核心

「ジュリア、済まないが早速、保安員達を連れて準備に入ってくれ 彼についての事情は後で話す……」


「畏まりました」


 ゲオルグが機転を利かすと、鬼の形相でシュテフィンを睨みつけながらジュリアは屈強な保安員達と共に出て行った


「さて、皆、落ち着いてエールでもやるかい? コレも自家製だがな……」


 ゲオルグは手前のホームバーに引っ込むと設置してあるハンドポンプから人数分のジョッキに並々とそそいだ深い赤味ダークアンバーの掛かった茶色のエールを運んできた


「ちゃんとしたアイルランド製法で大麦麦芽100%とホップで作られたインペリアルレッドエールだ、アルコール度数と苦味が強いぞ」


 ジョシュが早速口を付ける……そして……


「さっきのピッツァと同時に出されたらマジでヤバイ……あんな組み合わせ出されたら他の物が喰えなくなる」


「本当……苦いけど美味しい……」


 アニーも勢いで呑んでジョッキを見ながら感想を述べると、それを観たシュテフィンがほっぺた腫らして笑いながら突っ込み


「うまーい……ところでアニー、いつ21歳飲酒許可年齢に?」


「ぎくっ」


「私は何も見て無いし知らない……事にしておこう……」


 エールを一口飲んだフレディが苦笑しながら提案する


「まぁ、そうしておこう……それで諸君、結果なのだが述べさせて貰っても?」


 未成年に酒類を提供したゲオルグ元凶が済ました顔で先に進める


「お願いします」


 ゲオルグを見据えながらシュテフィンが息を凝らす


「結論から言おう……君は原種だ……それも人工的に作られたね」


『はぁ?!』


「何でそうなる? 原種ってあれか、伝説そのものじゃないの?」


 三人が絶句して驚くもジョシュはゲオルグに質問をぶつける


「ついでに言えば君は此処で生まれた……かつての研究データと完全に一致した」


「ちょっと……良いかい? しっかり・俺に・説明・してくれ……どうにかなってしまいそうだ」


 想定外の連続で完全に調子が狂ってしまったシュテフィンが何とか心の均衡を保とうと勤める


 そこにフレディが少しシュテフィンに質問をする


「ちなみにお母様のお名前はジーン・メイナード女史?」


「ええ、メイナードは母の旧姓ですが……」


「そうか、やはりな……さて、過去に遡らせて話をするよ、事の起こりは1990年の夏だ……実際は1898年だが……」



 ――ゲオルグは遠い目をしながらもゆっくり話し始めた――


 1990年、その頃はまだマイケルやフレディでさえまだ生まれていない。この研究所も小規模だったが、警察や裁判の試料解析から植物の掛け合わせ的な品種改良まで幅広くやっていた


 ……そこにあの男が来るまでは……


 ある春の嵐の日、大振りな黒い傘を差し、黒いハイネックセーターに黒のシックなスーツと黒いコート……全身黒ずくめと言ったほうが早い……まさに黒衣の男だった


 背が高く、精悍な猛禽類と思わせるキツメの角張った顔立ちだが、青白い顔には生気が無くなり、黒い髪も何処と無く萎れていた……何より目に生きる希望が無くなり、悲しみに彩られていた


 受付に来たゲオルグに面会に来た人物、神祖・ウラド公ドラキュラその人だった


「え! ドラキュラって生きてたの?! 伝説のヘルシングチームに敗れて滅んだと聞いたけど……」


 その話に目を剥いて驚いたジョシュが唇にビールの泡付けたまままくし立てる


「復活している……それが彼の問題だったんだよ」


 話を聞けば、1898年、トランシルバニアから当時全盛期の大英帝国にたった数人の直属の配下と自身の強大な能力を頼りに侵攻したものの、最初の橋頭堡を作った男、弁理士ハーカーから横恋慕して奪い去った筈の花嫁ミナ・ハーカーを切っ掛けにヘルシングチームに敗れ去ったウラド公は、行く度か復活の好機を迎えたがその都度、ヘルシング教授の教え子や信奉者、教会の邪魔や妨害・襲撃を受け大勢いた眷属達も一人、また一人と狩られながらも生き残った数人の眷属達の助けを借り1950年頃、トランシルバニアの地で復活された……


