第30話 ノアの怒りと盗賊団と
逃げてきた
当時の護衛はルミエールさんを含め、20人前後だったそうで、人数的にはかなり不味い状況だ。無事だといいが・・・
「私とターニャは先攻して現場に向かうわ。」
フィアナさんとターニャさんは数名の騎士を率いて先に向かうようだ。既にシュラフへの報告は出している様で、到着次第現場で合流するとの事。
「僕も同行していいですか?」
「ノアくんが?まあ、断る理由も無いけど、危険よ?」
「ノアくんなら大丈夫じゃないッスかね?ってか、ウチらより戦力にはなると思うッスよ。」
「まぁ・・・確かに。」
「もちろん私も行くわ。」
同行する許可は得られた。もちろんノエルさんも一緒だ。
「早速出発しましょう。馬は騎士団のを使っていいわ。」
こうしてノエルさんが乗る馬に同上させてもらい、出発した。もちろん僕自身で乗馬は出来るのだが、今の体だと足が届かないのでノエルさんの前に座る形で馬に乗っていた。
「先に言っておくけど、私達の役割は現場の確認。それだけ、いい?」
「はい、盗賊を見つけてもその場で待機して、合流を待つんですよね?」
「ええ、それでいいわ。呉々も無茶はしないように。」
道中で言い聞かされた。僕らの役割は偵察がメインであり、盗賊を発見した場合も本隊が合流するまでは戦闘を控える事になっている。
場合によっては数日間待機を余儀無くされる可能性もある。
馬車を走らせること2日、盗賊に襲われたと思われる場所に到着した。
道沿いの土手に車輪が壊れて転倒した馬車の荷台が横倒しになっており、数名の盗賊や
幸いにもその中にルミエールさんの姿は無かった。
「じゃあ、とりあえずこの周辺を調べて見ましょう。」
フィアナさんが提案するも、僕には手っ取り早く見つける術があった。
『風の精霊達よ、我に力を貸し与えたまえ。』
声に出さず、頭の中でそう唱えると、辺りに精霊が集まってくる気配を感じる。そしてポンッポンッと弾ける様な音と共に、風の精霊が姿を現す。
『なになにー?』
『あそぶー?』
ポポよりも一回りほど小さな白い毛玉の様な姿の風の精霊が数体現れた。ポポは調査により不在な為、別の風の精霊に集まってもらった。
『ここらへんで商人達が盗賊団に襲われたらしい。盗賊団を探すのを手伝って欲しい。』
『いいよー』
『まかせてー』
フワフワと飛んでいく精霊の姿を見送っていると、ノエルさんが声をかけてきた。
「ノアくん、何ボーッとしてるの?」
当然、精霊の姿は他の人たちには見えていない。
「あ、すみません。ちょっと考え事をしてて・・・」
精霊の力を持ってすれば盗賊何てすぐに見つかるだろう。
『とーぞく、いたよー』
『こっちー』
早っ!ものの数秒で見つけてしまったらしい。
「あのー・・・たぶん盗賊団の居場所、分かったんですけど?」
「「「へっ?」」」
皆、当然の様にキョトンとしている。無理もない、僕自身も結構驚いているのだから。
盗賊団のアジトらしき場所は、現場からそう遠く離れてはいなかった。
道から少し外れた場所にある林を抜けると、採掘場のような岩山に囲まれた場所に出た。その岩山にはお
案内してくれた精霊にお礼を告げたが、中々側を離れてくれなかった。ついでに中の様子も見てもらおうと僕がお願いすると、嬉しいそうに洞窟の中に入って行った。
こんな時、ポポがいれば、五感のリンクで手に取るように中の様子が伺えるのだが、いないものはしょうがない。
しばらくすると、風の精霊達がフワフワと戻って来た。
『なか、とーぞく、いっぱーい』
『ろーやにいるひと、きずだらけー』
『ちがでてたー』
「!?」
たぶん、牢屋に入れられてるのは襲われた人達だろう。その中にルミエールさんもいる可能性が高い。
「フィアナさん、すみません。先にあそこに入っります。」
「え?ちょっ!?」
僕は一応、フィアナさんに告げると洞窟の前にいた盗賊の目の前に、一瞬で移動する。と同時に腹に一撃を入れて無力化する。そしてそのまま、洞窟に入って行った。あまりにも速すぎてノエルさん達には何が起こっているのか理解できていない。そうしている間に、ノアの姿は洞窟の中へと消えていった。
