るように!」


『了解!』


 スレイヤー達はそのままの姿勢で正面を見据え一斉に答える


 有る者はその正確性、無駄の無い言動を素晴らしいと見るが、トーレスを含めた人間現場の人間は人間の姿に似せた機械人形みたいな薄気味悪さを感じていた


 すると運転席から連絡があり避難民達はバートリー石油科学の工場内に入って行ったと偵察兵から報告があったと教えられた


「それではそこに急行してくれ!」


 トーレスはそう指示するとタブレットで地図を広げ現場を確認し、考え込む


(解せん……一時避難とはいえ港の石油コンビナートの一角に避難民を集めるとは正気とは思えん……戦闘にでもなれば周囲は即座に火の海だ)


「何かあるな……」


 トーレスは運転手に向かい帰還予定の偵察兵に追加オーダーで避難民の収容先を調べろと依頼を出した


「了解したが……今、並走する州道20号線にバスとトレーラーハウスと護送車2台が居たぜ?」


 90号線はボストン中心部、ボストン・ローガン国際空港やフェンウェイパークの横を通るルートで最終的に南北に分かれるが、所々で州道20号線に交差する……


「なに!? バ、馬鹿野郎ッ! 早く言え! 次のインターで降りて追撃しろッ!」 


「はいよ」


 トーレスの罵声にも動じた雰囲気もなく運転手は呑気に応対するが、アクセルはしっかりべた踏みで輸送車を猛烈に揺らす。直線のコースだったのが幸いしたのか5分程度で高速を降り、目の前にあった北ハーバード通りに侵入するするとすでにそこは天下のハーバード大のキャンパス内になっており、生前は育ちも出来も良さそうな学生のZがそこら中に徘徊していた


 すると前方の橋に進入する車両隊を発見した


「ほほぅ! 運転手運ちゃんやるな……さて、相手を拝むとするか……」


 双眼鏡代わりにマクミランを手に取り車両横の窓へ行き箱乗り状態でスコープを覗き……瞬間的な怒りで戦慄いた


 そして近くに居たスレイヤーに狙撃をするから俺の脚を抑えろ!と指示を出し、ライフルを抱えて射撃体勢に入った



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「げっ! 見つかったか!」



 相手がスピードを上げたのを見てホセが判断し、避難民の乗るバスとリョートレーラーハウス組に告げる


「バスはそのまま北ハーバード通りの橋を渡り、ハーバード大キャンパスを通り抜けて一直線で船に行け! リョーのチームは付き添ってやれ! 俺らが居なくなった後、相手の車両が1ブロックまで来たらブローニングM2機関砲ぶっ放せ!」


「オッサン! どう動く?」


 ジョシュがホセに指示を請う、新兵の発想より古参の経験値だ


「橋渡ったらスモーク焚いて視界を消せ! 行き先を誤魔化してバスを守るのが必須だ!」


「あいよぉ!」


 バスをガードするようにトレーラーが、その後ろに2台のピットブルが並走しながらバスを守る


 その後方の曲がり角から兵員輸送車が現れる……


「来やがったぜ……ステ! 橋を渡り終わったらスモークを打ち出してくれ!!」


「あいよぅ!」


 その途端に天井に括りつけられている予備タイヤが爆音を立て破裂する!


