第6話 シュラフの町
『だから言ったではごじゃいませんか』
呆れたようにポポに言われてしまった。
いや、まさか盗賊の団体に出くわしてしまうとは思っても見なかった。
馬車の中には檻(僕が入っている)の他に大きな壺や箱、剣や弓などの武器も併せて積まれていた。
檻の中には僕の他に男女2人の子供が入れられていた。年は僕と同じくらいで、檻の隅で震えていた。
「ケガとかしてない?」
出来るだけ優しい声で語りかけてみる。
言葉こそ発しなかったものの2人は怯えながら頷いてくれた。
この状況は何とかしないといけないな・・・幸い町に向かう盗賊は4人だ。逃げようと思えば何時でも逃げられる。最悪、盗賊を倒してでも逃げた方がいいのか?
いろいろ考えを巡らしていると、前にいた盗賊に動きがあった。
「おい、前方から誰か来るぞ!」
「行商人か何かか?」
「いや、積み荷の馬車がないし鎧を身に付けていやがる。恐らく町の兵士だろう」
「くそっ!面倒な」
盗賊の話を聞きながら、気配を探ると10人ほど人が馬がに乗り、こちらに向かっていた。かなり整った武装しているところからすると、兵士と言うよりは騎士だろう。程なくして騎士の一行と接触した。
驚いたことに、騎士達は全員女性だった。
前の世界から女騎士にはつくづく縁があるなと思いながら外の様子を伺う。
「そこの行商人、止まりなさい。我々はシュラフの騎士だ。お前達はサルサ村からこちらへ来たのか?」
『サルサ村?』
『先ほどの村の名前でごじゃいます』
なるほど、そういえば村の名前までは聞いていなかった。
「あ、ああ。仕事でサルサ村に行ったんだが、誰もいないみたいで、中に入れなかったんだ。」
「そうか。」
女騎士が御者をしていた盗賊をじっと見つめている。
辺りに緊張が走り、馬車の中にいた盗賊が外の様子を伺いながら、静かに帯刀していた剣に手をかける。
「すまないが、馬車の中を確認させてもらう。」
「!!?・・・クソっ!やれ!」
御者が背中に隠し持っていた剣で女騎士に襲いかかると、馬車の中にいた盗賊も一斉に馬車の外に飛び出した。
一瞬加勢しようかとも考えたが、特に必要無さそうだったので大人しくしていた。
結果から言うと、女騎士達の圧勝だった。
ものの数分で盗賊達は組伏され、縛り上げられていた。
まぁ、当然と言えば当然の結果だろう。一方は鉄製の鎧で身を固めていて手入れの行き届いた剣を携えているが、もう一方はボロボロの布地の服に粗悪な剣だ。更には騎士10人に対して、盗賊は4人。どういう結果になるかは、戦う前から判かりきっていた。
騎士の1人が荷台に入り、僕達が入れられている檻を確認する。入って来た騎士は凛とした顔立ちに、透き通る様な金色の髪をなびかせてた。
「やはりか・・・私の名前はレイラ。シュラフの騎士だ。怖かっただろう、もう安心して大丈夫だ。」
「・・・おうちかえれる?」
震える声で、捕まっていた子供の1人が尋ねると、レイラさんが優しく「もちろん」と答える。
子供はその言葉に安心したのだろう、弱々しいながらも笑顔を見せた。これで子供達は大丈夫だろう。
「とりあえず、一度シュラフに向かう。その後、君達を家まで送ろう。」
そして馬車はシュラフに向けて、再び動き出す。
気絶している盗賊は僕達の代わりに檻に放り込まれ、僕は御者をするレイラさんの隣に座っていた。
「レイラさん達は盗賊を追って来たんですか?」
「いや、私達はサルサ村へ調査に行く途中だった。」
「調査・・・と言う事は、例の害獣の件ですか?」
「よく知っていたな。そうだ、大蜥蜴が村の近くに住み着いてしまったと報告を受けてな。その調査に向かう途中だったんだ。」
なるほど。先日ハンター達が全滅した事で、騎士が出向く事になったってところか。だがそうなると・・・
「もしかして余計な仕事を増やしちゃいましたか?」
「ははは。何、心配することはない。サルサ村の調査とは別件でな、子供の誘拐事件が近辺の村で問題になっていたんだ。恐らくその誘拐犯がこの盗賊達だろう」
どうやらこの盗賊も指名手配されていたようで、余計な仕事を増やしたわけでは無さそうなのでよかった。
「盗賊は全部で20人程です。他の盗賊達はたぶんまだサルサ村に潜んでいると思いますよ」
「そうか、意外と多いな。この盗賊を街に届けたら、早急に領主様に相談してみるとしよう。」
「領主様ですか?」
「ああ。この辺り一帯はフレーベル侯爵が納めている。今向かっているシュラフはその中心地なのだ。」
そうこうしているとシュラフの外壁が見えてきた。当然だがサルサ村に比べると外壁の造りも建物の規模も全く違う。
検問で馬車を止め、レイラさんが事情を衛兵に伝えに行った。
「さて、君達の出身はラダ村でよかったかしら?」
僕達と同行していた女騎士が声をかけてきた。確か名前はフィアナさんだったかな?
