第12話 レストラン猪亭
狼の群れとの死闘?を乗り越えた僕達3人はルミエールさんの提案で
僕達は依頼の報酬と野うさぎの肉の買い取りで、懐がかなり潤っていた。
「今回はノアくんのお陰て助かったよ。狼の群れに囲まれた時にはもう終わりだと思ってた。」
「私もよ。正直、今生きていること自体が不思議に思えるくらいには絶望的だったわ。」
テーブルには注文した料理の数々が並んでいた。ルミエールさんはワインを、ノエルさんの蜂蜜酒を飲んでいる。僕は水に果物の果汁を搾った果実水を飲んでいたが、薄すぎてあまり美味しくなかった。
「ノアくん、魔法はあまり使わない方が良いと思う。正直、男で魔法が使える時点でかなり重宝される上に、あれほどの威力でしょ?知られたら軍事利用されかねないよ。」
「そうね。私もどう意見だわ。魔法を使える男性なんて滅多に聞かないしね。でも私達が話した所で信じてもらえないと思うけど。」
「あー確かに。私もまだ信じられないもん。」
「うーん。正直、あれだけで国が動くんですか?」
「・・・そっかぁ、ノアくんは戦争とか集団討伐の経験が無いもんね・・・うん、教えてあげる。」
ルミエールさんにこの世界の戦争や複数人の
この世界では魔法を使える人の人数によって戦況が傾く程に魔法の需要は高い。だがその魔法もほとんどが火の玉を飛ばしたり地面を凹ませて進軍を妨害したりと、かなり弱い。
前の世界であれば、地面を消し飛ばしたり地形を変える程の高威力の魔法が戦場に飛び交い、それを如何に防ぐか思考しながら敵と交戦したものだった。
前の世界とこの世界での戦力に差があることは理解していたのだが、これ程までの開きがあるとは思っていなかった。
ついでにノエルさんが言っていた賢者と言うのはこの世界の本に登場する主人公らしい。何でも主人公は男の子で強力な魔法を使うらしい。拐われた姫を助ける冒険に出るストーリーで、この世界では多くの人に読まれているようだ。タイトルは【賢者の冒険】。
「・・・と言うわけで、多分ノアくんの魔法が知れ渡ったら、各国が国を挙げて引き抜きにかかるよ。」
「それは・・・困りますね。」
「だから、ノアくんは極力魔法を使わない様にしなさい。」
「分かりました。そうします。あ、でも身体強化魔法くらいなら問題ないですよね?」
「「身体強化魔法って何?」」
「え?」
そうか、身体強化魔法って純粋な魔法だった。精霊術しか使えないこの世界の人達は身体強化魔法は知る由もない。
「あ。何でも無いです。」
とりあえず流しておこう。そうかぁ、魔法の概念が無いってこういう弊害も出てくるのか。でも逆を言えば、知られていないのなら、使っても魔法だとバレないと言う事でもある。身体強化魔法であれば気にせず使っても大丈夫だろう。
「おう!ノアじゃねぇか!」
「あ、ガダルさん!こんにちは。」
「ルミエールとノエルかぁ。お前ら、ノアに手を出してはいないよな?」
「うっさいわねぇ、そんな事するわけないでしょ。」
「ガダルさんは依頼を終えた所ですか?」
「ああ、サルサ村で復興作業をやってるんだが、それの護衛の依頼を受けてな。その帰りだ。」
何でもシュラフから大工や外壁を修理する人達が派遣されているらしい。順調に進んでいるらしく、予定よりも早く村に帰れるようになりそうだとの事。
ガダルさんも同席して料理を食べ始める。
丁度良い機会だったので情報収集も兼ねて3人の会話に混ざる。
「そういえば皆さんは悪魔って知っていますか?」
「悪魔ねぇ。そういえば、2年くらい前にクラスタンベルク皇国に現れたって聞いたことがある。何でも3日間暴れまわって、6つの村や町を破壊したとか。その後は、皇国の兵士がやっつけたって。」
『ポポ、クラスタンベルク皇国って何処にあるの?』
『グランノーツ大陸の北に位置する大国でありましゅ。ちなみに今いるのはハーバルゲニア王国フレーベル領シュラフ。大陸のほぼ中央に位置しておりましゅ。』
今になって、住んでる地域の事始めてを知った。
「あぁ、それなら俺も聞いたことがあるな。俺が聞いた話だと大きな猿の様な見た目をしていたらしい。後、皇国の兵士の方がやられて、悪魔は何処かに消えちまったって話だぜ。」
「6年前にもネフタル王国で悪魔による被害が出たって聞いたけど、頭がヤギで体が人間の見た目だったらしいわ。これも暴れまわってどこかに消えちゃったらしい。」
悪魔の存在は何となく知られてはいるが、突然現れたと思ったら、気づいたらいなくなるから情報が曖昧らしい。その後も知ってる事を教えてくれたが、やはりそれ以上の情報は得られなかった。
