会敵

 先発のバスと3バカチームが研究所に到着すると直ちに残りの避難民が搭乗を開始する


「アンダーソン女史! 状況は?」


 亮輔が補給と休憩ついでに発令所に顔を出しジュリアに状況を尋ねる


「リョー、特務モーリーさん曰く、敵が近づいてきてるそうよ、けど未だに監視班の網にはまだ掛かってないの」


 腕を組み綺麗な顔を渋い顔にして地図と即席のモニターでドックの作業の進展を交互に見ていた


「なら早いとこ仕事避難終わらせないと……」


「それとリョー、コレもってって!」


 出掛けようとする亮輔に通信機を渡す


「これは?」


「研究所か監視班に敵が接触した場合、連絡取れないのアンタの所トレーラーハウスだけだから」


「ああ、なるほど、それじゃ、なんか有ったら宜しく!」


 通信機を引っ掴むとトレーラーに向かい疾走すると施設内から紙袋を5つ抱えた百地が走ってきた


「甲斐!? なにそれ?」


「お昼だよ?……僕等の分と3人組の分をフレディさんが手配してくれたそうだよ、シリルの為に身体張ってくれるせめてもの礼だって……」


「アニキ達また号泣しちゃうぞ?」


 百地の話を聞き呆れるように笑うと二人は次々とグレイハウンドバス長距離旅客バスのターミナルのような様相でバスが発着する駐車場の片隅に駐車中のトレーラーハウスに乗り込むとカイルが運転席から顔を出す


「状況は?」


「敵が湧いたらしいですね……それとシリルのお父さんから≪娘や皆の為にありがとう! どうかご無事で!≫とのメッセージと食べ物を持ってきました


『う……どういたまして……』


 百地から状況とフレディの言伝を聞いた三人が亮輔の予想通り涙ぐむ……


「とりあえず飯喰って先発バスに付き添いましょう!」


 亮輔が叱咤して元気付け、紙袋を開けると大きなピーナッツバターサンドと厚切りのハムサンドに林檎と冷却材代わりの冷えたコーラの缶が入っていた


 その場に居た全員が頬張ろうとしたとたん通信機が鳴る


「リョーカイ、居る?」


「名前繋げて呼ばないで下さいよ、なんですか? 女史」


 通信機のスイッチを入れると亮輔が突っ込みながら尋ねる


「トレーラーチームとポートランド、特務Aは全員殿しんがりでお願い!」


「え?! みんなでまとまるんですか?」


 コーラの缶を開けながらも驚いた亮輔にジュリアが指示を出す


「ええ、索敵班の報告があったの! もうじきポートランドと特務が帰ってくるからそこで合流して! それとトレーラーにブローニング載せるから、そこのリーダーに許可とって置いて!」


「了解」


 そう言って通信をきると向き直り、サンドウィッチを頬張りながら寛ぐカイル達に尋ねる


「アニキー、 機関砲あげるからここ積んで良いよね? それと飯食ったら皆で装備部行って防護服貰って来ますかね……生存率が上がるしね」


 そうゆるーく指示すると亮輔は腰にマチェットを差して本格的に準備体操をし出した



 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 港から最後尾のバスと共にホセ達が帰還すると運転席から顔色が変わったモーリーが転がり出てくる


「うわぁー、やべぇよやべぇよ、なんだこの気持ちの悪い殺意はよぅ……医務室はやく連れてってくれ!」


 そう喚くと一目散に施設内に逃げ込む


「ちっ、しゃーねぇーなー おい! エディ! エディはいるか?」


 運転手モーリーに逃げられたホセは代わりのエディを探して大声を張り上げると忙しく走り回る整備士達の合間からソーダのボトル入りの袋をぶら下げたエディが歩いて来た


「おー、そこに居たか、出番だ! 運転手を代われ!」


「了解、ほい、ボトル、そう来ると思って先に発令所でレクチャー受けてきたよ」


「お? ありがとよ! で、それはJPの指図だろ?」(ぐぇっぷ)


 エディからボトルを受け取ると一気に飲み干して大きなゲップを出した


「まぁね、でもレクチャーは俺の判断だよ」


「お、エライぞー」


「それで発令所の爆乳ねーちゃんがホセとマーカス呼んで来いってさ」


「それ、はよ言えや!」


 慌ててマーカスを呼ぶと2人は急いで発令所に入る


 そこにはジョシュ達や百地達がすでに待っていた


「悪い、遅れて済まん」


「いえ、今集まったところですから、では始めましょう」


 ジュリアはそう答えると現在の状況報告を始めた


「今から30分ほど前、此処から車で2時間程の行った西の地点、スプリングフィールドの90号線上にて敵と思われる兵員輸送車が1台、こちらに向かって来てるのを先行展開していた監視班が発見して、現在、相手と距離を取って監視してるわ」


「そいつを途中でランチャーで吹っ飛ばすのは?」


「良いアイデアだけど囮だったり、行き違うと駄目なのよ………それでね、先程、出発と到着ゲート付近で特務のエリック君に定期的に能力展開して調べて貰ったら出発ゲート5キロ圏内で偵察兵が居たみたいで”追跡する”らしき言葉を拾ったそうよ……」


 マーカスの提案をやんわり駄目出しして、その理由を提示したら今度はカイルが立ち上がった


「何だと! 避難民お嬢ちゃんが危ない! 野郎ども出………」


「はい! そこッ! 黙れッ! 止まれッ! 座れッ! まだ作戦を言ってない!」


 慌てたカイル達は立ち上がると同時にジュリアに捲し立てられる


「では女史、作戦説明をお願いします」


 その威圧的な態度に苦笑しながら亮輔はゆっくりとジュリアに説明を求めた


「ありがと、今から最終便のバスが出るが、目的が避難民だった場合はギリギリ最終便のバスが会敵する可能性がある。ならばそこに戦力を集中させ最終便を守り切り、港で避難民を船で出航させつつ保安部と3班の戦力の結集と此処から特務と保安部本隊出して、挟撃し殲滅する」


