第2話 少年の家族
「ささ、どうぞ入って」
孫の再婚相手という人は、とても物腰柔らかで、顔に咲く笑みが明るい人だった。その言葉に促されて、家の門を潜る。都市郊外の住宅街とだけあって、モデルハウスのように家も広く、街が整然と区画されている。
「ありがとうございます」
そういって、家の中に入った。玄関の表札を見ると、岩本と書かれていた。
「あの、なんて呼べばいいんでしょうか」
妹に似た面影を感じるこの女性が尋ねた。この女性が、そうか……。
「僕はまだ、子供ですから、その……実の子供のように扱ってくれると嬉しいです」
「わ、わかりました」
「大丈夫、僕たちもそのつもりですから」
にこっと笑う旦那さんに、連れられて僕も苦笑に近い笑みを浮かべる。
「あ、ちなみに僕は徹と言って、こっちが妻の
階段を慌ただしく下る音が聞こえて、早くも年の近い子と対面しなければいけないのか。
「誰、その人?」
「あいつが、僕の娘の
振り返り、僕を「誰」と言った人を認識する。
「雫、前に言ってただろ、琴子おばあさんのお兄さんだ」
「マジで?へえ、こんな人だったんだ」
「よろしく――」
「え、名前なんていうの?これ、なにか知ってる?スマホって言うんだよww」
「ああ、快っていいます。それについては、一応病院で聞きました。便利ですね」
「雫!」
母親である葉摘さんが、牽制する。
「お母さん、でも同い年でしょ?17?」
「ああ、今年で17に」
「でも……」
「僕は、そう接してくれると有り難いですよ」
「そ、そうなの?」
「はい」
この世界で、自分と対等に話が出来るのは、彼女ぐらいしかいないだろう。それだけで嬉しい。
「家族紹介も終ったことだし」
パン、と手を打って、話を切る徹さんに、他三人の視線が集まる。
「次は、家の中を紹介していこうか」
*
「部屋、私の隣か~」
家のルールや物の場所など、簡単な説明を終えて、夕食を囲んだ。
テーブルには、ちゃんと四人分の椅子が置いてあり、その椅子の一つは真新しく、色も若干違う。それに僕は、座っている。
「雫、明後日は快君に学校ちゃんと教えてやってな」
「あ、う……うん」
徹さんの一言に、僕は今まで学校という存在を忘れていた。
学校を聞いて反応が鈍った彼女は、どこか気まずそうにしている。
「ごちそうさま」
言い終えて、箸を置いた彼女はすぐに階段を上っていってしまった。
「じゃあ、あの……僕も」
気まずくなって、その数分後に食べ終えた僕は、彼女と同じように、与えられた部屋に戻った。
電気を点ける。はあ、と大きく溜息をつく。ここは、どう見てもストレスを感じるものが多い。いや、もうどこに居たって、同じだ。
ベッドに寝転がり、天井を見つめた。人の家の天井。目を開けたときに見た、病院の天井。とてもじゃないけど、抱えている問題が大きすぎる。
不意なドアをノックする音で、ここが自分の家ではないことを思い出す。
「快君、お風呂沸いたよ」
「ああ、はい。わかりました」
とベッドから起き上がり、部屋を出る。すると、廊下に立っていた、葉摘さんが、
「お風呂、入ったらあの子に言ってあげて」
「え、いいんですか?僕が先で」
「いいのよ。あの子が入るのは、日付を回ってからだし。土曜の今日なんかとくにね」
「わかりました。それと、もう一つお願いがあるのですが……」
*
「雫さん、お風呂入ったよ」
「うわっ、ビクった!」
部屋をノックしても返事がないためドアを開けると、ゲームをしていたのかヘッドホンを外した彼女がこっちを見ていた。
「お風呂、雫さんの番」
「あ、ああ。ありがとう」
「おやすみなさい」
「お、おやすみ~」
十秒ほどの会話を終えて、部屋に戻って、寝た。
*
朝の八時に起こされたのは、アラームを付け忘れていたのもあるが、葉摘さんに言っといた件が通ったからだったみたいだ。
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