第3話 神界
気がつくと真っ白な空間にいた。
白い霧がかったようなその空間は見渡す限り何もなかった。
つい先程まで神と戦っていた事を考えると、死んだ後の世界かな。
「来たか。予想よりも早かったな。ようこそ、神界へ」
声が聞こえて振り返ると先ほどまで戦っていた神がいたのだが、驚いた事に相手は女性の姿をしていた。戦いでは甲冑を被っていたので気づかなかったが本人に間違いないだろう。まさか女性の神だったとは・・・女性の神なので女神かな?その女神に尋ねる。
「神界・・・ですか?」
「あぁ、そなたは死んだ。そしてあの世界も滅びた。」
「そうですか。」
「・・・思ったよりも反応が薄いな。」
「まぁ、あの状況で生きている方が驚きですよ。」
苦笑しながら答えた。
そもそも神に挑んだ時点で死ぬ覚悟は出来ていたし、どのみち神が直々に世界の終焉を宣言したのだから生き残れるはずもない。
その上で命を賭した最期の一撃だったのだ。生きているはずがない。
もっともその一撃も神相手には通じなかったのだけど・・・
そこでふと疑問が浮かぶ
「あれ?じゃあ何で僕は神界にいるんですか?」
「今からその説明をするのだが、まずは場所を変えよう。」
そう言うと女神は指をならした
すると霧が次第に晴れてゆき、大きな神殿の様なものが目の前に姿を現した。
「ついてくるがよい。」
女神様は神殿の扉を開く。
そして石造りの立派な廊下を歩き、神殿の奥へと進む。
廊下の途中途中には横の部屋へと続くであろう扉がいくつもあり、神殿が如何に大きなものであるかが伺えた。
しばらく歩くと、奥の部屋への扉の前に辿り着いた。
女神様がゆっくりと扉を開く。
「おぉ、待っておったぞ!」
奥には祭壇の様な造りの建造物があり、その手前には大きな円卓があった。その円卓の一番奥の席に座っていた神が笑顔で迎えてくれた。
「とりあえず、席に着きなさい。」
案内してくれた女神に促されて、最寄りの席に腰をおろした。
僕が席に着くのを確認すると、女神も隣の席に着いた。
席には5柱の神々が座っていた。
実のところ女神との戦いの時に、既に顔を合わせていた。
あれ?あの時は全員で7柱だった様な・・・
「さて、主役も来たところで早速自己紹介といこうかの。まずはワシからじゃの。ワシは統率の神と呼ばれとる。よろしくの。」
一番奥の席にいた年配の神だ。
流石に貫禄がある。おそらくここにいる神々のリーダー的な存在なのだろう。
「私は養護の神。貴方とお会いするのは2度目ですね。よろしく。」
統率の神の隣に座っていた女性の神だ。
こちらも年配の姿ではあるが、何故か妖艶な魅力が溢れており、まるで見た目と中身の年齢が違うような、そんな気さえする。
「オレは
そう言い、ガハハと豪快に笑ったのは、養護の神の円卓を挟んで向かいに座っていた男の神だ。
人間で言うと3~40代くらいだろうか?
豪快な笑いとは裏腹に、その眼光は鋭く力量を見透かされている感覚を覚える。
「流石に、あなた様程の御仁を相手にするのは命がいくつあっても足りませんよ。」
苦笑しながら応えておく。
いや神を相手に戦うなど、もう御免被りたい。本当に。
「・・・ガハハ、なかなかどうして。それは残念だ。」
「御主は相変わらずだな。我は冥界の神だ。よろしく頼む。」
こちらは戦槍の神の隣に座っていた神だ。
冥界と言うだけあって、もっと強面かと思いきや、かなり優しそうな雰囲気の神だった。
冥界の存在は前の世界の知識として知っていたので、おそらくそこを管理する神だろう。もちろん冥界には行った記憶はないが
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「最後は私ですね。私は
最後に僕と戦ってくれた女神が挨拶をした。
統率の神
養護の神
戦槍の神
冥界の神
戦盾の神
そうして一通り自己紹介が終わった所で、神々の視線がこちらに集まった。
流れから察するに、自己紹介した方がいいかな。
「僕・・・いや、私?はノアと言申します。その・・・お世話になりました。」
「あぁ、言葉使いは気にせんでもよい。ノアよ、お主を此処に呼んだのはワシら神々の頼みを聞いてもらいたかったからじゃ」
神相手にどのように接すればいいのか困惑していると、統率の神から声がかかった。
「頼み・・・ですか?」
「そうじゃ。ノアよ、お主にはワシら神々の代表として、新たな世界に降りてもらいたい。」
「新たな世界?」
「そうじゃ。前の世界の反省を活かして、また新たに世界を創った。その世界を観てほしいのじゃ」
新しい世界。
神々が新しく創りあげた前の世界とは異なる世界。うん。スケールが大き過ぎて実感が湧かない。
「前の世界について皆で話し合った結果、神々が人類に深く関わり過ぎてしまったことが前の世界が滅んだ原因ではないかと考えたのじゃ。」
「それは・・・あるかもしれませんね・・・」
貴殿方が滅ぼしたんですよ。とは口が避けても言えない。
もっとも人間のせいで神々がそうせざる終えなくなったと言えばそれまでである。
「そこで新しい世界ではあるルールを設けたのじゃ。そのルールが『神々が直接関与出来ない』というものじゃ。神々の存在がなければ宗教間での争いは起こるまい。」
なるほど、神々と世界の接点を無くすことで、争いの火種を作らない様にするのが狙いか。
