大丈夫、大丈夫、もう大丈夫
セバスは急いで歩いていた。
「少し話して食べて帰る予定だったのですが、とんだ騒動に巻き込まれました・・・ある一定の収穫はありましたが・・・」
セバスはツアレを待たせているので、夜道を足早に歩く。
いつもなら街の風景を眺めたり、どんな人間がいるのかを確認するのが日課だが、今はそれどころではない。
(一刻も早く帰らなくては・・・ああ、空を飛びたいですね・・・)
歩いている姿も素敵なセバスは道行くカップルの目を奪う。
「あのおじいさん、すごい速さで駆け抜けていったけどカッコいい・・・」
「・・・ふん、じいさんより俺のほうがカッコいいだろ」
セバスはそんなカップルの話は聞こえず、さっさと歩く。
(あと少しでホテルに着きますよ、ツアレ)
そして、セバスはホテルに着いた。
急ぎエレベーターホールに行き、エレベータの上に行くボタンを押した。
そして、運良くエレベーターがすぐ来たので、セバスは飛び乗る。
(ほっ、こんなにエレベーターが来て安心した事はありませんね・・・)
目的の階に着くと、静かにかつ早歩きで、自分の泊っている部屋の前に立つ。
念のため部屋のドアをコンコンと優しくノックをした。
少し待つが反応がない。
「ツアレは眠ったのでしょうか・・・?」
セバスはホテルのカードキーを使って、ドアをそおっと音を立てないように開ける。
部屋の中に入ると、部屋の電気は付いていたがツアレの姿はない。
セバスが今いる部屋のテーブルには、ツアレが食べ残したであろう食べ物がそのままになっていた。
(先ほど沢山買ったので食べきれなかったのかもしれませんね。片づけておきましょうか)
セバスはごみを片付けて、つけっぱなしになっていた部屋の電気を消して、間接照明に切り替えた。
ぼやあっとオレンジ色の間接照明が点灯すると、先ほどまでのホテルの部屋がムーディーな雰囲気になる。
(夜はやはり間接照明に限りますね。癒されます)
そして、眠っているであろうツアレがいるか念のため確認をすることにした。
(これでまた攫われていたら、どこかの城の姫みたいですね)
セバスは以前ペストーニャに勧められて読んだ小説を思い出した。
あの小説は悲しい恋の物語だったが、人間がこんなに深い物語を書くんだと感心した良い本だった。
またペストーニャに本を借りるのも良いかもしれないと、セバスは部屋に着いて気が緩んだのかそんな考えが浮かんだ。
本の回想も良いのだが、とりあえずはツアレの無事を確認しないことには落ち着けないので、忍び足でツアレが眠っているであろう部屋へ向かう。
セバスがその部屋をそっと覗くと、パジャマ姿のツアレはそこにいた。
ベッドに体を投げ出して、ホテルが用意したガウンをブランケット代わりにくるまって眠っていた。
______ああ、良かった。これで安心だ。
とセバスは一安心をして、息をふうと吐いた。
そして、そのままではツアレが風邪をひいてしまうので、そっと見るだけの予定だったが、セバスは忍び足でツアレが眠っているベッドに近づいた。
布団を肩まで掛けようとツアレの顔を見ると、涙の跡があった。
_______ツアレはセバスと共に外へ出かけるようになってから、笑顔を見せることが増えた。笑顔が多いことは良い事なのだが、もしかしたら毎日の仕事が終わって、夜に自分のベッドに戻ったら隠れて泣いていたのかもしれない、とセバスは思った。
(もっとツアレの苦しみや悲しみに寄り添えたら良いのですが、どうしたらもっとツアレの心に近づけるのでしょうか?)
