第14話 ノアの実力
翌日レストラン猪亭での手伝いを早めに切り上げて、騎士団の訓練場へと向かった。訓練場に着くと、アラン団長が待っていた。
「お待たせしました。」
「おう、待ってたぜ。」
辺りを見渡すと、他の騎士団の人達が一人も見当たらなかった。訓練場には僕とアラン団長の2人きりだ。
「単刀直入に聞く。昨日、あの熊を仕留めたのはノア、お前だな?」
「!?そ、そんな訳ないじゃないですか!?」
バレてた!?いや、あの場でボロは出していないし、何より年端もいかない子供が熊を倒すなどと考えが至る方が難しい。しらを切り通せば何とかなるかも。
「これでも騎士団の団長を勤めているんだ、人を見る目には自信がある。お前がただの坊主じゃない事ぐらいすぐにわかった。」
ダメでした。じゃあ
「・・・確かに、熊を仕留めたのは僕ですが、それがここに呼ばれた理由と関係があるんですか?」
「あぁ。俺と模擬戦をしてくれ。」
「それを受けるとして、僕にメリットはあるんですか?」
「お前ワケ有りだろ?色々と力を貸す事は出来ると思うぞ。」
うぐ。それは結構魅力的だ。騎士団の団長からの力添えがあれば秘密の1つや2つは隠し通せるだろう。
「それに今、訓練場にいるのは俺とお前だけだ。人払いは済ませておいた。」
なんて準備がいいんだ。完全に僕が模擬戦を受ける前提で行動している。
「わかりました。模擬戦をお受けします。」
騎士団団長と言う強力な後ろ楯を得られる機会などそうそう無いだろうし、断る理由が見つからない。
「おし!じゃあ、獲物は訓練用の木剣があるからそれを使ってくれ。」
こうして僕達はお互いに木剣を選んで、訓練場の真ん中に立った。
正直、獲物は何でも良かったので適当に選んだ。対してアラン団長は巨大な大剣を選び、僕の目の前でブンブンと素振りをして構えを取る。もちろん木製だが、僕の背丈くらいあるんじゃなかろうか?
「よし、準備が出来たらいつでも掛かってこい!」
「では、アラン団長の胸をお借りします!」
そう言って、アラン団長に向かい突っ込む。アラン団長は頬を緩ませながら僕の姿を目で追う。
僕は数発ほど斬撃を放つが、いづれも受けられてしまう。ならばとスウェイで団長の側面に回り込みながら胴に狙いを定めるが、団長は後に飛び退き回避した。
「なるほど、良い剣裁きをする。」
「恐縮です。」
内心アラン団長の戦闘能力の高さに驚いていた。これほどまでに剣を打ち合わせられるとは思っていなかった。
「では、今度はこちらから行かせてもらう!簡単に終わってくれるなよ!」
ニィと不適な笑みを見せて大剣を横に構え、上体を低く落とす。と、突然アラン団長の体内魔力が高まり、循環しはじめた。
「ーっ!?これは!?」
「はぁっ!!」
アラン団長が勢いよく地面を蹴り、こちらに迫る。大剣からヒュンという大剣とは思えない風切り音がする。これは受けると吹き飛ばされるな。
僕は頭上に飛び、団長の横凪ぎをかわすが、アラン団長の視線は僕を完全に捉えていた。
ニィと不適な笑みを浮かべると、地面を蹴りこちらに向かって距離を詰め、再び大剣を振るって来た。
「はぁあっ!」
空中でまともに受ければ後方へと弾き飛ばされてしまう。僕は剣でアラン団長の大剣を受けると同時に体を回転させて衝撃を逃がす。回転しているついでにアラン団長の額に一撃を入れるが、首を傾けてかわされた。額には入らなかったものの、アラン団長の右肩に剣の一撃が入った。
「おー痛ぇ!」
加減はしたものの、意識を刈り取る程の強さで放ったにも関わらず、アラン団長は「痛い」の一言で済ませてしまった。
「俺の連撃がいなされた上に反撃を受けるとは、お前、化け物か?」
「化け物呼ばわりは酷いですよ!」
じわじわと摺り足で距離を計りながら移動する。気づけばいつ頃からか降り始めた雨により地面が
大粒の雨を弾くかの如く互いに地面を蹴る。アラン団長の剣の握りを見ると持ち手の幅がほとんど無い。連撃を前提とした剣の持ち方だ。
通常であれば剣の持ち手の幅が狭いと打ち合わせた際、安定性を欠いてしまうのだが今の団長には問題無いだろう。
団長の一撃目を上体を落としてかわし、続く二撃目を剣で受け流す。団長の頭を狙って剣を振るうが、団長は上体を反らせてかわす。
「なっ!」
僕の振るった剣が上体を反らせているアラン団長の真上でピタリと止まる。そしてそのまま下へと降り下ろした。団長は体を捻らせて何とかかわした。元々寸止めするつもりだったのだ、剣を止めて降り下ろしに繋ぐくらいは簡単に出来る。だがアラン団長から見ると剣が急に軌道を変えて襲って来たかの様に見えただろう。
それよりも今の動き方はやはり身体強化魔法だ。人体構造上不可能に思える動きでも、身体強化されたとなればそれも可能になる。
「はぁはぁっ!」
