第19話 情報との邂逅

「二人の試合もこれから見ようかな。」


「いえいえ、気持ちだけで十分です。」


「慧ちゃん、病人は安静にしていなさい?」


「うん……わかったよ。」


俺は姉さんと桃に応援をし、一人になることが出来る環境を探しながら歩き始めた。観覧席から見ても見つかったらあとで起こられそうなので適当にふらついて時間を潰すことにした。


「やることが多すぎるなぁ……。まだSTARSのやつらが動く可能性は低いとしてもな……。」


俺の試合会場は第一試合とは違っていたためSTARSのいる来賓席ではなかった。そのため見られた可能性は低い。


「しかし……テロ集団は行動を起こすのではないだろうか……。」


魔法祭の前、俺を住宅地でいきなり襲ってきたやつらだ、俺のことを執拗につけてたのを見る限りSTARSのやつらより俺に関して詳しい可能性がある。


「慧!こんなところでどうしたのでスカ?」


後ろのほうから外国人特有のなれてない日本語で唐突に声をかけてくるものがいた。彼女は笑顔で少し小走りでこちらに向かってくる。


ベアトリクス・メステル――彼女はフランスの国立魔法学院ハイドバーツからのスパイである可能性がないとも言えない。彼女の学校個人情報データベースには、ドイツと書いてあったのだ。世界において魔法学院への留学は倍率がかなり高い、つまりベアトリクスはその中で優秀な成績を収めたということだ。


「ベアトリクスは試合ないのか?」


「私は留学のタイミングの関係で登録が出来なかったんでスヨ……。」


「そうか……せっかくの試合がな……。一つ……質問いいか?」


「ハイ?なんでしょう?」


「どうして留学が変なタイミングになったんだ?俺たちの入学式に合わせたタイミングじゃなくて。」


「それはですね……国籍やパスポートの関係でスネ。」


「国籍?」


「現在、EUにおいてはEU加盟国においてはパスポートがなくても簡単に出入りができるのデス。学校や職場においてもデスね。だから私は出身はドイツなんですよ。ですがここで問題になってくるのが私が籍を置いていたのはハイドバーツ魔法学院中等教育なんですけど……国籍はドイツのままでして……。」


「それで日本への到着が遅れたのか?」


「ハイ……お恥ずかしい限りデス……。」


「それなら仕方がないよ。俺もこの国から出たことほとんどないしね。」


「フランスのほうでは何をやっていたんだ?」


そういった途端いきなりベアトリクスの顔が曇った。そして無言で1、2拍おいた後、口を開いた。


「ごめん……国の機密事項だから言えないや。」


「それもそうだな、変なこと聞いて悪かった。」


「いやいや、そりゃあ外のこと聞きたいのが普通デスよ。今は少しいろいろとあってデスネ……。」


「ふーん。」




いろいろとはどのことであろうか。ベアトリクスはどちらの国側の人間なのだろうか。誰かを人質に取られているのだろうか。あの花はたまたま選んだだけだったのであろうか。様々な憶測が俺の頭の中で飛び交った。




俺はその後ベアトリクスもう少し話した後別れた。今日は別に桃や姉さんと帰る約束をしていたわけでもないし早めに帰ることにした。


「今日はどうしておひとり様なのかしら?」


前のほうから日傘をさして現れたのは、住宅地で俺のことを襲ったテロリストの一人だ。俺はその女の顔を見つめたまま、呆れたようにため息を一つはいてから言った。


「今日は誰とも変える約束をしていない、それにお前らなんかと一緒にいることがほかのやつらには見つかりたくないしな。それにしても尾行をやめたと思ったが俺が一人と分かった途端するんだな。暗殺でもしに来たのか?」


俺はその女の顔を見つめたまま、呆れたようにため息を一つはいてから言った。


「いえいえ、今日は別にあなたを攻撃をしに来たわけじゃないのよ。」


女は手袋をつけた手で口元を隠すように笑った。女はゴスロリとでもいおうか、今の時代の日本には全くと言っていいほどあってない服装であった。そのうえ今の時期は五月だ、季節感が全くと言っていいほどあっていなかった。


「側近の部下はどうした?」


あの日、もう一人の語尾が特徴的な俺のことを尾行していたやつもいた。


「ハンちゃんのこと?彼女は今日は学院に通っているわ。」


「お前も高校生のように見えるけどな。」


「私は特別なのよ。」


「そうかい、用件はなんだ。」


「私たちは魔法祭では行動をなるべくつつしもうということにしたの。あなたにとっては朗報ね。」


「別に朗報ではない、お前たちが嘘をつきこの学院にテロを起こす可能性がないとも言えないからな。」


俺はある程度の間合いを保ちつつ女と会話を続けた。女はまるで蔑むかのような笑い方を崩さないまま俺に問いかけてきた。


「別に信じてもらわなくて結構だけど気を張って疲れるのはあなたよ?」


背筋に冷たい汗が流れ静寂が訪れる。そして女は最後に一言残して去っていった。


「魔法祭、何も起こらないといいわねぇ……。」


ニヤつき、恍惚としたあの顔が頭から離れないのであった。


「桃と姉さん、試合どうだったかなぁ。」

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