第28話 事件の災禍

竜之介の言葉が頭の中で反響を繰り返していた。


『お前は才能だけはあっても所詮誰一人として守ることのできない三流魔術師のようだな!』


全くだ、返す言葉もない……。

俺がこの場であの魔法を開発させていなかった姉さんは大変なことになっていたかもしれない。

しかし、それを使わないでいつ使うのだろうか。

発達させたから守ることのできる命もいくつもあったのではないだろうか。


「お兄様……。」


「格好悪いところを見せたな……。」


姉さんとふたりの前では少しでも格好よくいようと思っていたのにな……。

何を守りたいのか自分でもわからなくなっていた。

これが……『魔法学院の最底辺』か……。

守るべきものを判断できないで、力だけを身に着けてしまった俺にはおあつらえ向きだな……。


「とりあえず桃は委員長に伝えてきてくれ、『敵勢力を無力化した』と。俺はこのまま姉さんを医務室まで運んでくる。」


「了解です!」


姉さんを抱きかかえたままアリーナの廊下を歩いていると、医務室のドアの前にベアトリクスが壁にもたれかかるかのように立ってた。


「目に迷いが出てマスよ。」


「少しな……。」


「茜さんは自分から戦うことを決意したのでしょう?何をあなたがそこまで気に病む必要があるのですか?」


「俺が自分のことを回復してさっさと行動に移っていれば姉さんはここまでにならなかったかもしれない。」


「仮にそうだったとしてもあなたのお姉さんではなく違う誰かが傷ついていたのではないですか?例えば……」




「『竜虎 慧』という人物とか……ネ?」




「その程度の代償で済むならむしろ安いな。」


「そうネ、自分ではそう思っているのね……でもあなたの周りはどうナノ?」


息が息苦しくなる。なぜだかわからないが今すぐ耳をふさぎこんで逃げ出したくなるようだ。

何かを口に出さなければこれはベアトリクスの言葉を肯定してしまうことになってしまう。

何かを話そうとしても俺の口からはっきりとした言葉は出なかった。


「ッ………。」


「まぁこれは私の一つの意見としてでもとらえておいて下サイ。」


「…………。」


そういうとベアトリクスはドアから離れてどこかへと歩いて行ってしまった。

俺は中に入り、医務班に事情を告げるとベッドを貸してくれたため、姉さんをそこに横たわらせた。


「では俺はこれで。」


医務室から外へ出ようとすると、ドアを開け委員長が中へと入ってきた。


「茜の容態はどうだ。」


「魔力の過剰消費による気絶しているだけです。命に別状はないかと。」


「なら良い。慧、少し二人で話がしたい。」


「了解です。」


俺は委員長についていくと休憩室のようなところへと連れてこられた。

最近は魔法祭のため、誰かしら飲み物等を買っているはずなのだが今は話が別だ。

全員まとめられて待機しているため休憩室は閑散としていた。


「ブラックでいいか?」


「はい、ありがとうございます。」


委員長は自販機でブラックコーヒーを2本買うと俺へ1つ軽く投げて渡した。


「今回の事件、お前はどう見てる?」


「どこかの国家による攻撃、と言いたいところですね。明らかに判断材料が少ないので『どこか』までは何とも言えません。奇襲のタイミングも意味不明ですしね。」


「では今の材料だけで推理し組み立ててみろ。」


「ある兵士が『祖国のため』と言っていました。そして兵士たちが着ていたものです。あれは最新鋭の魔法に対抗するための科学技術です。まだ開発されて3年もたっていない代物ですよ。製品化して量産化となるのが早すぎます。莫大な予算がないとこんなものは作れません。まぁこんなところから国がらみではないかな―っと。」


「ふむ、まぁ及第点だな。」


上から目線かよ。

多分この人はほとんど気付いているのだろう。そのうえで俺にこの問題を解かせようとする、実に趣味の悪い人だ。

俺はそんなことを考えながら委員長のほうをジト目で見ていると委員長はそれを見かねたのか俺のほうへとアドバイスのようなものをしてきた。


「灯台下暗し、だな。」


「?」


言っている意味が分からない。

しかし、委員長は答えを教えてくれることもなくそのままどこかへと行ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法学院の最底辺 カル @karu4umu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