第2話 得たもの

 暗い思い出がある。

 もし、作家になることで、不幸を免れ得ないとしたら。

 経済的に不安定で、病や怪我などのとき、身動き取れなくなったらとか。

 愛する人を、失うことになっても書き続けるのか否かとか。


 そういう、汚水に浸かるような、夢を穢されるようなそんなもしもが、未来にはたくさんあるのだと教えられた。

 植えつけられた。

 稼がねば、野垂れ死ぬ。


 それをまず実感させられた。

 本当に愛するという、意味すら知らないうちから。

 もし、愛する者を失っても、おまえは作品を書くのか?

 できるかできないかではない。


 おまえは、やるのか? と。


 わたくしはやったし、きっとこれからも。

 そうして得たものは、わたくしの血肉だし、涙だ。

 それを稼ぎに換算するのだから、因果な商売だと思う。


 心くらい、病むさ。

 あたりまえだろう、と思います。

 人としての心をないがしろにされて、それでも人としての心を大切にしなくちゃいけない。


 きっと、それは足跡だ。

 傷付き耐えていき、血まみれになって歩いて来たもののみが知る領域なのだ。

 永遠に近づきたくない。

 けれど、もしかするとその片鱗はすでに過去において、刻まれてしまっているかもしれない、この心。


 しかし、思い出に浸っている間などない。

 不感症になるまで、叩かれ、そして生き抜いてきたのだ。

 孤独と重い意志と共に……。

 振り返れば、出逢いもそこそこあった。


 けっこう普通に幸せなんじゃないか、と思えるほど。

 今のわたくしは充足感がある。

 三部作の一部のあらすじを書き終えて、草稿から第一稿まで上げた。

 あとは一晩寝かせて、

 そんなことが無性にうれしい時期というのはあるのだ。


 忘れたくない。

 人間でいたい。

 痛くないこともないんだけれど、それでも人間にやさしくありたい。

 震えながら進む者もあれば、アドレナリン全開でフルスロットルなひともあるわけで。

 どちらかというと後者なあの人も、きっと震える夜はあるわけで。


 なんていうか。

 平凡ってすてきだなって、思います。


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