第21話 宴
作戦完了から2日後、シュラフの町の広場では大きな宴が催されていた。町の中心に位置するこの広場はそこそこ広く、旅の芸人達が催し物を開いたりする場所になっているらしい。町の警備などはハーバルゲニア王国から援軍が来ていたので、彼らに依頼したらしい。特にすることも無かった様で、快く引き受けてくれた。そんな中、僕は人混みを避けるように広場の片隅に来ていた。
「諸君、よくぞシュラフの町を害獣の群れから救ってくれた!今日は皆、大いに飲んでくれ!乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
フレーベル侯爵様の挨拶と共に宴会が始まった。もちろん主役は騎士団と
「お疲れ様です、ボルドーさん。」
「おお!ノア!よくやってくれたな!」
「いえ、僕は・・・それよりも忙しそうですね?」
「なーに、害獣の群れが来たときには、俺達は町にいるしかなかったからな。せめてこれくらいの事はさせてくれ。」
手伝おうかと尋ねようとするも、直ぐ様ボルドーさんは騎士や
「ノアくん、はい!」
「ナナリー、ありがと。」
「・・・」
「大丈夫だよ。ノアくんのはブドウのジュースだから。」
ナナリーから貰った飲み物がお酒かもしれなかったので匂いを嗅いでいたら、ナナリーから中身を教えてくれた。お酒は飲めなくもないが何しろこの容姿だ、気軽にお酒など飲めるわけがない。
「じゃあ、私は他の人達にも飲み物配ってくるから。」
そう言うと人だかりの中に消えていった。手伝う事を言い出そうとするも、ボルドーさんと同じくあっという間に走って行ってしまった。僕はナナリーから貰ったジュースに口をつけた。ジュースはブドウを絞って水で薄めた様なものたったが、このジュースは思いの外美味しかった。
「おう!今回の主役がこんなところで何してんだ?」
横からアラン団長が声を掛けてきた。その横にはレイラさんの姿もあった。
「・・・(じー。)」
「な、何だ?」
「・・・いえ、おめでとうございます。」
「!!?」
その言葉にアラン団長とレイラさんは鳩が豆鉄砲を食らった様な表情で驚いていた。やっぱり作戦の後に2人の関係に進展があったようだ。2人の顔はみるみる赤みを帯びていく。それを見て僕も少し嬉しくなり、思わず笑いがこぼれた。
「お2人の仲が上手くいって何よりです。僕はお酒とか飲めないので、お2人で楽しんで下さい。」
僕は「お二人で」のあたりを強調しながら、悪戯っぽく笑ってみせた。二人はお互いの顔を見合って、赤みを帯びた顔を更に赤くしながらその場を後にした。
「・・・で?別のお2人はそこで何してるんですか?」
「ははは、バレてたか。」
「あの二人、やっと恋人同士になったのね。ここまで何年かかったかしら?」
建物の陰からルミエールさんとノエルさんが現れた。そこに合流するようにターニャさんとフィアナさんもやって来た。
「そうそう。お互いに好き合ってるのは分かりきっていたのに、なかなかくっつかなかったからイライラしてたわ。」
「あー。やっぱり皆さんも気づいていたんですね。」
「そりゃあれだけお互いの名前を出していたら、誰でも気づくわよ。」
どうやら2人の仲は僕以外に、騎士団の中でも知られていたらしい。
「ルミエールとノエルが爆発したのもわかるわ。」
「「ー!!っフィアナ!その話は止めてぇ~!」」
「爆発?」
「?ノアくん知らないの?」
ルミエールさんとノエルさんが面白いくらいに狼狽しながらフィアナさんの口を押さえようとする。フィアナさんは不適に笑うと僕に告げた。
「ルミエールもノエルも、一年くらい前まで私達と同じ騎士団に所属していたのよ。」
「!そうだったんですか?知りませんでした。」
ルミエールさんとノエルさんは観念したのか、フィアナさんの前でうなだれていた。確かにルミエールさんの弓もノエルさんの剣術もかなりのレベルだったので、元騎士団だと言うことはすぐに納得出来た。
「ルミエールとノエルは2人の関係がなかなか進展しないのに痺れを切らしちゃってね。アラン団長とレイラ隊長に詰め寄ったのよ。」
あはははと笑いながらフィアナさんが告げた。なるほど、ルミエールさんとノエルさんがアラン団長に何処か遠慮がちに接していたのはそう言う事だったのか。
「そしたら2人ともヒートアップしちゃってね。その後は暴言の嵐だったわ。」
「さすがのアラン団長とレイラ隊長も2人の勢いに気圧されて、何も言えなかったッスもんね。」
ターニャさんもフィアナさんに乗っかって、2人をいじるのに参戦した。
「何も退団する事無かったのにねぇ・・・」
「さすがに上司に向かってあんな発言しちゃったら残れないわよ。」
「あら、私達はスッキリしたわよ。」
