第11話謎めいた少女
年が明け、3学期の始業式が済んだ。
この間、大きな異変は研究会の元には届いておらず、ヒルコが市外に出たからか侑太の父親も年が明ける前に復活している。
黒日輪は静けさを保っているが、街には鋭い感覚を持つ者にしか感じ取れない妖気が漂っていた。
都市伝説研究会一行は放課後、南区内にある踏切のそばにいた。
先週、人身事故により30分ほど電車が止まっていたのだが、惹かれたのは人間ではないという噂が流れていた。
「先週の話だから、もう撤去されてるよ。帰らない?」
「忘れ物位あるかと思ったけど、見つからね~」
道なりに進み、目を凝らして進むが異常は見当たらない。
写真が投稿されていたが、警察官達が人垣を作っているので問題の生き物の画は無い。
「人身事故からの復旧って、こんなに物々しいのか?」
「俺だって見た事ねーけど、場合によるんじゃね」
「僕も見たことないなぁ」
貞夫は線路の向こうに何げなく目をやり、立ち止まってしまった。
独りの少女がこちらを見ている。背が低く、華奢な体型の少女。色白の肌とぱっちりと開いた瞳を長い黒髪が際立たせる。鼻筋は通っており、唇は薄い。
焦る貞夫に、彼女は柔らかく微笑む。思考が漂白され、次にとるべきリアクションがわからなくなる貞夫だったが、警笛と線路を走る電車の轟音で我に返った。
少女は電車が通り過ぎる一瞬で、姿を消した。
「おーい、何か見つけたか」
「あ!?ううん、何でもない!」
貞夫は努めて平静を装い、侑太たちの元に走り出す。
今しがたの体験を侑太に知られようものなら、長い事からかわれてしまうだろう。
貞夫はすぐにこの事を忘れる事にした。美人に微笑まれて悪い気はしなかったが、自分に笑いかけたのではないだろう。
夕飯を済ませた頃には、少女のことなどすっかり忘れていたが、翌朝には思い出す羽目になった。
「突然で悪いが、転校生を紹介する――」
翌朝のHRの際、少女が姿を見せたのである。
(いやいや、ナニコレ!?何年前のラノベなの!??)
少女の名前は、油津姫(あぶらつひめ)というらしい。
油津・姫。自己紹介の後、担任教師は都合よく空いていた貞夫の隣の席を、姫に宛がった。
「昨日ぶり。これからよろしくね」
「え、え…あぁ、はい」
間近で笑みを向けられ、貞夫は俯くしかなかった。
宗司が興味のなさそうな顔で貞夫を眺めていたが、貞夫と目が合うとすぐに視線をそらした。
姫はクラスメイトによる質問攻めの中、登校初日を終える。貞夫は落ち着かない気持ちから目をそらしながら部室に向かおうとしていたが、姫に腕を引っ張られて硬直した。
「一緒に帰ろ。私、この街初めてだからさー、案内してよ♪」
「あ、ああ…」
教室に残っていたクラスメイトから、どよめきが生まれる。
朝から顔見知りらしい貞夫にも、何人かが質問してきたが、貞夫は曖昧にぼかした返答でやり過ごした。
(ど、どうしよう!?藤堂君―――いない!)
宗司の姿を探す貞夫は、既に教室を出ていったと知ると愕然とした。
女子の誘いを振りほどく度胸はない。姫に引っ張られるように、貞夫は人生初のデートに繰り出す事になった。
「――という事があったんだが、どうする?」
宗司は部室で侑太に転校生について話す。
神魔とは違うが、人間とは発する気配、あるいは魔力?受ける印象が異なっていた。
例えるなら羊の中に、一匹だけ馬が混ざっているような感覚。
「どうって目的がわからないしな…一回見てみるとしてー、とりあえず探り入れるように言うかー」
侑太は貞夫に正体を探るようにLINEを飛ばす。
ファストフード店で文面を見た貞夫は、女子とテーブルを隣り合って座っている状況で無茶ぶりをされ、泣き出したい衝動に駆られた。
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