第31話 バウダー盗賊団

 フィアナさん達を連れて、洞窟の中へと戻る。そこかしこには気絶した盗賊達が地面に倒れている。


「本当に全員無力化したのね・・・」


 それらを見ながらフィアナさんが呟いた。


「はい、数は多かったですが、あまり強くはありませんでしたよ。」

「そ、そう・・・」

「マジでぱないッス・・・」


 フィアナさん、ターニャさん、ノエルさんの他にシュラフの騎士達も一緒に同行している。騎士達は倒れた盗賊の姿を見てかなり怯えた表情をしている。僕の威圧に当てられて気絶した騎士達はもちろん起こしている。正直、あれほど広範囲に渡って届くとは思っていなかったので反省もしている。


 僕の案内の元、牢屋の前までやって来た。


「ルミエール!」


 ノエルさんは牢屋で倒れるルミエールさんを見つけるとすぐに駆け寄った。


「よかった、怪我もしてないみたい。」


 本当は回復魔法で傷を癒したのだが、話がややこしくなりそうだったので、言わないでおくことにする。


 その後、フィアナさんの指揮で牢屋にいた全ての人を外に運び出す事が出来た。


「フィアナさんとターニャさんは僕についてきてもらってもいいですか?」

「ええ、いいけど・・・何処へ?」

「実はこの奥の部屋に、この盗賊団の頭らしき人がいるんです。」

「頭・・・わかったわ。案内してくれる?」


 僕は2人を連れて、洞窟の最奥の部屋へと向かう。

 部屋には3人の盗賊が倒れており、中でも一際重厚な鎧を身につけた、大柄の男が2人の目に留まった。


「これ、バウダーじゃないッスか!?」

「右頬と額の傷跡・・・ええ、間違いなさそうね。」

「バウダー?」

「かなり名の通った盗賊団のリーダーよ。多額の懸賞金も掛けられる程にね。」


 話によるとこの盗賊団は"バウダー盗賊団"と呼ばれる、かなり名の知れた盗賊団だったらしい。中でもそのリーダーであるバウダーという男は人身売買や殺人、強盗、強姦、窃盗に恐喝などなど様々な犯罪行為に手を染める極悪人だそうだ。

 犯罪歴もさる事ながら、実力も高く、愛用の斧で殺害した人の数は百人以上にも登り、"血濡れのバウダー"と巷では恐れられていたらしい。


「へぇー。」

「「・・・」」


 正直、あまり興味が無かったので気の抜けた返事をしてしまい、フィアナさんとターニャさんからは呆れた様な顔をされてしまった。


「とりあえず、応援が到着するまで牢屋にでも入れて置きましょうか?」

「ええ、そうしましょう。でも、牢屋の鍵って壊れてるわよね?」

「そこは魔法でちょちょっと。」


 僕達は盗賊を次々に牢屋へと押し込めていった。牢屋の入り口は土魔法で砂を絡ませ、それを固めて施錠した。


「便利ねぇ。」

「こんな魔法、見たことないッス。」

「まあ、たぶん使えるのは今のところ僕だけだと思いますよ。」

「・・・でしょうね。」


 こうして盗賊達で、はち切れんばかりになった牢屋を見ながらフィアナさんとターニャさんは驚いていた。


 洞窟の外に出ると、ノエルさんが牢屋から運び出された人達の治療を行っていた。と言っても、治療する程の怪我はもう既に治癒済みだったので、目を覚ました人に水をあげたり血や泥で汚れた顔を綺麗に拭いたりしていた。


 僕はドサッと無造作に鎧で身を包んだバウダーを放り投げた。手足は牢屋と同様に砂を圧し固めたもので拘束している。

 僕は水魔法で頭から冷たい水を浴びせた。


「!?な、なんだ!?」


 目を覚ましたバウダーは身動きを取ろうと手足を動かすが、拘束されているため、それも叶わない。


「・・・シュラフの犬か。」


 フィアナさんを一目見てそう呟いた。


「御名答。あなた達の身柄を拘束させてもらったわ。これであなたも終わりね。」

「さぁ・・・そう簡単にいくかな?」


 バウダーはニヤリとフィアナさんを睨み返した。


「・・・どういう意味?」

「さぁね?」


 バウダーはとぼけた様に肩をすくめて見せる。


「・・・まぁいいわ。次期にシュラフの本隊が合流する予定だから、シュラフでゆっくりと話を聞かせてもらうわ。」


 フィアナさんは鼻で笑いながら、そうバウダーに告げるが、当のバウダーは相変わらずの笑みを浮かべて、余裕ぶっていた。


「所で、ドリトルト商会って何ですか?」

「!?何処でその話を!?」


 僕が不意に尋ねて見ると、先程までの余裕そうなバウダーの表情に焦りが見えていた。


「ノアくん、どういう事?」

「いや、実はバウダーを捕まえた時に部屋にある隠し通路に気づいたんです。で、逃げ道だと思って調べてみたら、なんか書斎みたいになってて、そこにドリトルト商会との売り買いの領収書やらがあったんです。」

