正体

「我々、研究チームはその後、Vウィルスに対して徹底的に調べ上げた……ヴラド公を消滅させる為にね」


 ゲオルグは中座して皆にエールのおかわりとアニーにはアップルサイダーを渡して話を続けた


 そのウィルスは欧州に全土に点在する極一部の地域にのみ発生する、非常に脆弱で一定量の紫外線や硫黄化合物で消滅する。その為、一定条件の土中にしか存在できない…………


「それも昨今の環境破壊で地上より根絶しつつあるがね……」


 ゲオルグはそう皮肉っぽく呟くとエールをあおり、話を進めた


 その脆弱なVウィルスが宿主に感染すると神経細胞であるグリア細胞のミトコンドリアに隠れながらシナプスが発する電気刺激さえもエネルギーにして増殖し、身体の隅々まで行き渡る、そして紫外線や硫黄化合物で減った仲間を増殖させながら宿主が虚弱状況、危篤状態に陥るまで休眠する――


 宿主が危篤状態に陥ると徐々に本性を現し、ミトコンドリアの覚醒と改造を行い、能力の顕現と細胞の不老化を行う……日和見感染弱った所で襲ってくるからの一種の細胞の癌化とも言える


 そして土葬が多かった時代、埋葬され、紫外線から保護された棺桶から復活した人間はその能力を維持する為、暖かい莫大な栄養源を人に求める……血だ


「こうして吸血鬼は発生した訳だ……そして、原種・眷族・一般ではウイルスの型と特性が違うんだよ」


 ゲオルグは興奮してきたらしくその弁舌は止まらない


 原種のヴラド公のウイルスはV-P1プロト1と名付けられた、感染力が非常に弱いが一度感染すると身体をに換えてしまうような猛毒性を有していた


 例えば一片の細胞自体が異常な能力を保有し、DNAに傷がついても細胞内の感染したミトコンドリアが修復する、灰になっても一片の細胞から時間と環境さえあれば全身をも再生する再生能力、新陳代謝が恐ろしく強く早い為、一部の物質を除いて毒物の類が効かない、筋繊維や神経細胞、骨を代謝する骨芽・破骨細胞さえも常人以上の強化をされていた


「まるで昔のコミックの主人公だね、血清や謎の宇宙線を浴びて人体が強化されるっていうアレね。本当に途轍もないウィルスだけど紫外線や硫黄化合物……特に大蒜に含まれるアリインに弱い……クリプトンナイトねみたいにね」


 話を聴きながら、データを読み込み自分なりの意見を纏める、シュテフィンが大学院の研究生の片鱗を見せ付ける


「そこで君の原種認定なのだけど……見事にミトコンドリアは父君と同型のP1に感染していたよ」


「なるほど、そこで原種認定か……」


 ジョシュが合点がいった表情で呟く


「そういう事だよ、これは私の推定だが、能力の発現は宿主の体質次第かもしれないがな……ちなみに眷族は生存能力がほんの少し高く、強化能力が劣るR2、一般は生存能力が強力だけども微妙な能力のR3……しかもコイツ等は重複感染しないし……」


 そういいながらもゲオルグは考えながら呟く……その脳裏には更なる疑問や発想が渦巻いているのだろう


「それで、俺は普通の人間に戻れるの?」


 シュテフィンは御託はもう沢山と言った表情でゲオルグに尋ねる


「現時点では全く判らん、例えば虚弱でもない時、覚醒したと言ってたね? とりあえず吸血鬼は一度、覚醒したのならそのまま……という事はP1は活性化、つまり吸血鬼になってるんだが……君のは休眠化したまんまなんだよ……不活性化とも違うし……そしてアレルギー反応を出す大蒜、先程のマリナーラに入ってたんだけどがっつり喰ってて反応なかったし……どうなってるんだ?」