距離を取った団長は肩で息をしていた。アラン団長を観察すると確かに身体強化魔法を使ってはいるが、循環する魔力に無駄が多い。例えて言えば、針に糸を通す為に全身の筋肉を動かしている様な非効率さだ。魔法を理解した上で使っているのであればこうはならないはず。
「やはり無意識で身体強化魔法を使っているのか?」
「ー?、何だ?何か言ったか?」
息を切らしながら団長が尋ねてきた。
「いえ、何でもないです。それよりどうします?天気も悪いですし、ここら辺で止めときませんか?」
「・・・もう一打だけ、付き合え。」
降り続く雨の影響で、地面は泥濘、水溜まりが出来ている。そろそろ閉め時だろう。
「わかりました。次の打ち合いで最後にしましょう。」
「よし。っふぅー・・・行くぞ!」
アラン団長はまず間違いなく身体強化魔法を使っている。が、団長に魔法を使っている自覚はなく、無意識に行っている。そのため無駄が多く、肉体にその影響が出てしまっていた。ここまでが限界なのだろう。
僕はアラン団長の剣撃を何回か受けてつばぜり合いに持ち込んだ。魔力の消耗が見て取れる。僕は団長の大剣を巻き取る様に剣を捻らせて、
「!!?」
アラン団長の大剣が手を離れてくるくると上空へと巻き上げられた。僕は更に一歩踏み込み、団長の額目掛けて突きを入れる。そして寸前の所で止めた。そして上空に巻き上げられたアラン団長の大剣が泥濘んだ地面に突き刺さる。
「・・・はぁー。降参だ。」
アラン団長が両手を挙げて宣言した。僕も剣を下げて、その宣言を受け取った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
模擬戦の後、アラン団長の執務室までやって来ていた。アラン団長が孤児院のサマンサ院長宛に、僕の帰りが遅くなるという断りを入れていたらしく、時間の心配はしなくてよかった。まったく、本当に気遣いの行き届いた人だ。
そこで僕が記憶を失っていると言う提で話した。覚えているのは両親が死んでいる事と、戦い方はお父さんに教えてもらった事を伝えた。
「はぁ。記憶喪失ねぇ・・・お前を鍛え上げた男とは一度話をして見たかったが、当分は無理そうだな。」
アラン団長はあっさりとその事を受け入れてしまった。
「その・・・アラン団長は信じて下さるんですか?」
「まぁな。不可解な点もあるが、嘘を言っている様にも見えないしな。」
両親が(前の世界で)死んでいるのも事実だし、この世界につての記憶が無いのも事実だ。事前情報無しで神々により連れて来られたのだから記憶が無いも同然だろう。
「お前さんを見込んで一つ頼みがある。」
「頼みですか?」
「ああ。お前さんの都合がいい日で構わないから、俺に稽古をつけてくれないか?」
「僕がアラン団長にですか!?」
「他に誰がいる?」
「いや、いろいろと問題があるんじゃ・・・僕みたいな子供に稽古なんてつけられたら団長としての立場上よろしくないんじゃないですか?」
「そんな子供に俺は負けたんだがな。」
「それは・・・」
クククと笑いながら団長は言ってきた。確かに、団長であればきちんと鍛えて身体強化魔法を使うことが出来ればまだまだ強くなるだろう。
「それにな、俺は強くなるためなら何だってしてきたんだ。今さら子供に稽古をつけられる事なんざどうって事ない。」
アラン団長は強くなることに対してはかなり貪欲な人らしい。そういった人間は僕も好きなんだけど・・・
「アラン団長はどうしてそこまで強くなろうとするんですか?」
何の為に力を求めるのか、それが重要だ。それがこの世界の為になるのであれば吝か《やぶさか》じゃない。でもその逆であるのならばと考えてしまう。
「そんなの決まっているだろ?俺が強くなりたいからだ。団長として以前に騎士として同然だろう?」
そう言って歯を見せながらニィと笑った。その発言に一切の偽りが無いことが分かった。アラン団長は純粋に強くなりたいと望んでいる。それは子供が抱くような強さへの憧れだ、何の建前も
「・・・わかりました。たまにで良ければお付き合いしますよ。」
「ホントか!?後からやっぱりやめますとかは無しだぞ!」
「わかってますよ、責任は持ちます。でもそれでアラン団長が強くなるかは・・・」
「よっしゃあ!早速なんだが稽古をつけてもらう日程を決めようか。明日は・・・ダメだ、会議があるし明後日は・・・大丈夫だな!じゃあ、ノア、明後日に稽古をつけてくれ!」
言葉を遮られながら、アラン団長に捲し上げられてしまった。まるで新しい玩具を与えられた子供の様なはしゃぎ様に笑わずにはいられなかった。こうしてアラン団長の師匠として稽古をつける事が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます