第27話 王都会議
ハーバルゲニア王国の首都、王都バルザーク。国内で随一の面積と人口数を持つこの国はシュラフと同じく、外壁で守られた城塞都市であった。王都の最大の特徴が約10メートルにも及ぶ高さの外壁が3つも存在していた。
街はその外壁毎に貧富の層が別れており、中心部に行くにつれて富裕層が暮らす区画になっていく。
その王都の中心に一際高くそびえ立つ城の一室にて会議が行われていた。
「国内の主要メンバーはすべて揃いました。」
控えていた男性が耳打ちをする。耳打ちされたのはテーブル席の最奥に座る女性で、白いドレスに赤みがかった金色の髪を頭頂部で丸くまとめた妙齢の女性だ。
この部屋にはこの国で暮らす人達の代表の様な人物達が並んでいた。商業や経済学、産業などの専門家のような人物達だ。
「わかりました。」
「しかしなぜフレーベル侯爵がこちらにおられるのですか?」
「それは今から説明します。ゼノフ宰相も席に。」
「はい。」
そう、国内の主要メンバーが揃っている中にフレーベル侯爵も同席していた。
「先ずは皆さん、急な呼び出しをしてすみません。今回は重要性の高い案件と言うことで、皆さんを女王である私が直々にお呼びしました。」
この妙齢の女性は現ハーバルゲニア王国の最高責任者であり、女王陛下であるマリーナ=ル=ハーバルゲニア女王だった。
女王陛下からの呼び出しだけに、皆緊張した面持ちで女王陛下からの言葉を傾聴している。
「では最初に我が国の領土であり、ここにいるフレーベル侯爵の領地であるシュラフに害獣の群れの襲撃があった事は皆も知っていると思うが、そこに悪魔の存在も確認されました。」
「悪魔ですと!?」
「ええ。この悪魔は既にシュラフの騎士団と
「悪魔を倒した・・・?」
「その件についてフレーベル侯爵から直接。」
そう言うとマリーナ女王はフレーベル侯爵に目を向けた。フレーベル侯爵は軽く頷くと早速事の顛末を語った。もちろんノアの存在に触れずに、だが。
ー
「・・・以上がシュラフで行った害獣群殲滅作戦の内容です。」
「まさか、害獣の群れだけでなく悪魔も現れおったのか。」
報告を受けた人達の表情は皆一様に暗かった。それほど悪魔と言う存在が恐れられているのだ。
「フレーベル侯爵、報告に漏れが在るのではないですか?」
マリーナ女王陛下から待ったが掛かった。
「私の私兵の一人がシュラフに訪れた際に、ある少年の話題が上っていたのですが?」
「・・・さすがは女王陛下、耳がお早い。」
さすがにこれは言い逃れ出来そうにない。まさか女王陛下の私兵がシュラフに来ていたとは気がつかなかった。
「誉め言葉として受け取っておきましょう。して、この少年の事を聞きましょうか?」
「少年の名前はノアと言います。ノアはシュラフの近郊にあるサルサ村の付近で、記憶喪失の状態で盗賊団に捕らわれているところを我が町の騎士団に保護されました。」
いきなり話題に上った少年について今一ピンと来ていなさそうな周りの人達の様子を伺いながら、話を続ける。
「ノアは我が町の騎士団の団長、アランの目に止まり、今回の作戦に騎士団の一人として参加しました。ノアは男でありながら高度な魔法を駆使して、害獣の群れを殲滅した後に、悪魔と単独で交戦し撃破しました。」
これは自ら見たわけではなく、報告の内容をそのまま伝えただけなのだ。報告を受けた際には随分と面食らったものだったが、その時の自分も今、周りにいる人達と同じ顔をしていたのだろうなと感じていた。
「フレーベル侯爵、さすがに虚言でしたでは済まされませんぞ。」
ゼノフ宰相が真剣な顔をしてこちらを見つめる。
「さすがに女王陛下の眼前で虚言を言えるほどの度胸は私にはありませんよ、ゼノフ宰相。」
下手をすれば自身の首が飛ぶ事になるのだ、その様なリスキーな真似は出来るはずもない。ましてや女王陛下はある程度情報を得ていると思ってまず間違いない。事実と異なる事を話せばそれこそ問題だ。
女王陛下はと言うと、やはり無言のままこちらを見つめていたが、口元には微かに笑みを浮かべている様に見える。
「我が国はこの少年、ノアをルシエル魔法学園に通わせます。」
「・・・それについては私も賛成ですな。未だ信じられませんが、もし話が本当であればこの少年を野放しにするのはあまりにも危険であります。」
女王陛下から前もって手紙でノアの学園行きが伝えられていたので事後報告に等しい。ゼノフ宰相の言葉に周りも頷き、同意する。
「ノアはまだ8歳、学園に通える年齢ではありませんので、入学は来年度になるかと思います。」
「なるほど、であればメリッサと同期になりますね。」
「!?」
メリッサとはマリーナ女王陛下の娘で、三女。王位継承権としては第三位にあたるが権力としては王家直属だ。
「入学までに一度顔合わせくらいはしておきましょう。」
「女王陛下!?一般人に王女様を会わせるなどとお考えですか!?」
これにはさすがのゼノフ宰相も顔を青くして意を唱えた。
「ええ。一度会わせてみても問題ないでしょう。メリッサには使者としてシュラフに向かわせるつもりです。」
「もう少しお考えになられては?王女様を使者に立てるなど・・・」
「これは女王としての命です。異論は認めません。それにゼノフ宰相も先程言ったではありませんか、野放しには出来ない、と。」
「それはそうですが、まだフレーベル侯爵の話の信憑性が・・・」
「ではゼノフ宰相はフレーベル侯爵が嘘を話していると?」
「それは・・・」
次第に言葉に力強さを無くしていくゼノフ宰相に同情しながらも、女王陛下の決断と行動の早さに驚いていた。
そのまま女王陛下に流されるまま、会議は終了し、その場で解散となった。会議室にはマリーナ女王陛下、ゼノフ宰相、フレーベル侯爵の3人が残されていた。
「何故そこまでノアくんに
「そうですね、これは私の直感です。ノアと言う少年を何としても囲いこんでおかなければならないと判断したまでの事です。」
「直感だけで王女様を?」
「あら、私の直感はよく当たるのよ?」
そう言うと女王陛下は微笑んだ。直感で国を上げて行動を起こすとは、やることが豪快と言うか何と言うか。複雑な表情でため息をつく。それは横にいるゼノフ宰相も同じで、会議が終わってからと言うもの何か思案するのに
「しかし、まだ会ったこともない上に、ノアくんの人となりもよく分からないのでは?」
「シュラフの町での評判は耳に入っていますよ。随分と町の人達に好かれている様ではありませんか?」
私兵からそこまで情報を得ているとは。ある程度情報を得ていると思ってはいたが、それほどノアに注目していたのかと、フレーベル侯爵は自身の考えが甘かった事を悔やんだ。
「将来有望な人物を今のうちから見定めておく事はこの国の為でもあります。」
「確かに、その点は同意しますね。」
「でしょう?それに私としてもメリッサの性格が気がかりと言うのもあるわね。まぁ、これは完全に私的事情かしら。」
メリッサ王女は三女として国を上げた英才教育を以て育てられた。故に一通りの教養は兼ね備えているものの、幼い頃から詰め込まれた教育過程の反動で反抗期を
「それはいい方向に向かうかどうかは分かりかねますが・・・」
「まあ、そうですね。とりあえず何かしらのあの子を変える切っ掛けになればいいという程度と考えています。」
内心では期待をしているのだろう。女王陛下の表情は国の最高責任者ではなく一人の母親のそれだ。何となく感情を察する事は出来る。
「私も女王陛下から手紙が届いてすぐにノアくんに伝えましたが、学園に行くことには興味を抱いている様でしたし、来年からは王都で過ごす事になるでしょう。」
「それは
そう言い、満足そうに微笑む。年に似合わないその笑みは恐らく見るものを魅了して止まないだろう。それをなるべく視界に置かないように
「それよりも、トレーニー伯爵は如何ですか?」
「・・・ええ、已然として領民の反発が強いようです。あまりいい噂も聞きませんが、事実確認が取れていない現状としては何とも・・・」
「そうですか、その件につきましては・・・」
「わかっています。そちらに一任しましょう。」
「ありがとうございます。」
そう言い残し、会議室を後にした。
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