 ストレートで呆れた口調だが徐々に興味深い視線でシュテフィンを見ながらゲオルグの独演会は続く


「そもそも神祖のウィルスであるP1は未知の物であり、生体実験は色々な意味で自粛している。例えばヴラド公の様にそこそこ話が通じて、目的が同じ人物ならいざ知らず、幾ら感染力が脆弱でも動物や一般ピーポーの様なに生体実験は一つ間違えば世界流行パンデミックを引き起こしかねん……その時は人類絶滅だよ」


「え?! 滅亡って……同族間で曲りなりとも子供出来てるでしょ?」


 理化学科目が苦手で沈黙を護っていたアニーが突っ込む


「それはの卵子と技術があればね、それに血液供給の問題がある」


 原種を含めて血液を補給しないと老化が始まるが、原種は外見が90歳クラスの高齢者になるだけで死にはしないが、眷族以下は老衰して死亡する……これには調査や研究の余地があるとゲオルグは言う


「吸精鬼や全身や経口等の摂取の分派が何故起きるのか? 処女、童貞の血が能力を活性化するのはヒト成長ホルモンの成せる業だと確認できているが、老化を止めるのは何故か? なのは判っていない……人工血液に栄養剤やカンフル剤ぶち込んでも老化は始まったからね……なぁフレッド?」


 そう言いながらフレディに話を振ってジョシュ達はその哀れな被験者が誰か判った……


「アレは辛かった……20代後半の時に参加して3週間で50代の中年のおっさんになった時は泣けたよ」


 フレディのコメントを聞いてエールのジョッキを空にした後、ゲオルグは苦笑しながら当時を振り返る


「臨時のバイト助手として雇ったあのマイケルは激怒して詰め寄るわ、当時、交際中のジャニスは元に戻れなかったら ”you 判ってるよね? ”と脅しかけるし……元に戻ってくれて本当に有難うって涙目で迎えたよ」


「教授……良くここ率いていられますね」


 ジョシュが呆れた視線で突っ込むも涼しげにゲオルグはやり過ごす


「そりゃ、僕は天才だすぃ~! フレディやジュリア、モモチ達のような世界屈指の優秀な若手傑物スタッフに支えられて居ますからねぇ……でもねー、機材も人材も世界屈指だがなのはお約束なのよん」


 踏ん反り返って大威張りするゲオルグに所長・主任教授の威厳は欠片もなかった


「そういや、あの爆乳ねーちゃん、なんでステに敵意があるの?」


 呆れてものが言えなくなったジョシュが胸を揉む仕草をしながら尋ねてアニーに後頭部を殴られるが、同じく揉む仕草でフレディが答える……ジャニスが居たら同じく殴られてただろう……


「僕も先生に指摘されるまでは思い出せなかったよ……此処に検診に来てはジュリアや僕達と遊んだ記憶がある子がシュテフィン君だとは…………そういや、いつも二人でママゴトしてたな……」


「その頃からの付き合いで連絡とかしてなかったの?」


 アニーが尋ねると首を振りながらシュテフィンが突っ込む


「その時2~5歳児の間で連絡取り合うって……どんだけ俺はオマセさんだ?」


「……幼少のみぎりから既に将来の爆乳才媛を見切ってゲットしてたとは……流石、ステ王子! やりおるのぅ!」


「王子ちげーょ! 爆乳の件も今わかった事だし……オレにその当時の記憶あまり無いんだけどな……」


 そのジョシュの弄りに戸惑いながら反応するシュテフィンだがジョシュのおちょくりは止まらない


「というわけで、ジュリアへの取り成しをオナシャスー!」


「畏まり~……製品開発部長にして鬼の保安部長、ジュリア・アンダーソン女史に似合うが付けれるなら頑張らせてもらう! 彼女が性格丸くなってくれた方が所長としてやりやすぃ!」


 フレディが驚くテンションでゲオルグが援護に手を上げるが、そのフレディにダメだしをされる


「あのですね……教授、色恋沙汰それより早急に教会への対策を立てないと……」


「そうだった! 悪いがジョシュ君達はモモチの案内で住まいと車にある装備を整えてくれ、フレディ! 特務に繋ぎをつけた後、ジュリアやモモチ……ついでにタラオも呼んで、全戦闘可能な研究員と配置と説得に当るぞ、ステ君の件もその時やんぞ!」