ラダ村とはサルサ村よりも遠くにある村で同じ領地に属している。捕らわれていた2人の子供の出身がそこらしい。
そしてこの流れは僕にとって非常に不味い。僕の出事をおいそれと話すわけにはいかないし、適当に答えるほど地理に詳しい訳でもない。ポポに相談してみるか?
「そう、私もラダ村の出身だから。ベクじいさんは元気?」
フィアナさんもラダ村出身らしい。ベクじいさんの名前を聞いた子供2人が顔をパッと明るくした。
「ベクじい元気!いっつもおやつくれるの!」
「フフ、相変わらず子供達を甘やかしているみたいね。」
「何々、何ッスか?ベクじいさんの話が出てたみたいッスけど」
「あぁ、ターニャもラダ村出身だったわね。ベクじいさんの甘やかしが相変わらずって話をしてた所よ。」
「お姉ちゃんも、ベクじい知ってるの?」
「もちろん、知ってるッスよ!お母さんに怒られては、ベクじいさんの所に逃げ込んでたッス!」
「ミリもテトもねぇ、おとーさんに怒られたらベクじいの所に行ってた!」
「はは、今も変わらないんッスね。ミリちゃんもテトくんもあんまりご両親を怒らせたらダメッスよ!」
「あなたが言えた口?」
フィアナさんとターニャさんのおかげで子供達に笑顔が戻った。ベクじいさんと言う人はラダ村の村長さんらしく、村の子供達を孫のように甘やかしているらしい。
驚いた事に、捕まっていた子供のミリとテトは兄妹だった。村の外で遊んでいた所で2人とも盗賊に捕まったらしい。
話題がラダ村の話に移った事で、僕の出身の話がうやむやになった。
そうこうしていると、レイラさんが検問から戻ってきた。
「ラダ村に向かう行商人がもうすぐ出るらしいから、そこに同乗させてもらえる様に話をつけよう。ターニャとフィアナはその護衛に付け。」
「「はっ!」」
レイラさんがラダ村に向かう算段もつけてくれる様だが、どうやら僕もラダ村の出身だと思われたらしい。僕の出身についてはうやむやに出来たが、このままではラダ村に送られてしまう。ようやく目的地であるシュラフに来たのに行ったこともないラダ村に連れて行かれてしまう。
まぁラダ村には少し興味が出来たのだが、今はまだシュラフに残って色々とする事が残っている。
「あの、レイラさん、僕にはもう両親がもういませんのでラダ村に戻っても居場所がないと言うかなんと言うか・・・」
一か八か、レイラさんに掛け合ってみよう。前の世界で両親は既に亡くなっているので嘘は言っていない。
「!!?そうだったのか。それはすまなかった。」
「大丈夫ですよ。それより僕としてはもう少しシュラフに残って、自分に出来る事を探してみたいのですが・・・」
「そうか。ならば私と一緒に来たまえ。この街の孤児院であれば、しばらく置いてもらえるだろう。」
よし、上手く行った!これでとりあえずの間はシュラフに滞在出来そうだ。
ミリとテトは「あんなこいたっけ?」みたいな事を2人でコソコソと話していたのが気掛かりではある。
バレない様に願いながら他の騎士の皆さんとミリとテトに挨拶を済ませて、レイラさんと共に孤児院に向かった。
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