 そして、その直後より国境を越え急いでイングランドに渡ったその日……ミナ・ハーカーは死去していた


 ウラド公は復讐に舞い戻ったのではなく


 一目、人の者人妻でも奪いたかった最愛の女性に会いたかっただけだった……



 そして彼は思い詰める……ミナの居ないこの世界になんの未練も無い





そう思ったウラド公は翌朝、昇ってくる朝日に身を晒し自殺した……






 しかし、その数日後、月の光の下でウラド公は復活した……その日からウラド公の煉獄は始まった――


 杭はトリネコ、 セイヨウサンザシ、ビャクシンを心臓に突き刺しても……一旦は心停止して死亡するがくいが抜け落ちたり腐ったりした時には復活する


 戦争や抗争、銃撃戦の場に現れて火炎や銃弾に身を晒して蜂の巣になろうとも……暫くすれば痛みと共に復活する


 その後、ヴラド公は40年かけて世界を廻り、地上に存在する動植物、人類の叡智の結集である科学、工学の粋を集めても殺傷せしめる物は存在しなかった……今までは……


 新しい科学である遺伝子学や核物理学に活路を見出したヴラド公は遺伝子的に解析したアプローチで死ぬ為に同族の穏健派の門を叩いたのだった


「正直困惑したよ。既にヴラド公には全ての眷属が居ないが、同族には狂信者・信奉者はそこら中に居る。実はヴラド公の依頼でも自殺の手伝いしてるのが判ったら、その翌日には我々がこの世界から滅びてる」


 そしてヴラド公に言質とった


 調査には実験動物以下の扱いでも全面的に協力する事、ヴラド公を信奉して襲撃にくる者達に説明と許しと協力を仰ぐ事、調査結果は当研究所に保管し運営の為、同族の為に使用する許可を承認する


 ウラド公はサインする時にこう言ったよ


「昔は人を殺す事にはなんの感慨も無く、ただただ女性と愛を語らい、強敵と戦って生きたかった……今は死を求め、主や神に謝罪しながら生きる……こんなに生きるとは辛い事だったのかと嘆いている」


 そうしてヴラド公と我々の果てしない研究闘いが始まった――


 身体の全ての器官、組織からバラバラに解剖して細胞を採取しDNAデータを取り、その全てを違うアプローチで消滅させても復活し、他生物の遺伝子を組み込んだり、癌細胞を発生させたりしたが悉く打ち破ってきた


「噴火口に身を投げても、深海数千メートルに沈んでも気がつくと浜辺に、冷えた溶岩に顔だけ出た状態で存在しているらしい……存在がシュールなギャグ漫画過ぎて……我々には敗北しか残されて居なかった」


 最早これまでか?! と思われた時にあの忌まわしい事件が起こった、教会による穏健派虐殺事件である


「その頃ヴラド公は休暇として東欧で打倒社会主義政府のに参加してた……居たら被害は最小限撃退壊滅的被害全面戦争かどちらかだったろうね」


 薬物型スレイヤー兵士投入により千人とも言える死傷者を出したが、ジョニー達の尽力により安全地帯であるボストン郊外の此処を得て、住民を収容しても設備も人員も世界屈指の物が揃った


 そして5年が過ぎた……ある研究員の何気ない一言が運命を変えた


 吸血鬼間で子供は作れない……だが、ヴラド公の不老不死で無敵の遺伝子ならどうだろうか?……


 その研究員は秘密裏にチームを立ち上げ、ヴラド公から精液を採取し実験に明け暮れた


「その研究員、スティーブン・リンツはマイケルの父で私の右腕であり最高の友人だった。人間に近い眷族が同族間に子が成せないのを疑問に思ったのとヴラド公が滅美ほろびが成ってもその系譜が居れば狂信者達の攻勢もかわせると思案した上での行動だった」


 実験は難航を極めた。なぜならヴラド公はだ、その精液で人工授精しても卵割が始まらない


 ありとあらゆる人種、年齢の卵子を掛け合わしたがダメだった……


 一人を除いて……


 ハーカーの嫡男、キンシーの娘、ルーシー・ハーカーの卵子で卵割が確認されたが着床までには至らなかった……ルーシーが既に高齢だったのが最大の理由だったし、人間と交わっても眷族が出来るだけである