 最後の一言で思いっきりヤル気を削がれたフレディはこのに転職を考えようかと真面目に思った……


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ボストンに向かう前にアンソニーに挨拶をして置こうとJPはホセとエリックを連れて中央執行部があるメモリアルホールに向かって歩いていた。移動先の研究所の副所長からの催促もあり、情報の裏も取れていたので早急に動く必要があったからだ


 街路樹は黄色く染まり、足元に潮風と共に舞い落ちてくる


 それを踏みながらホセは前を行くJPに尋ねる


「JP、何か仕掛けるのか?」


「いや、やるとすれば例のマルティネスにアンナの事を、ブースに次の仕事の根回しだけだ……」


 仮にボストンに罠か厄介な相手が襲来してもアンナを置いておけば多少の動きや情報を貰える筈だ、ブースは仕事の根回しと言いつつもそのリアクションでアンソニーと一枚岩かどうかを見る……アンソニーとしっかり繫がってなければ切り崩して取り込むだけだ


 ホールに着くとホセの案内でそのままオフィスにあるマルティネスの個室に直行する


「よーぉ、ちっと話せるか?」


 ホセがノックの後に顔を出すと


 気合の入ったマルティネスの顔が即座にだらける


「んだよ、ホセか……なんかようか?」


「うちのボスがアンナの見習いに会いに来たぞ」


「やぁ、君がドミニクか? 移籍の件では世話になったね」


 爽やかな笑顔で握手を求めるJPに対し、マルティネスはホセと同じ対応で握手して


「どーも」


 とだけマルテェネスは返した


「お前な……アンナの上司だぞ? もちっと愛想良くしたら?……」


「オレが男に愛想振りまくような男に見えるか?」


「見えんな……毎度の事だが女専門だったな」


 その言動に呆れたホセは頭を掻く


「ああ、だがこれからはアンナ一筋だ、アンナの上司の前だろうがアンソニー卿の前だろうが平気でのたまってやる!」


 ある意味アンナに狂っているのを確認して、ふっとJPは笑うと


「では、ドミニク、を守ってやってくれ……あの娘を泣かせたら全員でシメに来るぞ」


「お任せあれ、だが俺が泣かされたらホセと自棄酒を付き合ってくれよ? 隊長さん」


 そういって手を挙げハイタッチでしめて外へ出ると一言


「エリック?」


「聞くだけ野暮だろ?」


 仏頂面でエリックがぼそっと返す


「了解、次が本番だぞ」


 アンナのパートナーをして苦笑交じりにJPはブースの部屋に向かい歩き出す


 扉の前に行くと怒号が中から漏れてくる


「だーかーら、アンソニー! 貴方とカートが良くても本社やアメリカ政府が許しませんよ!」


「JP隊を使う? バカ言わんで下さい! 彼等は貴方こちらの手持ちの配下では切り札級……もしもーし!?」


 ノックをして直ぐに怒号が帰ってきた


「なんだ?! クビ宣告なら間に合ってるぞ!」


 JPが顔を覗かすとギョッとした顔でエリクソンが驚く


「や、やぁJP、何か用かい?」


「いや、ボストンに警護に行く前に次の作戦について聞いておこうと思ってね」


「次……いま協議中なんだよ」


「ひょっとして巷で噂の核奪取作戦ですかい?」


 隣のホセが鎌をかける


「なっ! ……は、ははっ何にをバカなことを……」


「そうだぞ、ホセ」


 いきなりの直球に面を喰らい慌てて取り繕うエリクソンと優雅にホセを咎める気も無いのに窘めるJP、その雰囲気にホセは調子付いて掻き回す


「いやね、JPにも報告したんですが、先日、ウチの隊が新隊員を募集するってデマが流れましてね。その理由の一つが……流石に俺達も呆然としまして……JP隊ウチが核を奪取して、教会の本部のあるシカゴか戦力を集結させてるクリーブランドに打ち込む作戦の為ってアホな理由なんですわ……」


