第5話 第一目標
「うーん・・・困ったなぁ・・・」
ガタガタと揺れる馬車の上、僕はその馬車の中にある檻に入れられ運ばれていた。
『ノアしゃまがうかつに接触するからでごじやいます。』
ポポに言われてしまった。
確かに、考えが足りなかったと言われればそれまでなんだけど・・・
事の発端は数時間ほど前に遡る・・・
僕は衣服を手に入れるために、村人が避難していなくなったという村に向かっていた。
一刻も早く衣服を手に入れなくては!何故なら今の僕は全裸だ!
「ここら辺は森に囲まれているんだね」
「はい、もう少し行けば行商人や村人達が行き来に利用している道に出るはずです」
しばらく歩くと、確かに道があり、意外にもきちんと整備されていた。
そのまま道に沿って歩くと、村が見えてきた。村を囲むように石造りの壁がぐるりと張り巡らされており、それだけで結構な大きさであることがわかる。
これだけ大きければ、衣服の一着や二着は見つかるかもしれない!
期待を膨らませていると、背後に大きな気配を感じた。
まぁ、大きさから察するに熊や猪よりも大きい。となるとやはり・・・
ーグルルルルルルルルル!!
大蜥蜴。
そこにいたのはこの村から住人達を追いやった害獣がのっそりと姿を表した。
しかも、一匹ではなく二匹。
一匹は僕らの目の前に、もう一匹は背後で気配を消して、奇襲に備えている。
「どうしよう?」
僕にとって大蜥蜴自体はどうでもいいし、どうとでもなる。問題はその後だ。
「倒してしまわれればよろしいのでは?」
「その後はどうする?」
「・・・なるほど、死骸をどうしゅるかでありましゅか?」
そう。
倒そうと思えば簡単に倒せると思う。しかし問題はその死体をどうするかにある。
街まで持っていけば人の目を集めてしまうし、かと言って放置すれば逆に警戒が強化されかねない。
以前に複数人の
ならば大蜥蜴よりも強い害獣が現れた可能性が考慮され、村人の避難解除にかえって時間がかかってしまうだろう。
「死骸も残さず処分してしまうのはいかがでしゅか?」
「いや、それだと村に危険がないと判断されるまで時間がかかってしまう。」
今まで驚異となっていた存在が知らない間にいなくなるのだ、こちらも安全が確認されるまで時間がかかってしまう上に、大蜥蜴がどこに行ったのかも問題になってしまう。
「・・・やっぱり、戦わずにやりすごすのが一番いいか・・・」
冷静を装ってはいるが、今の僕は全裸だ。積極的に戦いたくはない。
大蜥蜴を見ると、こちらを威嚇しており、完全に戦闘体勢である。もう一匹の大蜥蜴も背後で身を潜ませて奇襲の準備を整えている。
「威圧してみては如何でしゅか?」
威圧。
前の世界では僕が良く使っていた手段だ。一種の威嚇手段にあたるのだが、この世界でもそれが通用するかは分からない。
でも確かにやってみる価値はありそうだ。
「そうだね。とりあえず、威圧を当ててみようか。」
目の前と背後に迫る大蜥蜴に意識を集中し、魔力に怒気を乗せて放つ。
まぁ、通じなかったらその時はその時だ
ドンッ!!
重低音が響いたかのように空気が震え、その振動は敵を捕らえるかの如く大蜥蜴に襲いかかる。
ズシン、と大きな音を立てて二匹の大蜥蜴の巨体がゆっくり倒れた。
「お見事にごじゃいます!」
ポポは僕に向けて称賛の言葉をかけてくれるのだが、その一方で僕は不安で一杯だった。
「・・・あれ?これ、死んでないよね?」
白目を剥き、舌をだらんと垂れて倒れているそれは生きているのか分からない程にぐったりしていた。
「どうやら気絶しているだけのようでごじゃいます」
どうやら生きているようで一安心した。死んでいたのなら早速悩んだ意味がなくなってしまう。
まさか威圧しただけで気絶してしまうとは・・・込めたのが殺気だったら間違いなく絶命していただろう。危ない、危ない。
「とりあえず、大蜥蜴は無力化出来たみたいだから、村に急ごう。」
見えていた村に高速で移動する。
大蜥蜴が目を覚ます前に目的を達成してしまいたいし、何より全裸姿で行動するのは精神衛生上問題がある。何か新しい世界の扉を開きかねない。
石造りの壁を飛び越えて、村の中に侵入すると中には畑が広がっており、所々に住宅らしき建物が点在していた。
「農村だね」
「そうでごじゃいますね。後はヤギや牛を育てて乳製品の生産も行っているようでしゅ」
ヤギや牛の姿が見られないので、恐らくは避難する際に連れて行ったのだろう。
とりあえず、住宅を見て回っていると、子供服が干してある家があった。袖を通すとサイズも問題ない。
勝手に拝借するのも申し訳ないと思い、返せる機会があれば返す事と、お礼をメモに残して建物を後にした。
「とりあえず、第一目標は達成したね。」
心のそこからホッとした。
全裸でここまで頑張った自分を誉めたいくらいだ。すぐに服が手に入って本当に良かった。後は街に行って、
とりあえず今は感慨に浸っている場合じゃない。やることは沢山ある。街に向かうついでに薬草や動物を狩ってお金を稼いでおくのもいいかもしれない。
しばらく村の中をうろついていると、僕達が来た方角とは反対から複数人の気配が感じられた。人数はだいたい20人程度で、もしかすると村の人の達が帰って来たのかもしれない。
上手くいけば
「ノアしゃま、盗賊の可能性もごじゃいますので、ご注意を!」
「ポポは心配性だなぁ。盗賊がこんなところにいるわけないよ。」
こんな人がいなくなった村にやってくる物好きな盗賊はいないだろう。貴重品などはもちろん持って出ているだろうから、盗賊にとってのメリットが無い。
数人の村人がこちらへと向かって来たので早速、接触を試みる。
「あのー、すみません・・・」
「!!?ガキか!!?この村にもまだ人が残っていたとは、しかも子供の・・・」
「こいつはツイてるぜ!ガキは高値で売れるからな。追加で手に入るとは思っても見なかったぜ!」
そう言うと、男は腰にした剣をこちらに向けてきた。
ん?あれ?何か反応が思ってたのと違う。
「・・・あのー、この村の方ではないんですか?」
そう言うと、男達は驚いた顔をした後に一斉に笑い出した。
「残念だったな、俺達は盗賊だ。シュラフに向かうついでに、小遣い稼ぎでこの村に寄ったんだよ。まぁ、お前のお陰で、意外とデカイ稼ぎになったがな」
「お頭もきっと喜ぶぜ。」
そう言ってゲラゲラと笑う。
ポポの言った通り、村人ではなく盗賊の御一行様だったようだ・・・
「俺達に着いてきてもらうぜ!」
逃げるのは簡単だが、無駄な殺生は極力避けたい。今は、この盗賊達に従うか・・・
そうして、僕は檻に入れられて、馬車でシュラフに売られに行くこととなった。
盗賊は4名ほどが馬車でシュラフに向かい、残りは村で帰りを待つらしい。
まぁ、目的地に向かえるのだから良しとしよう。その後の事は・・・どうしよう?
そんな事を考えつつ、僕を乗せた馬車はガタガタと目的地であるシュラフの街に向かって行った。
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