「へぇー・・・そう。」


 フィアナさんはしたり顔でバウダーを見た。一方のバウダーは冷や汗を流しながら目を逸らした。


「ドリトルト商会ね。確か、トレーニー伯爵領の中心街ピュスケにある商会だったはずよ。」

「トレーニー伯爵領・・・」

「何かヤバそうな匂いがするッス・・・」


 ーその後もバウダーを問い詰めたが、これといって新しい情報は得られなかった。

 そして3日後の夕方頃にシュラフからの本隊が合流した。その間、流石に盗賊達を連れて近辺の町に身を寄せる訳にもいかないので、仕方なくバウダー盗賊団のアジトを使わせてもらった。

 思いの外、アジトはきちんと整理整頓が行き届いており、環境としては十分に過ごせるものだった。

 また、捕まっていた商人達は破壊された馬車からまだ売り物になりそうな物や、盗賊団のアジトから取り戻した商品をピュスケまで売りに行くとの事。実に商魂逞たくましい人達だった。


「フィアナにターニャ!良くやったぞ、大手柄じゃないか?」

「「ありがとうございます!」」


 シュラフから到着した本隊はレイラさんが率いていた。


「それにノアも良くやってくれた。」

「はい。」

「ただ・・・」


 そう言いながらフィアナさんとターニャさんを薄目をして見る。フィアナさんとターニャさんはビクッと体を震わせた。


「作戦を無視して特攻した事は褒める訳にはいかないな。」

「あ、すみません。それについては僕が勝手に・・・」


 "やった事です。"と続けたかったのだが、それを遮る様にレイラさんが声を上げた。


「お前たちがついていながら、ノアの暴走も止められんとは何事か!!」


 レイラさんの叱責が飛ぶ。いや、暴走て。まぁ、確かにルミエールさんを心配しての突発的行動は暴走と言われても仕方がないと思うが、流石に目の前で言われると少しショックだ。


「レイラさん、暴走じゃないです!」


 僕は膨れっ面をしながらレイラさんに訴える。


「ああ、ノアは悪くない。ノアのを止められなかったフィアナとターニャが悪い。」

「いえ、そうじゃなくって・・・いや、やっぱいいです・・・」


 何を言っても無駄だと思った。


「(さすがにノアくんが暴走したら、自分達には無理ッスよね?)」

「(ええ、無理ね。)」


 フィアナさんとターニャさんが耳打ちしていた。それはそれで失礼な気もするが、僕のせいで叱責を受けている2人には、とてもじゃないが言えない。


「まあ、説教はこれくらいにしておこう。2人は盗賊達を連れて、シュラフに帰還。その後は休暇に充ててくれ。」

「「はっ!!」」


 休暇と聞いてフィアナさんとターニャさんは今日一番の元気な返事を返していた。


「レイラさんはどうするんですか?」

「私は商人達を連れて、ピュスケに向かう。もちろん護衛もあるが、ドリトルト商会の事が気になる。」


 レイラさんにバウダーから聞いた話と、ドリトルト商会との繋がりについて説明していた。僕もそうだったが、やはり盗賊団とのつてがある商会は気にかかるようだ。


「僕もついていって良いですか?」

「ノアがか?何でまた?」

「いや、実はすっかり元気になったルミエールさんが『依頼を中途半端に投げ出すつもりは無いわ!』って息巻いてて・・・」


 先日、目を覚ましたルミエールさんは傷(僕が治した)もすっかり良くなっていた。商人達がピュスケの町に向かうと聞くとすぐに同行を願い出た。

 ルミエールさんも、戦力差があったとは言え盗賊から商隊を守れなかった事に引け目を感じていたらしく、報酬もいらないとの事だった。


「なるほどな。確かにルミエールは心配だし、同行を許可しよう。」

「ありがとうございます。」


 翌日の早朝、フィアナさんとターニャさん達はシュラフへ、僕とレイラさん、ノエルさんにルミエールさん達はピュスケへと向かった。






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