セバスの提案

ベロベロに酔った男性が振り返るとそこには、30代程の男性がいた。


「おー!久しぶりだなー!弟!!どこ行ってたんだぁぁぁー!」

酔っている男性は、その肩を掴んだ男性を見るとすぐに笑顔になった。


「兄さん、言ったじゃないか、お酒を飲んで店で暴れるのはやめろって」

弟と言われた男性は悲しそうに話した。


「俺は暴れてなんかにゃい!!ただオーナーとしてお客様に話しかけようとしてただけだじょ!!」

兄と呼ばれた酔った男性は、先ほどの笑顔から怒りの表情になる。



「兄さん、気付いているかい?・・・兄さんがこの店で、無茶なコースを急に頼むようになってから、お客様へ料理の提供が遅くなって店の評判が悪くなっていることを・・・・」

弟は悲しみのあまり、握りこぶしがプルプルと震えていた。


「そんな訳あるか!!!お前が料理の修行したいと言ったから、俺がオーナーになったんだぞ!!!それから三ツ星評価からは落ちていないはずだ!!!」

兄は手をぶんぶん縦に振りながら、怒りを表現していた。



「その事については、兄さんに感謝してる。おかげで自分のお店をオープンすることもできたし、料理人の知り合いも増えた。だけど父さんから受け継いだこの店が、評判が悪くなって、このまま閉店するなんて許せないんだ!!!!だから!!!」

ずっと冷静に悲しさを表現しようと努力していた弟は、我慢できずについに、語気を強くした。


・・・・・・その時セバスは静かに二人のやり取りを見ていた。

(ご飯のお誘いがまさかこんなことになるとは・・・本日は何も食べられない可能性が高そうですね・・・頃合いを見て帰りますか、ツアレを待たせていますし・・・)


弟は大きく深呼吸をしてから、また話し始めたのだった。

「この前、料理人の知り合いから聞いたんだ・・・もうこの店も閉店かもなって・・・このまま常連客が離れていくのは悲しい・・俺は自分の店もあるし、ここの店を手伝える余裕もないから、ここの店の味を受け継いでくれる人に譲ろうと考えているんだ・・・」



それを聞いた兄は、激高してテーブルを強くこぶしで叩いた。

「・・・オーナーの俺に黙ってそんなことをしていたのか!!!許さん!!絶対にお前にこの店は渡さない!!!!」

兄は怒りが抑えられず、グラスに入った白ワインを弟に浴びせかけた。



そして弟は黙って濡れたところを拭いていた。




_____________兄弟の長い言い争いがやっと落ち着いてきた頃・・・・



「もういい!!!俺はもう知らん!!!帰る!!!」

兄は弟に怒鳴り、ナプキンをテーブルに叩きつけて帰っていった。


「ええ!!帰ってください!!これからディナーの時間なんでね!!!静かになって結構!!!」

弟も強く言い返した。


そして、兄が料理店から出るところを見届けた弟は、ふう~とため息を吐くとセバスに話しかけた。

「お客様、お見苦しい所をお見せしまして申し訳ありませんでした。兄は昔は、ああじゃなかったんですが・・・」

弟は申し訳なさそうに話した。


「いえいえ、お気になさらないでください。貴方のおかげで静かな雰囲気がこの場に戻ってきましたよ。そして、濡れたお洋服は大丈夫でしょうか?ハンカチお使いになりますか?」

セバスは優しい笑顔を見せた。


「お客様、優しいお言葉ありがとうございます。本日はまだ料理も出ていないことですし、ご迷惑もお掛けしましたので代金は頂きません。このまま酔っ払いの兄がいたら、貴方にも危害を与えていたかもしれません・・・そして兄はこんな素敵な執事の方とお知り合いだとは驚きました」

弟はセバスの言葉にほっとしたのか安堵の表情を浮かべていた。


「いやいや、私はある貴族の一執事でしかありません。そして自己紹介がまだでしたね。私の名前はセバスチャンと申します。どうぞセバスとお呼びください」

セバスは深々とお辞儀をした。


セバスが自己紹介をすると、弟に質問をした。

「さきほど、少し聞こえてしまったのですが、ここの店は誰かにお譲りするというのは本当でしょうか?」


「ええお恥ずかしながら、この店はいずれ閉店するでしょう・・・オーナーの兄のせいで風評被害もすごくて、料理のおいしさだけでは難しい状況です・・・」

弟はまた悲しそう表情になる。




「本日はこれにて失礼させていただきますが、私のご主人様が実は・・・レストラン経営に興味を持っていまして。

後日改めて店舗譲渡の件でお話を伺いに来てもよろしいでしょうか?・・・急な話ですが、ご検討よろしくお願いします」

セバスは、ジャケットの裏ポケットから連絡先が書かれた名刺を取り出し、弟に手渡した。


「は、はい・・・実は、先ほど威勢良く譲る先を探す!!と申しておりましたが、ここまで風評被害が大きくなりますと・・・なかなか譲渡先も無く、ほとほと困っていたので渡りに船です!!ありがとうございます!

では、私の連絡先もお渡ししておきますね。セバス様、こちらこそよろしくお願いいたします」


弟はセバスに連絡先が書かれた名刺を手渡した。


セバスは名刺を受け取ると「ほう・・カザフ様とおっしゃるのですね。よろしくお願いします。また後程連絡いたします」と弟に話すとレストランを後にした。









______やっとセバスは料理店からでると、外は真っ暗で建物の照明がとても綺麗に見えた。

(夜はこんなに綺麗なんですね。普段なら部屋の中で作業中なので気づきませんでした。ツアレやアインズ様にもお見せしたいですね)


セバスはメッセージをアインズ様に向けて送る。



「ああ、セバスか。こんな夜中にどうした?緊急事態か?」


「いえ、人間の街を偵察中に良い出資先を見つけましたので、アインズ様にご報告をと・・・閉店予定の高級レストランでございます」


「ふむレストランか・・・人間が何を食べるのか知る良い機会になりそうだな・・私とデミウルゴスぐらいしか人間向けの食べ物は知らないからな・・・そうだセバス、なぜこの店が良いんだ?」


「はっ!その件につきましては、報告書をまとめてからの提出予定ではございますが、人間は食物を摂取しながら、世間話をする習性がございます。

・・・・更に高級店ともなりますと、貴族や政府高官などの機密情報を持った客が来ます。そして内緒の話をすることも多いので、情報収集に役立つと考えての提案でございます」


セバスは目の前にアインズがいないのだが、話し終わるとお辞儀をした。


「ああ、分かった。では報告書を楽しみにしている」


「ありがとうございます、アインズ様。荷物をまとめ次第、ツアレと共に帰還いたします」


セバスはアインズとのメッセージが終わると、急ぎツアレがいるホテルへ帰っていった。










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