第13話 ララの初恋
孤児院で朝食を済ませて、後片付けをしていた。この孤児院に来た当日、皆に料理を振る舞ったあの時から、ほぼ毎日の様に食事の準備をしていた。
後片付けも終わり、今日の予定を考えながら院内を歩く。今日は猪亭がお休みなのでルミエールさんとノエルさんを誘って狩りに行こうか考えていると、こっそりと孤児院を抜け出すララの姿があった。
「ララ?」
「!?」
後ろから声を掛けると、ララが驚いてこちらを振り向いた。
「ノアくん、ついてきて!」
ララに手を引かれてそのまま孤児院を出る。
「ノアくんお願い、一緒に
「それは別にいいんだけど、サマンサ院長に言わずに出ちゃって良かったの?」
「うん。」
「なるほど。理由はわかったけど、どうやってナフタの森に行くつもりだったの?」
「
さすがに一人では町の外に出られないので
「あ、それならいい
「ホント!?」
「こんにちは、ルミエールさん、ノエルさん。」
「あらノアくん、今日はデートかしら?」
ルミエールさんがニヤニヤと笑みを浮かべながら訪ねて来た。ララはと言うとルミエールさんとノエルさんを目の前にして僕の後に隠れてしまった。そんなララの様子に苦笑しながら、用件を伝えた。
「なるほど、わかったわ。お姉さん達がナフタの森までついて行ってあげる。」
「ありがとうございます。」
「・・・あ、ありがと。」
消え入りそうな声でララもお礼を告げてナフタの森へと向かった。表面上では山菜の採集依頼を受けると言う形でパーティーを組んた。ナフタの森につくと、花畑がある場所へと向かった。
森の中の一角に、背の高い木々が生えていない空間があり、そこには沢山の花が色とりどりに咲き誇っていた。
「じゃあ、私達は適当に山菜や野うさぎを探しているから。ノアくんと一緒ならまぁ、大丈夫でしょう。」
そう告げると、ルミエールさんとノエルさんは森の中へと入っていった。それからララと一緒に花束用の花を積んで回った。
花畑の奥の方は崖になっており、誰が建てたのかご丁寧に柵や看板まで建ててあった。
その柵の向こう側に一際鮮やかな白色の花が咲いていた。
「危ないから止めときなよ!」
「大丈夫だから、ノアくんはそこで待ってて!」
ララがその白色の花を摘もうと柵を越えて崖のギリギリ立っていた。何本か白色の花を積んで満足そうにこちらに戻って来ようと立ち上がった時、突風が吹いた。
ララは突風に煽られバランスを崩すと、崖から足を滑らせた。
ーーーーーーーーーーーーーー
今日はサマンサ院長のお誕生日だ。10年前に孤児院の前に捨てられていた私を優しく迎え入れてくれたその日から、サマンサ院長が私のお母さんだった。そんなサマンサ院長のお誕生日には毎年、花束をプレゼントしていた。
でも今年は、その花束を自分が用意すると決めていた。花束を作る計画を立てて孤児院を抜け出そうとしていた時に、不意に背後から声を掛けられた。
「ララ?」
私はビックリして振り返ると、そこにはつい先日この孤児院にやって来たノアという少年が立っていた。
このままでは折角立てた計画が失敗してしまう。そう思った私はノアくんを共犯者に加える事にし、計画を打ち明けた。
意外な事にノアくんはあっさりと受け入れてくれた上に、知り合いの
ノアくんは声を掛けてくれる
「こんにちは、ルミエールさん、ノエルさん。」
「あらノアくん、今日はデートかしら?」
デ、デ、デ、デートってあれだよね?大人の男の人と女の人が一緒に遊ぶってやつだよね?そ、そ、そんな恥ずかしい事・・・
「ははは、違いますよ。」
私が慌てふためいているのを他所に、ノアくんはと言うと冷静に受け流していた。
「こちらがルミエールさんとノエルさん、よく僕と一緒に狩りの依頼を受けてくれるんだ。それでこちらがララ。僕と同じ孤児院の子です。」
え?今、狩りって言ったよね?ノアくん、狩りなんてしてるの?
「こんにちは、ララちゃん。よろしくね。」
「・・・よ、よろちく。」
混乱しているとルミエールさんが優しく挨拶してくれた。私は思わず噛んでしまった。恥ずかしいっ!
