第17話 害獣群殲滅作戦
侯爵様の行動は早かった。翌朝、
「ノアくん!掲示板はもう見た?」
「はい、害獣の群れがシュラフに迫っているそうですね。」
「大変な事になったわね。」
ルミエールさんとノエルさんが駆け寄ってきたので挨拶をして話をする。
「ルミエールさんとノエルさんは参加するんですか?」
「うん。
「私もよ。他の
掲示板の前にいたガダルさんが
「皆さんこのシュラフの町が好きなんですね。」
「そりゃそうよ。生まれ育った町なんだから、嫌いなヤツなんていないよ!」
「ルミエール!ノアくんは・・・」
「あっ、ごめんね!そう言うつもりじゃなかったの!」
「いえ、大丈夫ですよ。今の僕にとってはこのシュラフが故郷ですし、好きなのは皆と同じです。」
僕がこの町の生まれじゃない事を思い出して慌てるルミエールさんに笑顔で答えた。僕にとってはシュラフが故郷みたいなものだし、この町は好きだ。それは間違いない。
「ノア!お前は相変わらずいいヤツだな!」
「ぐふっ!!」
ガダルさんがやって来て、僕の背中を思いっきり叩いた。ムッとしながらガダルさんを見ると僅かに涙ぐんでいた。何ともやりづらい。そしてガバッと抱きついてきた。
「お前はこの町に来てから日が浅いのにもうすっかり俺達の一員だな!がははは!」
「ちょっとガダル!ノアくんが可愛そうじゃない!」
「あんたみたいな筋肉馬鹿とノアくんを一緒にしないでくれる?」
ノエルさんがガダルさんから僕を引き剥がしてくれた。ガダルさんは力加減が苦手なようだ。スゴく好い人何だけどなぁ。
僕が苦笑いをしていると、
「皆、掲示板は確認したか?早速、作戦について説明するので、カウンターの近くに集まってくれ。
まず、騎士団と
そして集中砲火を免れた残りを騎士団と
そしてそれでも殲滅出来なかった場合はシュラフ町まで後退し、町の外壁を利用して最終防衛戦を行うという三段階構成だ。とてもシンプルな作戦故にわかりやすい。第二段階までの所で何とか事を終わらせたい所ではある。
「女性は魔法による遠距離攻撃の後、近接戦闘に移る者と、引き続き遠距離攻撃を行う者に別れる。」
最初の攻撃は害獣の群れに魔法を放つだけなので簡単だ。だが混戦状態になれば味方への誤射が出る可能性があるため、攻撃に正確性がある者が残り、それ以外は近接戦闘に移ると言うことだ。
「どちらに回るかは各自で判断し、この用紙に名前を記入してくれ。次に男性陣だが、基本は近接戦闘にて対処してもらう。出撃の合図は騎士団のアラン団長が行うので、合図が出たら害獣を各自で撃破してくれ。」
男性陣の近接戦闘の一択だ。この世界で魔法が使える男性はほとんどいないらしいし、当然と言えば当然の人選かな。男性陣の中でも弓や投擲武器を扱う者もいるみたいだが、そこは自身の判断でとのこと。
「戦場はシュラフの町の郊外にある草原地帯を想定している。万が一ここでの戦闘で殲滅し切れなかった場合は、打ち漏らした害獣がシュラフに押し寄せる。合図が出たら速やかにシュラフの町まで後退し、町の外壁を利用した防衛戦を行う。後退の合図は、アラン団長と私が行う。何か質問や意見がある者はいるか?」
そこで
「よし、作戦の決行は3日後だ。それまで各自で武器の手入れや体調管理を済ませるように。以上、解散。」
キールさんの解散宣言と共に
「ルミエールさんとノエルさんはどうするんですか?」
「私は遠距離攻撃の組ね。魔法はそこまでだけど、私には弓があるしね。」
ルミエールさんは遠距離攻撃に残るようだ。確かにルミエールさんの弓の腕前は一緒に狩りをしていた時から知っていたので納得出来る。
「私は近接戦闘に移るわ。チマチマした戦いは性に合わないわ。」
と言うのはノエルさん。確かに剣術が得意な様で、常に剣での戦闘を意識していた。
「ノアくんはどうするの?町で待機する?」
「いえ、僕は騎士団の方達と一緒に参加する事になってます。」
「なってます?」
「はい。フレーベル侯爵様より一時的に騎士団に所属して今回の作戦に参加するように言われてます。」
「「フレーベル侯爵様!?」」
「アラン団長と一緒に屋敷に呼ばれて、そこで話を聞いて来ました。」
「アラン団長の差し金ね・・・本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。それより2人はアラン団長と親しいんですか?」
「「ソンナコトナイヨー。」」
「・・・まあ、いいですけど。」
そう言うと2人は目を泳がせていた。
ーーーーーーーーーーーーー
「稽古はしばらく出来そうにないですね。」
「お?ノアか。ああ、残念だが作戦が終わるまで無理だろうな。」
訓練場の片隅にいたアラン団長に声をかけた。
「作戦の内容については聞いたか?」
「はい、
「そうか、なら話は早い。お前はレイラ隊長と同じ部隊に所属してくれ。」
「?レイラさんの部隊ですか?」
僕はてっきりアラン団長と共に行動するものだと思い込んでいたので、少し驚いた。
「お前はレイラ隊長と共に魔法による集中砲火に加われ。と言っても、お前は魔法が使えないからその時は待機だな。」
「どうしてですか?最初からアラン団長と一緒に近接戦闘に参加した方が効率的だと思いますけど。」
「まあ聞け。第一段階の魔法による集中砲火の後に遠距離部隊と近接戦闘部隊に別れるのは知っているな?」
「はい、それも聞いています。」
「レイラは近接戦闘部隊だ。お前はレイラと共に俺達の後から追撃させる予定だ。」
アラン団長率いる第二段階の近接戦闘が始まった後、レイラさんと一緒にアラン団長達を追う形で戦闘に参加するようだ。
「レイラの部隊に入れたのは・・・まぁ、その内わかるだろう。早速レイラん所に挨拶に行ってこい。」
釈然としないままアラン団長に言われた通り、レイラさん達の部隊の元に訪れた。
「レイラ隊長。今日からしばらくの間、お世話になります。」
「おお!ノアか。アラン団長に君を入隊させると言われた時には驚いたぞ。」
「まぁ、成り行きと言いますか。」
そりゃそうだ、まだ子供の僕が一時的にではあるが騎士団に入団するのだ。驚かない方が驚きだ。
「ノアくんッスか?久しぶりッスね!よろしくお願いするッス!」
「あ、ターニャさん。あの時はいろいろお世話になりました。」
「いいッスよ。これも騎士団の勤めッスから!」
「あらターニャ、いつまでサボっている気かしら?ノアくんごめんね、また後で改めて挨拶するわ。」
「げっ!」
「フィアナさんもお疲れ様です。また後程。」
「あら、名前覚えてくれてたのね。嬉しいわ。またね。」
フィアナさんはターニャさんを引きずって訓練へと戻って行った。
「すまないな、騒がしくて。しかし君と一緒に戦う事になるとは思っても見なかったが・・・本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫というと、戦力的な意味でですか?」
「まぁ、アラン団長が見込んだのだ。大丈夫だとは思うのだがな・・・どうしても信じられんのだ。」
アラン団長から僕の戦力について説明は受けているみたいだけど、やっぱり信じてもらえてなさそうだ。
「そうですね・・・信じてもらえるかはわかりませんが・・・」
僕は近くにあった丸太の前に、木剣を持って歩いて行った。丸太は騎士の人達が打ち込みをするための物らしく、至るところに傷がついていた。僕は横に木剣を構えると、思いきり丸太に打ち込んだ。
バキッ!
木が折れる音と共に、僕の木剣が丸太に深々と抉り込んでいた。
「「「!?」」」
「あれ?斬り倒すつもりだったんですけどダメでしたね。」
僕の木剣は丸太を斬り倒すには至らず、真ん中を過ぎた辺りで止まってしまっていた。レイラさんや他の隊員達も目の前の出来事があまりに衝撃的だったのかこちらを見つめたまま固まっていた。
「・・・あの丸太が人間だったらどうなってたッスかね?」
そうターニャさんが呟き、隊員達は顔を青くして唾をゴクリと飲み込んだ。
ーーー
「がっはっはっは!そりゃ見たかったぜ!」
アラン団長が爆笑していた。
「僕はただ十分戦えるって所をアピールしたかっただけなんですよ・・・」
「アピールするのに、木剣で丸太を叩き割る何て誰も思わねーよ!」
「ギリギリ割れませんでしたよ!」
相変わらず笑い続けるアラン団長にどうでもいいツッコミをしてしまった。
僕が丸太に一撃入れたあと、レイラさんも含めて部隊の人達にドン引きされていた。よかれと思ってしたものの完全に裏目に出てしまった。
「まぁ、あいつらには俺から言っておくから気にすんな。」
「お願いします。」
トボトボと訓練場を後にすると、訓練場の方から風切り音が聞こえ。訓練場を覗くと、レイラさんが大きな木剣で素振りをしていた。持ち手の所には白い布が巻かれていたが、その布に赤い血が滲んでいた。
「レイラさん!まだ訓練していたんですか?」
「はぁはぁ、ああ、ノアか。まぁな、騎士たる者、日々の訓練は欠かさない。」
「やりすぎですよ!血だって出てるじゃ無いですか。」
レイラさんの手のひらには幾つもマメが出来ており、潰れたマメから血が出ていた。僕は持っていたハンカチを巻きながら、こっそり回復魔法をかけた。
「・・・ノアは何故そこまで強くなれたんだ?」
治療をしているとレイラさんから尋ねられた。
「私は強くなりたい。強くなるためなら何だってする。私が憧れた人がそうであったように、私もそうありたいのだ。」
アラン団長と模擬戦をした際にもアラン団長も言っていた。レイラさんが憧れた人とは恐らくそうなのだろう。
「強くなるためなら何だってする!あの人に追い付ける日が来るのであれば私は・・・」
「レイラさんは何の為にそこまで強くなろうとするんですか?」
「私は・・・」
そう言うとレイラさんは俯き、黙り込んでしまった。アラン団長は言っていた、ただ強くなりたいから強くなるんだと。しかしレイラさんはアラン団長に追い付くために強くなろうとしている。それは自分の為であって自分の為じゃない。それにレイラさんは気づいていない。
「はい、終わりましたよ。」
「・・・すまないな。」
「レイラさん、強くなるのは悪いことじゃないと思います。ですが強くなる事の意味を履き違えたらダメですよ。」
「・・・覚えておく。」
「それにレイラさんはアラン団長のお気に入りなんですから、もっと自分を大切にしなきゃですよ。」
「!?な、な、何を言っている!アラン団長が私の事を気に入っているなど・・・馬鹿にするにゃ!」
あ、噛んだ。予想以上の慌て振りに思わず笑ってしまい、レイラさんは真っ赤な顔で僕を睨んでいる。
「すみません。でも、これでレイラさんもわかったんじゃないですか?」
「!」
アラン団長が言っていた意味が何となくわかった。でもこれを見越してレイラさんの部隊に僕を入れたのだとしたら、アラン団長も大概に過保護が過ぎる。
僕は真っ赤な顔でブツブツと独り言を話すレイラさんを尻目に訓練場を後にした。
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