第11話 ノアの秘密

 僕は野うさぎの狩猟依頼を受けて、ルミエールさんとノエルさんの2人と共にナフタの森に訪れていた。

 ナフタの森は木々が適度に間引かれており、森の中にも光が届く程度に明るい。

 建築や薪などに利用される木材等を採取するために定期的に人が出入りするので、直接人間に危害を及ぼす様な害獣は少ない。


「あ、野うさぎです。運良く2羽一緒にいますね。」

「相変わらず、よくもまぁ簡単に見つけられるわね。」


 森の中を3人で進んで行くと、程無くして野うさぎ2羽を発見した。今回の依頼も野うさぎ3羽の狩猟が達成条件なので、すぐに終わるだろう。

 ルミエールさんが弓で野うさぎを仕留めた。


 前々から思っていたのだが、ルミエールさんの弓の技術は目を見張るものがあった。

 野うさぎ1羽を仕留め、逃げ出すもう1羽を続けて仕留めるにはかなりの技術が必要だ。


「ルミエールさんの弓の技術って相当高いですよね?何処で学んだんですか?」

「え!?それは、まぁ、ね。私も色々と頑張ったのよ!」


 何かはぐらかされてしまった。まぁ、本人が言いたくないのなら無理に詮索するのは良くないか。


「へぇー。あ、この先にまた野うさぎがいますよ!」

「・・・私としては、ノアくんの索敵能力の方が気になるよ。」


 半ば諦め半分の様に言われてしまった。

 問題なくルミエールさんが野うさぎを仕留めた事で、依頼も達成した。


「ねぇ、まだ森に入ってそんなに経って無いことだし、もう少し奥に行ってみない?」

「無理して森の奥まで行く必要は無いと思うわよ?」


 ルミエールさんの提案にノエルさんが待ったをかけた。確かに、森の入口付近は人の出入りが多いのでその分危険も少ない。

 だが森の奥に行けば危険も増すが、動物が多くなるので見返りは大きい。


「何も森の最深部に行くって訳じゃないし、ノアくんの索敵があれば未然に危険を回避出来るよ!」

「それはそうかも知れないけど・・・」

「ねぇ、お願い!少し付き合ってくれるだけで良いから!」

「・・・はぁ。しょうがないわね。ごめんなさいね、ノアくん。」

「いえ、僕は大丈夫ですから。」


 ルミエールさんに半ば押しきられる形で、僕たちは森の奥に向けて進んだ。


 さすがに奥に行くにつれて光が届かなくなってくる。徐々に辺りが薄暗くなり、動物達が盛んに鳴き声を上げ始める。


 ここへ来て、僕たちは合計で10羽の野うさぎを仕留めていた。もちろん仕留めたのは全部ルミエールさんだったが。


「そろそろ袋も一杯になって来た事だし、シュラフに戻りましょうか?」

「そうね、やっぱり奥まで来ると沢山狩れるわね。」


 確かに森の奥に行けば行くほど、動物に出くわす頻度も高くなり、予想以上の成果を獲られた。

 ルミエールさんも満足そうだし、ノエルさんも何だかんだで収入が増えた事を喜んでいた。


 僕たちが森の入り口に向かい歩き始めると、複数の気配がこちらに集まって来た。

 数からすると約10って所かな?


「ルミエールさん、ノエルさん、複数の気配がこちらに集まって来てます!」

「え?何の気配か分かる?」

「野うさぎよりも大きくて、猪よりも小さいって感じですね。たぶん狼だと思います。」

「「狼!?」」


 狼と聞いて2人の顔色が一気に悪くなった。


「数は10・・・いえ、まだ増えてますね。少なく見積もって15匹くらいかな?」

「ノエル!」

「えぇ。ヤバいわね」


 2人の表情から焦りが伺えた。

 確かにこの数は少し多いかな。どうせ全部は持ち帰れないし、もったいない。


「ノエル、最悪の場合ノアくんを連れて先に行って。」

「まさか、相手するつもり!?」

「こうなったのも私が森の奥に行きたいって言ったせいだから、せめて殿だけでも務めさせて。」

「無茶よ!?あなたも一緒に逃げなさい!」

「狼相手に逃げ切るのは無理よ!誰かが囮にならないと!」

「でも!!」


 あれ?何?この緊迫した会話。何だろう、完全に僕だけ置いてきぼりにされてる!?


「あのー。その囮って、僕がやっても良いですか?」

「「いいわけないでしょ!!!」」


 はっ!話に入ろうとして怒られてしまった。


「うーん。じゃあ、皆で狼を迎え撃ちましょうか?」

「そんな、ダメよ!」

「いいえ、私は構いません。ノアくん、こんな状況に付き合わせてしまってごめんなさいね。狼は私達で引き付けます!ノアくんは隙を見て、森の入り口まで走って!」


 またもやルミエールさんに反対されてしまったが、ノエルさんは残って戦うつもりのようだ。だけど、逃げろと言われても・・・


「すみません、もう完全に囲まれちゃいました。あ、全部で17匹でした!」

「そんな・・・」

「最悪の状況ね・・・」


 ルミエールさんが絶句し、ノエルさんが半分諦めたように呟く。

 周りの狼達が徐々に間合いを詰めて、肉眼でもその存在が確認出来た。

 僕達の周りを囲む狼の群れは隙間なく並び、逃げ道を完全に塞いでいる。


「よし!ルミエールさん、ノエルさん、すみませんが僕の側に来て下さい!」


 2人とも今にも泣き出しそうな顔をしながらも僕の近くに来た。


「ごめんなさい。ノアくん。こんな事になってしまって。でも不思議と嬉しいの。ノアくんと一緒に最期を迎えられるのだから・・・」

「私もごめんなさい。後、ありがとう、ノアくん。」

「は、はぁ・・・じゃあ2人とも準備は良いですか?これだけ近くに居れば多分大丈夫だとは思いますが、しばらく我慢して下さいね!」

「「え?」」


 体内の魔力を練り上げ、大気の魔力も自分の魔力に変換しいく。魔力は上空へと昇ってゆくと、巨大な雲の形を作り上げていく。


『ポポ、行くよ!』

『はい!』


 上空の雲が渦を巻き、辺りに突風が吹き荒れる。狼達は体が持っていかれないように、体を伏せて必死に踏ん張っている。

 木々からミシミシと強風に煽られて軋む音がする。そしてーーー


 ドゴォォォオオオオオオオ


「「きゃあああ!!」」


 あまりの轟音と衝撃にルミエールさんとノエルさんから悲鳴が聞こえる。

 爆発と言っても過言ではないだろう。凄まじい風圧で辺り一面の木々や狼の群れがまるで木の葉の如く巻き上げられて、吹き飛ばされた。

 時間にしてわずか数秒。

 そのわずかな時間で辺りの様相は一変する事となった。


『・・・ポポ?』

『い、いえ、加減はしたつもりでごじゃいましゅよ!だだ、その、少し張り切りすぎてしまったといいましゅか・・・』


「「・・・」」


 ルミエールさんとノエルさんが完全に放心状態になってしまっている。

 それも無理はないだろう、僕達を中心に半径50メートル四方の木々が薙ぎ倒され、平地と化していた。


 数分後、ようやく我を取り戻した2人から怒涛の質問攻めを受けることとなってしまった。


「ノアくん!一体アレは何なの!?」

「ノアくん、ノアくんは賢者様の家計なの!?」

「魔法よね!?いえ、あんなに凄まじい魔法は見た事が・・・」

「もしも賢者様の家計であれば納得がいく。あれほどまでに強大な魔法を見せられればそう思うのも当然よね!」

「そもそも何でノアくんが魔法を使えるのよ?もしかして、ノアくんって本当はノアちゃんだったり!?」

「ノアくんがどんな存在だろうと、私は構いません!だから私と一緒に・・・ハァハァ」


 質問攻めは実に数十分にも及び、その間僕が意見できそうな暇が無いほどだった。

 最終的には2人共落ち着きを取り戻し、お互いに絶望的な状況を乗り越えられたことを歓び合っていた。


 そこで僕は今回の一件について、どう答えれば良いのか悩んでいた。そして悩みに悩み抜いた末に出した結論、


「僕、実は記憶喪失なんだ!」


 自分で言うのも何だが、無理が有り過ぎる!

 案の定、2人には全く信用してもらえなかった。だが2人共、人に言えないような秘密が有ると言う事で、それ以上の詮索をしないと約束してくれた。

 何でも、人に言えないような秘密が有った所で、僕が命の恩人である事に変わりはないからだとの事。


 僕は2人の器の大きさに感謝しながら、3人でシュラフへと帰った。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る