第9話 依頼の報酬
「ねぇ、ノアくん。その野うさぎって本当に素手で捕まえたの?」
「はい。そうですよ?」
「どうやって?」
「それはもう、バーっと行ってガーっと捕まえましたよ!」
「・・・」
僕はサルサ村から戻る途中に仕留めた野うさぎの事を追求されながらシュラフへと到着した。
ルミエールさんとノエルさんの2人と一緒に
「ノアくんって動物の解体した事あったのね。」
「はい、お父さんに叩き込まれました。」
「へぇ。綺麗に捌くわね。」
あっと言う間に解体を終えて、毛皮と肉に分けて
「お帰りなさい、ノアくん。大丈夫でしたか?」
「はい、クレアさん。ルミエールさんとノエルさんのお陰で依頼も無事にこなせました!」
「本当に?ルミエールとノエルに変な事されてない?」
「え?は、はい。特には・・・」
「クレアってホントに失礼よね!!ノアくんに変な事何てするわけないじゃない!」
「いえ、あなた方には前科があるので。」
クレアさんがそう言うと、2人はサッと目を反らした。
ノエルさんには本気で危険を感じ取っていたんですが。言うと怒られそうだったので言わないでおく。ってか、前科って何!?
「それより、報酬ってホントに山分けでよかったの?全部ノアくんが見つけたんだよ?」
「もちろん山分けでいいです。猪もいい値段で買い取ってもらえたので、それだけでも十分ですよ!」
元々の依頼の報酬が大銅貨3枚だった。
この世界の硬貨は8種類あった。価値が低いものから順に銭貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、そして白金貨。
それぞれ10枚毎に硬貨の位が上がっていく。
贅沢をしなければ、大銅貨2枚で宿屋に一泊出来る。また食事が1食銅貨3~5枚程度なので、大銅貨3枚あれば丸1日間は過ごせる計算になる。
で、実際に受け取った報酬が銀貨3枚。
そう。猪の買い取りがかなり高額だったのだ。
野うさぎの肉を買い取ってもらうと、大きさで多少値段が変わるが1羽あたり大銅貨2~3枚程度だった。それに対して猪肉は銀貨1枚と大銅貨6枚で買い取られた。実に5倍以上も価値に差があった。
「今までもそこそこ高く売れてたんだけど、大蜥蜴が出てからは猪肉が滅多に出回らなくなっちゃったのよ。」
「なるほど。それで猪があんなに高く売れたんですね。」
「ナフタの森・・・あぁ、一緒に行ったあの森ね。にもいるにはいるんだけど、数がめっきり減っちゃって。」
ルミエールさんが気まずそうに教えてくれる。たぶん街の近くだと言うことで、乱獲されたんだろうな。野うさぎや鹿とかに比べると好戦的だから狩り易いのだろう。
「そうだ!ノアくん、良かったら今から猪料理を食べに行かない?ご馳走するわよ。」
「うーん。折角のお誘いですが、すみません。孤児院の皆にもコレをご馳走したいので。」
そう言って野うさぎを見せる。
サルサ村から戻る途中に仕留めた野うさぎを売らずに持って帰っていた。
ノエルさんが誘ってくれたが、外で食事をしたら孤児院の皆に怒られてしまうので丁重に断る。
「そっかぁ、残念。また狩りに行く時には誘ってね。」
「はい。またお願いします!」
そう言って別れを告げて、孤児院へと向かった。
ーーーーーーーーーーーー
「あーあ。振られちゃったね。」
「また次があるもの。気にしてないわ。」
冗談半分にノエルをからかうと、完全に獲物を見定めた様な目で答えた。
ノエルのストライクゾーンが年下である事は知っていたけど、ここまで本気になったノエルを見たのは初めてかも。
自分としてもノアくんには個人的興味はある。まぁ、それも恋愛とかそう言うのとはまた違う感情ではあるが、気になるのは本当だ。彼が
そんな人達の間でもノエルは抜きん出てヤバい存在だ。それはある意味、狂気と言っても過言では無いかもしれない程に。
『完全にノアくんが狙われているわね』
私の中でノアくんは守らなければならない存在へと移行しつつあった。
相方の狂気に背筋を凍らせながらも、心の中でノアの身の安全を祈る。今はそれしか出来なかった。
ーーーーーーーーーー
孤児院に戻ると、サマンサ院長に挨拶し、夕食を作りたいと相談したところ、快く承諾された。
キッチンに入ると、カディナ先生が釜に火を着ける所だった。
『火の精霊、我に力、与えよ』
それは前の世界で見知っていた精霊語だった。文法はちぐはぐだが精霊語に変わりなく、カディナ先生の指先に小さな火が点り、釜に火が点いた。
「カディナ先生、今のは?」
「今のとは?」
「先程、火を点ける時に言っていた言葉です!」
「あぁ、詠唱の事ですか?魔法を使う時に唱えるのですよ。」
詠唱?精霊語として認識されていないのか?
『この世界で精霊語は一部の人しか理解できておりましぇん。』
『じゃあ、精霊語を理解せずに精霊術を使っているって事?』
『そうでしゅ』
そう唱えれば使えるから、と言う認識で精霊術が使われているらしい。いや、ガイナでは魔法って括りになるのか。
精霊術そのものを理解せずに使っているのだ、威力もたかが知れている。
以前ポポが言っていた、『この世界が前の世界よりも戦闘面で劣っている』とはそう言うことか。
「あの、ノアくん?急に黙ってしまって、どうかしましたか?」
「あ、いえ、何でもありません。精・・・魔法を久しぶりに見たのでつい・・・」
「はぁ、そうですか。」
「それよりも、今日も夕食は僕がお手伝いしますよ!野うさぎも捕まえたので、それでシチューでも作ろうかと思います!」
「是非!」
カディナ先生の反応は相変わらずだった。
今日も今日とて手際よく食材を捌いていく。野うさぎを捌く際にカディナ先生が小さく悲鳴を上げていたが、気にせず進めて行く。血抜きしかしていなかったから、しょうがないか。
料理の途中、ララがお手伝いに来てくれたので、サラダの盛付けやお皿の用意等をお願いした。
「何ですか!?このシチューは!?」
「お肉やわらかーい!」
「おいしー!」
シチューの味に驚愕するサマンサ院長と、純粋に美味しいと言ってくれる子供達の姿に思わず頬が緩んだ。
今日のシチューは改心の出来だった。
もしかしたら、今まで作ったシチューの中ではトップ10に入るような出来だ!
野うさぎの肉じゃなくて、牛肉や豚肉だったらトップ5に入ったかもしれない。
例に違わず、その日の夕食も孤児院の皆に大好評だった。カディナ先生とサマンサ院長に至っては、レストランで食べる料理よりも美味しいだとか言われた。
それほどのものかなぁ。まぁ、誉められて悪い気はしないので、素直に悦んでおく。
そう言えば孤児院に来てからと言うもの、毎日の様に食事を作っているなぁ。
他の人が作る料理も食べておいた方が今後の為にもなるかもしれない。
よし、明日は食べる側に回ろう。
翌日、カディナ先生とロアンナ先生が当たり前の様に今日の献立を聞いてきたので、今日は作らないと伝えると、絶望的な表情をされた。
そこまでか!?
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