第2話 神との対峙
僕は今、神様と対峙していた。 人間である僕が神を相手取って生き残れるはずもなく、間違いなく僕はここで死ぬ。
だけれど不思議と死に対する不安や恐怖といった感情は無かった。
それは一重に、一緒に居てくれる仲間がいるからだろう。
「最期に言い残す事はあるか?」
僕と対峙していた神が最期の言葉を聞いてきた。
僕は神に対して一騎討ちの戦いを申し出た。その申し出に、神は応じてくれた。
僕の後方には信頼する仲間達が控えているが、もちろん一騎討ちなので戦いに参加する事はない。だが、後ろに居てくれるだけで心が落ち着いた。
「まずは、僕の提案に・・・一騎討ちに応じて頂いたことと、仲間達に対しての配慮に感謝します。」
「それはよい。貴様には少しばかり借りがあったのでな。他の神々も文句は言わなかったしな。」
僕は神々に対して一騎討ちを提案し、受け入れてくれた。その上、戦いの間は仲間達に危害が及ばぬ様にしてくれたのだ。感謝の一言は伝えないといけないだろう。
「貴様はこの世界をどう思う?」
不意に投げ掛けられた質問に、僕は少し戸惑った。しかし、この世界がどうかと聞かれれば答えは決まっている。
「・・・そうですね・・・救いようのない世界だと思いますよ。」
「ならば何故、その救いようのない世界の為に戦うのだ?」
「うーん、言葉にするのは難しいですね。たぶん戦いの中で分かって頂けるかと思いますよ。」
「神を相手に戦いになると申すか?」
正直なところ、神を相手にまともな戦いが出来るとは思っていなかった。ただ、無為に終わらせる気もまったくない。どうせ最期なのだ、せめて一矢報いるくらいの事はしたい。
「はい、そうなればと願っています。」
「・・・フフ、その胆力はさすがと言った方がよいか。元勇者よ。」
ーーーーーーーーーーーーー
私は今、一人の青年と対峙していた。
その青年はかつて勇者として世界を危機から救い、多くの人々の命を救った。しかしそんな彼の事を知る者はほとんどいない。
誰からも感謝される事なく、褒め称えられる事のない孤独な英雄。いや、今は仲間がいるから孤独とは少し違うな。
この青年はこの世界が終わりを迎える事を理解していたし、救うに値しないと言うことも理解していた。
では何故、神に挑むのか。
それは戦えば分かると言っていたな。ならば戦いの中で見せてもらおう、この青年の思いを。
「ならば来るがよい。貴様の思いを、私に知らしめてみよ!」
何故だろう。
私の勝利は既に確定しており、戦う前から結果は出ている。にも関わらず、心からこの戦いが楽しみで仕方がない。
これほどまでに感情が
分からない。
青年は剣を抜き、構えを取る。
私も左手に盾を、右手に剣を構えて迎撃の準備を取る。
「行きます!」
この世界での最期の戦いが今、幕を開けたーーー
青年は地面を蹴って、懐に飛び込んで来るが、盾でそれを受け剣で切り返す。
青年はそれを剣で受け流す。と同時に、青年から魔力の高まりを感じて盾を前にする。
この世界には魔法が存在する。大気中や体内にある魔力を用いて現象に介入する。
炎や水などを生み出す事も出来れば、自らの肉体を強化したりと、魔法は様々な事を可能にする。
無数の斬撃が盾を打つ、私も魔力を練り背後に複数の火球を出現させる。高密度に圧縮された炎の弾丸が高速で放たれ、青年に襲いかかる。
青年は距離を取りながら、左右に炎の弾丸を回避していく。
普通の人間であれば回避はまず不可能な速度だ。それを事も無げに避けるだけでなく、魔力を練り反撃の準備も行っている。
「貴様は本当に人間か?」
思わず口から漏れてしまう。
炎の弾丸が地面に着弾し、地面を溶かす。青年が避けざまに剣で地面を抉る《えぐる》と、地面が隆起し、岩の針となって迫り来る。
私は後方に飛び退きながら迫り来る岩の針を剣で破壊していく。
そして剣に魔力を通して、振り抜くと地面が爆発し土煙が昇る。
その土煙を突き破る様に青年が突貫してくる。
私は盾で受け、剣と盾が衝突する瞬間に盾を押し出した。
盾に弾かれる形で青年が体勢を崩し、そこに剣で一撃を入れるが、青年は上体を反らしてそれをかわす・・・だけでなく、体を捻らせて蹴りを入れてきた。
私はしゃがんで回避し地面を蹴り、振り抜いた剣を返して切り繋ぐ。
青年に体勢を立て直す暇を与えない。
青年は辛うじて剣で受けるが、いなし切れずに吹き飛ばされた。
空中で素早く体勢を整えて、受け身を取る。
間合いが開いたことで、しばらく沈黙が、流れた。その間、高威力の魔法を放つ準備をするため魔力を練り上げる。
すると青年の回りに色とりどりの発光体が集まってきた。それぞれに異なった魔力の波動を持ち、青年の魔力と同調するように変化していく。
「精霊、だと!?」
精霊。それは神の眷属であり、またこの世界では人間よりも上位の存在である。