 そこで女性眷属の卵子にルーシーの遺伝子情報を持たせて卵割させるといった方法が獲られ、母体は人間の女性研究員が志願してくてた……その結果、成功し、男の子が誕生した


 離し終えたゲオルグに空かさずシュテフィンが尋ねる


「それが俺?」


「そうだ、ちなみにその女性研究員がジーン、ジーン・メイナードだった」


「え! 母さん、此処に居たの?」


 シュテフィンが驚くと強引に話を続ける


「ところがだ、それを知って激怒した人物が居た。ヴラド公本人だ、本来の自分の希望を蔑ろにし、最愛の人の子孫にちょっかいを掛けるのが我慢が出来なかったのだ」


 ヴラド公の怒りは凄まじく、剣を腰に差して研究所に殴り込みをかけてきた、関係者とそのの抹殺に……


 警備員や保安部員の攻撃や罠を物ともせずにリンツの担当エリアに乱入した憤怒のヴラド公に対し、スティーブンはその身を差し出し、赤ん坊とその母の命の助命を嘆願した


 だが、ヴラド公は許さず、無言で一刀の元にスティーブンを袈裟切りに斬り捨ててジーンに向かうがそこで止まった……


 ジーンは産後で体調も悪いのに生まれたばかりの君を守る為、血塗れの剣を振りかぶったあの伝説のヴラド公の前に手を広げて決死の覚悟で立ち塞がる……


 ――ヴラド公の剣は止まった――


 怒り狂った自分の前にして赤子を護る為に自分を盾にするその姿に


 かつて自分の愛する人の為に、自分の身を捧げてこのを倒し、見事に本懐を遂げた最愛の人の姿を見た


 そして、赤子を見る……自分の面影とミナの面影……忌まわしきジョナサン旦那要素が有るのは仕方ないとはいえ……どこか愛おしい


 そしてヴラド公は即決した、ジーンにその場でついて来いと言い、スティーブンに血液を掛け次やったら串刺しにすると警告した


 そして僕には定期健診と此処での住まいの提供、引き続き原種の始末の仕方の研究をする様に指示し、ジーンと赤子を連れて消えた……


 そして度々、ジーンと一緒に君の検診に来るが何の異常も無く、此方も余計な詮索もせず、君が5歳になった頃には君ら家族は訪れなくなった


「なー、遺伝子が人間女性のものなら、その子供は眷族に当るのでは?……つーか、ステの親爺殿ドラキュラ御真祖かよ……ステ、良かったな~、ご希望通りの王子様だぜ?」


 重い空気に耐え切れなくなったのかジョシュが指摘しながら弄り、当人であるシュテフィンは苦笑し、ゲオルグは笑いながら答えた



「そこについては原種の定義を策定して見た……ちなみに教会ではどう言った物が原種に該当する?」


「えー、不老不死を含む複数の特殊能力を保有する吸血鬼ですね」


「なるほど……やはり教会は原初の組織と比べて著しく劣ってしまったな……まぁ、同族の認識も同じだがな……」


 遠い目をしながらもぼやくゲオルグはコンソールを操作して画面に有るデータを出す……それは有るウィルスについての詳細なデータだった


「教授、これは?」


 ジョシュが画面のデータを読むが専門用語が多くてサッパリわからない……


「我々が我々吸血鬼たる由縁さ……ちょっと遠回りな説明になるが聴いて置いてくれ」


 元々研究者であるゲオルグ達はそもそも自分達が何故、発生したのか? この力や欠点は何故なのか? を長年、調査していた……それと同時に教会の成り立ちやその元になった人々を調べ上げていた


 ところが細胞や遺伝子については細部に至るまで入念に精査しても一向に判らなかった……二つのものが揃うまでは


「ひとつが原種・神祖ヴラド公、もう一つが電子顕微鏡の発明だ」


 ゲオルグの研究スタッフはヴラド公の全ての細胞を電子顕微鏡で観察した所、あるウィルスがミトコンドリアに感染している事を突き止めた、そしてそのウィルスは全ての同族達にも形を換えて存在していた……


 それをゲオルグ達、研究チームはそれをヴァンパイヤウィルスと仮称した……





















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