確かにそれであれば前の世界の様な争いも少なくなるかもしれない。
そもそも、前の世界が滅ぶ切っ掛けとなった排神運動も神と言う存在がなければ起こり得ない。
だが、だからと言って平和な世界になるかどうかまでは正直、分からない。
「でも、僕が新しい世界に降りなければならない理由が分からないのですが・・・」
「ワシらが創ったルールは直接的な関与が出来ない。じゃが間接的には関与が可能なのじゃ。つまりお主を通じてであれば、ある程度世界に関与することが出来ると言うわけじゃな。」
「なるほど・・・ですが何故僕なのですか?」
「神界からお主の戦いは見ておった。お主がいなければ前の世界はとっくの昔に滅びていたじゃろう。まさか魔王討伐より戦争が優先されると思わなんだ。」
そう言うと、統率の神は深く溜め息をついた。さすがの神でもそこまでは読めなかったようだ。
「そんなわけで、お主が神々と世界の仲介人になれば、そう間違った方向にも進まないじゃろうと言うことになって、お主が推挙された訳じゃ。まぁ、お主も今となっては半分神みたいな存在じゃし・・・」
何かえらく信頼されている様な気がするけど、一応理には叶っている・・・かな?
ーーーって、今、サラッと聞き捨てならない言葉が出ませんでしたか!?
「ちょっ!半分神ってどういう事ですか!?」
おっと、神達が一斉に顔を反らしたぞ!?
コホンと統率の神が咳払いをする
「・・・まぁ色々とあったのじゃが・・・お主、戦盾の神と戦った際に魂を削ったであろう?」
そう言われると、確かに前の世界での最後の一撃は自分の命を賭すつもりで放ったけど・・・それが魂を削ると言う事らしい。
「人には肉体と魂が存在する。人が死ぬと肉体は朽ち、魂は冥界へと帰ると言うことは知っておろう?」
この教えは前の世界で伝え聞いていた『人の死』についての教えだった。
まぁ、それも神々により広められたのだけど
「はい、知っています。」
「本来であれば人が死ねば魂は冥界へと帰り、生前の罪状に応じた期間を冥界で過ごし、そしてまた世界に転生する。お主もそうなるはずじゃった。」
うん。前の世界で知っていた内容と同じだ。
しかし口ぶりから察するに、そうならなかったってことかぁ・・・
「お主が魂を削った事で、本来1つの塊として存在するはずの魂が、欠けた状態になってしまったのじゃ」
「そんなことが・・・ですが今、僕がここにいるということは、魂が戻ったということですよね?」
「残念ながら戻ったのは全体の4割程度じゃな・・・じゃからお主が新しい世界に転生したとしても、元の4割程度しか生きられぬ。」
4割かぁ・・・仮に転生して元々80歳までの寿命があったとすれば、今の僕では30歳ちょっとくらいまでしか生きられない事になる。
「それでは、ワシらにとってもよろしくないと言うことで、残りの6割を神の力で補うことにしたのじゃ。じゃからお主の場合は転生ではなく転移と言うことになるかの。」
ここで言う転移とは、前の記憶を保持したまま新しい世界に降りる事だそうだ。
転生の場合だと誕生する所から始まるので、前世の記憶などは残らない。まぁ、人によっては成長していく過程で前世の記憶が甦る事もあるらしいが、かなり希なケースだそうだ。
神界から転移した人間がいるなどと言う話は聞いた事ないが、まあ魂の6割が神の力によって補われているからこそ出来るのだろう。正直なところ僕の中では神自体が何でもアリみたいな存在だし。
元の僕の魂が4割、神の力による補填が6割。なるほど、だから半分神様みたいなものと言うことか・・・
「正直に言うとあまり実感は無いのですが、何となく理解しました。」
「あ、そうそう。前の世界のお主の仲間達はちゃんと冥界で過ごしておる。そのうち、新しい世界で再会することになるじゃろう」
「本当ですか!?」
前の世界での仲間にまた会えると言うことは今の僕にとっては一番うれしい情報だった。
転生で記憶はないはずなのだが、何となくまた仲間になれる気がしてならない。
「うむ。じゃが、予定よりも10年ほど早くお主が目覚めてしまったからの、すぐには無理じゃ」
ん?10年?不思議に思い自分の体を見てみると、確かに体が小さくなっていた。
いや、よく考えれば視線も幾分か低い・・・
「なんじゃ、気づいとらんかったのか?」
戸惑っていると、驚いたように統率の神に訪ねられてしまった。
はい。ここへ来てからの情報量が多過ぎて全然、気がつきませんでした。
「僕の状況については、ある程度理解しました。それで、具体的に僕は新しい世界で何をすればいいのですか?さすがに世界を裏で操れと言われても無理がありますし・・・」
「そんな事はさせんよ。だが、うーむ。正直、これといって特にすることはない。まぁ、強いて言えばいろいろな所を観て回るといったところかの?」
それってただの観光では?と思ったが、聞いてみるとどうやらその通りらしい。
何でも、僕が見聞きしたことがそのまま神々に伝わるらしい。もちろんプライベートな部分は除いてだ。まるで観賞用のペットになった様な気分だ。
「オレは出来る限り、戦場に身を投じて欲しいがな。いや、自然とそうなっていくか・・・」
そう言ったのは戦槍の神だ。
やめて下さい!そう言う言い方をされると実際にそうなりそうな気しかしません!