人間は精霊と契約することで、精霊の力を借りて精霊の力を行使出来るようになる。
だが精霊は神の眷属であるため、神に対して逆らうことが出来ない・・・ハズだった。
目の前の青年が契約している精霊達は青年に力を貸して、真っ向から神である私に対立したのだ。
信じられない光景に思わず目を見開いた。
青年の魔力と精霊達の魔力がやがて同調し、青年の魔力が爆発的に跳ね上がる。
「はあぁ!」
「!!」
先に動いたのは青年だった、動きも先程までとは比べ物にならないほど速い。私は練り上げた魔力を防御に回し、初撃を盾で受けた。
青年の攻撃は止む事なく、次から次へと斬撃を切り結んでいく。
こちらもただ防ぐだけではなく、時折、反撃するのだが決め手に掛けていた。
私は盾を司る神であり、守る事に特化したタイプだ。他の神に比べると攻撃面では劣ってしまうのだが、この拮抗は私にとって優位な情況だ。神の域に達するほどの高速戦闘だ、いくら精霊の加護に護られているからといって肉体へのダメージが無になることはない。
青年は魔力の減少と共に、攻撃の手数を減らしていく。時折放つ反撃もいなし切れずに傷を受けていくが、青年の攻撃は止まらない。
青年が瞬く間に魔力を練り、上空から拳大の水滴が落ちてくる。落下中に水滴は氷へと変わり、無数の弾丸となり降り注ぐ。私も火球を地上から放ち、氷の塊を迎撃していく。その間も地上での攻防は続いている。
よもやこれほどまでの戦いになるとは思いもしなかった。正直なところ戦いと呼べる形になるかどうかだと思っていたのだが。この拮抗で耐えきれば、こちらの勝利だ。
青年は急所こそ外しているものの、身体中に傷を受けて満身創痍だった。
「そろそろ限界の様だな。よもやここまでの戦いになるとは思いもしなかった。」
「・・・っ!」
「せめて一太刀で終わらせよう。」
「!?」
盾から衝撃波が放たれる。青年は正面に魔力で壁を作り出して衝撃を流すが、咄嗟の判断だった為に防御しきれていない。私は素早く青年の背後に回り込む。
剣に魔力が集まり、刀身が光を放つ。青年への敬意を込めた一撃だ。
青年は振り向き様に剣でその一撃を受け流そうとしたが、
ザンッ!!
青年が打ち合わせた剣もろとも青年の体を切り裂いた。
大量の鮮血が降り注ぐ。青年は魔力を集めて防御に徹した事で何とか即死は免れた様だが致命傷には変わらない。立ち上がるのは無理だろう。青年の魔力は自衛に費やしたため、ほとんど残っていない。意識を失い倒れゆく青年に止めを指そうとした所で私は驚愕し、思わず距離を取った。
明かな致命傷。
魔力も枯渇。
気絶状態。
・・・にも関わらず、青年は踏み留まっていた。
「!!何故、貴様はまだ立っていられるのだ!?」
青年は折れた剣を握りしめ、その2本の足でしっかりと立っていた。
意識を取り戻した青年の瞳はまっすぐに私を見据えたままだ。まだ何も諦めていない。
「ーっ!?」
その時、青年から再び魔力の高まりを感じた。それもこれまでに無いほどのだ。
一体この青年のどこにこの様な力が残っているのだろうか。魔力は完全に枯渇していたし、致命傷を負い、立っているのも不思議なくらいだ。もう勝敗は決しているにも関わらず、何故まだ諦めない?
そこでふと、ある言葉が思い浮かんだ。
《人間の可能性》
私達は人間と言う存在を
だがもし次があればどうだろう?この世界よりは良い世界になるのでは無いだろうか?
人間の可能性というのも捨てたものではないかもしれない。
青年の魔力に呼応するかの様に、大地が震え、空気が震える。
青年からは魔力が溢れ出し、キラキラと青白く輝き、瞳もまた同じく蒼く輝いていた。
「!!この力は・・・!」
瞬間、反射的に自身が持つ中で最強の防御手段を展開する。一度使えばしばらく使えなくなる最強にして最後の防御手段。
剣を捨て、両手で盾を支える。本能的にそれでなければ防ぎ切れないと、判断したのだ。
青年は一閃の閃光となり迫り来る。
「
ードゴォォオオオオオオオオー
光に包まれた中で、青年の拳が盾にヒビを入れていく。
まさか!
轟音と共に、辺り一面を白い光が包み込み、その衝撃で神々は展開していた防護壁を張り直さなければならなくなった。
凄まじい魔力に後ろで控えていた神々の顔にも緊張の色が浮かんでいた。
青年の仲間達も同じく、固唾を飲んで見守っていた。
次第に土煙が晴ていくと、二人が戦っていた場所に巨大なクレーターが出来ていた。その中央で仰向けに倒れている青年と、ヒビの入った盾で体を何とか支えている神が立っていた。そして青年に向かい「見事」と一言呟いた。
この世界で最期の戦いが幕を閉じた。そしてその後、この世界は神々が宣言した通り、終焉を迎えた。
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