彼女が眠るベッドの側に膝をついて、そっと顔にかかった髪をすく。
すやすやと眠って優しい顔をしているツアレの顔。
セバスはしばらくその寝顔を眺めていた。
「・・・・もう大丈夫です・・大丈夫です・・・もう大丈夫・・」
自分でも知らないうちに、大丈夫、大丈夫と唱えながらツアレの頭を優しく撫でていた自分に気づきハッとしたセバス。
(このままだとツアレが起きてしまうかもしれませんね。私も部屋に戻り休みしましょうか・・・)
セバスはツアレの部屋を後にした。
______セバスが自分の眠る部屋に戻ると、ぐっと背伸びをした。
「さて、せっかく高級ホテルに宿泊しているので、私もガウンを着用してみましょうかね」
背広を脱ぎ、ネクタイを外しワイシャツのボタンをはずしていく。
脱いだ衣服は一旦ベッドに置く。
ガウンを羽織ると、セバスはズボンも脱ぎ、ハンガーに掛ける。
「ガウンはとても開放感があってまだ慣れませんね。アインズ様が人間のホテルに滞在している際は、ガウンを羽織るのがカッコいいんだと語っているのを聞いてから気になってはいたのですが・・・さすがアインズ様です」
アインズ本人がいなくても何かあれば、至高の御方の誉め言葉がすぐ出てくる。
ガウン姿のダンディーなセバスは、そのままホテル客室内の浴室に行き、入浴をした。
入浴もアインズ様に勧められて、最近始めた。
(入浴するとさっぱりするので、人間はお風呂が好きなんでしょうかね)
まだまだ知らない人間の習慣に戸惑う事は多いが、アインズ様やツアレのおかげで新しい世界を知る事が出来て嬉しいセバスだった。
人間流の体の洗い方はまだよく分からないので、自己流で体を洗う。
(入浴は気持ちの良いものなので、ツアレとの雑談の話題に使えそうですね)
体を洗い終わると、浴槽に入り湯に浸かる。
これもアインズ様情報なのだが、頭の上にタオルを置くと何か健康に良いらしい。
(理由までは聞いていない)
お風呂から上がりベッドに入ると、一杯の水を飲んでから眠るようにしている。
(これもアインズ様から聞いた健康法である)
(・・・・明日はナザリックに帰還をしたら、ツアレの心のケアも考えて、レストランの買収の件の報告書を作成、金銭面でデミウルゴスに相談もしないといけません。問題が山積みですが頑張りましょう)
いつもは睡眠という慣れない行為はセバスは苦手なのだが、ツアレの寝顔を見たせいかぐっすり眠ることが出来た(無自覚)
「うう、まぶしい・・・」
ツアレはホテルのカーテンから漏れる朝日で目が覚めた。
ぼーっとした状態で、もぞもぞと起きようとするのだが、体が重くて起き上がらない。
普段の日常だとパッと起きられるようになってきたのに、ホテルのベッドは寝心地が良すぎるせいか起きるのがもったいない。
(うう~せっかくいい夢見られたのに、現実に戻るのちょっと待って~)
ツアレは、昨日とても癒される夢を見た。
それは自分が眠っているときに、セバス様に頭を撫でてもらう夢。
優しい言葉と撫でてもらえるのがセットだなんて、最高すぎる。
ついにやにやとしてしまったツアレは、あともうちょっとだけと目を閉じる。
自分が猫のように愛玩動物だったら良いのにな~。
いや、ある国だと人間が亜人の愛玩動物になっていると聞いたことがある。
いやでもしかし、自分はそういうのを志望しているわけでもないし、あの悪夢から逃げたいとずっと思って何とか生きてきたのに、セバス様だとどうしても飛躍した考えが浮かんでしまうことがある。
「はあ~猫になりたいな~」
____ツアレがもぞもぞと、起きるか起きないかの静かな戦いをしている頃・・・セバスはすでに起きていた。
毎日同じ時間に起きるセバスは、いつものように午前5時に起きていた。
なぜこんなに早く起きるのかというと、たっち・みー様が普段仕事で早起きであるため、セバスも自然と早起きの習慣がついたらしい。
(アインズ様はゆっくり起きて良いのだぞと仰るので、セバスはどちらも守りたいので休みの日は遅く起きるか迷っている)
