最終話 エピローグ 老人と少年

信憑性のない老人の話に耳を傾ければ、傾けるほど、僕の胸が軽くなっていくような気持ちになった。


「話してよ。おじさんの」


「語るほどのものではないわ」


「そういうの、好きなんだよ」

 

 僕は、はにかんで笑う。


「仕方ない。泣くなよ?」


「大丈夫。そういうのには、馴れてる」


 僕と老人は、当たり前の様に、そのことを笑った。


「妻と娘がいた」


「僕には、両親と、妹と、彼女が」


求められるように老人の口の動きに合わせると、本当に今までの辛いものが共有され、取り除かれるような気分になった。


辛くても、それでも生きなきゃいけない。現在を。


八月の月光が、上を見る僕らを照らしている。


悲しいほど、死にたくなるほど、月の光りは、素知らぬ顔で僕と老人を照らしていた。

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