第4話 新しい世界

 目を開けるとそこは草原だった。天候は快晴で、心地の良い風が辺りの草花を揺らしていた。


「ここが新しい世界・・・」


 新しい世界とは言っても、景色は前の世界と変わらない。

 とりあえず、周辺の状況を確認する。小動物の気配は感じるが、人や魔物といったものの気配は感じられなかった。

 特に危険はないようなので、早速この世界についての情報収集を行う


 『ポポ、来てくれ!』


 口には出すでもなくそう呼び掛けると

 爽やかな風が吹きわたる。

 すると目の前に拳大の真っ白な綿毛の様なものがフワッと現れた。


「おひさしぶりでごじゃいましゅ、ノアしゃま」


 相変わらずの舌足らずな口調で応えてくれたこの綿毛。風の契約精霊のポポだ。

 何はともあれ、召喚に応えてくれたことで一安心する。

 契約精霊が主の命に反することは有り得ないのだが、状況が状況なだけに本当に来てくれるかどうか不安だった。


「僕はついさっき目覚めたばかりだから、久しぶりって感じはしないんだけどね。ポポはこの世界に来てどれくらい経った?」

「わたくしめがこの世界にきたのは4年ほど前になりましゅ。ノアしゃまがこちらの世界にこられるまでにはと、情報を集めておりました」

「それは助かる。僕もこの世界については何も知らないからね。ポポがいてくれて助かったよ。」


 目覚めた精霊がポポでよかったと思う。風の精霊は戦闘に関しては得意ではない。だが情報収集の面においては他の精霊を圧倒する。


 その理由の1つが他の風の精霊と情報共有が出来るからだ。

 風の精霊が見聞きした情報は互いに共有される。

 もちろん記憶出来る情報量には個体差があるのだが、ポポの場合はその点においてかなり優秀だった。


「おほめにあずかり、光栄にごじゃいましゅ。まずはこの世界についてでしゅがーー」



 その後、ポポには前の世界との違いについて教えてもらった。


◎大陸の数が3つ

◎日時の概念が同じ

 →1年=365日で12の月に分かれていること。

 →1日が29~30日前後、1日の長さは24時間で、月によっては日照から日没までの長さが異なること。

 →1~3月が冬、4~6月が春、7~9月が夏、10~12月が秋

◎共通言語が前の世界の言語と同じである事


 と、ここまでは前の世界と同様、あまり違いがなかった。一番有り難いのが言語が前の世界とほぼ同じだと言う事だ。言葉の壁が無いと言うのはそれだけで安心感が持てる。


 大陸に関しては前の世界は2大陸だったが、この世界は3大陸に分かれている。

 今、いる大陸が『グラムノーツ』

 南に『ゴルアナリア』

 グラムノーツの裏側に『セラノサ』

 以上の3大陸が存在する。


 ただ、各大陸間には無風海域という航行困難な海域が存在するため、大陸間の交流はかなり少ないそうだ。


 ちなみに、さすがのポポ(風の精霊)でも他大陸の詳細については把握出来ていないらしい。

 いくら情報共有が出来ると言っても距離や環境によっては限界があるみたいだ。


 次に、魔法について教えてもらったのだが、これが前の世界と大きく異なっていた。

 前の世界では魔法と精霊術が存在しており、大気中や体内の魔力を媒介として直接、現象に介入する事を魔法。

 魔力を対価とし、精霊に現象を引き起こしてもらうのが精霊術であった。

 前の世界で魔法は神により伝えられたため、神と言う概念が無いこの世界においては精霊術が魔法とされているとの事。


 次に異なっていたものとして挙げられるのが女性の地位がかなり高いと言うことだ。

 大きな国の国王や皇帝たちは女性であることもあり、そうでない場合も主だった重鎮達が女性であることが多いらしい。


 そうなった理由が魔法の存在だった。

 どの世界においても魔法は重要視されるが、この世界に関しては精霊術が魔法とされている。

 精霊術は自らの魔力を対価として、この世界に存在する精霊から力を借りる。

 精霊術を使うには適正があり、それは女性であればほぼすべての人間が持っている。女性は生命の母となる存在であるため、女性と言うだけで、精霊達に好まれるのだ。

 もちろん、男性であっても精霊と契約さえすれば精霊術を使えるが、女性の方がより多く、強力な精霊術が使える。

 なので男性よりも強力な魔法が使えるとされる女性の地位が必然的に高くなる。


 やっぱり、前の世界とは色々と違いがあるんだなぁ・・・

 ポポから聞いた事を自分なりにまとめていると、こちらに忍び寄る気配を感じた。

 距離はまだかなりあるようだ


「ポポ、話は一時中断しよう」

「?何かあったでごじゃいましゅか?」

「何かがこっちに近づいて来ているみたい。たぶん、魔物の類いだと思う。」