と、そこでもう1人の・・・ノエルさんの方を見ると、何故か私の事を凝視していた。正直、物凄く怖い。思わずノアくんの背中に隠れてしまった。
そんな私を見てノアくんは苦笑しながらも、事の経緯について説明してくれた。
「なるほど、わかったわ。お姉さん達がナフタの森までついて行ってあげる。」
「ありがとうございます。」
「・・・ありがと。」
相変わらず私の方を見つめるノエルさんに怯えながらも、私達はナフタの森へと向かった。
ルミエールさんが適当に依頼を受けて、パーティー申請してくれた事で、スムーズに事が運んだ。
そしてナフタの森のお花畑にやって来た。辺り一面に咲き誇る花々に見とれてしまうのは女の子あれば当然だろう。
ルミエールさんとノエルさんは森の中へと行ってしまった。こんな場所で子供達だけにしてしまって良いのだろうかと疑問に思いながらもノアくんと花を摘んでいった。
花畑の奥を見ると、一際綺麗な真っ白のお花が咲いていた。私は一目見て、この花を花束に入れたいと思った。
ノアくんが止めるも、私は柵を乗り越えて崖のギリギリに咲く花を摘んだ。たぶん罰が当たったのだろう、私が立ち上がった途端に突風が吹いた。風に煽られた私は崖の方へとバランスを崩してしまい、足を滑らせた。
「ララ!!」
まるで時間がゆっくりと流れる様な感覚。折角摘んだ花を離すまいと抱き抱える。私に出来たのはそれだけだった。恐怖で目を閉じる。
「ララ!大丈夫?」
その声に恐る恐る目を開けると、ノアくんの顔が視界に入った。どうやら抱き抱えられているようだ。ノアくんがゆっくりと私を地面に下ろす。
辺りを見渡すと木々が鬱蒼と生い茂っている。どうやら崖の下まで落ちた様だ。でも・・・
「え?何で?私、崖から落ちて・・・」
「うん、上手く着地出来たよ。」
「着地って・・・」
上を見上げると10メートルはあろうかと言う崖がそびえ立っていた。とてもではないが人が落ちて無傷でいられる高さでは無いだろう。呆然としながらノアくんを見ると、困った様に笑いながら頬を掻いていた。その様子を見て思わず私も笑ってしまった。
「無事で良かったよ。」
ノアくんの言葉に、心臓がドクンと大きく鼓動したのがわかった。顔が熱くなり呼吸が荒くなるのがわかるのに、何故かノアくんの顔から目が外せなかった。
「?」
ノアくんはまったく気づいていないようで、不思議そうな顔をしていた。今まで同年代の男の子と言えば孤児院で一緒に暮らす子達ぐらいしか見知った子はいない。
しかし孤児院の男の子はどちらかと言うと家族の一員に過ぎず、それ以上の感情は特に無かった。でもノアくんは違った。ノアくんを見ると体が熱くなり、目が離せなくなってしまう。自身に芽生えたこの感情にどう向き合えばいいのか分からない。
『どうしよう・・・ノアくんの顔を見ると何も考えられなくなっちゃう・・・』
自身の感情と葛藤していると、不意にノアくんの表情が険しくなり、森の方を見つめている。何事だと思い、ノアくんの目線の先を見ると、木々が大きく揺れてガサガサと音を立てていた。次第にそれは近くなり、やがて私達のすぐ近くまで来ると、その正体がわかった。
グルゥ!
真っ黒な毛色をした巨体が茂みの中から姿を表した。
「ひっ!熊!?」
本物を見たことは今まで無かった。たまに
逃げようとノアくんの方を見ると、ストレッチを始めていた。私の視線に気づいたノアくんが優しく微笑んでくる。あぁ、カッコいい・・・ってそんな事考えている場合じゃ無い!