ルミエールさんとノエルさんはムスッとした表情をしながらフィアナさんとターニャさんを睨んでいた。
「あ、そうそう。キールさんがノアくんの事探していたわよ。」
「キールさんがですか?」
「ええ。今ならたぶん
フィアナさんがそう教えてくれる。キールさんが僕を探しているのか。心当たりは・・・結構ある気がする。
「ありがとうございます。今から行ってみます。」
「そうしてちょうだい。さ、ルミエールとノエルは私達と一緒に飲むわよ!久しぶりに4人で飲みましょ!」
フィアナさんは3人をなかば強引に広場の中心へと連れて行ってしまった。僕は僕で
ーーー
「火の魔法を扱う新種の大蜥蜴に虎頭の悪魔ですか・・・よく作戦が成功しましたね。」
「それもこれもあの少年のお陰よ。あの子がいなければ今頃はシュラフの町に害獣の群れが押し寄せていた事でしょう。」
「早速、各国に報告しなければなりませんね。」
「あのー、すみません。」
「あら、ノアくん。ちょうど良かったわ。ノアくんに話があったの。」
クレアさんが近くに椅子を用意してくれたので、そこに腰かけた。
「今回は貴方のお陰で事なきを得ました。ありがとう。」
「いえ、皆さんが頑張ったからですよ。」
「確かに皆さんもよく頑張ってくれましたが、今回の作戦が成功したのは間違いなく貴方のお陰です。・・・そこで確認したいのだけど、あなたは魔法が使えるって事でいいのかしら?」
「はい、確かに使えますね。」
「何故、と聞いても?」
「うーん、僕自身も何故と聞かれると・・・ただ使えるとしか答えられないんですけど。」
「・・・そう。あのね、魔法が使える男性はかなり貴重なの。国内でも魔法が使える男性は20人程度しかいないと言われているわ。」
確かに、精霊魔法を何の契約も無しに使うのは男性にはまず不可能だ。逆に言うと、その20人は精霊と何かしらの契約を成したと言うことになる。
「男性が魔法を使える様になった事は?」
「いえ、聞いた事がないわ。今言った20人も家系的な面が強いから。」
確かに、血縁関係で生まれつき精霊との親和性が高い場合もあるのだが、それだけで精霊と契約出来るわけでもない。ましてや女性ではなく男性となると、まず間違いなく契約を成さなければ精霊魔法は使えない。
とりあえず今は、僕への言及は避けたいところだ。
「そうですか・・・キールさんは僕が記憶を失っているって事は?」
「ええ、聞いています。」
「それに関係があるかも知れません。実のところ僕自身もよくわからないんで・・・」
「ノアくんの失った記憶に何かしらの情報があるかも知れないですね。」
記憶喪失と言う逃道を多用するのはよくないと思いつつも、やっぱり使ってしまう。便利な言葉だからしょうがないよね?
「そうね、本人に聞いてもわからないのであれば仕方ないですね。話題を変えましょう。貴方が戦った悪魔は倒すと同時に消えてしまったのよね?」
「はい。」
「討伐の証拠も残らない。本当に厄介な存在ですね。」
確かに討伐した事がわかるような物を残さないため、本当に倒したのかどうかの判断が難しい。
「本当は悪魔を討伐した報酬をあげたい所何だけど、ごめんなさい。個人的には幾らか用意するから、それで我慢してちょうだい。」
「いえ、別に報酬とかはいらないですよ。さすがに他の騎士や
「そう言って貰えると助かるわ。ありがとう。」
騎士や
「それにしても貴方は不思議ね。強さといい、物分かりの良さといい、本当に8歳の子供かしら?」
「ーーーはい。早くお酒とか飲める様に成りたいです!」
「・・・」
たぶんキールさんは何となく言っただけなのだろうけど、油断していただけに内心ではかなり焦っていた。確かに見た目は8歳だが、中身は19歳のそれだ。言動に違和感を感じるのも無理はないと思う。僕は精一杯子供の口調で答える。これからは言動にも気を付けないとなぁ
「それはそうと、貴方の強さはこの町にとってもそうだけど、他の国も放ってはおかないでしょう。私としてはしばらくこの町にいて欲しいと思っているわ。」
「僕も、しばらくはこの町から出る予定も無いですし、そうしたいと思ってます。」
「そう・・・それを聞いて安心したわ。」
キールさんは本当に安心したのだろう。大きく息を吐くとテーブルに頬杖をついた。
何れ《いずれ》は出ていく事になると思うけど、しばらくは行く宛もないし、ここに滞在する事になるだろう。先の事はゆっくりと考えればいいだろう。
クレアさんが僕とキールさんの前に紅茶を置くと、2人して紅茶に口をつけた。その後はキールさんとクレアさんと僕の3人で談笑しながら一時を過ごした。
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