「なんだぁ?! 敵か?!」


 ジョシュ達がその騒音に驚く


「にーちゃん!?」


 心配したホセが聞いてくる


「予備タイヤに弾ぁ当てて来やがった! 狙撃手がいるぜ!」


「了解! スモークで視界を消す!」


「了解! ステ頼む!」


 ほぼ同時にスモークディスチャージャーが作動し周囲を暴徒鎮圧用催涙ガス付き煙幕が覆う


 それでもジョシュのピットブルの後部窓に弾痕が刻まれる


「次来たら打ち抜かれるな……バレット級のアンチマテリアルライフルだ……」


 アニーは窓に刻まれた痕を見てそう判断した、つまり相手は最長2キロ先から攻撃可能な事を示唆した


 2キロ先を狙撃する……一瞬、ジョシュが倒した筈のトーレスの事が頭をよぎる


 一方、煙幕の前でそのトーレス達は立ち往生する


「どうしたぁ! 先に進まんかぁ!」


 箱乗り状態で脚をスレイヤーに抑えて貰い狙撃したトーレスがマクミランを構えたまま運転席運ちゃんに怒鳴る


「志祭! この煙幕はガス添付ですぜ? さっきから目がひりひりきやがる! 少し迂回しますよ!」


「突っ切れバカヤロウ!」


「駄目ですって! アンタは兎も角、兵士スレイヤーは特殊装備してないんだから……今から迂回すれば間に合いますって!」


「ちぃ! とりあえず先に現場に着くぞ!」


 車内に入るとイラついたままトーレスが席に座ると輸送車が転回し、下流の橋に向かいスピードを上げる


「それと志祭! 撃つんなら言って下さいよ! 止めるなりなんなりとしますから」


「あー、うるさい! 判ったから黙ってろ……クソジョシュアの野郎……また出やがったか……」


 運転手に文句を言われるが、トーレス自身はジョシュに報復を失敗したのが癪に障って仕方が無かった


 そうして下流の橋を渡り、川沿いを走る大通り、メモリアルドライブを一気に走り抜けて、ルーサーフォードアベニューに乗り換えると目的地である石油コンビナートが見えてきたが、その前のジャンクションから先程の車両隊が現れる……


「志祭! 狙いますか? けどここは放置車もZも多いので不向きですよ?……それか追跡してコンビナートで始末しますか?」


「ああ……追跡してくれ!」


 そう言い終えるとトーレスは深呼吸して戦闘意欲を高めていった……


 だが、ホセ達は面食らった形で迎撃する事になった


「放置車を狙って足を止めろ!」


 マーカスの号令の元、シュテフィンが上部ハッチから身を乗り出しUZIで放置車を吹っ飛ばすがそれを押し退けて輸送車が突っ込んでくる


「げっ! 止まんねぇ!」


「しゃべっとらんと撃て! 撃て!」


 マーカスが怒鳴って叱咤しながらダネルMGL-140を連射するが巧みにかわして肉薄するが後部ハッチの小窓からアニーのUZIが火を噴き輸送車のラジエーターを損傷させる……


「ちっ! 後方の本部! 攻撃を受け車が破損した! 代替えの車両を送ってくれ! しばらくしたら走行不能になる! アルフォードストリート上で停車する!」


 ハンドルを捌きながら運転手がすかさず後方の部隊に連絡するが、エンジンルームから白煙が立ち上る


「おい、ドライバー運転手! 対岸に着いたら俺達を降ろせ! お前さんはトラックの荷台に装備と銃持って昇って助けを待て! くれぐれも音を立てるなよ?!」


「了解です、志祭」


「運ちゃんと呼んで済まなかった、良い腕と判断だった、また出来たら組んでくれ!」


「有難う御座います志祭! ご武運を!」


 ゆっくりと停車をすると本格的に煙が立ち始めた……運転手が即座に言われたようにライフルと装備を背負って荷台に必死によじ登る


 装備を背負うと全員に降車号令を掛けて速やかに降りる


「リックとS2! 全員FN P90装備し、前衛を担当して寄ってくるZをヘッドショットして始末しろ、 S1は後衛で抜刀しておけ! 行軍開始」


『ハッ!』


 一糸乱れぬ動作で装備を整えると進みながらZを排除していく……


 そうして3キロ行軍すると目的地のコンビナートに着いた


「ここか……リック! 3名づつ連れて裏に回れ! 俺は正面を突く、S1前衛で正面を、S2後衛でサイドに注意しながら進め!」


「了解です」


 コンビナートの通路をトーレスは進みながら周囲と前方のスレイヤーを確認する S1、S2ともども異常な動作や仕草は見受けられない……


 行き止まりの角を左に回り、ふと横を見る……複雑に絡み合うパイプやタンクの向こう側、消火船用の水路の向こうにバスで作られたバリケードとその後ろの巨大な建物が出てくる


「ほほう……判りやすくて嫌いじゃないぜ……ってなんだぁ?」


 そこに注水完了のブザーが鳴り響く……トーレスはそれが何か判らなかったが、嫌な感じを察して建物の前のバリケードに急行し攻撃を指示する


 すると……船のディーゼルエンジンの始動音が聞こえだす……


 ジョシュはバスの影に隠れながらタイミングを計りつつ、向こう側のホセ達に目配せすると肯く


 1、2で同時に両脇の物陰から出て発砲する


 前に居た3人にこちらの銃弾にモロに当るがマチェットとハンマーを振り上げそのまま突っ込んでくる


 マーカスとジョシュは辛うじて2人の胴体部に3連射当てて動きを止める事に成功させるが、もう1人は盾を掲げて銃弾を物ともせずにホセにハンマーを振り上げる


「マジか!」


 ホセがHK416を盾にして頭部に振り下ろされるハンマーの軌道をはずしたもののライフルの機関部が木っ端微塵に破壊される


 しかしがら空きになった顔面に向かいホセが躊躇無く右の抜き手を繰り出して相手の右眼球を貫く、通常の兵士なら悲鳴を上げてのた打ち回る所だがこの相手は横殴りでハンマーを振るってきた


(な!? これがスレイヤー!)