「なんだって?! マジな話か?!」


「ええ、ドミニク・マルティネスも協力してくれての調査結果ですよ……」


 そう愕然と立ち尽くすエリクソンに報告するホセは内心にやりと笑う、事実、核奪取作戦の噂もあるにはあったがそれは直下部隊の話であった。本来のJP隊の噂はシカゴ本部の強皇斬首作戦とか教会最強特務チームと一戦交えるとかマーカスでさえも ”シャレにならんから勘弁してくれ” と呆れるレベルではあったが……


 暫く考えたエリクソンはスマホを指さし筆談形式に切り替えた……


「アヴェラン隊員にも娘が世話になっているし、君らの人員予算についてはいつでも言ってくれ、私が善処する」


 ”正直に言おう……アンソニーは警護先に居る穏健派と彼等の首領と目されるランバート教授を君らごと始末するつもりだ”


「それはありがたいですね。ただ、やるとするなら分隊という形で任務も難易度の低い物で錬度を上げて行かなければなりませんね」


 ”マジですか?! 我々が不手際かご不興を買ったのですか?”


 JPが会話をしながらホセが書いてみせる


「そうか……なるべく早く分隊して錬度を上げないと、難易度とか言ってられんな……ホセ、君は戦略に明るかったね? こちらに来て地図で訓練可能な作戦エリアを教えてくれ」


 ”君らは強過ぎたのだよ。直下部隊での人気が高いのが気になるから先に潰したいそうだ。それにランバート教授は遺伝子工学で屈指の権威で調べられると困る代物があるらしい”


 ”だが、その同族を見捨てるような行動は本社バートリー財団やアメリカ政府内のシンパにあらぬ嫌疑をかけられるのを避けたい……ならば最強の部隊を警護に当てましたがあらざんねーんっていうのをやりたいらしい”


 ホセは片手にスマホを持ちJP達も地図の近くに寄り説明を聞く振りをする


「はい、ピッツバーグ周辺かやはりボストンですかね……意外と水上戦だけならエリー湖も棄てがたい」


 ”なるほど……噂もあながち間違っていないのですね……核奪取は?”


「ふむ、早急な対応が必要だね……とはいえJP,君達はまだ慣熟訓練中だろ?」


 ”アンソニーは欧州出身だ、教会や政府に敗れ去る時にはアメリカ本土で核を使うのに何の躊躇いも無い……事実、調査室に核が備蓄されている基地を調べろと指令があった”


「はい、エディやマーカスの隊が合流したばかりで……前回の作戦でも負傷者が出ましたし……」


 ”それはヤバイですね……とりあえず、穏健派のコロニーに行き教授と連携して対処します”


「その対処で良い、警護先のランバート教授は非常に気難しい、補佐室のブースが《先生、その節はどうも、必要な事があれば何でも言って下さい》と伝えてくれ」


 やり取りに疲れたものの渡せる情報は渡せたエリクソン満足げには親指を立ててJP達を送り出す


「エリーック」


「白」


「了解、本当に居てくれて助かるよ」


 苦笑しながら次の階に上がるとJPの目の前にスーツ姿の秘書の女性が立っていた


「あら?」


「アンソニー卿は?」


「定時で上がったわよ?」


「そうか、ではJP隊が出立の挨拶に来たと伝えてくれ」


「了解しました」


 JPとのやり取りを極めて簡潔に了承する。仮に来たかどうかなぞ関係無くなるのがこの業界である


 エレベータに乗ったJPは溜息の後、両隣のホセとエリックに指示を出す


「よし、エディ達に連絡、荷物と機材と資材積んだら出発するぞ」


「あいよ」


 その後、貯め込んだ全ての装備を取りに工場を経由し、JP隊は一路、ボストンに向かった……ゲオルグ・ランバートの遺伝子研究所に……







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る