中は思ったよりも広く、複数の部屋に枝分かれしており、蟻の巣の様な構造になっていた。盗賊達に発見されるのもお構い無しに牢屋に一直線に向かった。突然の出来事で盗賊達も対応出来ていない今の内に牢屋を発見しておきたい。入り組んだ洞窟内を風の精霊達の案内の元、迷う事なく突き進んで目的地である牢屋のある空間に辿り着いた。
牢屋には数名の人が囚われていた。中に入れられている人達は皆傷だらけで、ほとんどが気を失って倒れている。その中に血だらけの姿のルミエールさんの姿があった。
「ルミエールさん!」
僕は思わず声を上げた。身体中至るところに生々しい切り傷が付けられており、天井から下がる鎖に両手を拘束されて、足には鉄球がつけられている。服はほとんどが破られており、その役割を果たせていない。
「ノア・・・くん・・・」
ルミエールさんは弱々しく呟いた。そしてそのまま、気を失ってしまった。
「くそガキが!やっと見つけたぜ!」
盗賊達が次々にやって来て、周りを囲んでいく。
「大人しく観念しやがれ!」
盗賊達が一斉にこちらに飛び付いてくる。僕は牢屋の中のルミエールさんを見つめて、盗賊を一瞥する事なく、魔力を放出させる。もちろん怒りの感情を込めて。
ードンッ!ー
低く響くような魔力の波が洞窟内にいる盗賊達に襲いかかる。魔力に当てられた盗賊達は一様に白目を剥いて気絶する。これでも前回の大蜥蜴の一件があったので、かなり手加減をしている。絶命までには至っていないと思う。たぶん・・・
とにかく、これで洞窟内にいた盗賊達の大半を無力化出来ただろう。それなりの精神力がある者なら今の威圧にも耐える事が出来るだろうが、精々数名程度といった所だと思う。
僕は牢屋に掛けられた南京錠を手刀で破壊すると中に入り、囚われていた人達に回復魔法をかけて回った。ルミエールさんも手足の拘束具を壊して地面に寝かせ、同様に回復魔法をかけた。身体中につけられた傷はみるみる消えてゆき、元の張りのある綺麗な肌が戻っていった。何とか傷跡も残らずに済みそうだ。
「何とか外に運び出したいけど・・・ちょっと数が多いなぁ。」
牢屋にはルミエールさんを含め、十数人の人がいて、一人で運ぶには数が多い。
「しかたない、フィアナさん達に応援を頼もう。」
粗方治療も終わり、牢屋の中で倒れている人達は意識は無いものの命に別状は無い。
僕は洞窟から出ようと、牢屋のある部屋を後にしようとしたその時、洞窟の奥から人の気配を感じた。最奥の部屋だろうそこにいる人物は十中八九、この盗賊団の頭だろう。動きがある所からすると、さっきの威圧にも耐える事が出来たらしい。
僕は洞窟を出る前に寄り道することに決めた。
ーーー
「キャッ!」
「な、なに、これ・・・」
フィアナは全身に電撃が走るような感覚に、体を
後方に控えていた、同行していた騎士達は気を失ってしまっている。
ほどなくして、アジトの入り口からフラフラと数名の盗賊が出てきたと思うと、すぐに倒れこんでしまう。恐らく先程の衝撃に当てられながらも自力で逃げ出して来たのだろう。
今すぐ出ていって、盗賊を縛り上げたい所だったが、身動きが出来ない。
そうこうしていると洞窟からノアくんが顔を出し、こちらへと駆け寄ってきた。
「すみません、ちょっと手伝って欲しいんですけど・・・」
ノアくんに声を掛けられると、全身から力が抜けるように体が自由になっていくのが分かった。
「今のって、ノアくんが?」
「あー、えーっと・・・まさかフィアナさん達にも届くと思ってなくって・・・すみません。」
どうやらやはりノアくんが魔法を使ったのだろう。そして、気絶した騎士達の姿を見ながら申し訳無さそうにするノアくんを見て、私は身震いをした。
以前、アラン団長が言っていた、『ノアは決して無暗に他人を傷つける様な事はしないが、自分が大切に思う人を傷つける様な者には容赦はしない。』その言葉が頭の中で反芻していた。
正に今、洞窟の中にいるだろう盗賊達がその対象になる。彼らは踏んではならない虎の尾を踏んでしまったんだなと理解出来た。
「そう・・・それで、手伝って欲しい事って?」
「実は、洞窟の中にある牢屋に捕まっている人達がいるんですけど、ちょっと数が多くて・・・」
「!早く助けないと。でも中は盗賊のアジトになってるみたいだし・・・」
「あ、盗賊ならもう全員無力化してあります。」
「・・・え?」
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