 驚愕しながらホセはしゃがんでハンマーをやり過ごし、追撃の盾を横っ飛びでかわすが、着地したところにも援護の銃弾が着弾し再度飛びのくと腰からナイフを抜き逆手に構えハンマーS1に対峙する


 そしてその背後でマチェットの二人がゆっくり起き上がる


「ンなバカな!」


 それを見たジョシュが連射するが切れのあるサイドステップなどで素早い動きで銃弾をかわし、追撃しようにもS2からの集中砲火の援護で隠れざるをえない


「チィ!」


 バスの陰に隠れてHK417の弾倉を交換し、移動しようと顔を出そうとして……チリっと殺気を感じて引っ込める


その直後にその頭部のあった位置に特有の風切り音を出し弾が通り過ぎる


「どわっ!? やっぱスナイパーだ! みんな気をつけろ!」


 九死に一生を得たジョシュが転がりながら周囲に叫ぶ


「なんだとー! めんどクセェ相手だな! 保安部と嬢ちゃんはどこいった!」


 ナイフ片手にハンマーS1とやりあうホセが愚痴をこぼしながらハンマーをギリギリで避け、蹴りを入れる


「アニーは屋根に上がって貰ってる……もうそろそろ来るぜ!」


 その途端……ふちの方で隠れながらFN P90を連射していたS2の銃が爆散する


 残ったS2が思わず上を見る……その隙を突き、マーカスが3連バーストで銃撃して倒しすぐ伏せて移動する……狙撃手が居ると判れば撃った後は即移動が上策である


 コンビナートのメンテナンス用の高い足場でライフルを構えながらトーレスはジョシュを狙っていたが、即座に最優先の排除目標であるアニーを探す、既に見つけていた人間が居た……リックだ


 他のS1、S2をトーレスの周囲に展開させ、自分はアニーの居る最上階のバルコニーに向かいFN P90を集中させる


「げっ! 全く動けない……」


 矢継ぎ早に撃ってくる銃弾に進退窮まり、しかも少しづつ銃弾で足場を壊している気がしてた


「アニー! 中に!」


 別の窓からシュテフィンがHK417をリックに乱射して隙を生み出す


 攻撃に対し余裕でリックは身を隠すが、お陰でアニーは撤退できた


「やべぇ! 圧倒的に不利だ……」


 ジョシュは戦況を把握して次の対策を考える……そこにトレーラーハウスが後退して来た


「な!? なんだぁ?」


 トレーラーハウスの後部に5人のS2の銃弾が集中し破壊が始まるが、それを内側からぶち壊すようにブローニングM2が発射される


 カイルが腹ばいになりながら上下右左に乱射して、隙を見て斬り込もうとしていたスレイヤー達でさえ目標予測できずに後方に下がる


「なんだ、あのハチャメチャな攻撃は……」


 上に居ても弾が飛んできて隠れたトーレスがその素人ならではの攻撃に手を焼く


 そして、その2~3発がはるか上のオイルの管を貫く……そこから管に残っていた半透明な緑色の合成オイルがシャワーの様にジョシュ達とスレイヤー達の間の道路に降り注ぐ


「なっ! なんじゃ?!」


 いきなり降り注いだオイルに面食らうジョシュだがそれは同様にスレイヤー達をも混乱させる


 足場の悪い場所での実戦訓練はあるが、あくまで1対1であり機関砲や銃弾が飛んで来る中を切り込むのは初体験だった


 それでもマチェットを持ったS1が走り込み、オイルで滑らせて高速で移動しようとするが今度は路面にブローニングの銃弾が火花を散らし着火する


「S1! 負傷者を回収して退避しろ! S2は援護と攻撃を続行! リック! こちらに来い!」


 位置的に優位の筈のアニーとシュテフィンを下から狙撃で威圧しながらリックがトーレスに走り寄る


「リック、貴様は無傷のS1達を引率し迂回して敵を挟み込め! 上の狙撃手は任せろ」


「了解です」


 指示を受けたリックはハンマー型S1を先頭にして迂回するべくルートを探しに海の方へ向かうとそこには巨大な客船が建物から悠然と出て行く所だった……






















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