 そう言い残し、気配の元へと近づく。まぁ、近づくと言っても一瞬なんだけど。

 感じる驚異としては大したこと無いとは思うのだが、何分この世界に来てから初めて遭遇する魔物である。警戒は怠らない様にしよう。


 気配の主は茶色がかった毛並みの猫の様な生き物だった。猫にしては体長が大きく1mくらいある。

 急に背後に現れた僕に気づくと一目散に逃げ出してしまった。まぁ、敵対する意志が無くなったのなら無理に追う必要もないか。

 猫らしき生物が走り去ったのを確認して、ポポの元へと戻った。


「この世界での魔物の扱いはどう?」

「この世界では魔物のことを害獣とよんでおりましゅ。また、狩人ハンターとよばれるひとたちが害獣を狩ることをなりわいとして生活しておりましゅ」

「なるほど、前の世界で言う所の魔物が害獣、冒険者が狩人ハンターって事か?」

「そうなりましゅ」


 ふむ、名称が違うだけと言うことか・・・これも慣れが必要だなぁ。でも、同じだったら好都合だ。

 この世界に来て、一番最初にしないといけない事は衣食住の確保。

 野宿したり、適当に害獣を狩ったりしても良いのだが、それだと神々の要望には応えられないだろう。とりあえず、街や村での生活を目標としよう。


 そうなるとお金を稼ぐ手段として狩人ハンターは一番手っ取り早い。


狩人ハンターになるにはどうすればいい?」

「大きな町にある狩人小屋ハウスというところで、登録する必要がありましゅ」


 これも前の世界での冒険者の扱いと同じか。要するに


 冒険者=狩人ハンター

 冒険者ギルド=狩人小屋ハウス

 魔物=害獣


 こんな感じかな。

 認識としては分かりやすいが、どうしても前の世界の感覚が残っているので、慣れるまでには少し時間がかかるだろう。

 それは良いとして・・・当面の目標としては衣食住の確保は必須だろう。拠点を構えて、ある程度の生活基盤を固めなければ今後に差し支える。


「ここから一番近くで、狩人小屋ハウスがある町はどこになる?」

「ここから西にあるシュラフという町がありましゅ。歩きですと1日ほどかかるかと。」


 そこそこ距離はあるなぁ

 一応、移動魔法は使えるが、その場所のイメージが無いから無理か。

 もちろん、前の世界の街をイメージしても出来ない。もしかするとこの世界にある似たような場所に移動出来るかもしれないが、リスクが高すぎる。


「じゃあ、シュラフに向かうとしますか。ポポ、案内をお願い。」


 考えてもいても始まらない。後の事は追々考えよう。歩いているうちに何か思いつくかもしれないし、先ずは行動あるのみ!


「ノアしゃま・・・1つお聞きしたいのでしゅが・・・なにゆえノアしゃまは服を着ておられないのでしゅか?」

「・・・そうか、やっぱり僕は今、裸なんだね・・・」


 これが神の洗礼というヤツか。

この世界に着いた瞬間に気づいてましたとも。でも、信じたく無かったんだ!完全に現実逃避してたよ!

 まさか神様に全裸で送り出されるなんて思いもしなかった・・・


「はぁ・・・とりあえず、着る物を探さないとなぁ」

「ここから歩いて20分ほどのところに、そこそこ大きな村がありましゅ・・・」

「全裸で村に入れって言うの!?」


 確かに、今の子供の姿であれば年齢的に見て何とかなりそうな気もするが、何となくそれをしてはいけないような気がする。


「いえ、じつはその村の近くに高ランクの害獣が出たとのことで、村人全員がシュラフに避難しておりましゅ。そこでしたら衣服が調達できるやも」


 うーん、悩む。行った所で衣類もすべて持って行ってしまった可能性もあるし、高ランクの害獣についても気になる。


「高ランクの害獣って言うのはどんなもの?」

「前の世界でいうところの大蜥蜴のでしゅ。討伐の為、狩人ハンター6名がシュラフからはけんされましたが、ぜんめつしました。」


 大蜥蜴かぁ、あまり強くない印象だったが、この世界では危険な害獣として知られているらしい。

 それにしても6人がかりで全滅とは・・・


「この世界は戦闘面で前の世界よりもかなりおとっておりましゅゆえ、いたしかたないかと。」


 大蜥蜴相手にこれでは、他の強力な害獣が出たらどうするんだろう?

 この世界・・・大丈夫なんだろうか?

 っと、話が逸れてしまったが、とりあえず件の害獣とばったり出くわしてしまっても何とかなるだろう。

 とりあえず、衣服は早急に何としてでも手に入れたい!


「とりあえず、その村に行ってみよう。ポポ、道案内よろしく」

「かしこまりました」


 僅かな希望を求めて、歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る