「なるほど、ありがとうございます。」
「そんな事聞いてどうすんだ?」
「まぁ、ただの好奇心ですよ。」
悪魔については12年前に現れたのが6本腕の大男、6年前がヤギ人間で2年前が大猿らしい。わかったのは見た目についてくらいか。ほぼポポに教えてもらった内容と同じだった。
「それよりもノアくん、孤児院に帰らなくても大丈夫なの?」
「え!?」
外を見ると、もうすっかり日も沈んで辺りが暗くなっていた。いつの間にか酒場は
「うわっ。ヤバっ!ガダルさん、ルミエールさん、ノエルさん、色々教えてくれてありがとうございました!それじゃ、また!」
酒場を飛び出して、急ぎ孤児院へと向かった。門の前でサマンサ院長とララが仁王立ちしていた。前にも見た光景だ・・・僕は2人にしっかりとお説教を受けて厨房へと連れて行かれた。
厨房ではカルディナ先生とロアンナ先生が僕の到着を待っていた様だ。
何だかんだで今日も夕食を作る羽目になってしまった。ため息をつきつつ料理に取りかかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、日の出前の時間帯に裏庭の井戸の所へやって来た。するとそこで珍しい人物と出会った。
「おはようございます、シンシア先生。」
「・・・おはよう。」
この院に在籍するもう1人の先生だ。保健を担当するシンシア先生は物静かで言葉数の少ない印象だった。その先生が井戸にもたれ掛かってうずくまっていた。
「う"ぅ。」
「だ、大丈夫ですか?」
「・・・飲み過ぎた。うぅ」
二日酔いかぁ。そういえば昨日の夕食の時もいなかったから、ずっと飲んでいたんだろう。青い顔をしながらうめく先生に肩を貸して、保健室へと向かった。
保健室に着いた頃にはすっかり日も昇っていた。暖かい日射しを浴びながら食堂に向かうと、誰も厨房にいなかった。
不思議に思い、朝食の当番表を見るとそこにはシンシア先生の名前があった。
・・・朝食作るかぁ。
朝食の後は
「2人とも大丈夫ですか?」
「・・・あぁ。ノアくん、おはよー。」
力なくルミエールさんが青白い顔で挨拶する。この反応は朝にも、見たな。
「ごめん、今は、狩りとかムリっぽい。」
「でしょうね。飲み過ぎは良くないですよ。
今日は別の依頼を受けに来たので大丈夫です。」
「そう・・・」
結構重症な様だ。二日酔いの2人をそっとしておいて、掲示板で依頼を探す。今日はサマンサ院長にも言われているので、簡単な依頼にしようと思ってる。適当に良さそうな依頼書を取って、カウンターに向かう。
「クレアさん、おはようございます。」
「あら、ノアくん、おはようございます。」
「この依頼をお願いします。」
「はい。えーと、レストラン猪亭での接客のお手伝いですね。依頼を受け付けます。」
依頼書に記載された地図を頼りに目的地にたどり着くと、小さな食堂だった。お世辞にも綺麗とは言えないものの、アットホームな感じの雰囲気で僕は好きだった。
中に入ると、「いらっしゃいませー」と元気よく挨拶された。
「あの、依頼を受けて来ました。ノアです。」
「あ、お手伝いさんですね。よろしくお願いします。」
出てきたのはおさげ髪女の子で僕(今の)よりも歳上だろう。厨房の方に案内されるとそこには店の主人の男性とその奥さんがいた。奥さんの方を見ると妊娠中で依頼理由を察した。自己紹介され店の主人がボルドーさん、奥さんがロレーヌ、娘さんがナナリーだそうだ。もう1人キッチン担当にノットさんと言う人が手伝いに来ていた。
「では僕はナナリーとフロア接客をすればいいんですね?」
「あぁ。っても人なんてあんまり来ないがな!」
ボルドーさんが、がははと笑い奥さんとナナリーに怒られる。
確かにまだお昼には早いとはいえ、店内の席には誰一人座っていなかった。暇そうなのは確実だなぁ。
ーーー
店のフロアに立ってから3時間、相変わらず店内に人影はない。もうすぐお昼時だというのに誰一人として姿を現さない。
「ごめんね。家って料理は美味しいんだけど、お店の見た目が地味だから、お客さんがあんまり来てくれないんだよね。」
店の前の通りはそこそこ人通りが多いのだかが、店の外観からあまり寄り付かないらしい。悲しそうに店の外を見つめるナナリーを見てると、放っては置けなかった。
「よし、じゃあお客さんを呼び込みますか?」
「へ?」
そう言い残し、僕は店の外に出た。そして通りを行き交う人達に向けて大声で呼び掛けた。
「えー、ん、んん。みなさん、レストラン猪亭で昼食はいかがですか!今朝仕入れたばかりの新鮮野菜のサラダや当店オリジナルソースを使った野うさぎの特製ソテー!そして何と言っても猪肉のシチュー!2日間かけて煮込んだ猪肉は口の中に入れた瞬間とろけるほど柔らか!満足する事間違いなし!さぁ皆さん、是非、レストラン猪亭にお越し下さい!」
「スゴい、あの短時間でうちのメニューをきちんと覚えてる。」
呼び掛け続けること数分。あれよあれよと言う間に店内のテーブル席は全て埋まっており、厨房ではボルドーさんとノットさんが悲鳴をあげていた。
順番待ちの人達が列を成し、店の外まで続いていた。その列を見た人達が列に並ぶ。正に人が人を呼ぶ光景だった。
「おーい、注文はまだか?」
「はーい、只今!」
「こっちは猪肉のシチューとサラダで!」
「かしこまりました!」
「すみませーん、お会計したいんだけと!」
「すぐに行きます!」
店内には注文が飛び交い、まるで酒場の様な雰囲気だった。あまりの来客に厨房の手が足りなくなっていたが、僕も時折、厨房を手伝って何とか捌いていく。
「ご注文の品をお持ちしました。」
「うお!うまそー」
「待ってました!」
料理を口に運ぶお客さんの表情は皆幸せそうだった。顔をほころばせながら食べる姿は孤児院の子供達の姿に重なる。
「ふぃー、お腹すいたよぉ。」
「やっと順番が来たわ。」
「あれ?ルミエールさんとノエルさん?」
「ノアくん!?どうしたのこんな所で?」
「今日はこのお店のお手伝いです。」
「依頼を受けたのね。それにしてもスゴい人ね?私達も気になって列に並んじゃったわ。」
「お陰様で大盛況ですよ。今、席に案内しますね!」
二日酔いからようやく復帰した2人が店の行列を目にして、ルミエールさんが思わず列に並んだらしい。何ともらしい行動に、思わず笑ってしまった。2人の注文を取り、厨房へ向かうとボルドーさんからの救援要請が入った。
何でも仕込んでいた猪肉のシチューが底をついてしまったらしい。材料としては野うさぎの肉と鹿肉と猪肉、それに野菜。さすがに今からシチューを作ろうにも時間がかかり過ぎてしまう。材料を見ながら考える。
ナナリーがフロアで猪肉のシチューが売り切れた事を告げると、店内にブーイングが溢れた。ルミエールさんとノエルさんも不貞腐れている。
「よし!任せて下さい!」
僕はおもむろに肉を細かく刻んでいく。ボルドーさんも興味津々でこちらを見ていたので、野菜を刻む様に頼んだ。
ノットさんには野うさぎのソテーとサラダを任せた。ノットさんもひぃひぃ言いながら手を動かしている。
しばらくして出来たタネを焼いて、特製ソースをかけたら出来上がりだ。しっかりと中にも火が通っている事を確認してボルドーさんに食べてもらう。
「!?うまい!これはイケる!」
店頭で出す許可が得られた。
そして、ルミエールさんとノエルさんの席に向かう。
「あ!ノアくん、酷いよ。こんなに待ったのに猪肉のシチューが無くなるなんて!」
「まぁ、売り切れてしまったものはしょうがないじゃない。諦めましょう。」
「すみません。その代わりに当店のスペシャルメニューです。」
2人の前に料理を出すとこちらを見た。
「さっき厨房をお借りして作って来ました。美味しいですよ。」
「「ノアくんの手作り!!?」」
2人は早速ナイフとフォークで切り分けると、口へと運んでいく。
「「ーっ!!?」」
口に入れた瞬間に溢れ出す肉汁と肉とは思えないほど柔らかな食感に目を見開き、夢中で食べて始めていた。
それを見ていた他のお客さん達もゴクリと唾を飲み込み、スペシャルメニューを注文した。この瞬間、シュラフの新名物が誕生した。
店の賑わいは夕方まだ続いていた。
「すみません、もう孤児院に帰らないといけなくて・・・」
「ううん。今日はありがとう。お陰で売上も今までの経営の中で一番だよ!・・・それでね、ノアくんさえ良ければ、また明日も来てくれない?」
「明日?うーん、そうだなぁ。」
「たぶん、明日も今日見たいに忙しくなると思うの。人手がちょっと足りなくて。」
「わかった。明日も来るよ。」
「本当!?良かった!」
「じゃあ、今日はこれで失礼しますね。」
「うん、また明日!」
こうしてしばらくレストラン猪亭での手伝いをする事となった。
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