「奴等が此方に襲撃した場合は? 相手も分裂したら?」


 ジュリアの作戦を聞き終わるとジョシュが挙手し質問をする


「ここは特務Aと保安部本隊が居るからそう簡単には墜ちない、だから出航後直ちに帰還して挟撃か本部襲撃して欲しい……分裂したらタイマンで叩き潰して!」


「それと敵が予想以上に凶悪に手強かったら?」


「避難民を死守し、我々の到着を待って欲しい」


「気軽に言ってくれるぜ……了解」


 ジョシュは苦笑しながら了解すると、発令所に整備士が一人顔を出して報告した


「全車両、給油点検、武器弾薬搬入完了!」


「うむ、有難う!」


 ジュリアが礼を言うと通信機が鳴りモニターの向こうではバスがバリケードの様に何十も重なりながら壁を形成していた……それを見ながらジュリアは通信機を手に取り、スイッチを入れる


かしらぁぁ! ご依頼通りバスでバリケード形成しました!」


「うむ、了解だ、敵も現れた出港作業を急いでくれ1」


「了解!」


「それじゃ、こちらも出るか……」


 ホセが呟きながら外に出ると同時に皆それについていく……


「全員無事帰還を頼むよ! ご武運を!」


 それをジュリアが見送りながら声を掛ける


 ふとシュテフィンが背中に当る視線に気が付き、後ろを見るとジュリアが見つめていた……


 そして何故かお互い気まずそうに顔を背ける……


 それを見たジョシュとアニーが気を効かす


「3分やる、なんか話してこい」


「え? なんも話すこと……」


「無くてもいいから行って来なって……」


 渋々引き返しながらジュリアの前に立ち


「やぁ」


「やぁ、なに?」


 あからさまに構えながらジュリアは威嚇気味に聞き返すが、シュテフィンは怯まなかった


「ゴメン、僕と昔会ったっていつ頃? もしここの時代の頃の話なら、全く覚えて無いんだよ……辛うじて風景だけは覚えてる程度でね」


「あ、そう、此処で子供の頃に会った事が有るだけよ……気にしなくっていいわ」


「そうか……それは惜しい記憶を無くしたな……ありがとう、胸のつかえがちょっぴり取れた気がするよ……それとお願いがあるんだけど……」


 シュテフィンは閃いたアイディアをジュリアに告げると溜息混じりに答えた


「そういう悪戯的発想は変わらないわね……いいわ、連絡して準備して貰うわ」


「ありがと、ジュリー、じゃなー」


 そういって微笑みながら外に出るシュテフィンを見送るジュリアの顔は驚いていた


「あいつ、今、私の事ジュリーって言った……」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 駐車場にシュテフィンが出ると各車の運転担当がレクチャーを整備士から受けていた


「おう、お帰り、どうだった?」


 レクチャーを聞き終ったジョシュが整備士の挨拶を交わして向き直る


「子供の頃に会ってるらしい……全く記憶飛んでるがな」


「惜しい記憶を無くしたのね?」


「俺もさっきそう言ったよ」


 後部座席のアニーの冷やかしも苦笑で受け流すと助手席に座る


 すると最終便のバスがクラクションを鳴らしながら出発していく……


 その後ろにトレーラーハウス、ジュシュ達、そしてホセの順に駐車場を出て行くと施設の2階の窓からそれをゲオルグとJPが並んで見送っていた


 2人とも後ろで髪を結わえて戦闘服を着込み、腰にはマチェットを差して腕を組んで見ていた、ただゲオルグだけは白衣を肩に羽織っていた


「さてフィリップ隊長、準備は良いかね?」


「ええ、いつでも出れますよ」


 その眼下の施設の格納庫から外装に追加装甲を施され助手席の部分にはFN MAG汎用機関銃を装備したランドローバー・ウルフが3台とそれに付き添うトーマスとエメ達作業員達が最終点検に入っていた


 そこにゲオルグの通信機に連絡が入った……ジュリアだった


「教授! 何卒攻撃隊に私を……」


「それは駄目、君が此処で指揮を獲って貰わねばフレッドだけでは判断が厳しい」


「ですが!」


「君の想い人シュテフィンについては大丈夫だよ……やっと推論が付いたのでを百地と多羅尾に渡した……後で半殺しにされるかもだが……」


「何を?」


「戦場でのだ……親子2代で半殺しにされるのは正直、勘弁して欲しいがね」


 ジュリアの問い掛けにそう溜息混じりにゲオルグは答えると走って来たフレディが報告する


「現在、医務室でモーリー氏の感覚でこの研究所に接近しつつあるとの事です。それと薄いが大きい殺意が遠方に湧いたそうです……」


「なんだそれは?……」


 ゲオルグが意味不明だといわんばかりの表情で尋ねるとJPが助け舟を出す


「マーカスが言うには濃さは殺意の強さ、戦闘意欲の高さ、大きさは人数を指すらしいです……前の車両はかなり強い殺意を持ってはいるが人数は少なく、後ろは殺意は大した事が無いが人数は多いという所ですかね」


「ふん、ウチの家族に手を出す野郎は全員ぶっ潰す! うだうだ言っても始まらん! 何れにせよに出るぞ! ジュリア! フレディ! 此処は任せたぞ!」


 気合の入ったゲオルグはJPを伴いながら下の階へ降りるとそのまま待機中の保安部員を従えながら外へ出て行った……












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