「ノアくん!逃げなきゃ!」
「大丈夫だよ。僕、意外と強いから!」
そう言い残すと熊に向かって飛び出して行った。熊が手で叩き潰そうとするがそれをヒラリとかわす。まるでその攻撃が来るのを知っていたかの様に熊の攻撃が外れる。懐に潜り込んだノアくんは熊のお腹に両手の掌を当てる。そして、グッと踏み込んだ瞬間、ドンッ!と言う鈍い音が聞こえ、熊の巨体がゆっくりと前に倒れる。そしてバキバキと熊の背後にあった木が数本、大きな音を立てながら熊と一緒に倒れて行った。
「ね?大丈夫だったでしょ?」
呆然と立ちすくんでいた私にノアくんが声を掛けてくる。
「おーい!ノアくん、ララちゃん、いる?」
「ルミエールさん!こっちです!崖の下まで来れますか?」
「崖の下!?何でまた。迂回すれば行けるから、ちょっと待ってて!」
しばらくすると、ルミエールさんとノエルさんがやって来た。さすがの2人も倒れている熊を見て絶句していた。
「それじゃあ、帰えろうか?」
「あ、そういえばお花が・・・」
私は手に持っていた花が、強く握ってしまっていたせいで萎れてしまっている事に気づいた。折角摘んだ花を入れていたカゴも崖の上に置いて来ちゃったし。
「ララ、ちょっとごめんね。」
「へ?きゃっ!」
そう言うと突然、ノアくんが私をおんぶした。
「しっかり捕まっててね!」
そう言うと、助走をつけて崖を駆け上がっていく。文字通り、走って駆け上がっているのだ。崖の上に到着した私は無事に白色の花とカゴを回収することが出来た。
「良かった。じゃあ、ルミエールさん達の所に戻ろ!」
「うん。了解。」
そう言うとノアくんは崖の方に歩き出した。
「あの、ノアくん何処に行くの?」
「?何処って・・・崖の下?」
「まさかとは思うけど、飛び降りる気?」
「うん。そっちの方が早いし。」
「絶対、止めて!」
ノアくんは崖を飛び降りるつもりだったようだ。私としては只でさえトラウマものの出来事だったのだ。断固として断った。一方のノアくんはと言うと「えー。」と文句を言いながらも渋々迂回して行く事になった。
「?どうしたの、いきなり笑いだして?」
「ううん。何か面白くって。さっきまで凄く怖かったんだけど、何かどうでもよくなっちゃった!」
「そっか。」
こうして私はノアくん一緒にルミエールさん達が待つ所へと向かった。
ーーーーーーーーーーー
その後、
あまりにも大きな熊で
実は今日掲示されていた依頼の中に熊の討伐依頼が出ていたらしい。ルミエールさんが受けていた依頼の山菜を納品し、ノエルさんが機転を利かせて、熊の討伐依頼を受理したことでまとまった報酬が手に入った。
解体までの間、熊は
「で?この熊を倒したのって誰なの?」
ルミエールさんとノエルさんがお互いに見合い、そして僕を見た。
「私達で倒したわ。」
実は
「2人だけでよく倒せましたね。」
「「・・・」」
ルミエールさんとノエルさんが苦笑いしていた。
「本当にですよ!2人がいなかったら今頃どうなっていたことか・・・」
2人にフォローを入れておく。
「邪魔するぞ。」
「ア、アラン団長!?
「あぁ、キールにちょっと用があってな。そのついでだ。で?
「あ、それでしたらルミエールさんとノエルさんが仕留めて下さいましたよ!!」
そこでルミエールさんとノエルさんを見ると青い顔をして固まってしまっていた。
「ほぅ。お前達が?矢傷も剣傷も着けずに倒したのか?」
「い、い、いえ。た、たまたま弱っていたもので・・・」
「わ、私達は運良く止めを刺しただけです。」
ルミエールさんとノエルさんがしどろもどろになりながら説明した。
「まぁ、そういう事にしておこう。所でそこの坊主、名前は?」
「僕はノアと言います。
「ノアか。覚えておこう。」
そう言い残して
「どうしたんですか?」
「ノアくん、あの人はアラン団長といって、シュラフ騎士団の団長よ。」
「へえ。スゴいですね!」
「・・・何でそんなに平気なのよ。」
体つきからしてかなり腕が立つ人だという事はわかるから、騎士団のトップだと聞いても「やっぱりか」程度にしか思わなかった。
「ノア、明日の予定は空いているか?」
「え?明日ですか?
「では、明日の夕方に騎士団の訓練場に来てくれ。」
そう言い残して
「はぁー。息が詰まるかと思った。まさかアラン団長が
「ルミエールさんとノエルさんはアラン団長とはお知り合いですか?」
「えぇ。昔ちょっとお世話になったことがあってね。」
「へぇー」
「ノアくんに何かあるのかな?騎士団に入るには若すぎるよね?」
「何か面倒な事にならなければいいんだけど・・・」
どうやら思いがけず有名人と知己を得られたらしい。それが良い事なのかどうかはわからないが、まぁ明日会ったら分かるだろう。
今日の所はララと共に花束を作ってサマンサ院長の誕生日を祝おう!
そう思いララを見ると目が合ったが、顔を背けられてしまった。少しショックだった。
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