ガウン姿で寝ていたセバスは、乱れたガウンを直して洗面所へ行く。
まず初めに顔を洗う。そしてふかふかなタオルで顔を優しく拭く。
そして、鏡に映るセバスは、ホテル備え付きの櫛で髪の毛を直し、髭を剃る。
セバスは人間ではないので、髪や髭は頻繁に伸びないので整えなくても良いのだが、執事としての身だしなみとして整えているのだ。
着替えを取りに、部屋に戻る前にトイレで起きたツアレにばったり出会った。
「ひゃあっ!!セ、セバス様!!おはようございます!」
顔を真っ赤にしたパジャマ姿のツアレが、おろおろと目を泳がしていた。
「ツアレ、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
セバスはいつもの素敵な笑顔で挨拶をした。
「は、はい。おかげさまで眠れましたっ!」
ガウン姿のセバス様を見るのが恥ずかしいツアレは顔をそむけたまま、手をバタバタとしていた。
なんでツアレは朝から慌てているのか気付かないセバスは提案をした。
「朝ごはんはどうしましょうか?ホテルで食べるか、このままチェックアウトして街の中で朝ごはんを頂くのと、どちらがよろしいでしょうか?」
「ええっと、ど、どっちでも大丈夫ですっ!!!セバス様にお任せしますっ!失礼しますっ」
とツアレは、ばたばたと部屋に戻る。
一人取り残されたセバスはぽつりと呟く。
「人間は朝に声を掛けてはいけなかったのでしょうか?まだ人間の朝の過ごし方について調べる必要がありますね・・・」
ツアレに迷惑かけてしまったと反省したセバスは、着替えに戻った。
部屋に戻ったツアレは、嬉し恥ずかしにドキドキしていた。
「パジャマ姿見られちゃった~恥ずかしい~、そしていつもの服装じゃないセバス様、恥ずかしくて見られなかった~」
顔を真っ赤にして両手で顔を覆って、ベッドに倒れこむ。
ベッドでごろごろすること1時間、もうそろそろ起きる時間なので着替えるツアレ。
いつものメイド服に着替えたツアレは、荷物をまとめて身だしなみを整えた。
そして、心の中でセバス様がいつもの服装に着替えていることを願って、部屋から出る。
部屋を出ると、コーヒーの香ばしい良い香りが広がっていた。
「ツアレ、先ほどは失礼いたしました。お詫びにコーヒー一杯いかがでしょうか?」
セバスが優しい笑顔でツアレにコーヒーを手渡す。
「ありがとうございます、セバス様。お詫びって何でしょうか?私が何かしてしまったのでしょうか?」
コーヒーカップを両手で包み、小さく首を傾げるツアレ。
「いいえ、先ほどツアレが慌てて部屋に戻ったので、起きたばかりの人間に声を掛けるのは、人間の決まりとして良くなかったのだろうと思いまして・・・実際、私が人間と朝を迎えるのは、初めての経験です」
そう言ってセバスは笑った。
それを聞いたツアレはくすっと笑ってこう言った。
「ふふふ、セバス様そんな人間の決まりはありませんよ。ただ人間の女性は朝は化粧をしていなかったり、服装が乱れていたりするので、朝の姿を見られるとちょっと恥ずかしいですね・・・」
穏やかな朝を過ごした二人はそのままホテルで、朝食を食べることにした。
・・・・そんな二人を遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で、アインズは穏やかに見ていた。
「ふむ、二人はやはりナザリック地下大墳墓内で一番青春しているな。帰ってきたらセバスに話を聞いてみるか。面白い反応が見られるかもしれんな・・・」
何か青春系のイベントを開催してみたいなあ~とほのぼの思ったアインズ様だった。
(だって普段は侵略だの、殺すだの、捕虜だのと殺伐しているし、たまには良いかもしれないな。みんなに羽根を伸ばしてもらうつもりで・・・うん、そうしよう。明日は会議だし提案してみよう!)
ナザリック地下大墳墓内のアインズの自室で、わくわくルンルンとしているアインズ様がいましたとさ。
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