僕は何事もない平穏な日々を望んでいますから!
戦槍の神は好戦的な神なんだなぁ。そこでふと戦盾の神に目をやる。
「私は戦槍の神の様に、戦いが好きと言う訳ではないぞ。ノアと戦ったのはそうしないといけない気がしたからという理由だ。他意はない。」
神にも性格はいろいろあるようで、好みもそれぞれみたいだ。
とは言うものの、戦盾の神が戦ってくれた事には感謝していたので、きちんとお礼は言っておこう。
「ありがとうございました。」
そう言うと戦盾の神は軽く手をあげて応えてくれた。
「まぁ、戦いはともかく新しい世界では出来るだけいろいろな場所や物を観て回って欲しい。もちろん出来る範囲でかまわん。何かあればこちらからまた連絡を入れる。」
「わかりました。それで新しい世界にはどうやって行くのですか?」
「お主さえよければすぐにでも送ろう。そうそう、言い忘れとったが、前の世界でお主が契約しておった精霊達もおる。今は風の精霊が目覚めとるから、いろいろ聞くとよい。」
新しい世界にも精霊界はあるようだ。今は風の精霊しか目覚めていないようだが、そのうち他の精霊達も目覚めるらしい。
新しい世界は人間界・精霊界で成り立っている。もちろん神界や冥界もあるが、新しい世界の人達は神々の定めたルール上、存在を知り得ないため概念自体も無いはずである。
だが、精霊がいるのは非常に助かる。特に新しい世界の情報は無いし、神々も新しい世界についてあまり把握出来ていないらしい。
それで大丈夫なのかと心配になるが、最初に設定したルールもあって情報収集が難しいとの事。
早速、この世界も色々と穴だらけの様な気がする。
「精霊達がいるのは助かります。ちなみに、この神界から何か持っていくことは出来ますか?」
「残念ながら、神界で創られた物を人間界に持ってくことは出来ん。」
ダメ元で聞いてみたが、やはりダメだった。
しかし前の世界同様、魔力も存在するし魔法は使える様なので、たぶん何とかなるだろう。
「それなら、特にこれといった準備もないですし、今から送ってもらってもいいですか?」
「ーーー前の世界から思っておったが、大した順応性じゃな・・・達観しとると言うかなんというか。うむ。もちろんじゃ、それでは新しい世界に送るからそこに立ってくれるか?」
言われるがまま、部屋の奥にあった祭壇のような場所に案内された。
もちろん部屋にいた全ての神々に見守られているが、一様に期待の眼差しを向けられることに戸惑っていた。
特に戦槍の神なんかキラキラと少年のような眼差しでこちらを見つめていた。
「それでは、準備はよいかの?」
「はい」
統率の神が何やら唱え始めると、祭壇の床が白く光り、やがて体が光に包まれた。
次第に瞼が重くなり、意識が遠退いていった。
おそらく次に目を開けたら新しい世界だろう。何となく分かる。
不安はあるものの、新しい世界には契約した精霊がいる。
そしてまた仲間達に会える。また旅が出来る。そう考えると、楽しみの方が大きい。
新しい世界は前の世界よりも良い世界だと良いなと思いつつ、意識を手放した・・・
ーーーーーーーーー
「統率の神よ、1つ聞きたいのだが?」
ノアを見送った後、祭壇の部屋で戦盾の神が尋ねた。
「ん?なんじゃ?」
「人間界には神界の物を持っていくことは出来ないのですよね?」
「?そうじゃよ?」
「ノアが先程まで着ていたのは神界で創られた服では?」
「ーーーーーーーあ。」
ノアが送られた祭壇には服が一式落ちていた。
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